現実主義者と襲撃者
殺気を感じた副団長は、すかさず国王の側へ速やかにかつさり気なく寄る。
私はさっと持っていたグラスを音をたてないように割り、かけらを手にした。
扇子を開き宗谷英規と会話しているふりをしながら、殺気が飛んできた方にそっと体を向ける。
その間2秒。
来た。
5人だ。
まだ他のゲストには気づかれていない。
その5人の内1人は長剣を持っている。
長剣を持っている者は騎士団の制服を着ていた。
その5人の内の1人が、ちょうどいい場所から出て来たので、すかさず足を引っ掛ける。
予期せぬところで足を引っ掛けられた襲撃者は、バランスを崩してこちらに倒れてきた。
それを逃さずに、私は何も持っていないほうの手で一発鳩尾に入れた。
そのまま私の方へ倒れこむ襲撃者。
念のために後頭部にも肘鉄を入れておいた。
異変に気付いて駆け付けた騎士達の内1人に気絶した襲撃者を任せた。
宗谷英規が、いまだによく分からないというような顔をしていたのでにっこり笑っておいた。
とりあえず放置。
そして国王の方へ体を向けた。
すると、残りの襲撃者が今まさに国王を襲おうとしていたが、あれ?
なんでみんな楽しそうなんだろう?
気のせいかな?
国王も団長もついでにキョウキーニさんも…
もしかして私余計なことしたのかな?
ちょっと冷や汗が出る。
襲撃者の皆さんもなんだか焦り気味なのがちょっと微妙。
これって余興の一種なんだろうか?
と錯覚するぐらいに皆なんだか余裕だ。
ああ、最後の良心副団長だけは冷静だ。
よかった、まともな人がいる。
それはともかく、襲撃者が可哀そうになるくらいの最強メンバーがここに揃っている。
まぁ、恐らく、警備以外は帯剣を許されないこの場では、団長もキョウキーニさんもゲストとして呼ばれている以上丸腰なわけで、襲撃ポイントとしてはこの上ない条件だったんだろう。
だけど、なんだかこのメンバーに隙を見いだせないのは私だけだろうか?
そんな事を考えている内に1人が動いた。
つられて、残りのメンバーも動く。
まぁ、そういうのを念頭において襲撃している連中なので、それなりに腕が立つみたいだ。
国王の周りを近衛が固め、団長と副団長とキョウキーニさんとその護衛が拳で応戦している。
国王が非常につまらなさそうな顔をしているのが印象的だ。
近衛の人間が国王を安全な場所へと誘導する。
そこへ、5人の人間が飛び出し国王に襲いかかる。
近衛の人間が応対し、剣戟の音が会場中に響き渡る。
国王と護衛が少し分断されている。
まずい、まだいるはず!
これは恐らく陽動を2重に仕掛けてる。
国王のもとへと走る。
同じくヴォイドも反対側から国王の方へ向かう姿が見えた。
さっきの野暮ったい男を追ってきたのだろう。
国王の前に出てきた野暮ったい男とその仲間5名が国王をとり囲むように小型ナイフで切りかかろうとする。
ヴォイドが躍り出てすかさず阻止する。
その手には、どこかから借りて来たのだろう長剣が握られている。
国王に張り付いていた近衛も、応戦体勢に入る。
私は襲撃者の後ろにそっと近づき、右端の男を気絶させた。
その男からナイフを奪っておく事も忘れない。
残り5人。
すぐ隣にいた襲撃者の1人がこちらをちらっと見て動揺した。
その隙を私は見逃さなかった。
すかさず、後頭部に手刀をお見舞いし沈黙させる。
残り4人
ヴォイドが野暮ったい男と対峙していた。
なかなかの手練れらしい。
国王と近衛2人が残り3人と応戦している。
それにしても国王が楽しそうだ。
この国大丈夫かな?
ちょっと不安になった。
そうこうしている内に、団長らがこちらに走ってくるのが見えた。
うん、後は任せよう。
私はギャラリーに回った。
ヴォイドが男に切りつけるが避けられる。
よけた瞬間、男がすかさず国王の背後に回る。
国王がふと力を抜き、脇へひょいっと避けた。
あわや刺し合いそうになった襲撃者が踏みとどまる。
だがそこを狙って国王は2人同時に切り伏せる。
残り2人
近衛の1人が襲撃者の1人を片づける。
そうこうしている内に団長たちが追いついた。
戦況不利と今更悟った襲撃者が突如逃走を図る。
て、え?
こっち?
思わずよけたが、その瞬間左腕を捻られ、首筋にナイフを突き付けられる。
あーえーと。
人質っすか?
てか、なんで私?
逃げるくらいなら、襲撃なんて止めりゃあいいのに。
テンパっている襲撃者がナイフに力を込める。
首筋から一筋血が流れる。
「こっちへ来るな、この女がどうなっても知らんぞ」
そう言って、周囲を牽制する。
何?その三下発言。
それを聞いた団長たちがゆっくりと動き出す。
じわりじわりと。
緊張感はさらに高まり、会場中がシーンとなる。
「だから来るなと言っている。女がどうなってもいいのか!?」
あ、なんか嫌な予感。
ジワリジワリと近づく団長。
それに伴い膨らむ緊張感。
団長から発せられる凄まじい威圧感。
突き付けられているナイフの力が強まりまた一筋血が垂れる。
パンパンに空気の入った風船みたいに、会場中の空気は張り詰めた。
会場の空気が最高潮に張り詰めた時、団長がゆっくりと口を開く。
「そいつは」
静まり返った会場に響く団長の美声。
思わずうっとりするほどのいい声で団長は言い放つ。
とどめの言葉を。
「男だ」
泣いていいですかね?




