ハルとバトラー3
アルク達がレーヌを旅立った日の夜。
アルク達が寝静まるとバトラーは食堂にて一人静かに杯を傾ける。以前、アルク達からもらったウッドカッターの幼虫の醤油バター炒めがつまみであった。口の中に放り込むと、とろりとした食感にバター醤油がよく合っている。チェイスからお薦めされ貰ったレーヌの地酒の癖のある風味にも丁度いい感じに合う。一人でしみじみと飲んでいると、ハルがバトラーへと語り掛けてきた。
『お、それ食べてるのか、バトラー。美味いのか?』
「ええ、美味しいですよ。是非、と言いたいところですが、ハル様はお食事ができませんから残念ですね」
『そうだなあ。まあ、私は剣だから。飢えることもないというのはいいが、少しばかり食事がどういうものなのかは興味があるなあ。まあそれはそれとして、また新しい仲間が増えたな』
「ですねえ。しかもミオ様のお孫さんとは感慨深いものがあります」
かつて、自分たちと共に冒険をしていた少女。当時は文字すら読めず、すぐに癇癪を起したりと、ラッドが迎えた仲間の中では一番手を焼いた人物であった。それが、長い年月を経て再開したときには目を見張るほどの一角の人物となっていたのである。
「ミオ様は一番努力されてましたからねえ」
『ああ、大層頑張り屋だったな。なあ、バトラー。君は彼女がミオであるということに気付いてたか?』
「……いえ、私も名乗られるまでは、気付きませんでしたよ。……当然」
『だよなあ。普通分からないよなあ』
ハルの悩まし気な声に、バトラーはただ黙って幼虫を口に放り込み、酒を口中に流し込む。
『まあ、なんにせよ、ユーリカ村を出てから三か月程で既に二人とは中々だな』
「しかも二人共見目麗しいお嬢様ですからねえ。これからが楽しみです」
『ああ、それに能力も申し分ない。仲間はアデルハイドでと思っていたが、あの二人なら問題ないな』
「この分だと、旅の道中でまた加わるかもしれませんね」
『うーん、どうだろうなあ。ここから先はあの森を抜けて、そしてすぐ国境だ。新しい出会いもそうはないと思うが』
「でも意外とそういうときに、思わぬ出会いがありますからねえ。アルク様は色々なフラグを立てるのがお得意な様ですし」
当初の予定として、アデルハイドまでの道筋は、大したことも起こらぬ安全で単調な旅路となるはずであった。しかしアルクはメレン、レーヌの二つの街で事件と遭遇し、その解決と共に二人の少女を仲間にしたのだ。
「ハル様。私の勘ですけど、アルク様はハーレム体質ですよ。きっと、次に仲間になるお方も可愛らしい女性のような気がします」
『そうかあ。まあ、あれはあれで賑やかなんだが、一度修羅場になるとなあ』
「ですねえ。刺激的すぎて、我々の胃も痛くなってしますからねえ」
『まあ、私に胃はないがな。剣だから』
ハルとバトラーはかつてのハーレムパーティーのことを思い浮かべて、うんざりとした気分となる。何事も過ぎたるは及ばざるが如しというが、ハーレムもまた例外ではないのだ。
『まあ、アルクは素直でいい子だから大丈夫だろう、たぶん。パナシェやライムもいい子だしな。それに何といっても、まだあの子たちは子供だ。こういう問題は随分後になってからのことだろう』
「まあ、確かにそうですねえ。それはそうとして、また以前のようにここが賑わってくれると楽しいでしょうね」
メレンでもグレナディン一家との酒盛りはかつての賑わいを思わせた。チェイスのアプローチには参ったが、それでも思い出すと自然とバトラーの顔にも笑みが浮かんでくる。
『そうだな。まあいずれそうなるさ。アルクが冒険者として生きていくのであればな。定命なき我々からしたら、それはあっという間の出来事だろう。だからこそ、気長に待とうじゃないか。それもまた楽しみの一つだ』
「ええ」
ハルの言葉にバトラーは頷く。今の幼いアルクに仕えることが出来るのも今だけなのだ。確かに出会った当初よりも少し背が伸びている。すぐに自分を見下ろすぐらいに成長することだろう。だからこそ、今のアルクも忘れないため全力でお仕えしていかねばならない。何故なら、いずれ自分たちはまた、他の所有者と同じくアルクも見送らなくてはならないのだから。そのことに思い至ると、とたんに胸が締め付けられ、バトラーは手にした酒を飲み下した。




