依頼
「成る程、中々に豪快な御仁だねえ」
ギブソンがついに立ったまま寝息をたて、もたれ掛かるロゼを支えながらアランへと笑いかける。しかし、言葉に反し揶揄するような口調だ。ギブソンはビスキーにそのような評価をつけてはいないのだろう。
「副長は辣腕で知られています。軍からの招待所を携え、数年前にゼリカにやってきたばかりなんですが、あっという間に副長にまで上り詰めてますね。親しくしている冒険者は皆この街ではトップクラスの冒険者ですし、彼が声を掛ければ皆すぐに集い、瞬く間に難解なクエストも解決してしまうんですよ」
アランは苦笑いを浮かべながら、ビスキーの功績を説明する。しかし、どこか釈然としない様子であり、今しがたドブロたちが出ていった扉を浮かない顔で眺めていた。
「それっていいことじゃないですか」
「まあ、額面通りに受け取ればね。でも、アラン君の様子を見るに何か裏があるということじゃないかな」
首を傾げるパナシェに、ギブソンがそう指摘する。アルクはマップにて既にビスキーを敵と判定できているので、その指摘も素直に飲み込むことが出来た。しかし、パナシェ達はそうでないのか、互いの顔を見合わせて頭を悩ませている。
「クエストの解決数は上昇していますが、事件の発生件数も何故か増えているのです。副長にもそのことをお伝えしましたが、たまたまだ、こんな事もある、今は耐えろとしか。冒険者の方々に話を伺っても、副長と似たようなことを言われるだけでした」
「でも、アランさんはそうは思っていないんですよね?」
ビスキーは黒であるということを知らないアランも、何か腑に落ちないことがあるらしい。周囲に聞こえぬよう声を潜めながら、アルク達にそっと話す。アルクは更に詳しい話を聞くため、そこをつつくことにした。
「ええ、副長を疑うわけではないのですが、話に整合性が取れ過ぎているような気がして。ゼリカはアデルハイド帰りの冒険者が多く、質の高いギルドでしたが、ここ最近は副長を中心に少し慣れ合っている印象を受けています。もしかすると」
アランはそこまで言って口を閉ざす。更に尋ねるべきだろうか。悩んでいると、ギブソンがふむと顎に手をやり思案する。
「僕もこの業界は長いからね。似たようなケースを知ってるよ。とある街でギルドの一部の職員と有力冒険者グループが手を組み、未解決の事件も解決したことにして富と名声を荒稼ぎしたのさ」
「そんなことが出来るの⁉」
ライムが驚愕の声を上げる。確かに、そんなことをしてもすぐ足がつきそうなものであるが。
「うん、普通なら成功しない。ギルドか冒険者、どちらかでも正常に機能していればすぐにボロがでるからね。でも、その街の主犯者たちはそっち方面では才能があったんだろうね。他の街の者達はそれに気付かぬままに脅威は取り除かれていると思い込んだ。そして、大きな予兆を見逃し、魔物の集団暴走に巻き込まれほとんどが死傷するという結果になったわけさ」
「ですが、証拠はないですし、副長はああ見えて気さくでいい人ですから……」
アランは苦渋の表情を浮かべる。そして周囲にこの話が聞かれていないか、必死に周囲を探っている。確かにギルドの受付でするような話ではないだろう。副長の不正の話をしているとバレたらアランの立場もよろしくないことになってしまう。
「外面なんていくらでも取り繕えるだろ」
そんななかで、ラカンが素っ気なく言い放つ。ヨルカもその言葉に静かに頷いた。
「まあ、どうでもいい。俺のクエストは誘拐された依頼主の従妹の救出だ。このギルドの不正を暴くことじゃない」
「あっ、あのっ」
突き放すようなラカンの言葉。今までは黙ってアルクの後ろに隠れていたラムが、それを聞き、意を決したように前へと出る。
「私のお姉ちゃんも攫われたんです。お願いです、お姉ちゃんを助けてください。あなた、凄い冒険者なんですよね」
