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少年と剣  作者: 編理大河
帰らずの森と試練の獣
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蜂蜜を求めて


 物陰に身を潜めたアルク達の目の前を蜜蜂が飛んでいた。だが、それは普通の蜜蜂などではなく、体内に魔石を宿したれっきとした魔物である。故にその大きさも尋常でなく、目の前の琥珀蜜蜂は犬程の大きさもある。その黄色い機能的なフォルムやブブブと永続的に響く羽音に、アルクは思わず手にした剣の柄に力を込めてしまう。


「そんな緊張しなくても大丈夫にゃん。琥珀蜜蜂は極めて臆病な生き物にゃん。こちらから接近しないかぎりはそうそう襲ってくることもないにゃん」

『カシスの言うとおりだ。あれは蜂の中では肉すら喰らわぬ種だからな。花の蜜だけ集め、ただひたすらに自分の家族を守ろうとしているだけなんだ。彼らからしてみれば、我々こそが蜜欲しさに襲ってくる悪者というわけだな』

「……なんかそう言われると襲いにくくなっちゃうね」

「アルク、これは悲しいけどこの世の摂理にゃん。そして蜂蜜はいかなる場合も甘美にゃんよ」


 野から糧を得るというのは得てしてそういうものということは理解しているアルクは、カシスの言葉に黙って頷く。そうしている内に、パトロールを終えた蜂はのんびりと宙を飛びながら森の奥へと消えていった。アルクは希少種のいる巣の場所を探すため、ハルに尋ねる。


「それで希少種ってのはどこにいるの?」

『琥珀蜂の希少種は単純に巨大化する。故に希少種の住まう巣も他の物に比べて巨大となるんだ。だから純粋に目視でそれらしい巣を探せばいい』

「わかったよ。マップでそれらしい場所を虱潰しに探せばいいんだね」


 アルクはマップでそれらしい場所に目ぼしをつける。琥珀蜜蜂は密集しているため、大きな塊の反応となっていて、巣は非常にわかりやすい。そして、アルク達は森の中を希少種の巣を探して歩いた。琥珀蜜蜂はこちらを見つけると警戒行動をとるが、そっと離れるとそれ以上追ってくるということはなかった。そうしてライムが琥珀蜜蜂の巣を発見し、それを指さす。。


「あっ、アルク。あれじゃないの」

「本当だ。巣があるね」


 パナシェも額に手を当て、木に大きくぶら下がっている巣を眺める。それは大きく、地面につきそうなほどの大きさだ。


「あれがそうなの?」

「う~ん、残念ながら違うにゃんねえ。あれは通常の琥珀蜜蜂の巣にゃん」

「あれで……」


 今でもくりぬけばアルク達全員が入れてしまう程の大きさだ。希少種の巣というものはこれよりももっと大きらしい。その規模を想像し、アルクは息を呑む。


「あっ、アルク。蜂さん達こっちに気付いたみたいだよ」


 パナシェの警告にマップを見る。反応が黄色となり、周囲の蜂も集まってきている。アルク達は速やかにその場を後にした。そうしながら何個かの巣を発見しながら森を探検していると、次に発見したのは一際デカい巣であった。いや、デカいなどというものでは無い。それは一つの大木のうろを中心として木全体が巣として作り替えられていた。尋ねるまでもなく、希少種の巣であろう。


「ビンゴにゃん」

『ほう、これはまた立派な巣だな』

「じゃあ、あれをやっつけようか。皆、準備は」


 アルクが視線を向けると、皆が獲物を手に頷いた。アルクは段取り通り、アイテムボックスから炎の魔石や松明を取り出し着火。燃えて、もうもうと煙を出し始めたそれを巣の手前へと放り投げる。煙が巣へと覆いかぶさると、けたたましい羽音とともに無数の蜂たちが飛び出してきた。


