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少年と剣  作者: 編理大河
冒険者たち
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バースデイ

 ラッドの秘蔵のお宝を手に入れてから数日が経った。

 なんとかその衝撃から立ち直ったが、ただ少しばかり女性と接するのが気まずい。

 パナシェ達も少しばかりいつもと違う自分を訝し気にみていたが、オーバーブレイクの後遺症が変に入ってしまったとの説明になんとか納得してくれ、なんとかやり過ごすことが出来た。

 ちなみにあのお宝は皆に発覚するのを恐れて、アイテムボックス内に収納した。ハルはそんなアルクを見て、『もし、いたしたいと思ったら一声かけてくれれば、私はいつでも君とのリンクを一時的にだが解けるぞ。そういうのも踏まえて、ちゃんと仕様としてそういうふうになってるからな』と、やたらと気を使ってきたが、何を言っているのかはまだいまいちわからない。


「さて、今日はどうしようかなあ」


 ギルドから外へ出て、そう呟く。現状を調べに未だギルドは混乱状態だとアランに告げられ、やむなく外へと出てきたところだ。なんでも大規模な人事異動が行われるらしい。すこしばかり青い顔をしたアランから、その大変さが解り、アルクは唯頷くのみであった。皆と街を散策しようとも思ったが、ロゼやラムを加え、宿で女子会をするとかで追い出されてしまったため、少しばかり手持無沙汰なのだ。ラカンとヨルカは外で魔物を狩りに行っているし、ギブソンは私用があるとぶらりとどこかへ行ってしまっていた。


「おっ、ボウズじゃねえかあ。ひさしぶりだなあ」


 何をしようか考えていると、呂律の回っていない声で呼びかけられ、振りむく。すると、そこには見知った浅黒い禿頭の男が、顔を真っ赤にしながら酒瓶を片手にこちらを見ていた。


「あっ、ドブロさん」

「おう、ドブロさんよっ」


 そうして人好きのする、懐っこい笑顔を見せてくる。しかし、その様子はどこか投げ遣りで自暴自棄に感じられる。今はここの冒険者の評価も地に堕ちているため仕方ないのかもしれないが。アルクはドブロがビスキーと懇意にしていたのを思い出す。


「いや、やっぱりアデルハイドの有望株は違えわ。この街の有力冒険者をバッタバッタ倒しちまったんだろ。俺の知り合いも普通に死んでて驚いたぜ。危ない橋は渡らねえっていってたのによお」

「ドブロさん……」


 ドブロは粉飾には加担しなかったものの、ビスキーから熱心に勧誘されていたため、白ではなく灰色と見なされ、ランクの降級も検討されているのだとアランから聞いていた。


「あれがきっとモノホンの冒険者って奴なんだろうな。ボウズも、運がよかったなあ。ここにいる紛い物じゃねえ奴に会えてよ。そういった縁は大事だぞ。じゃあな」


 ドブロは酒を一気に呷ると、一つ大きなゲップをして去っていく。


「なんか辛そうだね」

『そうだな。だが、ここから先は彼の問題だ。彼も全く無関係というわけではないのだからな。きっと、薄々気付いていたのだろう』

「そっかあ」


 気のいい男だけに、少しばかり可哀相に感じてしまったが、それすらも侮辱に等しいことなのかもしれないと思い、アルクは気持ちを振り切るように頬を叩いた。そして、いまだよろよろと歩くドブロとは反対の方向へと歩き出した。




 暇つぶしとばかりに郊外の川で釣りをし、アルクは宿へと帰ることにした。釣れた三匹の魚はすぐ絞めてアイテムボックスへと収容した。


『大分うまくなったな』

「ヴァーチャルでも特訓してるからね」


 最近はもっぱら剣の修行ばかりだが、それでも少しばかり時間を持て余すと、ときたま釣りの訓練も行っていた。かつての雪辱に向けて腕を磨いているが、すでにパナシェやライムは釣りに興味を失っているのが現状だ。だが、自身を振り返る時間もくれる釣りは、既にアルクの趣味の一つとなっていた。


「だいぶ遅くなったね」

『ああ、そうだな。ちょうどいい時間になったな。宿へと帰ろう、皆待っている』

「うん」


 ハルの言葉に、素直に頷く。今日はいつもより少しばかり涼しかったため、釣りを敢行したが、流石に長時間太陽に照らされ、多量の汗をかいていた。早くコテージに入り汗を流して、冷えたレモネードでも飲みたいところである。そのためか少しばかり足早に宿に戻ったアルクは、その前に設置されていたベンチに座っているパナシェと出会った。


「あっ、アルクだ。お帰り。遅かったね」

「うん、ちょっと釣りにいっていてね。パナシェはどうしたの?」

「オイラもちょっとね。ちょうどよかった。一緒に部屋に行こうよ」

「そうだね」


 頷きながら、ふとパナシェは自分を待っていてくれてたのではないかと思う。いつもより少しばかりソワソワしているようにも見えた。


(今日って何かあったっけ?)