「助けられたガキか」
「はいっ、お願いします。お姉ちゃんをっ」
懇願するラムを長身からじっと見下ろすラカン。そのプレッシャーにラムはたじろぐが、すぐさま立ち直り、食いつくようにラカンにすがりつく。
「お願いですっ。私の依頼をどうかっ」
「駄目だ」
「⁉ どうしてっ」
拒否の言葉に声を掠らせ、ラムは涙を浮かべる。アルクもその冷淡な態度にラカンの顔を凝視する。ラカンは相変わらず口を真一文字に結び、感情をあまり外には出していなかったが、ラムを見下ろす瞳には思わぬほど真剣な色を浮かべていた。
「冒険者は依頼主の依頼が第一優先だ。クエストの途中で新たに依頼を受けるのは俺の主義じゃない」
「そんなっ! お金なら何とか用意します。もしお姉ちゃんを助けるなら体を売ってでも」
ラムは必死にそう訴えながらも、自分の言葉に恐れを抱いたのかブルっと体を震わせ、両手で肩を抱く。ヨルカがラムへと歩み寄り、その肩を優しく抱いた。
「大丈夫よ、あなたが体を売る必要なんてないわ」
「でも、私の依頼を受けてくれないって」
「ええ、私たちは二人だけのパーティーだし、基本指名依頼は一つって方針よ。でも、だからといってあなたのお姉ちゃんを見捨てようってわけじゃないわ」
「え?」
驚きに目を見開くラム。
「私たちの目的を果たそうとするなら、自ずとこの近辺を荒らしている盗賊団とやり合うことになるわ。依頼を受けることは出来ないけど、捕らえられている人たちは皆助け出す。きっとそこにあなたのお姉さんもいるはずよ。そういうことなんでしょ、ラカン」
ヨルカがそう言いながらラカンに笑いかける。ラカンは仏頂面を崩さずに口を開く。
「まあ、結果としてそうなるな」
「もう、あなたはもう少し考えて物を言いなさいよ。剣以外は本当にポンコツね」
ヨルカは呆れたようにジト目でラカンを睨み付ける。ラカンは少しばかり視線を彷徨わせると、そっぽを向くようにして背を向けてしまう。なかなかに素直でない性格のようだ。
「あはは、ラムさん良かったですねえ。こんな凄腕の人たちに依頼を受けてもらえて。ラカンさん達ならきっとお姉さんを救ってくれますよ」
アランがラムを慰めるように、陽気に励ます。ラムもほっとしたような表情で小さく笑いながら頷いた。張り詰め過ぎていて心配だったが、持ち直したらしい。アルクもほっと胸を撫でおろした。
「では、ラムさんは一度、ギルドの方で預かって、事情を聴いた後、しっかりとした実績の冒険者に村まで送ってもらうことにしましょう。ラムさんもそれでいいですね」
『アルク』
(うん、わかってるよハル)
ハルの言葉にアルクは頷く。あのビスキーが明確に赤を示した以上、盗賊団と接触したラムは害される恐れがあるということだ。ビスキーは冒険者とクエストを粉飾している疑惑があるとのことだが、それだけではない。盗賊団を捕縛したと聞いた瞬間に敵意を示したということは、そこともなにかつながりがあるのは間違いないだろう。
「皆さん、少しいいですか」
そこでアルクはそのことを皆に伝えることにした。視線が一気にアルクへと集まる。しかし、これから話すことは不正以上のスキャンダルとなる。ここでは流石にまずい。
「アランさん、静かに話せそうな場所はありますか」
「ここでは駄目なのかい」
「はい、ラムの命がかかってますから」
それを聞いて、皆の表情が一変する。ラムも息を呑んでこちらを見ていた。アランもアルクをじっと見据え、その真意を探ろうとしていたが、認めてくれたのか小さく微笑むと頷いた。
「二階に空き部屋が一つあるからそこを使おう。僕が時々仕事をさぼるときに使っているんだ。ばれないように監視用の魔術とかないかしっかり確認したから安全性も問題ないと思うよ」
そして、アルク達はアランに誘われ、二階の空き部屋へと向かった。




