現実主義者の訪問者
先輩と話し終えて、ヴォイドと一緒に部屋を出た。
様々な視線と戦いながら騎士団宿舎を後にして、普段使用しているファンタジー部屋に戻る。
「ルイ様」
部屋に戻るなり、ヴォイドに呼びかけられる。
「何?」
振り向くと、どこか困ったような顔をするヴォイド。
「申し訳ありません。貴女を巻き込んでしまった。まさかこんな展開になるなんて」
今度は苦悩の表情をする。
今日はヴォイドの表情筋が大活躍している。
それにしても今の表情色っぽいな。
なるほど、人気の秘密を垣間見た気がする。
「ヴォイドが謝ることじゃないと思うよ?それに、どうせ誰かがしなきゃならない話だったんだろうし。まぁ、他の女の子が巻き込まれなくて、よかったんではない?」
「しかし…」
どうやら納得がいっていない様子だ。
「確かに、何の情報も与えられずっていうのが、少し気に入らないけど」
と私が言うと、ますます気まずそうな顔をするヴォイド。
事情を言いたくても、言えないんだねぇ。
お気持ちお察しします。
「うそうそ、そんな顔しなくていいよヴォイド。慣れてるから、そういうの。よくある事だし」
私がはははと豪快に笑って言うと、眉間にしわを寄せて何事か考えている。
「とりあえず、例の相手の彼女の振りをして、相手の動きを監視すればいいんだよね?」
「…はい」
ヴォイドって落ち込むと、ドツボにはまっていくタイプだよなぁ。
切り替え早くできるようにしないと、仕事とか結構大変そうだ。
苦労してるんだろうな。
「ところで、その相手と会って、私が気に入られなかったらどうする?誰か別の人を紹介する?だったら提案。副団長にやってもらうってのはどう?」
もちろん、
「副団長にですか?」
「おい」
冗談なのだが。
ヴォイドの声の他に、別の声がかぶさった。
この美声は、副団長のものだ。
ヴォイドは副団長の姿を確認するや否や、すかさず姿勢を正しこの国特有の敬礼をした。
私は…まあいっか、しなくても。
「あ、いたんだ」
「お前、気づいてただろ。俺が入ってきた時から」
ばれていましたか、そうですか。
副団長がこちらに歩いてきた。
「まぁいい。ヴォイド休め」
「はッ」
ヴォイドが直立の姿勢に戻る。
「それにしてもアイオンの奴、よりによって紹介相手をルイにするとは…」
ぶつぶつ、独り言を言う副団長。
「あれ?副団長の命令じゃなかったの?」
てっきり、命令したのかと思っていたけど。
琉生にやらせろ、とか。
「お前が女だとばれるような事、わざわざ俺が言うと思うか?」
首を左右に振りまくる。
思ってません、少ししか。
じと目で見られた。
あははと笑うと、さらにじと目で見られた。
「ごめん。ちょっと思った」
「お前なぁ、もういい」
副団長がそっぽを向く。
時々子供っぽいなぁ。
「それより、さっきアイオンの奴に会って報告を受けた。悪いが、代わりの人間を探す時間もなさそうなので、このまま続けてもらいたい」
副団長が、申し訳なさそうに言う。
アイオン先輩から依頼を受けた時からそのつもりなので、私に否やはない。
「受任したからには、出来るだけ最後まで仕事をするつもりだから、安心してもらっていいよ。ただアイオン先輩にも言ったけど、個人情報が少ないから収集に時間がかかると思う」
「ああ、相手の資料は、ここに持ってきた。と言っても、通り一遍な事しか書いていないから、参考になるかどうかも判らんがな。まぁ、ないよりましだ。一通り目を通しておくといい」
2頁分の資料を渡される。
ざっと目を通してみた。
うん、この資料で相手のプロファイリングするのが、ひどく難しい事だけは解った。
「些細な事で構わない。わかる範囲内で報告してくれ」
「了解。期間はいつまで?」
先程聞き忘れていたので、副団長に聞いておく。
「大体1週間、ただしこちらが掴みたい情報がなければ、延長するかもしれない」
7日かぁ。
微妙だな。
「だが、危険だと感じたら、手を引け。この様な事を俺が言える立場じゃないんだが…ルイ、無理は、するなよ?」
そう言って、私の頭を副団長が優しく撫でる。
私はびっくりして、思わず顔をあげた。
そこには、憂いを秘めた眼差しをした副団長の顔があった。
まただ。
ダイソンもびっくりな吸引力を誇るあの眼差しだ。
うっかり目を見ると、また引き込まれそうになる。
そっと目をつむって、一呼吸置いてから目を開く。
そして無理やりにっこり笑った。
「無理するように見える?」
殊更おどけて言うと、副団長の視線が緩む。
ほっ。
「お前ならしそうだ」
ため息をつきながら言う副団長。
「とりあえず気をつけろ」
そう言って、もう一度私の頭を一撫でし、ヴォイドの方に顔だけを一旦向けてから、この部屋を去って行った。
超がつくほどの不機嫌ヴォイドを置いて。
どうしろと?




