現実主義者のスイッチモード
追い込まれた時や何かのきっかけで、スイッチの入る人物がいる。
このスイッチ入り方や、入った後の行動は人それぞれだ。
私の場合、何らかの形で追い込まれた時にスイッチが入る。
今がちょうどその状態である。
スイッチが入ってから、まず私が取った行動といえばお酒を飲む事だった。
正直、飲まないとやってられませんって。
先程もらったお酒は、原材料が何かはよく解らないが、軽くて甘いフルーティーな感じのするお酒で、主に女性に配られていた。
さすが王宮、揃えている酒は半端なく旨い。
今日は他国の客も招待してるせいか、普段夕食時に出るお酒より格別に旨い物がふるまわれている。
女性用にと配られているものは軽くて私には少し物足りないので、ヴォイドが飲んでいるのと同じ物をたまたま通りかかった使用人から貰う。
匂いでアルコール度数が高いのが判っていたが、飲んだら予想以上に度数が高かった。
味に少し癖がある。
味はどちらかというとウィスキーに似ている。
ただ、香りが意外とさわやかなので、原材料はもしかすると穀類ではないのかもしれない。
それか、香りづけの段階に何か工夫でもあるのだろうか?
このお酒、これは結構いけます。
リクエストしたら夕食後に出してもらえるだろうか?
いやいや、そんな事をしたら顰蹙を買う。
何せ、ただ飯ぐらいなので、私。
慎ましやかに行かねば。
ウィスキーもどきを堪能していたら、酔っぱらってしまわないかヴォイドに心配された。
大丈夫だって、酔わない酔わない。
「結構私お酒いける口だよ。まぁ、こういう場だからがぶ飲みってわけにはいかないけど。これおいしいね」
今度レイの方で招待してくれないかな?
周りに気にせず飲めそうなんだが。
「貴女が噂の陛下のお客人ね」
気付けば、ヴォイドが知っているという女性が目の前に立っていた。
なんでだろう?
王宮にいるはずなのに、道路の路地裏に呼び出された気分になるのは。
取り敢えず気持ちを引き締める。
が、いかんせんスイッチが入っているのでこの後の事は保証できない。
友人曰く色々酷いらしいから私。
どう酷くなるのか、怖くて聞けなかったが。
「はじめまして、エイウェン様。私ルイ=タダと申します。お見知りおき下さいませ」
先程ヴォイドに、中央にいる彼女の名前を教えてもらった。
イェリン=ウィエラ=デラ=エイウェンと言うそうだ。
家名、彼女の場合エイウェンの前についているデラは貴族でも最上級で、王家に次いで偉い家系なんだそうだ。
取り敢えず私は挨拶をしながら、これ以上ないと言う位極上の笑顔を顔に張り付け、この国の正式な礼を完璧にした。
ドレスのスカートを両方の手で少しつまみ、体を落とし顔をゆっくりと下げる。
確かこうで良かったはずだ。
はずなのだが、周りの様子がおかしい。
周りがシンとなりすぎる。
あれ?
何か私間違ってる?
え?もしかしてこの礼の仕方は間違い?
しまった勉強不足だったか。
ナリアッテに最終チェックしてもらうべきだったな。
おそるおそる、エイウェン嬢に顔を向ける。
顔を上げると彼女はフリーズしていた。
見るとどうやら、彼女も少しお酒を召しておられるらしい。
ほんのり頬がピンク色で、ほろ酔い加減のようだ。
チークでもなさそうだし。
周りの女の子も少しばかり赤くなっている。
確かに、初めに飲んだお酒、結構度数がありそうだった。
口当たりがいいものだから、何杯でもいけるんだよね。
彼女たちもその口なのだろう。
うん。
「あの?」
一応声をかけて見るが、反応がない。
どうしようか?
困ったな。
相談すべく斜め前にいたヴォイドを見上げると、お前もか。
こいつも酔っぱらいフリーズ状態だ。
人の心配してる場合ではないだろうに。
二日酔いになっても知らないからな。
取り敢えず、エイウェン嬢の目の前に近づいた。
うわ、間近でみて思ったが、やっぱり10代20代の肌は違う。
張りと透明感が。
うらやましい。
そう思っていると、エイウェン嬢の後ろで何だか気になる人物がいた。
何がと言われると困るが。
何だろうその人物そのものに違和感。
うまく溶け込んでいてそうで、なのに異質。
何なんだろうあの男。
エイウェン嬢の顔を覗き込んでもあまり反応がないので、更に近づいた。
もちろん視界の隅にその人物が入るようにして。
それにしても、本当に肌がきれいだな、この子。
私は彼女の耳の位置まで片手をゆっくりと伸ばした。
誰かがごくりと唾を飲み込む。
パチンと私が指をならすと、彼女の目の焦点があった。
その途端すごくびっくりした顔をされ、大きく飛びのかれた。
うお。
どうやら、気付いたら間近に私の顔があったのでびっくりしたようだ。
少しだけ傷つくな。
どうせあなた方にしたら、珍妙な顔ですよ。
私の顔は。
「申し訳ありません。お声をおかけしても、返答がなくて。御気分がすぐれないのではと心配になりましたもので」
と、愁傷に言って見せる。
「…。な、何ともありませんわ。」
エイウェン嬢がプイッとそっぽを向く。
何だか猫を見ているみたいだ。
可愛い。
思わず、クスッと笑ってしまう。
取り巻きのお嬢さん方もつられたのか、ふっと笑った。
「そうですか、それはよかった」
正直、気分が悪くなってこの場でリバースするんじゃないかと、心配だったので心底ほっとして、満面の笑顔でそう答えた。
エイウェン嬢は、恥ずかしかったのか顔が真っ赤だ。
背後の男が移動を開始した。
これは、追うべき。
ヴォイドの方を向くと、ヴォイドも気づいたらしく頷いた。
「では、私はこれで。又、どこかでお会いしましょう」
といって、エイウェン嬢の手の甲にキスの礼をして去っていこうとしたら、ヴォイドがこっそりと「ルイ様、それは男性用の礼です」と囁いてきた。
うわ、しまらない。
スイッチモードだからだろうか?




