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少年と剣  作者: 編理大河
冒険者たち
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真夏の夜のBBQ


 旅は瞬く間に数日が過ぎた。真夏の夕暮れの広野に、ラカンの裂帛の声が響き渡る。


「オラァッ!」

「~~~~~~」


 切り倒された相手は、ここ近辺に出没するC級の魔物、ジャイアントバッファローの希少種だ。見つけた瞬間、こちらへと駆け出してきたのをラカンが迎撃した。B級ですら苦労する、この希少種が使う殊能力であるマナによって硬化されている筋肉と、大の男を凌駕する巨体を無視するかのように、その巨体が左右に両断される。どうっと倒れたジャイアントバッファローは、その死に際に断末魔をあげることすら許されずビクンと数度痙攣すると完全に絶命した。


「相変わらず凄いなあ」


 遠目に見ていたアルクは、ラカンの剣筋に背筋を振わさずにはいられなかった。それが単純な膂力のみで成し遂げられるものではないということぐらいは、アルクにも理解できた。ラカンと言う人物はまさしく冒険者として、そして剣士として遥か高みにいる人物だ。


「剣だけが取り柄だからね」


 ヨルカがアルクの隣で、そう微笑みかける。この女性は相棒であるラカンに対して、常に気の置けない言葉を投げかける。


「ヨルカさんって、ラカンさんとは組んで長いんですか」

「あっ、それあたしも知りたい。ねえ、ヨルカさんっ。二人ってどんな関係なんですか」


 気になったのか、さりげなく尋ねるパナシェと、手を大きく上げて問いかけるライム。カシスもだが、三人は大分この美貌の冒険者に憧れを持っているようだ。この旅の間にも積極的に会話を交わしている。自分がラカンの強さに惹かれるのと動機は同じなのだろう。


「まあ、アイツとは五年前に出会ってね。その時はアイツのお師匠様も一緒だったんだけどね。私もそのとき問題を抱えてて、通りかかったラカンのお師匠様が助けてくれたの。それがきっかけで一緒に冒険することとなったのよ。関係はあくまで同じパーティーってだけだけどね」


 ヨルカは苦笑いを浮かべつつ、パナシェやライム、カシスにそう説明する。へえ、と納得しつつも、三人共何故か少しばかり残念そうだ。何故なのだろう。


「おおっ、これで今日の夕食は豪勢なバーべキューだねえ。こいつの肉は美味いんだ」

「これだけあると、何日ぶんかはありそうですね。まあ、私以外は皆アイテム袋持ちだから心配はなさそうですが」


 ほぼ同時に、ギブソンとロゼが物言わぬジャイアントバッファローの遺体を眺めながら、呑気にそう会話を交わしていた。旅の間に気付いたが、この二人も大分見知った間柄らしい。まるで親戚の叔父姪のように会話するのを何度も見た。


「そうね、もう日も落ちてきたし、今日の探索はここまでにしましょうか」


 ヨルカもギブソンの意見に賛同する。


「じゃあ、解体は僕がやります」

「オイラ達も手伝うよ」


 未だ戦力とはなれていないため、早めに立候補をする。皆、若い冒険者に役割を与えようと思うのか、特に異論は挟まず雑務などを任せてくれる。仲間達もそんなアルクの下にすぐさま集まってくれた。

 アイテムボックスから解体用の錆びぬ魔術付与が施された短刀を取り出し、素材や肉を解体していく。少し離れた場所ではラカン達はアランからもらった地図や資料を見ながら話しあっていたが、ロゼはこちらへと歩いてきた。


「パナシェ殿、手伝おう」

「ロゼさん、いいんですか?」

「ああ。あちらの方々は私のような駆け出しとは、キャリアが違う。正直こちらの方が気が楽だ」


 ロゼはパナシェに小さく微笑むと、肩を竦める。あの事件の後、加護でロゼを癒したこともあってか、二人は少しばかり仲良くなったようだ。街で自分達を見つけると、ロゼはまずパナシェに話しかけてくる。


「でも、ロゼさんもギブソンさんと同じC級なんですよね」

「それにその年でC級でしょ。大したものじゃない」

「あの加護の力も凄かったにゃん。法の理を司るテミスの加護にゃん」


 ランク的にいったらそうなるだろう。それにカシスの言うように、ロゼも神に祝福された加護持ちだ。年齢も聞いたのだが、ラカンと同年齢の十七らしい。その年でソロにも関わらずC級にまで上り詰めたのという。


