捜索隊
誕生日を仲間に祝ってもらった翌日。
日中に皆でギルドを訪れると、そこにはラカンやヨルカ、ギブソンにロゼがいた。
「ふふっ、アルク君たちもちょうどいい時に来てくれたわね」
「今しがた、新たなクエストが出たところなんだよ」
笑いながらヨルカとギブソンが、アルク達にそう告げてくる。
「ようやくクエストがだせるようになったんですね」
「うん。ここにいるアランギルド長代理が頑張って下さったおかげでね」
ギルド長代理。その言葉にアルクは驚く。それはもう実質的にここのトップではないのだろうか。ニヤニヤとギブソンが、出世しても変わらずカウンターにて苦笑いをしているアランへと視線を向ける。
「はあ、なんでこんなことに」
不本意なのだろう、アランは溜息と共にそう愚痴をこぼす。「実はね……」とギブソンから聞いたところ、あの後、ほぼ引退状態だった高齢のギルド長も退職し、トップがいない状態であったところを中央からアランを代理にギルドを立て直すように指令が来たらしい。
「書状には国王の署名まであったそうだし、ここまでの動きが迅速過ぎる。一体何が起きたのか」
「きっと、通りすがりの顔の広い冒険者がアラン君の頑張りを見て、お偉いさんに頑張ってますよ彼って報告してくれたんだよ」
「顔の広い冒険者ねえ」
ギブソンの言葉に、ラカンが腕を組みながら呆れ顔で呟く。ギブソンの隣では、ロゼがコホンコホンと喉に何か詰まったかのように咳をしていた。
「まあ、なんにせよこれで正式に依頼を受けて動くことができるよ。バックアップにはアランギルド長代理の後ろ盾もあることだしね」
「はあ、気楽にいってくれますねえ。僕、こう見えても体が弱くて冒険者を諦めてギルド職員になったんですよ。過労死したら恨んで出ますから」
本当に恨めし気な顔でアランがギブソンを睨む。その頬はややこけており、目の下には隈がくっきりと浮かんでいる。ここまでにも多大な苦労があったのだろう。
「まあ、冗談はここまでにして、皆様方には今回の騒動の中心である盗賊団のアジトを探し出して欲しいのです。今回の盗賊団はその被害の数から相当の規模にあることが推測されますが、その周到さからアジトがどこにあるのかもわかってません。ラムさんを襲った盗賊たちも、それにビスキーさんですらそれがどこにあるかは分かっていなかった。現場の犯罪はあくまで現場で行わせ、何かあった際は切り離す周到さがあります」
「確かに。普通の盗賊にしては周到過ぎる気がするわね」
ヨルカが顎にその細長い指を当ててそう思案する。
「まあ、なんにせよアジトさえ見つければ、そいつらをぶっ潰せるんだろ。なら、虱潰しに探すしかねえ」
「ラカン君、今回相手のアジトには救出対象が存在してることを忘れちゃだめだよ。そこにはラム君のお姉さんもいるかもしれないしね」
ぶっきらぼうに吐き捨てるラカンを、ギブソンがやんわり窘める。
「そうよ。頭まで筋肉なのはもうしょうがないけど、少しは考えるってことを覚えた方がいいわよ」
ヨルカも呆れた表情でラカンを非難する。流石にラカンも言い返せず「ぐっ」と言ったっきり、体を背けてその視線をギルドの窓の外へと向ける。
「まあ、なんにせよ全てはアジトを見つけてからです。そこからは敵の規模次第で王都より騎士団を要請することも考えなければいけません。……出来うるならギルドの力だけで掃討したいところですが」
アランが真剣な口調でそうまとめる。後半の方は少しばかり思いつめたかのように、重い雰囲気を漂わせていたのが、少しばかり気になる。やはり、今回の粉飾事件でギルドの信頼が失われているのが懸念なのだろう。