「さて、いきますか」


 ライムが腰のベルトからナイフと取り出し、蜂へと投擲する。するどく一直線に放たれたナイフは見事にその胴に突き刺さるかに見えた。しかし、蜂は空中でその体を器用にくねらせると、投擲されたナイフを回避する。


「なっ」

『彼らの機動性は高いぞ。空中でホバリングしながら敵へ向かって急加速し襲ってくる。要注意だ。今ので完全に戦闘態勢に移行している。気を付けろ』


 複数の蜂が凄まじい勢いでこちらへと向かってくる。アルクはサンダーボルトで迎撃ししようとするが、それより先にカシスが魔法を放った。


「まかせるにゃん。ウインドブロウ」


 ワンドを突き出すと、不可視の風が圧縮され打ち出される。その威力は凄まじく、凄まじい速さで撃たれたそれを被弾した蜂は、その手足や関節をバラバラにしながら地へと墜落する。


「まだまだいくにゃんよー。ストーンブラスト、アイスランス」


 異なる属性の魔法を、ほぼノータイムで連射していくカシス。蜂の群れはその魔法に撃たれ、一匹また一匹と命を落としていく。


「凄いっ、あんな間発入れずに。それでよくマナを練れるなあ」

『ああ、命中精度も大したものだ。流石は紅蓮のカイナの孫娘といったところか。だが撃ち漏らした奴もいるぞ、アルク』

「うんっ」


 生き残った蜂がアルク達へと襲い掛かる。アルクは襲い掛かってきた蜂に向かって、斬りかかるが。しかし蜂は空中で急停止したと思うと、くるりと空中を一回転しながらすばやく躱されてしまう。追撃しようとするも、大きく距離を取られ、届かぬ場所へと逃げてしまった。


「やあっ」


 アルクは視界の横で、同様に蜂に苦戦しているパナシェの姿と捉える。ぶんぶんと、扇風機のようにスコップを振り回すも、それが蜂を捉えることはない。その蜂はパナシェがやりやすいと感じたのか密着して離れなる気配がなかった。そこでアルクはひとつのことを思いつく。


「このおっ」


 パナシェがスコップを振りかぶり、蜂に向かって攻撃を繰り出す。その大振りの一撃を反対方向に飛翔し躱す蜂。


「ここだっ」


 その進行方向に飛び出したアルクは、蜂の胴を薙いだ。流石に二回も急旋回を行えなかったのか、蜂はその一撃を回避することは出来ず、胴を分かたれ地へ落ちる。頭と胴はそれぞれ、悶え動いているが最早戦闘能力は皆無と言ってよかった。


「アルク、ありがとう」

「こいつらすばしっこいから、この手で行こう。敵の進行先を予測するんだ」

「うんっ」

「カシスはまだ魔法は撃てる?」

「余裕にゃん」

「ライムも援護して」

「任せて」


 一人では捉えがたい蜂も、追い込んでいけば討ち取ることは可能であった。カシスが魔法を放ち、それから逃れた蜂たちがアルク達を襲うが、アルクとパナシェが迎え撃ち、連携してそれを討ち取っていった。たまらず距離を取ろうとした蜂は、その軌道を読んだライムの投擲したナイフで撃ち落とされる。暫くして、その殆どを討ち取ったと思ったとき、空気を震わすほどの大きな羽音がアルク達の鼓膜を襲う。


「うわっ、何だっ」

「アルクっ、あそこよっ!」


 ライムが指さす方を見ると、木と一体化した巣のてっぺんから、ひときわ大きな蜂が姿を現した。今までの琥珀蜜蜂が犬程の大きさなら、女王は馬程がある。


『アルクッ、希少種の女王だ! 心して行けよ』


 ハルが警鐘を鳴らす。女王蜂はアルク達に向かって一直線に飛び掛かってきた。その巨体からは想像できぬスピードで襲い掛かる女王蜂。


「ウインドブロウ」


 カシスが女王蜂に魔法を放つ。しかし、女王蜂はその攻撃に反応し体を横にずらし回避する。その勢いを殺さず、女王蜂はパナシェへと襲い掛かった。その勢いに身を竦ませるパナシェ。


