ボーン・ディス・ウェイ/異能相談
ベーカリーカグラの店主・神楽坂ヒビヤは、夕方の混雑に対応しつつも、昼間に押しかけて来た金髪の少年と、タロウとマキナについて思いを馳せた。
…あのマキナちゃんが、お友達と外食なんてねえ…ハル以外の友達なんて見た事なかったけど…タロちゃんが来てから、なんだか少し変わった気がするなあ…
それにしてもあのウィルって子、少し変わった感じがしたけど、外国の子かな?いい子だったけれども。タロちゃんよりも大分年下の感じだったけど、どこで知り合ったのかしら?案外、最近の若い子って、みんなあんな感じなのかも。
————————
同時刻、ダイニングバー
「初めて変身したのが1ヶ月前…私の意思じゃないんです。危ない状況になると、自分の中の…なんて言うか…正義感…みたいなものが抑えられなくなって、普段なら絶対言わない事とか…ポーズとか…」
田中ココロは、アンダーフレームの赤縁眼鏡をかけ直しながら、くたびれた顔で言った。
「恥ずかしくて恥ずかしくて…もうやめたいのに…制御できなくて…そんな時にウィル君と偶然知り合って」
ココロがウィルの方をちらりと見ると、ウィルは「そこで」と言葉を引き継いだ。
「同じ様に変身するタロウなら、何かわかるかもと思ってね」
対面に座るタロウとマキナは、どうしたものかと頭をひねった。
「どうしようタロウ。話にさっぱりついていけないわ」
マキナはヒソヒソ声でタロウに耳打ちする。対するタロウは、「ふむふむ…?」と情報を咀嚼していた。
ウィルはそんな2人を見て、「やっぱりタロウでもダメかあ」と溜息をつく。
「そっちのマキナさんも、せっかく来てくれたのにすまないね。いやあ、2人でもわかんないとなると、どうやら八方塞がりかな?」
するとタロウは、俯いていた顔を上げ、「いや、わかるぜ」と身を乗り出した。
マキナが「えっ?」と素っ頓狂な声を上げる中、タロウは不敵な笑みを浮かべる。
「小娘よ…俺だって毎日ただ食って寝て働いてるだけの訳ではないんだぜ?魔法少女…あれだな?『魔法少女プリティ☆トゥインクル』…日曜の朝にやってるあのテレビだな」
「…そういやあんた、最近ずっとテレビ見てるわよね」
マキナはがっくりと肩を落とす。この手の話に対応できるような常識は、タロウには無かった。
しかしココロは、意外にも「あっ、知ってます?」と顔を輝かせた。
「いやぁ、私、あのシリーズ大好きなんですよね!初代から見てますけど、他の女児アニメとは一線を画す圧倒的な作画に魅せられました!あれって、男の子アニメの文法でもありますよね!でもその中で描かれる女の子同士の友情はしっかりと思春期の女の子達を描いててそのギャップがまた…あっそうだ、タロウさんの推し作品はどれですか?あっ推しキャラでもいいですけど…私はやっぱり『プリティ☆メイジ』ですね!主役のコンビの百合…もとい友情が素晴らしくて…男性の方に人気なら『プリティ☆スマイル』ですかね?あれ?もしかしてまだ見てない?今度Blu-rayお貸ししますよ!オススメはありますけどやっぱり初代から見るのが一番ですかね?老舗映像制作会社の本気と執念が見られるというか…」
ココロはそこまで早口で一気に捲し立てたところで、タロウ達が3人揃って「ぽかん」としているのを漸く察し、いつのまにか浮かせていた腰を下ろして、「あっ…すいません…」と小さくなった。
またもや涙目で赤面するココロを横目に、ウィルは雰囲気が淀むことを危惧して、努めて明るく声をかけた。
「へ…へえ!ココロさん、物知りだねえ!今度僕にも教えてよ!こっちの文化に興味あるんだ」
そんなウィルのフォローも、ココロには届かない。
