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少年と剣  作者: 編理大河
帰らずの森と試練の獣
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66/109

課題


 ライオネルの試練を受けることとなったアルク達。それぞれ装備を取り出し準備を始める。しかし、

パナシェとライムは未だ浮かない顔をしている。


「本当にライオネルさんと戦うんだね」

「まあ、あそこまで頭を下げられたら、受けてあげたくはなるけど……。正直やり難いわね」


 アルク自身もライオネルの寿命を知っているため、完全には戦闘には乗り気ではない。しかし、ライオネルとカシスの真摯な懇願を断ることなどは出来なかった。幸いにして先ほどの戦闘は、ライオネルの寿命にはあまり影響しなかったらしいので、その点に関しては気安く試練には望めるが。


「準備は整ったであろうか」

「うん、大丈夫。皆準備は万端だと思う」


 振り返ると皆も、浮かない顔ながらもアルクに頷いて見せる。


「では、先程の取り決めについて改めて確認したい。この試練においては、剣殿の権能、およびカシスの並行魔法は禁止とする。よろしいか」

『ああ、大丈夫だ。試練で体を壊しても元も子もないからな』


 ライオネルの言葉にハルが応える。アルクも病み上がりである以上、あまり権能での酷使は避けたかったため、その申し出を了承した。ライオネルは大地を踏みならすと、アルク達へと対峙する。


「では、我の試練を始めようとおもうが大丈夫か」

『大丈夫だ、問題ない。なあ、アルク』

「うん。行くよっ皆」


 仲間達へと視線を向け、アルクはライオネルへとハルを構える。ライオネルはそんなアルク達をじっと見、そして厳かに口を開く。


「では、まずは我の口上を述べさせてもらうか。すまない、仕様というやつでな。……よく来た、冒険者たちよ。我は試練の獣ライオネル。世界を冒険せんと志すのであれば、まず我を乗り越えて見せよ」


 それは夢で見たのとまったく同じこあの台詞。口上を述べ終わったライオネルは、力強く咆哮を放つ。その威圧感に、背後のパナシェが小さく声を上げるのがわかった。仲間を守るべく、アルクは一歩前へと踏み出す。


「参るッ」


 ライオネルはその巨躯を屈ませると、次の瞬間弾けるように真っすぐと突進してくる。


「アイスランスッ」


 後方に待機したカシスが瞬時に氷の槍をライオネルへと放つ。


「オオッ!」


 ライオネルは最小の動きで、勢いを殺すことなくそれを避ける。僅かに掠めたのか、体毛が舞い淡い青の光となって四散する。


『アルクッ』

「うんっ、皆いくよっ」


 先陣を切ろうと更に前へと出るアルク。眼前に迫るライオネルへと向かって、ナイフと不可視の風弾が放たれる。


「何のッ!」


 ライオネルは今度はそれを避けることすらせず、アルクへと襲い掛かる。その巨大な前腕から鋭い爪の一撃を放つ。あのガーフすら吹き飛ばす程の速度で繰り出される爪撃。一瞬、アルクの胸裏にその攻撃を受け止められるかという疑問が沸き上がる。だが――


「出来るッ! おおぉ」


 アルクはその巨大な爪の無防備に開けられた一面に注視する。そこに自分の持つ白銀の刀身を合わせる。一瞬にして全身を襲う絶大な圧力。


「おおおおおおおおっ」


 夢で何度も繰り返したあの感覚を必死で思い出す。腕だけではいなし切れないと咄嗟に判断したアルクは、その全身を駒のように回転させ、強大な一撃の威力を受け流した。背中越しにライオネルの爪が通り過ぎていく。


「あああああああああああっ」

「何とっ!」


 アルクに一撃を受け流されたライオネルは驚愕の声を上げる。


「だがっ!」


 もう片方の爪が再びアルクへと襲い掛かる。いまだ体勢を立て直せないアルクは前へと勢いのまま飛び込み、ごろんと身体を一回転させその攻撃を受け流す。


「やるなっ⁉」


懐へと飛び来むことが出来たアルクは、ライオネルの胴へと横なぎの一撃を加える。その巨躯を揺らしながら、ライオネルはアルクの斬撃を薄皮一枚で避ける。それは巨体であるにも関わらず、恐るべき俊敏性といえた。


「惜しいっ! だが、ここまでだ」


 ライオネルは宣言と共にアルクを見下ろす。


「あっ、アルクっ」


 慌てたパナシェが、後方から必死に駆け寄ってくる。ライムとカシスも遠くより、ナイフや魔法を放ってくれた。しかし――


「がああああああ」


 その攻撃を避けることなく再び咆哮を放つと、眼下にいるアルクへと勢いよく両椀を何度も叩きつけてきた。最初の数発を必死で避けるも、そのうちの一つがアルクを捕える。


「があっ」

「終わりだっ」


 そこから先はあまり覚えていなかった。何度か体に衝撃を受け体が宙を舞うのを感じると、アルクは意識を失ってしまった。




 目覚めたアルクは自分を介抱するパナシェから敗北を告げられた。あの後、アルクを失った仲間たちは為すすべなく各個撃破されたとのことだった。パナシェの加護により体を癒したアルクは体を起こす。


