趙、吼える
時は少し逆のぼり、楚軍が秦の夜襲を撃退している時間。
── 趙、鋸鹿
夜半も過ぎているというのに城内をドタバタと走り回る音がする
ここ趙で全権を握る張耳が
「何事か?」
と走り回っている兵に尋ねると
「はっ!
鋸鹿 より見て西南の方角に火の手が上がっている様でございます!」
「何!?まことか?
どの辺りか?」
「まだ場所までははっきりとわかりませぬが、城門の上から見えるほどでございます。
ご覧になられますか?」
「おお、わかったすぐ行く!」
着る物もそのままで取るものも取らずに張耳も急いで兵士の後について駆け出す。
城門の上には兵士や上官らしき者も集まって騒いでいる。
「どうだ?」
「あっ!張耳様」
上官らしき兵が傅こうとする。
「よい」
張耳はそれを押し留めた。
「はっ!時間は一刻(二時間)ほど前になるでしょうか。
始めは小さなぼやのような感じでしたが、すぐに火の手は大きくなり今でははっきりここからでも見えます」
「戦か、山火事の類か?」
「今は秦に囲まれ外の情報が届きませぬ。
放った間者も報せを持って来る事が出来ずにいますが、この騒ぎでしたらひょっとして帰ってくることが出来るかもしれません」
「そうか……、よし探りを入れてみよう」
誰かあるか!
それから陛下にこのことをお知らせするように」
「はっ!」
こうして趙軍も警戒しつつ夜を過ごす事となった。
そして夜が明け──
「張耳様!
城内に矢が打ち込まれ、その矢にこのような竹簡が!」
「なんだと!すぐに見せよ!」
張耳は兵から奪うように竹簡を受け取ると、そこには
─ 楚、秦軍と合い見える
武信君の甥、項羽将軍 兵糧を捨て決死の覚悟で秦軍と戦う
趙、共に秦を挫かん ─
「なんと!!楚が、項羽将軍が援軍に来てくれたぞ!
共に秦を討たんと書いてある。
我ら助かるかもしれん!
よしっ!!
すぐに楚と呼応し秦を挟み撃ちしてくれるわ!
よくも……ここまで苦しめてくれたな……よくも
者ども!
武器を持て!太鼓を鳴らせ!城門を開けよ!
よくぞこれまで堪えてくれた!
今こそ憎き秦に撃墜をくれてやろうぞ!!
秦を討て!!」
「「おおおおお!!秦を討て!!」」
張耳の檄に周りの兵士は力の限り叫び、拳を突き上げてそれに答える。
籠城の苦しさはいかほどばかりか……
中国での籠城戦は凄惨を極める。
ここでは記述する事を躊躇われる様な、現代社会では考えられない事が行なわれているのである。
張耳は目を爛々と燃え上がらせて
(やっと、やっと、この苦しみから解放される時が来たのだ!
目にモノを見せてくれるわ!!)
末端の兵士や民達までもが奮い上がり、その怒りとうねりを秦にぶつけてくれると我先に外に打ち出ようと争ってすらいる。
(この混乱の中でも忘れてはおらぬぞ、陳余!
だがまずは鋸鹿を解放する。
お前はその後だ!)
趙の兵や民は怒涛の勢いで秦軍へ進撃を開始するのであった。