ああ…またやってしまった…やっぱりこの力を手に入れてから何か変だ。いつもなら初対面でこんな話しないし、て言うか、会社でこんな話できる人もいないけど。
ココロはそうして頭を抱えると、自身を嘲笑する様に笑みを浮かべた。
どうにも気まずい空気を打ち破ったのはマキナだ。彼女はアイスティーで喉を潤すと、「とりあえずさ」と切り出す。
「ここで話しても訳わかんないから、『変身』、見せてくれないかしら?」
————————
少し歩いて、人気のない河川敷
「やっぱり、恥ずかしい?」
ウィルは、変身を躊躇うココロに優しく聞いた。
「自分の意思でっていうのは初めてで…その…」
そう言って伏し目がちに身をよじる彼女に、マキナは溜息をついた。
「ウィル君?あんまり優しくしてても始まらないわよ。日が暮れちゃうんだから」
ココロはその言葉に余計に萎縮し、身を縮めてしまった。
…年上のはずなのに、小動物を相手にしてるみたいね…
マキナは面倒臭そうに頭を掻くと、「まあ、しょうがないか」と呟く。
「じゃあ先に、私の変身を見せてあげる。これでフェアでしょ」
彼女がフロッピーディスクをバスター・ガングローブに挿入すると、そこには瞬く間に『機械鎧』が現れた。
ココロはそれを見て絶句する。
「ええ!?ま、ま、機械鎧!?」
「あら、光栄ね。知ってるの」
マキナがそう返すと、ココロはまだ信じられないと言った様子で、夢を見ている様な目をした。
「知ってるも何も、機械鎧と言ったら国民的な英雄ですよ…え、まって、本物?夢じゃない?」
ウィルは「へえ」と、少し興奮した様子で機械鎧に近づいた。
「タロウの連れ合いだから、只者じゃないだろうと思ってたけど、なるほど、これも魔術じゃないんだよね?この世界は本当に面白いなあ」
マキナは少し得意げになり、「そうよ」と胸を張った。
「十分に発達した科学は魔法と見分けがつかないってね。もっとも、私からしてみれば、ウィル君やココロさんの方が随分と不思議だけれど」
すると今度はタロウが、「確かにな」と、陽炎を纏って前に進み出た。
「この世界は不思議なことだらけだよ。ウィルとマキナなんかは随分マシだが、俺みたいに…」
彼はそこで言葉を区切ると、全身を紫炎で包み、『鬼人』に変身した。
「怖ーい『鬼』もいるしな」
思わず「ひいっ」と息を飲むココロを見て、ウィルは「やっぱり、タロウはいつ見ても顔が怖いな」とからかった。
そして『機械鎧』と『鬼人』を示して、ココロに語りかける。
「ほら、ココロさん以外にも、不思議な力を持った人はこんなにいるんだ。僕ら3人とも、正義の心を持って戦ってる。恥ずかしいなんて言ったら、僕らの方がよっぽどだよ…この間の機怪人にも笑われたし」
ココロはその言葉に「くすり」と少女の様に笑うと、「ありがとうね、ウィル君」と長い息を吐き、肩にかけていたハンドバッグを手に持った。
「お二人も、ありがとうございます。なんだか勇気が湧いてきました。できるかどうかわからないけど、やってみます!出番よ!『ポワポワ』さん!」
そう言って勢いよくハンドバッグのフタを開けると、中にいたのは、ハムスターの様な形をした、白い毛玉の様な小動物だった。
『ポワポワ』と呼ばれたそれは、「もぞもぞ」と気怠そうに寝返りを打つと、「え?出番ぽわ?」と、目を擦った。
「そう、出番です。いつものようにやってください。ほら」
ポワポワはココロの言葉を受け、「のそのそ」とバッグから這い出ると、寝ぼけ眼でココロを見上げた。
「別にいいけど、ちゃんと変身するには『イマジネイション』が足りないぽわね」
ポワポワは自身の短い手足を指し示し、ぼんやりとしたピンクの光を放って見せた。
