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少年と剣  作者: 編理大河
義賊の街
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家族


「貴様らっ、領主の息子の私にこんな狼藉していいと思っているのか」


 アルク達やグレナディン一家、キジョウにミズハ、フランといった面々に囲まれ、ドランは怯えた様子を見せながらもそう喚き散らす。その隣にはラチャオも転がされていた。ドランはロックに殴られた後、顎の骨が砕けていたためにまともに喋れず、嫌々ながらもパナシェが加護によってそれを癒していた。この事件の全貌を知り、皆がこの道化じみた男達のことを呆れた目で見ている。そんな中、ライムは一際険しい表情で二人を見ていた。アルクもこの街で起こった困難が、全てドランという男の妄執によるお目出度い行動によって引き起こされていたということを知り、強い徒労感を覚える。


「で、こいつをどうするんですか、キジョウの叔父貴」」


 戦闘を終え、疲労困憊な様子のロックがキジョウにそう問いかける。


「うーん、曲がりなりにも麻薬製造に携わったのだから、平民であれば極刑なんだがなあ」

「ひぃ、ば、馬鹿をいうなっ、貴族の私が極刑など。そうだっ、全部そこの男が謀ったんだ。私は騙されただけなのだ」


 極刑の響きにドランは怯えたように、身を捩らせ、ラチャオに罪を着せようと叫ぶ。


「はあっ、ふざけるなっ。全部テメエの提案だろう。畜生、こんな杜撰すぎる計画に乗っちまうなんて……。俺はただ天使たちの楽園を作りたかっただけなのに」


 ラチャオはドランを詰りながら、己の境遇を嘆く。そんな両者を冷たい瞳で見下しながら、ライムが吐き捨てる。


「でも、こいつら麻薬の他にもロリコンという罪があるわ。こいつらのせいでどれだけの無垢な子供が傷ついたか。極刑でも温いわ」


 しかし、その言葉を聞いた瞬間ドランとラチャオはその瞳から怯えの色を消し、己の中の魂を絞りだすかのように絶叫した。


「はあっっっ! ふざけるなっ、何故俺が天使を傷つけるんだッ。俺は唯天使を崇拝しているだけだっっっ! 無知蒙昧なメスガキが、調子に乗るなよっ。俺は、天使を守る者なんだっ!」

「そうだ、あれは傷つけてはいけない芸術。芸術は穢れてはいけないのだ。ライム嬢、君は可憐な花かも知れないが、花ゆえに無知であるかな」

「ぐうぅ、こいつら」

「うげぇ、気持ち悪い」


 必死な形相の二人。それを見たライムは歯ぎしりをし、パナシェは剣呑な表情で吐き捨てる。そんな中、ハルだけは少し感心したようだ。


『成る程、こいつらクズかもしれないが、性癖に関しては紳士なのだな』

(変態と紳士って別物じゃないの?)

『この世の中には変態という名の紳士もいるのだ』

(そうなんだ。バトラーのいってた男の娘と似たようなものかな?)


 アルクの疲労はいよいよ限界に近付いている。まともにつっこむ体力ですらもう残されてはいない。そんな中、フランが前へ進み出てきた。


「うふふ。実はね、ドランにはちょうどいい罰があるわ。実は私はこの街では領主からこのドラ息子の動向を監視するっていう任務を与えられていてね。だから一応この場所にも来たって訳。実際、調べてみると横領や賄賂の要求など狡い犯罪が出るわ出るわ。報告したら領主も覚悟を決めたみたい。私の古巣に息子を入れてくれないかって、頼んできたの。今回の件でもう本決まりってとこでしょうね」

「ほう、野獣騎士団ですか。ノーマンも思い切った決断をする。だが、極刑を免れるのなら、それくらいはしなければなりませんね。彼もなんだかんだで息子に甘い。たとえそれがドラ息子でも、ね」


 キジョウが半ば愉快に、半ば憐れむ様にドランへと視線を向ける。


「なッ⁉ や、やじゅっ、ヒィーーーーーーーーーーー」


 その名前を聞いた瞬間、ドランが驚愕に目を見開き、かすれた声で絶叫した。


「野獣騎士団って?」

『うむ、屈強な男のひしめく、スーラ最強と謳われる最強の騎士団だ。まあ、別の意味でもうたわれているのだがな』


 アルクの問いに、ハルが答える。ドランが縛られているというのに、体のバネを活かし地面から跳ね起きると、全力で逃走を図る。


「いやだぁぁぁぁーーー。ほっ、掘られてたまるかぁぁぁー」

「ミズハッ」

「はいっ! マジックバインド」


 キジョウが隣のミズハへと声を掛けると、ミズハは頷き、魔法をドランに向かって放つ。ドランはあっけなく地面へ倒れ伏し、そして絶望からか号泣し始めた。


「掘られたくないって、何を掘られたくないのかしら」

「うーん、なんだろう。ハル知ってる?」


 周囲が苦笑いしている中でライムが首を傾げる。アルクも検討がつかなかったため、ハルに尋ねることにした。


『意味は解るが……君たちが知る必要はない』

「あっ、でもオイラ知ってるかも。師匠から聞いたやつかなあ」

『なっ、パナシェ。君の師匠はなんて恐ろしいことを。パナシェ、止めるんだっ』


 ハルがパナシェを制止する。しかし、それは間に合わず、深刻な表情で厳かにパナシェは語り始めた。


「うん、それは恐ろしい拷問なんだ。なんの理由もなく、ただ延々と穴を掘らされ続け、そしてある程度掘ったら次はその穴を埋めさせる。それを延々と繰り返させるんだって。意味もなく重労働をさせられた人はいずれ頭がおかしくなるんだよ」