「では、ラカンさんとヨルカさんにゼリカのギルド長代理として依頼します。盗賊団のアジトを探し出し、その規模を出来うる限り調査してください。パーティーの選出はそちらに一任します」
「ああ、わかった。任せておけ」
ラカンは気負うことなく、その依頼の指名に頷いた。その視線がまずギブソンへと向く。
「乗りかかった船だからね。それに今をときめく有力冒険者の大活躍を間近で見れるのはジャーナリストとして、この上ない好機だしね」
「まあ、お前は多少いけ好かないし、得体のしれないところもあるが、それなりに役に立ちそうだからな」
飄々と承諾するギブソン。そこに入り込む様にしてロゼがラカンへと己の推挙した。
「私も連れて行って欲しい。義を見てせざるは騎士の道に背く。あなた方ほどの腕はないかもしれないが、足手まといにはならないつもりだ。関わってしまった以上、ラム殿の姉上も含めて助け出すための一助となりたい」
「好きにしろ。それと……お前らはどうする」
ラカンは最後にアルク達に向かって、そう問いかける。
『ううむ、盗賊団の掃討などはある程度の階級の冒険者の仕事だ。ラカン達が凄腕だからといって守ってもらうつもりなら冒険者の流儀に反する。受けるなら相応の覚悟が必要だぞ、アルク』
ハルの言葉に頷く。戦いの場に出ながら庇護を乞うことは確かに許されないことだ。それは、自分が一人を相手にするのがやっとだった集団を、ほぼ一人で蹴散らしていたラカンと行動したからといって変わらない。アルクは仲間達に意見を求めるため背後を振り返る。三人共答えは出しているのだろう、アルクに向かって笑顔を向けてくる。
「受けるんでしょ、アルク。ラムのお姉さんを助けてあげないとね」
「受けないって選択肢は正直無しよね。そんなことしたら前を向いて歩けなくなっちゃうもの」
「今回はこの天才魔術師のカシスがいるから、大船に乗ったつもりでいるといいにゃん」
パナシェ、ライム、カシスの力強い言葉。それを聞いて、自身の覚悟も定まった。前回のような感情にまかせて危地に自ら進んでいくようなヘマはしない。しっかりと皆を守ろうと決意する。
最後にラムを見る。姉が攫われたのに、自身の誕生日を快く祝ってくれた少女。不安げに瞳を揺らしている彼女に、力強く微笑むとラカンへと再び向き直る。
「僕たちも行きます。ラムのお姉さんを助けてあげたい。自分の身は自分で護ります。それにこっちにはハルがいますから、捜索なら役に立てると思います」
『ふふ、確かに私の権能があれば効率は何百倍にも上がるだろうな。それを考えたら私抜きでの捜索など下策も下策かもしれないな、ふふふ』
アルクの言葉に気をよくしたらしく、ハルはご満悦な様子でそう話す。
「そうか。わかった」
ラカンはそれだけ言うと、決まったぞとばかりにアランに視線を戻す。アランもそれを承認し、頷くと口を開く。
「では、このパーティーを持って捜索隊とします。詳細な位置までは解りませんが、被害現場の位置を統計でまとめたものがあるので後でお渡ししますね。方角程度なら割り出せるかもしれません」
「で、見つけたらお次は掃討戦か。お前はここの奴らでやりたいみてえだけど大丈夫なのか」
ラカンのさりげない問いに、アランは一瞬苦笑いを浮かべる。確かに今のゼリカの冒険者たちは色々な意味でボロボロだ。だが、アランは何かを確信しているのか穏やかに微笑んだ。
「ええ、それについては心配しておりません。ずっとずっとこの街の冒険者たちを見てきていますから。それについてはこちらで動きますので、皆さまはどうかアジトを見つけ出してください。吉報をお待ちしております」
そうしてアランに見送られながら、アルク達はギルドを出た。一度各々で準備を整え、翌朝にギルド前で落ち合い、ゼリカを発つことのみを決めアルク達は別れた。




