現実主義者の初めての謁見
この国に限らずどこの国にも言える事だが、最高位に位置する人物が夜会などの会に御臨席され、側近くにお越しになった場合、その最高位の人物の視線から外れるか声をかけられるまで敬意を表する礼をし続けなければならない。
と、ナリアッテが言っていた。
現代の地球ではもうそこまでの事を夜会とかでは行わないが、中世然としているこの国おいてはその風習が残っているようだ。
そして丁度その状況に陥っている、男2人と女が1人。
1部の人間からすれば男3人に見えるらしいけど。
この国の国王が時々周りの人間に声をかけながら、徐々にこちらに向かってくる。
その間、少し膝を落として頭を下げる礼の状態を保ち続ける事、約12秒。
そして、現在進行形でこの状態は続いている。
これはあれか?
私の腰と膝への挑戦状だと受け止めていいのか?
幸いまだ私は、こんな年でも腰痛や膝痛には悩んでいないが、年が年だけに出来るなら労わっておきたい。
それにしてもそろそろ20秒なんだが、まだかー?
まだ通り過ぎないのか?
さて、30秒になろうかという時にようやく国王は私たちの前に来た。
国王は宗谷英規に話しかける。
「エィキ、この女性はお前がエスコートしてるのか?同郷人がもう一人いると言っていただろう?この者か?」
宗谷英規は一度深く頭を下げた後、頭をあげ口を開く。
「はい。彼女は私と同じ場所から来た者です。あいにく本日エスコート役にはなれませんでしたが」
少し苦笑しつつ、国王に堂々と話す宗谷英規。
さすが、かつて財界の期待の星だっただけある。
動じていない。
だてに経済の修羅場を渡り歩いていないなぁ。
「ふむ。その方、名を名乗ることを許そう。楽にせよ」
国王が私に向かって言う。
ふー、やっと普通の姿勢に戻れる。
男性陣は皆一度でもやってみるといいんだ。
立って礼をし続けるのと違って、女性の礼の方がかなりきつい事を思い知るから。
「お初にお目にかかります、国王陛下。私は琉生=多田と申します。此度陛下には、寄留許可及び寓居を賜り、御高配感謝いたします。その上、この場にご高招いただき、誠に幸せにございます」
簡潔に挨拶の文句を述べ、軽く頭を下げる。
副団長から聞いた国王の性格なら、あまり長い答礼は好まないはずだ。
手短に要点を言うのが正解。
「やはりそなたが、ルイなのだな。なるほど噂通りだ」
だから、皆どういった噂をしているのか説明してくれ。
「恐れ入ります。どういった噂なのか気になるところです」
「そうだな、うむ。ではこうしよう、近々会う機会を設けよう。その時にでも話そうか。それに酒にも強そうだしな」
国王がちらっと私が持っていたグラスを見る。
あちゃー、やっぱり不謹慎だったよね。
思わず苦笑。
「失礼いたしました。陛下」
頭を下げる。
「いや、そういう意味ではない。それより何を飲んでいた?」
「エアエイとエウェジークを少々です」
「あれがsy」
ウフフ、いやだなぁ、副団長こんな所で何をおっしゃるつもりかしら!?
他人から見えない速さで、副団長の脇腹をつねってみた。
「いっ」
さすが鍛えてるから筋肉だらけでつねる事はできなかったが、副作用があったようだ。
副団長はわき腹が弱いらしい。
「ローアム?どうした?」
国王が不思議そうに副団長に聞いた。
「あ、いえ何でもありません」
慌てて国王に弁明する副団長。
こちらを睨むのも忘れなかった。
なので、にっこり笑っておいた。
「エウェジークもいけるのか。なるほど、なかなか強いらしいな。よし、エィキと交えて酒を飲みながらその方らの国の話を聞くのも一興だ。必ず場を作ろう。ではアイエネイル・ルイ、楽しんでいってくれ」
私は微笑んで、王族に対する最高礼をした。
「それからローアム、たまには家に帰れ。姉上に小言を言われてかなわない」
「勘弁して下さい」
「こちらが勘弁してほしいよ。じゃあエィキ、ローアムも楽しんでいってくれ」
そういう会話が副団長たちの間でされていた時、私は暇だったので辺りを見回していた。
ゲストは皆国王の様子をうかがっている。
その視線の中には、嫉妬やらなんやらの負の視線も混じっている。
その中で、昔慣れ親しんだ気配も感じられた。
殺気だ。




