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少年と剣  作者: 編理大河
冒険者たち
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発見


 どこまでも広い空。糸を引くように、一匹の鳥がこちらへとまっすぐ向かってくる。


「お疲れ様、ハヤブサ」

「ピューイ」


 その鳥はギブソンの使い魔であるハヤブサであった。ミカヅキと違い言葉こそ話せないもののギブソンによく懐いており、今もその腕に止まり頭を腕へと擦り付けている。ギブソンがポケットから取り出した干し肉を嘴で美味そうに啄ばむ。


「うわっ、すごい懐いてる。可愛いねえ、アルク」

「うん、そうだね」


 パナシェがその光景に微笑みながら、アルクの袖を引く。確かに鋭い眼光や気品のあるたたずまいをしているが、主人に一心不乱に尽くす姿は愛らしい。


「うちの猫もこのぐらい可愛げがあったらいいんだけどね」

「とりあえず、奉公を求めるならまず御恩がほしいにゃんねえ。カシスはゼリカの名物のワッフルが食べたいにゃん」


 ライムとカシスも軽口をたたき合うが、温かい眼差しをハヤブサに注いでいる。人語を話せないということが、よりハヤブサのその愛嬌を増していた。


「うーん、だめだったねえ。上空からここら一帯を見てみたけど、盗賊団のアジトのような場所はなかったかなあ」


 ギブソンがそう溜息をつく。なんでも使い魔とは視覚を共有できるらしく、上空にてここら一帯を視察してもらっていたのだ。


「そうね。これ以上進むと山を挟んでアデルハイドに行ってしまうし、流石にそんなところに拠点を構えられるわけはないでしょうしね」


 ヨルカも眉を潜めながら、顎に手を当て思案に暮れる。一番聡明そうな二人が悩んでいるのに、アルク達に対案が出せるはずもない。なんとはなしにマップを展開し、そして近辺に建造物を示す記号が書かれていることに気付いた。


「あれっ? ねえ、ハル、これって何?」

『どうしたアルク。……ああっ⁉ 失念していたっ⁉ 確かにここなら……』


 アルクの指摘にハルもハッとした様子で叫ぶ。周囲の仲間たちも突然声を張り上げた二人を見ている。


「なにかわかったのかい、ハルさん」


 ギブソンが興味深げに話しかけてくる。


『ああ、なぜその可能性に思い至らなかったのか己を恥じたいぐらいだ。この近辺には古代エルフの隠し古城があるんだ。もしかしたら』

「隠し古城? 確かにその存在は聞いたことはあるよ。昔の冒険者で、【永遠の旅人】と称された希代の冒険家ウォークの旅行記にも、ここ近辺にそのような神人(プレイヤー)の遺跡があるって記していたからね。でも、それは昔起きた大災害で崩壊したというのが考古学の見解だったと思うけど。僕も彼の旅行記は小さいころからの愛読書だからね。若いころ、この近辺を探してみたけど、その時は見つからなかったよ」

『ウォークか……。確かに彼の時はまだスーラも冒険のメッカと称されていた時代だったからな。今のあり様ならそう結論づけるのも当然だが、奇跡的にも残っていたのだ。前回ラッドと行ったときは、そこへ通じる洞穴が崩落していたためスルーしたが』

「へえ、アルク君のお祖父さんであるあの雷鳴だよね。ねえ、ハルさん。冒険者ギルドは考古学的功績にも高い評価を与えているけど、あなたたちはどうしてその城は秘匿していたんだい」


 感心したようにギブソンは頷くが、そのあとすぐ納得できないといった様子で首を傾げる。


『……うむ、秘匿していたわけでなく、ぶっちゃけ忘れていた』

「ええっ⁉ 伝聞にのみ聞く見知らぬ古代遺跡なんて、浪漫の塊じゃないか。調べたら何か新しい歴史的事実だって分かるかも知れない。それを忘れたって……」

『まあ、ギブソンが想像するほど貴重な文献なんかはなかったしなあ。私も何人かの所有者と共にあらかた財は取りつくしたし、レアモンスターが出るわけでもない。それに私も所有者やそのパーティーの強化を考えるなど日々忙しく、些末なことはつい忘れてしまう』

「いや、だからそういう問題じゃなくて……。はあ、まあいいや」

「まあ、ハル殿は知性持つ剣であるが故、人とは少しばかり価値観も違うでしょうから」


 ギブソンは諦めたのか深く溜息をつく。本人が言うように、本当にそういうのが好きなのだろう。気落ちするギブソンをロゼがそう慰める。


「まあ、すぐそこに砦があるっていうんなら行ってみればいい。敵がいれば儲けものだし、いなかったらまた探せばいいだろ」

「そうね。ハルさん、その位置っていうのは遠いいの」


 あまり興味なさげなラカン。その意見に賛同しながら、ヨルカはハルに砦の位置を尋ねる。


『大した距離ではない。数時間歩けば着くだろう。今の古代エルフの隠し古城は地下が広く、森の中に隠されている場所だ。ハヤブサが空から見つけるのは難しいだろう。では、善は急げというし、さっそく行ってみることにしようか』


 


 マップとハルのナビゲーションを頼りに、その古代エルフの隠し古城へと向かう。どれくらい歩いただろうか、高い岩壁がすぐ側へと直角にそびえたっているのが見えた。


『ここからだと見えにくいがあの岩壁の下に、人一人がようやく潜り抜けられるスペースがある。そこを通ると、岩に囲まれたちいさな空間があり更に奥へと続く洞穴が見えるはずだ。更にそこを抜けると四方を山に囲まれ、鬱蒼と森が覆いつくしている場所に出る。そこに埋もれるように古代エルフの隠し古城があるんだ』