「おおおっ」


 アルクはパナシェの前へと躍り出ると、女王蜂に斬りかかった。しかし、急停止しそれを回避した女王蜂は体を捻らせ、その尾でアルクを強く打ちつける。


「ぐわあっ」


 衝撃とともに吹っ飛ぶアルク。背中を地へと打ち付け、一瞬呼吸が止まる。


「かはっ」

『アルク、大丈夫かっ。次が来るぞ。すぐ体勢を立て直すんだ』


 歯を食いしばり、体を跳ね起こす。追撃しようとした女王蜂はライムが短刀を振り回し、カシスが魔法を連発することでなんとか追い払っていた。


「大丈夫、アルク。ごめんね、オイラのせいで」


 駆け寄ってきたパナシェが加護で、アルクの身体を癒す。嘘のように痛みが消えていく。


『どうする。オーバーブレイクを使用するか』

「うーん、それもいいけど」


 確かに手ごわいがそれ程の難敵ではない気がする。それにあれは後遺症もあるので、使わずにすむならそれに越したことはない。基本的には琥珀蜜蜂と変わらないのだから、倒し方も同様でいい筈だ。アルクは腹を決めると、皆に向かって指示を出す。


「皆ッ、あの女王蜂を巣に追い込んで。そうしたら後は僕がやるっ!」


 三人はその声にアルクを見るが、すぐさま頷くと女王蜂に向き直る。空中を飛び回っていた女王蜂は敵を排除しようとじっとこちらを見据えていた。


「やあっ」


 ライムが気合の声と共に、ナイフを投擲する。再び攻撃された女王蜂はアルク達へと再び襲い掛かる。そこにカシスが魔法を放つ。女王蜂はそれも巧みに回避する。ライムとカシスは負けじとナイフと魔法を放つが、凄まじい機動性でそれも躱していく。しかし、流石に攻撃は諦め後退する女王蜂。そこには琥珀蜜蜂の巣があった。


「いくよ、パナシェ」

「うん」


 アルクはパナシェと顔を見合わせると、挟み込むように女王蜂へと向かっていく。襲い掛かる二人の敵を認めた女王蜂は、一瞬その動きを停止する。背後に木があるため、頭上へとへと逃れようとする。


「いっけえぇ」


 アルクは逃さないとばかりにサンダーボルトを放つ。巣を傷つけないように配慮しながらの牽制のための一撃であったため、狙いは逸れ、何もない地面を焦がすにとどまった。だが、アルクにとっては充分な成果だ。動きを止めた女王蜂との距離は僅か。アルクは強く地を蹴り加速すると女王蜂に飛び掛かる。


「終わりだぁああ」


 逆手に持った白銀の刀身が頭部に突き刺さる。ビクンと震えながらも、いまだ生命活動を止めない女王蜂。アルクは再度マナを練り上げると、刀身にそれを流し込む。


「ごめんね。スタンボルトッ」


 巣へと逃げ込まなかったのは、家族を心配してのことだったのだろう。そう思うと、この女王蜂が気高く思え、アルクは自然と謝っていた。そして剣を通して、電流が女王蜂を焼く。焦げ臭い煙が立ちあがり、その巨体がどうっと倒れ伏した。ふうっと、アルクは大きく息を吐く。


『終わったな。オーバーブレイクなしでここまで出来るとはやるじゃないか。大分強くなったな』

「まあ、毎日ハルに鍛えられてるからね」


 笑いながら、仲間達を見る。アルクと同じように笑いながら駆け寄ってくる中、カシスがひときわ大きな声で叫ぶと、元気いっぱいにジャンプした。


「やったにゃん。これで蜂蜜ゲットだにゃん」



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