「それは確かに残酷ね」

「色んな拷問があるんだね。でもそれなら掘りたくないって言わない?」


 パナシェの告げた拷問に、そんな拷問もあるのかとアルクとライムは感心しながら頷き合う。ハルが小さな声で『君たちが知るには早すぎる』と呟いたが、それはドランの号泣に掻き消されてしまった。そんな中、ロックがいいことを思いついたとばかりにラチャオに視線を向け、ニヤニヤと笑う。その不穏さに怯えた表情のラチャオ。


「叔父貴! ドラン一人では流石に可哀そうじゃないですか。お友達をその騎士団に一緒に入れてあげるっていうのはどうですかね」

「ふむ、なかなか面白いアイデアだね。ゴン、失敬フラン殿、如何ですかな?」

「そうねえ……。顔だけは結構イケてるから……ウェルカムッ!」 


 その瞬間ラチャオは絶叫を上げる。


「あああああああああああああああああ」


 そして縛られているというのに、体のバネを活かし地面から跳ね起きると、全力で逃走を図る。


「ミズハ」

「はいっ」


 魔法によりあっけなく拘束され地へと転倒するラチャオ。奇しくも先に転がされたドランと並びあう。そんな二人の前にフランがどしどしと歩み寄った。怯える二人の前で両手を宙に上げ、はち切れんばかりの上腕二頭筋を誇示する。


『むう、ダブルパイセップスか』

「そんな怖がらないで、二人共。あそこは気のいいマッチョ野郎ばかりのところよ。あなた達の歪んだボロ雑巾のような心も、一滴残らず絞り切って、まっさらにしてくれること間違いなしよ」


 そういってウインクを放つフランの横へとライムが駆け付け、二人に止めとばかりに満面の笑顔で言い放つ。


「よかったじゃない、二人共。これからあなた達の芸術やら天使やらは筋肉ってことになるわけね」

「「~~~~~~~~~~~~~~~」」


 二人の声にならない絶叫がレーヌの丘へと響き渡る。感情が振り切れてしまったのか、二人は糸が切れたように仲良く失神する。その光景を見たパナシェは、そんな二人を指さしながら、ニコニコとアルクに笑いかける。


「よかったねえ。これで本当に一件落着だね」

「……うん、そうだね」

 

 そのあまりの悲愴さに、アルクは少しばかり同情しそうになってしまったが、とてもそんなことが言える雰囲気ではなさそうなので、ただただ頷くのであった。




 その後、ドランとラチャオはレーヌの官憲に引き取られていった。その後、一度領主の下へ送られ、そう遠くないうちに野獣騎士団へと入隊するだろうとのことであった。先ほどの騒々しさが消えると、ライムが両手で顔を覆い、大きくため息をつく。


「うぅ、やっぱ思い返すと恥ずかしい。今回の件が自分勝手にいきってただけなんて」

「ごめん、僕が余計なこと言わなければ」


 実際、アルクがあそこであのようなことを言わなければ、大人たちが全部解決していたのだろう。そう思うとアルクも居た堪れない気持ちになる。


『まあ、確かに我々はただ状況をかき回してしまっただけだが』

「いいえ、アルク達は悪くないわ。変に感傷的になったアタシが悪いの」


 落ち込むアルクとライム。そんな二人をパナシェが陽気に励ます。


「まあ誰も傷つかなかったし、良かったんじゃないかな。終わりよければ全てよしっていうしね」

「うーん、でも出しゃばったことには変わりないし……」

「だからあの時、いったじゃないか。お前に出来ることはないって」


 ロックがやってきて、それ見たことかとばかりに言う。


「あれ、そんな感じじゃなかったし! そんな風に聞こえなかったし!」

「そうかあ?」

「大体、領主と知り合いって何よ。仁義とか筋とかどこ行っちゃったの?」


 ライムが少しばかり憤って周囲を睨む。ジョーとキジョウは顔を見合わせ、そんなライムへと弁明する。


「別に領主ったって、昔の古いダチだしなあ。それに今も繋がっているとはいえ、アイツも弁えた男だから問題ないんじゃないのか。意味もなく非道なことなんて俺たちしてないしなあ」

「それにあれは領主の後継ぎ候補の中で、一番まともだったから担いだだけだよ。そのお陰で、昔より遥かに善政が敷かれているし、無駄な血も流れなくなった。仁義や筋を通すのも大事だけど、仲間の命を守るのも同じくらい大切なんだよ」