「成る程、そんな場所なら見つからない筈だ。では行ってみよう、と言いたいところだけど」

「?」


 ギブソンが意味深げな笑みを浮かべながら、声のトーンを落とす。アルク達は首を傾げるばかりだが、ヨルカはギブソンの言いたいことがわかるのか真剣に頷いて見せる。


「ええ、ここから先は慎重に進むとしましょう。見て」


 ヨルカが地面を指さす。それをみた瞬間ハッと息を飲む。そこはぬかるんでいたのだろうか、人の足跡らしき痕跡がうっすらと残されている。


「不用意に近づくとこちらの存在に気付かれかねないわ。アルク君も冒険者を続けるならこういったことにも気付けるようになりなさい。といっても、あなたのマップの権能とやらがあれば問題はないのでしょうけど、知っていて損はないわ」


 確かに、未だにマップの範囲内に反応はない。しかし、敵かもしれない存在の痕跡に皆は自分より早く気付いた。それは彼らの優れた実力の所以かもしれないが、自身の未熟さでもあった。この指摘は自分たちのためのアドバイスなのだろう。


「ハイ、気を付けます」


 故にアルクは神妙に頷く。他の仲間も顔を見合わせ、同様に頷いた。そして更に近くへと歩いていくとマップに反応が現れる。アルクは皆にそのことを伝え、警戒を促す。


「皆、この先に反応が」

『魔物かもしれないが気を付けていこう』


 周囲に警戒を張り巡らし進む。すると、木々に隠されるようにした先に岩壁を掘り抜き、補強した大きなトンネルらしきものが見えた。


『ビンゴだな。前回はあんなものはなかった。どうやら本格的にあそこに拠点を構えているのだな。この木々もブラインドのために後から植えたのだろう。遠目には確かになにもないように見えたからな。しかし、よくもまあこんなところを発見できたものだ』


 確かにマップの権能もなく、どうやってこんな場所を見つけ出したのか不思議ではある。疑問に思いながら更に奥へと進もうとしたとき、後方より更に反応が現れるた。その速度は速く、人ならば徒歩ではありえない。


「ハルッ⁉」

『うむ、このままでは見つかってしまうな。ちょうどあそこにちょうどいい岩がある。あそこに隠れよう』


 アルク達は急いで岩陰に隠れる。そして物陰からそっと窺うと、馬らしき蹄の音や、ガラガラと車輪らしき音が聞こえてきた。そして馬車の姿が見えると、アルク達が隠れている岩の前を通り過ぎる。その最中、御者台にいる男たちの会話が聞こえてくる。


「今回は駄目だったなあ」

「大分やり過ぎちまったしな。最近じゃ行商も護衛を大量につけてるし、数自体減っちまってる。近隣の村もどこも警戒を強めて気軽に手出しできなくなっちまった」

「そろそろ潮時かね」


 そうぼやく声が段々と遠ざかり、馬車はトンネル内に入っていく。


「やったね、アルク。これでもう決まりだね。あそこにラムのお姉さんがいるかもしれないんだね」


 アジトの発見に、パナシェがそう喜ぶ。 


「そうね。こんな辺鄙なところに件の盗賊以外が居を構えないでしょうしね」

「アランさんから貰ったデータと合わせると、十中八九間違いなしにゃん」


 ライムとカシスも嬉しそうだ。しかし、問題は――。


「ですが、これからどうしますか。もう、ここで引き返しますか」


 ロゼがそう尋ねてくる。


『そうだな。出来ればもう少し中の状況を知りたいが、すぐ先にある反応はおそらく見張りだろう。先ほどから一歩も動かない。気付かれずに侵入するのは困難だ。下手に見つかると、我々の存在に気付かせてしまう。ここは素直に引いておいた方がいいだろう。』


 ハルのその言葉にラカンは少し考え込み、そして頷く。


「よし、帰るか。アジトが分かったんならそれでいいじゃねえか。敵が何人いようがぶちのめせばいいんだろ。まあ、俺としてはこのまま突っ込んでもいいんだけどな」

「ラカン」

「冗談だ」


 ヨルカの呆れた声に、そう返すラカン。見慣れたやり取りに皆苦笑しながら、引き返そうと思ったとき、ギブソンが声を上げる。


「ちょっと待ってくれないか」

「なんだ」

「いや、やっぱし相手の規模や中の様子を把握できれば次の仕事も大分楽になるだろう。これは君たちの慎重な判断をないがしろにするってわけじゃないよ。素晴らしい判断だと思う。でも僕たちの仲間にこんなときうってつけな能力をもってる者がいることを忘れていないかい」


 ギブソンがおどけながら片目を瞑る。その言葉に一同は一瞬考え込むがすぐ思い当たり、互いに顔を見合わせる。ギブソンは微笑むと軽く手で印を結び、地面にそっと手をあてた。


「おいでよ、ミカヅキ」


 手の下より影が伸び、そしてせり上がってくる。そして、実体を持った影は一匹の黒猫へと姿を変えた。


「どうやら僕の出番みたいですね、主様」


 ミカヅキは体をほぐす様に優美に一つ伸びをすると、礼儀正しく手足を揃え、そして微笑んだ。


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