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少年と剣  作者: 編理大河
帰らずの森と試練の獣
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魔女の孫


 姿を見せない相手からの魔法を警戒し、アルク達はすぐそばの木の後ろへと退避する。マップの反応は依然として黄色だ。先ほどの一撃は牽制の意味もあったのだろう。そんな中、アルクはハルへと指示を仰ぐ。


「どうしよう、ハル。あの魔女さんと知り合いでしょ」

『まあ、確かに。だが、声がすこし違う気がする。カイナはもっとハスキーボイスだったな。アルク、彼女に君が雷鳴のラッドの孫ということを呼び掛けてくれ。もし彼女が本物なら、面識はあるのだから攻撃は辞めてくれるはずだ』


 アルクは頷くと、木に身を隠しながら魔女へと大声で話しかける。


「僕は雷鳴のラッドの孫です。あなたが紅蓮の魔女ならこの名を知っている筈! 僕たちは唯友人に会いに来ただけです。攻撃するのを辞めて欲しい」


 暫しの静寂が訪れる。その後、ひそひそと話し始める声が森に響く。しかし、しんと静まり返る森の中のため丸聞こえであったが。


「ねえ、お姉ちゃん。雷鳴のラッドって何?」

「友人ってライオンのおいたんのことぉ」

「うーん。一応お祖母ちゃんやおじちゃんから聞いたことはあるにゃん。結界に反応があったから来てみたけど相手は子供だし、それほど危険はなさそうにゃん」


 まだ幼いだろう子供の声だ。しばらくごにょごにょと話し合った後、木々の間からふらりとその姿を現す。一番前に現れた人物はまだアルク達より幼いだろう背の低い少女だ。真紅のローブを着、紫紺の髪を肩口まで伸ばしている。その手には美しい装飾が施されたワンドが握られており、いまだアルク達へと向けられていた。そして、何よりも目立っているのがその頭部からぴょこんと突き出た猫耳だ。その小さな腰からはふさふさなしっぽが揺れている。

 その背後の二人は一層幼く、鮮やかな緑色の服を纏っている。少女に隠れるように、その背後からおずおずとこちらを見ていた。


「とりあえず出てくるといいにゃん。もう魔法は撃たないにゃん」


 少女の言葉にアルクは後ろの二人を振り返る。二人も相手の顔が見えたことで緊張が解けたのか、笑顔で頷く。


「悪い子たちじゃなさそうだね」

「相手も出てきてくれたんだから、こっちも行きましょう」

『あの獣人の少女にも、もう敵意はないな。マップの反応も問題ない。あの少女にも彼女の面影があるな。娘というには幼いし、孫かな』


 アルク達も少女たちに姿をさらす。アルク達の姿をみた少女たちも、その姿に安心した様子だ。獣人の少女も構えたワンドを下ろす。


「まだ子供にゃんね。これなら危険はなさそうにゃん」


 その言葉にライムが苦笑しつつも、獣人の少女を窘める。


「少なくともあんた達より年上だと思うけど。年長者には敬意を払いなさい」

「カシスはこう見えて12歳にゃん。あなた達はどうにゃん?」


 カシスと名乗った少女は、アルク達に齢を尋ねてくる。


「嘘、そんなちっこいのにタメなの?」

「カシスは大器晩成型にゃん。将来はお祖母ちゃんみたいにボンキュッボンってなる予定にゃん。で、誕生日はいつにゃん?」

「う、あたしは5月12日だけど」

「じゃあ、カシスがお姉ちゃんにゃんねえ。4月7日が誕生日だにゃん。そっちのボーイとガールはどうにゃん?」


 カシスは続けて、アルクに年齢を尋ねる。


「僕は8月22日だけど」

「オイラ、記憶がないから本当の誕生日は解らないけど、拾われた1月10日が誕生日ってことになってるよ」


 それを聞いたカシスはどやっと満面の笑みを浮かべる。


「じゃあ、カシスが一番お姉ちゃんだにゃん。存分に敬うといいにゃん」

「ぐぬぬ」


 思わぬ墓穴を掘ったライムが歯ぎしりをする。


『これは一本取られたな』

「お、そっちの喋る魔剣さんがハルさんにゃんね」

「ハルのことも知ってるの?」

「お祖母ちゃんから昔話で聞いたにゃん。お祖母ちゃんの身体を嘗め回すように眺めて、幼馴染の女性から殴られていた雷鳴のラッドと、すごい性能を持っているのに頭はよくない魔剣のハルさんの話は、カシスの笑えるお気に入りの話の一つだったにゃん」