 ギンもライムに微笑みながら、優しく諭す。


「そうよ。ノーマンもだけど、キジョウや他の場所へ旅立った家族とも、うちの一家は今も強い繋がりを持っているのよ。お互いに有益な情報を共有しあったりね。グレナディン一家の強さは腕っぷしだけじゃなくて、そうした絆があるからこそよ」


 ライムはそれでも、理解は出来ても納得はいかないといった様子で頬を膨らませる。そんなライムの頭を、ロックが苦笑しながら力強く撫でた。


「まあ、お前の気持ちも解るよ。俺も昔そうだったからな。そういった面倒臭いことなしで、もっと自由に自分の道理を貫きたいって。でも、大人になってそういった強さも大切な家族を守るのに必要だって解ったんだ。まあお前も大人になったら解るさ」

「すぐ大人になったらって。大人ってずるい」

「ハハッ。でもな、ライム。大人になっても子供の頃の想いってのは案外変わらないんだぜ。ただ時々忘れたり、所々色褪せちまったりするけどな。だから、そうならないガキの内に精一杯自由に振る舞えばいいさ。そういった点では今回のお前は、いつもと一味違っていたな。ドランの雑兵たちの前でも仲間と一緒に怯まず毅然としていた。いつもの強がり混じりじゃなく、あれは本物だった」


 兄の言葉にライムは目を見張る。


「本物……、あたしが……」

「ロックの言う通りですよ、ライム」

「あ、お婆……」


 いつの間にか、お婆がライムの前へと進みでてきていた。ロックの横にゆったりと並ぶ。その姿は小さいながら威厳に満ちている。


「あなたは今日、確かに大人たちの思惑からは抜け出すことなく、ただその中で行動したかもしれない。幼いゆえにより困難な状況を招いたりもしたでしょう。でも、流されるだけではなかった。自らの意思であなたは一歩を踏み出せた、と私は思っています。それはロックも言う通り、今のあなたの顔を見ればわかります。傍観者でなく、当事者となることを決めたとき、あなたは何をおもったの?」

「それは……」


 自然とライムの視線はアルクとパナシェの方へと向く。それに二人も笑顔で応える。


「そうです。今日あなたは自分の意思で前へと進めた。でも、それはあなた一人では無理だった。アルクさんやパナシェさんがいたから。そうでしょう?」

「……うん」


 ライムは唯静かに頷いた。お婆はそんなライムに優しく微笑む。


「そう、それが絆です。同じ想いを貫く者を繋げるもの。グレナディン一家を家族として結び付けているもの。ライム、あなたは今日自分だけの絆を手に入れた。それを理解したあなたはもう半端者なんかではありません。れっきとした、グレナディン一家の一員です。よく頑張りましたね」

「お婆ぁ」


 ライムは少しばかり何かに耐えるように歯を食いしばる。しかし、耐えきれず顔をくしゃくしゃにゆがめ、その胸へと飛び込んだ。よしよしとその頭を撫でるお婆。それをジョーやギン、ロックにチェイス、そしてキジョウが近くへ歩み寄り、家族を慈しむ眼差しで見守っていた。


「よかったね、ライム。皆ライムの想いをちゃんと知ってたんだ」

「そうだね。僕たちもすこしは手伝えてたならいいんだけど」

『大丈夫。きっと出来ていたさ』

「感動のシーンね。涙が出ちゃうわ」


 少し離れた場所からそれを見守るアルクとパナシェの横に、フランが鼻をすすりながら並んできた。アルクはその汁が危うくかかりそうになるのを避けながら、先程すこしばかり疑問に思ったことを聞くことにした。


「フランさんはあそこまで知っていて、なんで僕たちに情報を渡したの?」

「うふふ。壁を乗り越えようとする子供たちには、時として試練が必要なのよ。たとえそれが拙い結果になろうとも、仲間とともに挑んだという過去があるなら、再び未来へと挑めるわ」

「でもオイラたち、結構危ない橋を渡ったんだよ。実際ライムも攫われちゃったし」

「確かにね。でもあなた達には、チートな保護者がついてるのでしょう。そんなに心配はしていなかったわ」


 またしても飛び出したフランの爆弾発言に、二人は顔を見合わせてしまう。ハルも心底驚いたように叫ぶ。


『コイツ、一体どこまでッ⁉』

「ふふ、聞いた通りね。結構ポンコツなところもあるみたい。でも齢を取っても、女の子は女の子なのよ。早く気付いてあげないと、傷ついちゃうわよ」

(ハル、一体フランさんは何を言ってるの?)

『さあな? 皆目見当もつかないが』


 アルクは首を傾げながらライムの方を見る。ちょうどライムが泣き止んだところであったようだ。ライムは目を擦りながら、ギンに肩を抱かれている。そんな中、チェイスが湿っぽさを払うように両手を天に突きだし、快哉を叫んだ。


「さあっ、むかつくドランもボコったことだし、家に帰ったら祝勝会と、叔父様の歓迎会を兼ねて祝宴よーーー」

「「「おおっーーー!」」」


 グレナディンの男たちが追随するように喝采を上げる。そして、アルク達はグレナディン一家の帰るべきアジトへ共に肩を並べて歩き出した。誰もいなくなった丘には、ただ優しく春の風が吹きつけていた。


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