現実主義者の入団テスト(2日目審査会場)
「ヴォイド急ごう。8番目だ」
そう言って、熱気渦巻く練兵場まで急ぐ。
到着すると、10番目が始まろうとしていた。
団長が圧倒的に強いのは、構えを見ただけで判ってしまった。
うん、半端なく強い。
これは、確かに生半可な実力じゃあ、数十秒単位で殺られる。
通りで、なぜアイオンさんが"20秒"に拘ったのかよく解った。
マラソン姿をしょっちゅう見てるアイオンさんは、私が持ち前のスピードで持久戦に持ち込み20秒は持たせる事が出来るんじゃないか?と踏んで20秒に賭けたんだ。
つまり、彼から見れば私の実力はそれ位だと思われていたのだろう。
まぁ、それがどれ位かはこれから始まる試合を見なければ判らないのだけど。
そして視線を、団長から対戦者に向ける。
受験者は、キース位の体格をしていた。
180cm前後の筋肉質。
よく鍛えられてるから、一見弱そうには見えない。
でも、何故か始まる前から弱気だ。
団長の気迫に当てられたのかな?
と考えていると、ヴォイドが口を開いた。
「何故、平気な顔をしていられる?」
「え?」
「怖くはないのか?」
ああ、そんな事。
うーん、確かに団長は強いだろう。
なるべくなら敵に回したくない感じだ。
だが、怖いか?と聞かれたら、疑問だ。
今回の試合は、殺すまでするというものではないし、負けて何かを奪われるわけでもないし、ましてや必ず勝たなきゃならないというものでもない。
あくまで、入団後使える奴かどうか(訓練に耐えられる奴かどうか)を見る為の試合だ。
受験者の剣技が今はダメダメでも、入団後の徹底したしごきで水準まで持っていけばいいし、所詮有事において兵は使い捨てだ。
人数は多いに越したことはない。
という事で、見込みがありそうならば試験で落ちることはないだろう。
まぁだからと言って精神的にヘタレでも困る。
騎士と名乗る以上ある程度の力量も精神力もあった方が望ましい。
という事で、その為の剣合わせなんだろう。
とにかく、殺される恐怖も、奪われる恐怖も、勝たなきゃならないプレッシャーもないその中でいったい何を恐れるというのだろうか?
相手に対して恐れを抱く理由が、私にはまだない。
まだ試合を見ていないし相対してもいないから。
もっとも団長が、再起不能になるまで相手をぼろぼろにしなけりゃ気が済まないというようなサイコ野郎ならあるいは恐怖を抱くかもしれない。
というような事を言ったら、ヴォイドが顔をひきつらせていた。
「怖いもの知らずとか自信家とかよく言われたりしなかったか?」
「うーん、面と向かって言われた事はないなぁ」
お、始まった。
ら、終わった。
「うそ早すぎ」
今の剣すら合わせてなかった。
まぁ、あのへっぴり腰じゃ、駄目かぁ。
次の11番に期待。
って、なんで?
え?
ちょ、なに逃げてんの11番。
あちゃ~
12番。
あ、冷静な感じ。
これでちょっとはましなのが見れるかな?
構えて、団長に一太刀って空振り!?
おい、目ぇ瞑ってどうするんだ!!
心眼なんてプロでも難しいわ、馬鹿!!
次だ次、13番。
おお、彼は余裕だ。
これでやっと団長の動きが見れそうだ。
相手も強そうだし。
期待。
「ここで会ったが百年目、覚悟しろ」
なんだ?
知り合いか?
「…。13番はどうした」
「さあな?大方逃げ出したんじゃねぇか?」
対戦者がこともなげに言う。
「…。勝手な事を。試験の邪魔はしないでもらいたいな」
「どうせ、弱っちいのばかりで退屈だったくせに。俺が気分転換させてやるってのに」
「遠慮する。おい、つまみだせ」
そばにいた隊員に言う。
「おいおい、隣国からわざわざ遊びに来てやったってのにつれないねぇ。まぁ、いいや、後で相手しろよ団長様?」
そう言って、闖入者はギャラリーに戻った。
なんなんだ?
ああ、まともな試合はないのか?
と嘆いていると、14番が始まった。
14番ははずれ。
15番は、果敢に向かっていって何とか3合したけど撃沈、ちょっと腕が腫れてるのが気になる。
って、ええ~?
順番来たよ。
もう来たよ。
結局、団長の気迫の半端ないのだけは判ったけど、太刀筋とか以前に剣を受けただけしか見れなかった。
はぁ、全く参考にもならなかった。
「16番出ろ」
呼び出し係が私の番号を呼ぶ。
「レイ、気をつけろ」
ヴォイドが心配げに言うので、大丈夫だというジェスチャーをする。
「はい」
返事をして、隊長から借りている剣を持ち団長の前へ行く。
「よろしくお願いします」
と言って、一礼したら、驚かれた。
あれ?変なことしたか?
相手の顔を見る。
う~ん、やっぱり顔がいいなぁ。
この国の普通の顔って、どんなのなのか知りたくなってきた。
今まで会った人たちはやっぱり顔がいい。
もうお腹いっぱいです。
はい。
じーっと顔を見てると、ますます驚かれた。
あ、これ以上やると変態チックになるか。
ま、いいや。
それから、無造作に剣を構えた。
一瞬にして、団長の空気が変わり周りの熱気がウソみたいに引いていった。
私も戦闘モードに入る。
さらに、体感温度が低くなっていった。
何も聞こえない、何も感じない、ただそこにあるのは無限に広がる無の空間。
やがて、膨張し拡張しその空間が広がりを見せていく。
そして私も無となった。