『ぐぬぬ』

「お祖父ちゃん、お祖母ちゃん……」


 祖父と祖母の関係がどういうものなのか,大体理解しつつあるアルクであった。そして、悔しがるハルをアルクは宥めつつ、カシスに改めて自己紹介をする。


「僕はアルク。ハルや皆と一緒にアデルハイドを目指して旅をしてるんだ」

「オイラはパナシェだよ。よろしくね」

「ライムよ」


 カシスも自己紹介を返す。


「カシスだにゃん。紅蓮の魔女カイナはカシスのお祖母ちゃんだにゃん。こっちの二人は森の妖精のビオとカヤだにゃん」

「よろしくー」「なのー」


 カシスに紹介されたビオとカヤは、ちょこんと頭を下げる。その雰囲気はどことなくバトラーに似ているな、とアルクは思った。


『ふむ、森の妖精族か。前回訪れたときはいなかったが』


 ハルが小さく呟く。


「アルク達はおじちゃんに会いに来たって訳にゃんね」

「おじちゃんって?」

「おじちゃんはおじちゃんにゃん。前回もラッドさんが試練を受けに来たって話は聞いてるにゃん」

『ああ、アルク。カシスの言っている人物が私の会わせたかった人物だ』

「でも、試練って? あの獣と関係があるの?」

『まあ、会えばわかるさ。カシス、彼と会いたいのだがいいだろうか』

「別にいいにゃんよ」


 カシスはその申し出を了承する。


「ハルさんのことはおじさんから聞いてるにゃん。凄い昔からの友達で、よく所有者を連れてきてくれるって」

『そうか、彼がそんなことを。まあ、昔と違って今はここを訪れるものも少なくなってしまったからな。それに外ではよくない噂が広がっているようだ』

「それについては一応理由があるんにゃけど」

『そうなのか。君のお婆さんや妖精たちとも関係あることなのか。そうだ、カシス。君のお婆さんは今どうしてるんだ』

「死んだにゃん。三年前に病気で。若い頃無理したせいで慢性的なマナ欠乏症も患ってたのもよくなかったにゃん」

『そうか……。すまない、辛いことを聞いてしまったな』


 申し訳なさそうにカシスに謝るハル。


「別にいいにゃん。人間死ぬときは死ぬにゃん。最後まで外見はぴちぴちつやつやで、穏やかに亡くなったし、いい最後だって本人も言ってたにゃん」


 朗らかに笑うカシス。アルクはふとカシスという少女が、ここでどう生活しているかが気になった。


「カシスはこの森で誰かと住んでるの?」

「うん。カシスはおじちゃんと森の妖精さん達と暮らしているにゃん。だから寂しくないにゃんよ。それじゃ、おじちゃんの場所まで案内するにゃんね」


 アルク達はカシスの案内で、ハルの友人がいる場所まで案内してもらうことになった。この周囲の森は所々開けており、陽光が差し込んでいる。木々の間を、光と影のコントラストが彩り、明るい雰囲気を醸し出していた。


「ここらへんは明るいね」

『ああ、森の妖精が生活しているためかもな。木々を切り、それを活用しているのだろう。そうして手を加えられた山というのはこういう雰囲気となるんだ。一切手の入っていない原生の森はただひたすらに暗いからな』

「そうなんだ」


 暫く歩くと前方に建造物らしきものが見えてくる。目を凝らすと、それは石で作られた祭壇であった。しかし、それは派手に壊れており、所々にその破片が散逸していた。


『酷いな。前来たときは壊れていなかったはずだ。何があった』

「まあ、色々あったにゃん。この先におじちゃんがいるにゃん」


 祭壇を通り越し、柱らしきものの間を通り抜ける。すると一際大きな空間へと出る。そして目の前の光景に一様に驚きの声を上げた。


「アルクッ、あれっ」

「大丈夫なのっ」

「敵ではないみたいだけど」


その中央にそれはいた。金色の鬣を持ち、人の家程もある巨体を優雅に寝そべらせている。その姿は絵本でみた獅子とそっくりだ。頭上には小鳥が何匹も止まり、楽しそうに囀っていた。獅子はアルク達の姿を認めると頭をゆっくりと起こす。小鳥たちが空へと羽ばたいていく。


「おじちゃん、結界に反応があったから少し見てきたにゃん。なんとっ! お友達を連れてきたにゃん」

「ああ、カシス。あんまり危ないことはしないでくれ。カシスに何かあったら我はカイナ殿に顔向けできない」


 その巨大な獅子が優しい声でカシスに語り掛ける。そうして目の前の光景に呆然としているアルク達の方へと顔を向けた。力強い瞳で三人を眺めると、その視線がアルクの腕輪へと向けられる。獅子はゆっくりと口を開いた。


「剣殿か。久しいな。また新たな所有者殿を連れてこられたのだな」



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