ハルとバトラー4
アルク達がカシスと一緒に森を抜け出た夜。カシスの歓迎会を開き、夜遅くまでゲームに耽っていたアルク達は、今ぐっすりと夢の中の住人となっていた。そんな中、片付けを済ませたバトラーは談話室にて秘蔵の酒を出しながらグラスを傾けていた。
『いや、想像だにしなかったなあ。ライオネルに寿命が設定されていたとは』
「我々創世期のNPCは初期の設定にどうしても縛られてしまいますからねえ」
ハルの話を聞きながら、バトラーは手の中にある氷の入ったウイスキーのグラスを小さく揺する。バトラーとてハルという存在が無ければそのことを知ることは出来なかった。果たしてあの試練の獣はどのくらいまでこの世界のあらましを理解していたのだろうか。だが、そんなバトラーから見ても、ライオネルは悔いなく旅立ったように見えた。
「ライオネル様はとても満ち足りた様子で旅立たれていましたねえ」
『そうだな。彼もカイナと出会って大分変ったようだ。まさか、あのカイナとライオネルが出会い、そして今彼女の孫のカシスがアルクと出会うとは思わなんだ』
「人の縁というやつでしょうかねえ」
時と共に移ろいゆく人の縁。しかしアルクの祖父のラッドの結んだものはアルクに強い影響を与えている。今回のカシスやライオネル然り、かつてのパーティーメンバーであったミオの孫のライムの件でもそうであった。
『そこが世界の面白いところではあるな』
「ですねえ」
『アルクの夢に出てくるというラッドも、話を聞く限り今の状況を面白がっているだろうな』
「ラッド様なら絶対にアルク様の今の状況をからかっているでしょうねえ。なんだかんだいってもハーレムに憧れていた方でしたし」
『……そうだな』
バトラーは、かつてラッドが「暴力系ヒロインとかハルが言ってたけどど、ねえだろ。なんなんだよ、あいつ」と顔に痣を作りながら自分に泣きついてきたときのことを思い出した。ハルも同様なのか、暫く二人は言葉を発さず、沈黙が周囲を支配する。過去をしのぶ中で、バトラーは一つどうしても尋ねたかったことを、ハルに尋ねることにした。
『ハル様』
「ん、どうしたバトラー?」
『アルク様は聞き漏らしておりましたが、どうしてあのようなことを話されたのですか』
それはライオネルの消失後、カシスとアルクが話し合い、別れた後の話であった。アルクが聞きそびれたため、ハルは何事もなかったように振る舞ったが、バトラーは聞き漏らさなかった。
『あれかあ』
「はい」
『ライオネルをみていたら、彼が少し羨ましくなってしまってな。私はずっと見送ってきた、千年の間ずっと。だから、私という存在に終わりが来たのならば、アルクは私を笑って見送ってくれるだろうかと少しばかり思ったんだ』
「……そうですか」
ハルの気持ちはバトラーにも理解できた。不老不死の存在であるが故に、バトラーもあのライオネルの最後には少々羨望に似たものを覚えてしまった。しかし――
「だめですよぉ、ハル様。ハル様がいなくなってしまったら、オプションの私はどうすればいいのですか。私たちはポンコツ同士、末永くアルク様を、アユム様の血族を見守りましょう。いままでもずっとそうしてきたじゃないですか」
『……バトラー。ああ、そうだな』
ハルのその答えに、バトラーは満面の笑みで応える。ハルと共に、そうして千年の間過ごしてきたのだ。それ以外の生き方など考えられる筈がなかった。
「ですが、今回も少しばかり難儀しましたねえ」
『果たしてあれを少しばかりと言っていいのか……。まあ、流石に次はないだろう。無事国境を越えて、高速馬車でアデルハイドの王都まで一直線だ』
「ですねえ」
最初はただアデルハイドへと赴くだけと思われたこの旅。しかし、期せずして多くの難敵に遭遇する羽目となった。だが、流石に次は平穏無事な旅になるだろうというのが、ハルとバトラーの正直な思いだった。
『ああ、それとあと一つ言っておかないとな』
「なんですか、ハル様?」
『私はポンコツではないぞ、決してな』
「……気にされていたのですね」
気まずい沈黙の中、バトラーは手の中にあるグラスへと口をつける。次に訪れる街は自分の主人にいかなる冒険をもたらすのだろうかと、思案に暮れながら。




