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リトライ・ヒーローズ!  作者: ブロッコリー
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12/19

ボーン・ディス・ウェイ/魔法少女(27)

都内某所、深夜0時


繁華街から遠く離れ、まだ平日ということもあってか、人通りの無い小道に、女が1人。


「ふう…ようやく仕事も終わった…。あとはお風呂入って、メイク落として、ご飯食べて…もう寝る時間か…ああ、彼氏に会える週末まであと何日かしら…」


その女は疲れた顔で指折り数える。


彼女の言う『彼氏』とは、毎週土曜日放送の深夜アニメ『闘牛乱舞』のキャラクターの事だ。


闘牛を擬人化した美少年キャラクターが人気を博している。


すっかり誰もいないと油断し、そんな独り言をつぶやく彼女の背を、狙う影がある。


闇夜に紛れて人間を攫う悪党…そう、機怪人だ。


その機怪人は、電柱の影から街灯の光の下へ、溶け出るように顔を出した。


クワガタの大顎を右手に、掃除機のヘッドを左手に付けた醜悪な姿だ!


「俺の名前はスタックリーナー!君が彼氏に会うことはない!」


「ひいっ」と女が息を呑むのも待たず、その魔の手が彼女を襲う!


しかしその瞬間、二者の間のアスファルトを破り、分厚い植物の壁が出現した!


「スクトゥム・テラー!」


機怪人・スタックリーナーは「何い!?」と

右手を引っ込めた。


突然の事に腰を抜かした女を、何者かの腕が優しく抱きとめる。


「大丈夫かい?お嬢さん。まったく、貴方のような美人は、夜道を歩くのにも苦労しそうだね」


その男は、透き通るような金髪を靡かせ、爽やかな笑みを浮かべた。


歯の浮くようなキザな台詞だが、彼だけは許されるような、浮世離れした雰囲気を纏った少年だった。


「何者だ!?」


そう問いかけるスタックリーナーに、彼は堂々と答えた。


「いつの世も、恋人達の逢瀬を邪魔する権利なんて誰にも無い…そんな奴は、『竜』に喰われて死んでしまえってね」


植物の壁がほどけ散ると、彼の全身が街灯に照らされた。


白い肌、幼さを残した端正な顔立ちに、輝く金髪がよく目立つ。


麻布のシャツと革のブーツに身を包んだ身体は、痩身だが、鍛えられている事が分かった。


何より威容を放つその腰に下げた『聖剣』を引き抜き、彼は名乗りを上げる。


「僕は北の勇者・ウィルトゥース!古竜の名において、悪を征伐する!」


その少年・ウィルが聖剣(ドラコ・サンクトゥス)を構えポーズを決めると、なんとも言えない静寂が流れた。


あれ?おかしいな。こう名乗りを上げたら、大体の敵は「勇者だとお!?」とか言いながら攻撃してくるもんだけど…


ウィルが困惑していると、最初に口火を切ったのは、スタックリーナーだった。


「お前それマジでやってんのか?」


「え?マジって…」


ウィルは困惑する。彼の経験上、こういう反応をされたのは初めてだった。


「勇者とか古竜だとか、オマケにそのコスプレは何だ?まったく、恥ずかしくないのかね最近の若者は」


呆れ返った風に言い放つ機怪人に、ウィルは大きなショックを受けた。


恥ずかしい奴なのか…僕…!!


ウィルはメンタルに大きなダメージを受けつつも、「いいや!ここでめげたら、もっと恥ずかしい奴になる!」と、かぶりを振った。


何より、自分の背後に守るべき無辜の民がいるという事実が、彼の心を奮い立たせていた。


彼は後ろをちらりと見ると、その場にへたり込んでいる女性に「お嬢さん」と声をかける。


その顔は恐怖というより驚愕といったところか…眼鏡はずり落ち、口を「あんぐり」と開けていた。


「驚くのも無理はないけど、さっさと家に帰ってカレシに慰めてもらうといい。ここからはちょっと、女性には厳しい絵面になるからね」


ウィルはそう言って笑顔を見せる。


女はその笑顔にしばし見惚れ、ようやく落ち着きを取り戻したのか、「で、でも貴方は…?」と、ウィルの事を心配するそぶりを見せた。


ウィルが彼女の心配に応える前に、スタックリーナーは攻撃を仕掛けようと左手を振り上げる!


