現実主義者と恋する乙女
「ち、ちょっと、お待ちなさい」
ですよね~。
これで帰してもらえるとは思っておりませんでしたよ、ええ。
「ヴォイド、エスコートはもういい。後は適当にやっておくから、さっきの男の様子を見てきてほしい」
扇子で口元を隠して、小さな声でヴォイドに話す。
「しかし…」
ヴォイドが反論しようとしたが、それを強引に遮り私は言葉を続ける。
「誰かがあの男に気付いているならいいんだけどね、万が一ってこともある。あってはいけない事だけど。それにヴォイドは近衛だ。優先順位を間違えてはいけない」
「そうですね。解りました。誰かに引き継いですぐに戻ります」
「くれぐれも相手に気付かれないように頼む。」
ヴォイドが頷いてそのまま、エイウェン嬢に向く。
「デラ・エイウェン、お久しぶりです。出来ればもっとゆるりとお話をお伺いしたかったのですが、そうもいっていられなくなりそうです。申し訳ありません。挨拶もそこそこに私は去らねばならないようだ。またの機会がございましたら、その時はよろしくお願いいたします。では」
一方的に告げ、エイウェン嬢の言葉も聞かぬまま去って行った。
あれはないなぁ。
思わず苦笑が漏れる。
「どうやら、私の連れが失礼をしましたわ。それよりエイウェン様、何やらお話があったご様子ですが、もしかしてアンヴォイド様に?」
エイウェン嬢に尋ねる。
「いえ、話はあなたにあったのです」
エイウェン嬢がこちらに向き直り言う。
「単刀直入にお聞きしますわ。貴女はアークオーエン様とどういう関係なんですの?」
「関係、ですか?難しい質問ですね」
エイウェン嬢が真剣な顔で尋ねるものだから、一瞬こちらも素に戻った。
すぐに笑顔を張り付ける。
それから、扇子を広げ、少し考える素振りをしながら、周囲をそっと窺う。
ファインさんファンの女の子たちの他にも、こちらの会話に聞き耳を立てている連中がいるな。
皆、興味津津だ。
「敢えて言うなら、彼は仲介役でしょうか?」
「仲介役…」
エイウェン嬢が不思議そうな顔をした。
「はい、仲介役です。エイウェン様は、宗谷様はご存知ですか?」
「ええ、400年前の傑物ですね。それともこの程、宰相補司となられた方の事でしょうか?」
「はい。宗谷宰相補司のほうです。その宗谷氏が先月私との面会をご希望されていていまして、アークオーエン様が仲介に入って下さったのです。私はその時にアークオーエン様と知り合ったのですわ。ひと月も前の事で、それ以降お見かけしておりませんでしたので、先日のお礼をかねて、先程ご挨拶をさせていただいたのです」
「そう、でしたの」
そうそう、だからあなたの敵ではないんですよ私は。
「ええ」
力強く頷いて、柔らかく微笑む。
少しエイウェン嬢の表情が和らいだのが判った。
恋する乙女の顔だなぁ。
「では、そろそろ私御前を失礼させていただきますわね。御機嫌よう、エイウェン様」
「ええ、御機嫌よう。タダ様」
意外とすんなり解放される。
正直拍子抜けだ。
もっと食い下がってくるかと思っていたが、そうでもなかったな。
結局、一旦スイッチ入ったものの、エイウェン嬢の人となりに中和され途中消灯になりました。
よかった、酒乱とか変な噂立てなくて済みそうで。
ざっと会場内を見回すと、ヴォイドが誰かと話しているのが見えた。
きっと引き継ぎでもしているのだろう。
一方、不審人物は誰かと話をしている。
「ルイ」
誰かが私に話しかけた。




