現実主義者の受難
ファインさんが去っていく後姿を見るともなしに見ながら、さっきの話がファインさんにうまく伝わったかどうか急に不安になってきた。
何せ即興で組み立てた会話だったからだ。
周りに悟らせず、かつファインさんに通じるもので何かないか。
そう考えた時思いついたのが、月の女神の話だ。
だが、月の女神の話はあからさまだったかもしれない。
あの童話(?)が、実は湾曲な王室関連の話だというのは有名なのだ。
うーん、もっと気の利いた話は思い浮かばなかったのか、私。
こういうのはあれだな、メモを渡すのが1番性にあってる。
挨拶して、握手して終わりだ。
数秒で事足りる。
最近では、紙ではなくチップだが。
だが残念な事に、すれ違い様に使用人にメモとペンを借りると、持ってくるのに10分かかる上に、もれなく羽ペン、インク壺、でかい皮紙の3点セットが付いてくるだろう。
これは、あまりにも目立ちすぎる。
意味ないし。
「うまく伝わっているといいのだけど」
「大丈夫だと思いますよ。さすがに初めは気付きませんでしたが」
ヴォイドがそっと笑う。
こういう笑い方をすると幼く見える。
もしかして私が考えているよりも年齢若い?
25歳位だと思っていたんだけど。
「まぁ、彼が1枚噛んでるのでなければ、最悪な事態にはならないだろうが」
と私が言うと、「ええ、彼は信用できます」と返答が返ってきた。
どうやら、ヴォイドの親父さんとファインさんは知己らしい。
ヴォイドはその関係で彼の事を信頼しているんだろうな。
私はまだそこまで至ってはいないので、曖昧に笑ってごまかした。
だって、相手は官僚だし。
きっと狸だ。
うん。
「さて、ヴォイド。君はこの状況をどうやって突破する?」
扇子で口元を隠しながら、隣のヴォイドに尋ねる。
「難しい問題ですね」
そうなのだ、今ファインさんが去った後、数人のお嬢様方に囲まれそうになっている。
しかも結構怖い顔をして。
先程も感じたが、美人が怒ると迫力が2割増しだ。
「ヴォイド、この中で知り合いはいないのか?」
「みた事があるよな、ないような方が多いですが、あの真ん中の方とその両脇にいる方々なら何度か会話はした事があります」
「よし、それだ。ヴォイド、誑し込め」
私は扇子をパチンと閉じて、ヴォイドに言った。
「は!?」
「だから、落とせと言っている」
「言っている意味がわかりません。誑せとか落とせとか」
軽く頭を振るヴォイド。
セットした髪が崩れるぞ。
「そんな事を言っている場合じゃない。よく見ろ、もうすぐ、ここの包囲網が完成されてしまう」
そうなのだ先程から、彼女たちはじりじりと包囲網を完成せんとこちらににじり寄ってくる。
しかもここは壁側。
いやな構図だ。
「どちらにせよ、ヴォイドが覚えているぐらいの女性だ。身分が高いのだろう?無視して行くわけにもいかない。ヴォイドの話術で何とか誤魔化して、この場から離脱を図るしか方法はないと思う」
「な!?そんなの無理に決まってるだろう!?そういうのが苦手だから、俺は片っ端から誘いを断っているっていうのに」
しまった、そうだった。
ヴォイドは社交場が苦手なのだ。
うわ、どうしよう。
テンパってきた。
ヴォイドもテンパってるのか口調が素だけど。
「そんな事を言っていてどうする。そのままでは、社交界の帝王にはなれないぞ。上を目指さなくてどうするのだ。このままでは、社交界のヘタレ男として名を残すしか道はなくなるぞ。それでもいいのか?いやだろう?だったらファインさんを見習え、あの人は夜の帝王だ」
もはや私は何を言っているのか判らない。
結構追い込まれている証拠だ。
このまま追い込まれ続けるとスイッチが入る。らしい。
生憎最高にテンパった時の記憶がないので、聞いた話でしかないが。
「宰相補が夜の帝王なのは否定できないが、俺はもうこの際ヘタレでも構わない。好きにしてくれ」
逆ギレ?
しまった、どうしよう。
あ、拗ねた。
私、追い込まれた?
そして包囲完成されたっぽい。
カチッ
あ、スイッチ