ウィルはそれを見ると、「ほお、たしかに昨夜の光よりだいぶ弱いな」と顎に手を当てた。
タロウとマキナはその光景を見て「待て待て待て待て」と横槍を入れる。
「当たり前のように小動物が喋らないでよ!急に出てきたそいつは何者なの!?」
「さっきの話に出てこなかったよなそいつ!?」
ココロは「あっそうでした」と、タロウとマキナを見ると、ポワポワを抱き抱え2人の方に向けた。
「こちらはポワポワさん。この子が突然私のバッグに入ってきてから、私は変身能力を得たのです」
紹介を受けたポワポワは2人に手を振ると、タロウの方を見て顔を強張らせた。
「よろしくぽわ〜…って片方顔怖っ…敵ぽわ?敵ぽわな?」
ココロは立ち竦むポワポワを宥めすかして、「タロウさんは敵じゃないですよ」と言う。
「ところでポワポワさん。さっきのイマジネイションって言うのは何なんですか?」
ポワポワは「待ってました」と言わんばかりにココロの手から飛び出すと、4人の中心に立ち説明を始めた。
「ポワの生まれた『妖精の国』では『イマジネイション』が重要なエネルギー源なんだぽわ。これは心の奥底から湧き出る願望が原料で、ポワ達は他の種族からそれをもらう代わりに、その願望を叶えてあげてるのだぽわ」
「ええ…私それ聞いてない」とココロがつぶやくと、「そりゃあ、ココロは聞かなかったからぽわな」とポワポワは事もなさげに言った。
ウィルは「ああそうか」と得心の行った顔をして、ポワポワを摘み上げた。
「僕の知ってる妖精とは随分違う感じだったけど、なるほど、僕やタロウと同じように異世界から来たんだね?」
「あっ昨日のイケメンぽわ。大丈夫ぽわ?ココロに食われてないぽわか?気をつけるぽわこいつショタコ…」
ポワポワがそう言うや否や、ココロは真っ赤な顔で彼をウィルから取り上げた。
「そそそそんなことしません!と…とにかく!ポワポワさん、私はこの人達に変身を見てもらいたいんです。力を貸してくれませんか?」
「自分の力と向き合ってみたいんです」と、真っ直ぐにポワポワの目を見つめるココロに、ポワポワは「まあ、いいけど…」と答えると、彼女の胸元に入り込んだ。
瞬間、辺りはピンクの光に包まれる。
「魔法少女プリティ☆ハート!ただ今見参!」
ココロの着用していたスーツは変化し、ファンシーな『プリティ☆ハート』へと変身…したにはした。
「な…なんで…」
「イマジネイションが足りないと言ったぽわ」
彼女の衣装は、今日に限っては何故かいつもと違った。具体的には、布の面積が1/3程になっていた。
「なんでこうなるのよおおお!」
ヘソ出しルックにTバックの姿で、半狂乱に叫ぶ彼女を前に、ウィルは目を覆い、マキナは目を逸らし、タロウは「うん、これはないな」と頷いた。
しどろもどろになる4人のもとに、突然、サイレンの音が鳴り響いた。
「おまわりさーん!こっちです!金髪の子が不審者に囲まれてて…」
土手の向こうから、誰かの声が聞こえた。この光景を目にした者が、警察に通報したのだ。
「やっべえ!ケーサツだ!逃げるぞ!」
いち早くそのことに気づいたタロウが、他3人を急かした。
「ああっもう、面倒くさい!」
「逃げるってどこに?」
「もういいですぅ…わいせつ物陳列で逮捕されたいですぅ…」
「ええいうるさい!」
口々に言う3人制止し、めそめそと泣くココロを担ぎ上げると、タロウは一目散に走り出した。
————————
タロウ達はベーカリーカグラまで逃げ帰ると、店番をしていたヒビヤとハルへの挨拶もそこそこに、二階のタロウの部屋に上がり込んだ。
ヒビヤとハルは4人の後ろ姿を見送り、顔を見合わせる。
「新しい友達って、コスプレ仲間かあ」