 そんな風に自問してみるが、なんら特別なことは見当たらない。しかたなく先行するパナシェの後を着いていく。自室に戻ると、コテージの扉がそのままにされていた。これは朝頼まれて、顕現したままにしておいたものだ。


「皆もこの中なの?」

「そうだよっ、さあ行こう」


 パナシェがアルクの手を掴み、扉を開ける。それをくぐった瞬間、パアンとけたたましい音が響く。


「えっ」

「アルク、誕生日おめでとー」

「十二歳の誕生日にゃん、おめでとにゃーん」

「おめでとうございます、アルクさん」

「アルク殿、おめでとう」


 クラッカーの小さな紙がアルクの頭へとふわりと被さってくる。目を丸くしたアルクの正面で、パナシェが白い歯を見せながら満面の笑みを浮かべこちらを見ていた。


「えっ、これって」

「うん、アルクの誕生日だよ。ほら、森でそれぞれの誕生日を言い合ったでしょ。だからお祝いしようって皆で話し合ったの。ラムやロゼさんも賛同してくれて。今日はバトラーに指示してもらって、一日準備していたんだよ。ハルさんにもお願いして、内緒にしてもらってたんだ。サプライズだからね」

『君が眠っていたときに相談を受けたんだ。私としても異存はないから承諾した。十二歳の誕生日おめでとう、アルク』


 すっかり忘れていた自分の誕生日。祖母がいてくれていたときは、慎まやかにだが行っていた。その死後は一切行われなかったが、ハルと出会って以降も、毎日がサプライズのようであまり意識はしていなかった。ふいに、祖母が行ってくれていた誕生日の記憶が思い出される。




「ねえ、お祖母ちゃん。なんで誕生日ってお祝いするのー?」

「そうねえ、人生は辛いことも多いけど、だからこそそれを乗り越えられるように、生まれた日をよくぞこの世界へって励ますためにするのかもね。そういう幸せな日々が一日でもあれば、長く辛い日々も乗り越えられる。私は最近そう思うの」




 いつもより少しばかり豪勢な食事と、優しい祖母の笑顔。アルクは目の奥が熱くなってくるのを感じた。


『アルク……』

「ごめん、すごく嬉しくて」


 目尻にたまった涙をアルクは拭く。パナシェが再びアルクの手をそっと掴み、食堂へと誘っていく。


「行こう、アルク」

「うん」


 手を引かれ食堂へと行く。そこにはバトラーが控えており、テーブルにはハンバーグやステーキ、各種のフライなどといった御馳走や、そして大きなデコレーションが施されたケーキがあった。


「アルク様、十二歳の誕生日おめでとうございます」


 バトラーが恭しく頭を下げる。


「ありがとう皆」


 感極まって、アルクは掠れた声で皆にそう告げる。


「いいよ、気にしなくて。だって、オイラたち仲間だし」

「そうね。その代わり、あたし達の誕生日には三倍返しでお願いするけどね」

「楽しみにしてるにゃん」


 笑顔で仲間がそう迎えてくれる。


「羨ましいです。冒険者って野蛮ってイメージがあったけど、こうしてみるといいですね」

「ああ、それも彼らが優れたパーティーだからだろう、ラム殿」


 ラムやロゼも拍手をしながら、そう語りあう。


『それではアルクのバースデーパーティーを始めるとしようか。』


 ハルの言葉をきっかけに誕生日会が始まる。アルクは皆から様々な贈り物を受け取りながら、笑顔で愉しい時間を過ごしたのであった。




 賑やかな時間が過ぎ、その深夜。興奮が冷めたアルクはようやく眠りにつく。そして、祖父の待つあの空間にて目覚めた。


「おう、お前も十二歳か。おめでと。俺は永遠の二十三歳だけど、とりあえずお祝いの言葉だけは言っておくぜ」

「うん、ありがとうお祖父ちゃん」


 アルクはニヤリと笑うラッドに屈託なく答える


「まあ、でも十二なら夜中にパンツをこっそり洗っていてもおかしくない年齢だな。まあ、ハルやバトラ―には全部バレてるだろうが」

「やめてよ、感動が台無しになるじゃん」


 明け透けな祖父の言葉を必死に制止する。デリカシーのなさは承知していたが、自分の祝い事の後では、少しばかり自重して欲しいと思う。


「でも……」

「ん?」

「ああして自分を祝ってもらうと、僕もお返ししないとって、そう思った。皆に降りかかるかもしれない困難を、振り払えるぐらい強くなりたいって」


 その言葉にラッドは満面の笑みで応える。


「いいぜ、アルク。男の顔になってきたじゃねえか。これならハーレムルートも期待できるってもんだな」

「いや、それは今は別にどうでもいいけど」


 感動の余韻を台無しにしかねない台詞を吐くラッドに、アルクはそう答える。


「でも、さっき言った言葉は本当だよ。だから、もっと強くならないと。だから……」

「ああ、そうだな。そういうことならもっとビシバシいかねえとな」


 アルクが剣を構えるのを見て、ラッドも剣をアルクへと向ける。


「もっと強くなりたい。だから、これからもお願いね、お祖父ちゃん」

「ああっ、来いっ。あの子たちを守れるぐらい強く、お前を鍛えてやるよ」

「うんっ!」


 そうして、十二歳になったアルクは力強く頷く祖父に、全身全霊を込めて剣を振り下ろした。


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