「ふむ、その幼さにしてその技量、覚悟。生中ではないということは解った。だが、足りぬ。個人の技量だけで乗り越えようとするというのは拙さの証明。今一度、人が仲間と共に歩んでいくその意味を考えてみるといい。……アルク殿、願わくば我をあまり失望させないでほしいな。答えが解ったのなら再び我へと挑むがよい。我はいつでもここにいる」


 再び木の下へと佇んでいたライオネルが、アルクへとそう告げる。


「負けちゃったね。アルクはライオネルさんの攻撃を防いだり凄かったけど」

「……うん」

 

 パナシェが慰めるようにアルクにそうは話しかける。いまだ敗北の実感は湧かない。しかしまた届かなかったという事実が、アルクをどんよりとした気分にさせていた。


「まあ、これは試練だからいくらでも負けれるにゃん。気を落とさず作戦会議といこうにゃん」


 カシスはアルク達に提案する。ライオネルも頷くと、アルク達にそう促す。


「暫し仲間と足りぬものを語り合うとよいだろう。アルク殿のパーティーは技量的には問題はないと言える。それが解ればより一層よいパーティーになるだろう」


 ライオネルはそう言うと、目を閉じ眠りへとつく。


「ふう、強いわねえ。まあ、ここで落ち込んでても仕方ないし、一度カシスの家に戻りましょうよ」


 ライムが皆を促し、アルク達はカシスの家へと戻った。




 コテージへと戻り、アルク達は昼食を取りつつ、先程の戦いを振り返っていた。


「成る程、ライオネル様が初っ端にアルク様を潰され、その後は何も出来なかったというわけですか」

『ああ、普段なら手心を加えてくれるのが彼だったのだが、今回は何故かガチのようだ。まあライオネルは倒し切るという存在ではないが、流石に強いな』


 給仕をしながらアルク達の話を聞いていたバトラーが感嘆の声を上げる。ハルもそんなバトラーに先ほどの戦闘の内容を説明していた。ちなみに今回の食事の内容はカレーライスで、初めてそれを食べたカシスは大喜びで、今もおかわりのカレーライスを必死に貪っている。


「でも、足りないものが多すぎる。いま一生懸命修行してるけど、あの攻撃は何度も防げないし」


 小さなアルクには、体力的な限界がある。技量でしのぐといっても限度があるということを今回もまた思い知らされた。そんな中、パナシェがおずおずと話しに入ってきた。


「やっぱし、オイラが足を引っ張ってるよね」


 申し訳なさそうに項垂れているパナシェ。確かに間接的な攻撃手段を持たないパナシェは、今回殆ど戦闘には参加していなかった。普段もサブアタッカー兼回復役としてアルクの後ろに待機しているパナシェだが、今回は短時間で戦闘が終わったため活躍の機会は皆無だったといっていい。


「いやっ、そんなことはないよ」

「そうよパナシェ。回復役って、冒険者間ではそれだけで貴重なのよ」

「そ、そうかな」


 アルクやライムの励ましにも、あまり納得できない様子だ。そんな中、いまだカレーを食べているカシスが、スプーンを手に口を開く。


「でも、パナシェは唯の回復役じゃないにゃん。謎の怪力パワーがあるにゃん」

「カシス……」

「なのになんでいっつも後ろのに回ってるにゃん? そのせいでエースとしてのアルクの負担が重くなっているにゃんよ」

「それは、パナシェはあんまし戦いが得意じゃないから……」


 パナシェを擁護せんと、アルクはパナシェのことを説明する。しかし、その途中でパナシェがアルクの言葉を遮る。


「ううん、いいよアルク。最近の戦いで解ってた。ちょっと強そうな相手だといつも少し引いちゃって、そのせいでアルクに負担をかけてたもんね。あのライオネルさんの攻撃も、たぶんオイラの腕力なら防げてたと思うんだ」

「パナシェ」

「オイラも仲間の役に立ちたい。そのためにはもう少し前へと出ないといけないと思うんだ。……だから、次のライオネルさんとの戦い、オイラが先頭に立つよ」


 覚悟を決めた表情で、アルクを真っ直ぐ見据えるパナシェ。そんな中、ハルが口を開く。


『うむ、皆言わずとも課題は解っていたのだな。もし今の発言が無ければ私が提案しようとは思っていたが。とはいえ、ぶっつけ本番というのもアレだからな。数日間は訓練に当てるといいだろう。バーチャルにて個別訓練というのも悪くはないな』

「うんっ、頑張るっ」


 パナシェがそう言って意気込む。


『なら、昼食後に早速始めようか。……アルク、一人で何もかもしようとするのではなく、仲間を信じ、頼るのも冒険者としての重要な資質だ。ライオネルはこのことも伝えたかったのかもしれないな』

「……うん、そうだね」


 戦闘の話題でライムやカシスとやんやと盛り上がっているパナシェ。それを見て、確かに自分は何でも一人でしようとし過ぎていたかもしれないと、アルクは思った。知らぬ間に焦っていたのであろうか。


『今回の戦いは焦る必要など微塵もない。相手は誇り高き試練の獣だ。存分に胸を借りればいい』

 

 ハルの優し気なその言葉に、アルクはただ静かに頷いた。


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