「それは、まあ……ギブソン殿は多芸ですし、ランクが冒険者としての実力を示すわけではありませんから。それにラカン殿やヨルカ殿はもうA級間近と聞きます。アデルハイドでもその話題で持ちきりですよ。あの雷鳴のラッドの最年少A級昇格を塗り替えるんじゃないかって」


 ロゼが口ごもったように答える。すこしばかり人見知りするらしく、先程よりも僅かに表情が硬くなる。


「A級っ⁉」


 十七歳でのA級ということと、またしても出た祖父の名前に驚いた。本当に二人は冒険者の高みにいた存在なのだろう。翻って自分はいまだ昇格なしのF級である。そこにたどり着くには、どれぐらいの冒険をしなければならないのだろうか。


『あの男、そこまでの……。それとギブソンか。彼は確かに少しばかり三味線を弾いているところが見受けられるからな。好意的ではあるが、注意はしておいてもいいだろう』

「悪い方では決してないのですけどね、ハル殿。確かに人を食ったようなところはありますが」


 ハルの言葉に、ロゼは苦笑する。そして、自らの解体用のナイフをザックから取り出すと、パナシェの横に屈んで解体を手伝い始めた。五人で行ったため、解体はスムーズにいき、見上げる程の巨体であったにも関わらず、陽が落ちる前にすべての作業を終えることが出来た。




 パチパチと爆ぜる焚き火。その上に乗せられた鉄網の上で、串に刺さった玉ねぎや肉が香ばしく焼ける。アイテムボックスから取り出した簡易チェアーに腰を下ろしながら、アルク達はバーベキューを行っていた。


『もうそろそろ出来上がりだな』

「わあ、美味しそう」


 両手を頬に添えながら、ヨルカが歓声を上げる。


「いやあ、ハルさんの権能も大したものだ。僕も一応アイテム袋は持ってるんだけど、容量は少なくてね。必需品以外はお酒とおつまみでパンパンなんだ。だから、こんなに手のこんだ料理を冒険で食べられるとは思わなかったよ」


 そういってギブソンは、自分のアイテム袋からその言葉を証明するように大きなマイジョッキとビール瓶を取り出し、注ぐ。ラカンはそれを見て、「オイオイ」と呆れ顔で呟いた。ギブソンは知らん顔で、ジョッキに注いだビールにグビッと口をつけ、グイグイと半分ほどを飲み干す。


「はぁ~、美味い。キンキンに冷えたのを飲めるのもアイテム袋の利点だねえ。やっぱり冒険の終わりに自然の中で飲む酒は最高だ。今日は星も綺麗に見えるし、語り合える仲間もいるしね」


 屈託のない笑顔を見せるギブソン。本当に冒険に楽しみを見出しているのだろう。


「ラカン君やヨルカ君もどうだい」


 ギブソンが二人に酒を勧める。しかし、ラカンは素っ気なく首を横に振る。


「俺はいらん」

「あれ、意外だね」

「剣が鈍るからな」


 その答えにギブソンは感嘆の声を上げる。


「はぇ~、ストイックだねえ」

「あなたのそういうところ、アッシュさんそっくりね。ギブソンさん、私は貰おうかしら」

「おっ、いいねえヨルカ君。いける口かい。飲み友達がいると一層酒も美味いからね。アルク君たちは、まだもう少し待たないといけないね。ロゼ君は……」


 ヨルカに酒を注いだグラスを渡しながら、視線を一周させ、ロゼの所で止まる。皆の視線が集まり、ロゼは顔を真っ赤にしながらブンブンと首を横に振る。


「いえ、私は結構です。もとより酒は好みませんし、皆さまにも大分ご迷惑をお掛けしてしまったようですから」

「あの件は、ごめんねぇ」

「まあ、確かにあの件はな。まあ、飲ませて煽った奴が一番悪いんだがな」


 ギブソンが両手を合わせて、ロゼに謝る。酒をぶちまけられたラカンも、それを思い出したのか小さく苦笑する。


「まあ、もう過ぎたことはいいじゃない。それにもういい感じにお肉も焼けたわよ」

「そうだね、オイラもお腹がペコペコだよ」

「夏の夜はバーベキューよね」

「そうにゃん。BBQにゃん」


 場を取り繕うように女性たちが場を賑やかす。そこでその話は流れ、皆の意識は再び鉄網の上の肉へと注がれる。


「もうよさそうだね」

『ああ、もう大丈夫だろう。では始めるとしようか』


 ハルの言葉をきっかけに、皆が串へと手を伸ばした。


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