「いい加減にしろ!見てるこっちが恥ずかしいんだよおおおお!」


しかしウィルはそちらを気にする様子もなく、彼を心配そうな目で見る女性にウィンクで返事をした。


「心配いらないよ。僕は強いから」


そう言うや否や、振り向きざまに一閃!


スタックリーナーの右手の大顎のみを、綺麗に切断した!


スタックリーナーは呻き声を上げながら後退りする。


ウィルは刀を構え直すと、「ふうっ」と短く息を吐いて、敵の右手を見る。


「さあ、武器は壊れたぞ?今降参するなら見逃してやる」


対するスタックリーナーは、右手の痛みを堪えつつも、未だに闘志は折れていない様子だった。


「ククッ…大顎を破壊したぐらいで、随分上機嫌じゃないか…!俺にはまだ左が残ってる!まだやれるぞ!」


そう言って、額に脂汗をかきながら左手の掃除機を構えるスタックリーナーに、ウィルは敬意を評した。


「見上げた根性だ…次は一刀の下に斬り伏せてやる…ッ」


しかし、ウィルがそう言って聖剣を振り上げた瞬間、突然、背後からピンク色の光が溢れ出した!


スタックリーナーとウィルは、突然の事に思わずそちらを見る。


光の源は、被害者だった眼鏡の女性の、ビジネスバッグの中からだった。そしてそのバッグの中から何かが出てこようとしてるのか、蓋の金具がガチャガチャと揺れている。


彼女は慌ててバッグの蓋を閉じようとしたが、既に遅く、蓋を跳ね除けて飛び出してきたのは、ピンク色に輝く、ハムスターによく似た小動物だった。


「よっしゃあ出番ポワー!」


奇怪!その小動物は人語を喋る!


「ちょっと!今はやめて!人前なのよ!」


眼鏡の女性は慌ててその小動物を捕まえようと手を伸ばすが、それは蝶のようにヒラリと舞うと、彼女のブラウスの隙間からその胸の中に入り込んだ。


その瞬間、彼女の動きは止まり、ピンクの光も収まったかに思えた。


ウィルとスタックリーナーは、茫然と一連の流れを見守る。


「ええ、何?どうしたの?」とウィルが彼女に近づこうとした瞬間、彼女は着ていたスーツを脱ぎ捨てた。


「ミラクル☆マジカル☆メーイクアーップ☆!!」


溌剌と叫ぶ彼女の、その眼鏡の奥の眼光にはピンクの光が宿り、瞬く間に衣装が構成されて行く。


ブラウスにはフリルがつき、タイトなスカートは可愛らしいミニスカートに。極め付けはピンクに変色した髪に、これまた可愛らしい赤い帽子が載っていた。


「魔法少女プリティ☆ハート!ただいま見参!」


彼女は片足を上げ、可愛らしくポーズを決める。


ウィルとスタックリーナーは、そんな彼女の様子を「ええ…」と困惑しながら見守っていた。


「イマジネイション☆ステッキ!」


彼女がそう叫ぶと、その手元には、先端にハートの意匠を施した、ピンク色のステッキが出現した。


「闇に呑まれた哀れな獣よ!光の下に帰りなさい!マジカル☆ハート☆バーニング!!」


彼女がそのステッキをウィルの肩越しにスタックリーナーに向けると、ステッキの先からピンクの光が飛び出し、一瞬のうちに彼を焼き尽くした!


ウィルはその光の後の、何も無くなった場所を見つめると、ゆっくりと彼女の方を振り返る。


魔法少女はひどく赤面し、目に涙を浮かべていた。


彼女はウィルの唖然とした顔を見ると、ついに何かが決壊したのか、短いスカートの裾を押さえ、めそめそとへたり込んだ。


「だから嫌だったのよぅ…私、今年で27なのよ?やだ、そんな目で見ないでよぅ…なんなのよも〜!」


————————


翌夕方、ダイニングバー


「…と言った次第でございます」と、話を締めくくったウィルは、隣に座る赤縁眼鏡の女性に、自己紹介を促した。


これと言った特徴のない、一見すると一般的な社会人女性といった面持ちの女性は、「田中ココロです…」と、恥ずかしそうに名乗った。


タロウとマキナは揃って腕組みをして、口を「ぽかん」と開けていた。

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