蠱惑の花
グレナディン一家のアジトに居候することになって、数日が立った。その間、アルクとパナシェは、ライムにレーヌの街を案内してもらい、意図せぬ観光を楽しんだ。グレナディン一家の威光は大したもので、ライムが訪れると様々な物をサービスと称して、渡してくるのだ。初めは断るライムだが、結局押し切られ、その分け前を得たアルク達はご満悦だった。
そうして数日が過ぎ、互いに親交も深まったある日。アルクはギルドにクエストを受けにいくことを、ライムへと告げた。冒険者に何か思うところがあるらしいライムは、案の定顔をしかめる。嫌ならついてこなくていい、とアルクは伝える。しかし、お婆の命令だから、と渋々ながらもライムもアルクのクエストに同行することとなった。どうやらライムにとって、お婆とやらは絶対的な存在らしい。
当日、アルク達がギルドに入ると、周囲が騒めき始める。その視線の先にはライムがいた。やはりグレナディン一家の娘はレーヌの街から周知されているのだろう。アルクは一番空いているあの受付嬢の場所へと進む。
「あらぁ、アルクちゃん。久しぶりね、フラン寂しかったぁ、ってライムちゃんじゃない。珍しいわね」
「フランちゃん、やっほー」
どうやら二人は顔見知りらしく、互いに挨拶を交わす。フランの筋肉は以前と変わらず、隆々と盛り上がっている。
「知り合いなんだ」
「ええ、フランちゃんとは甘味処で知り合ってね」
「甘味は乙女の必修科目。好きな物を互いに語れる友人っていいわよぉ」
パナシェという仲間がいるアルクは、思わず素直にその言葉に頷く。
「ライムちゃんがギルドなんて、どういう風の吹き回しかしら」
「お婆にちょっと言われちゃってね」
ライムはそう苦笑する。フランはそんなライムを興味深げにじっと眺めた後、アルクへと振りむいた。派手に盛られた巻き毛が、無駄に揺れる。
「で、私の王子様は今日は二人のガールを侍らして、呑気にクエスト受注ってわけね」
「まあ、僕は王子様ではないですけど。何かいいクエストはないかなって」
「そうねえ」
フランは大胸筋を盛り上がらせつつ、顎に手をやり悩まし気なポーズを作る。そして、今思いついたかのようにアルクに語り始めた。
「そうだぁ、今ジャイアントフロッグっていう蛙型の魔物がこの街の近くにある、エリ湖で大量発生しているの。それで、漁師さんが困っているのよね。強さ自体は大したことないんだけど、面倒くさくてフニャチンどもが受けてくれねえのよね」
最後、ドスを加えてそう話すフランの視線に、隣の受付嬢に並んでいた冒険者が、ヒィと身を竦ませる。再びアルクへ向き直ると、膨れ上がった上腕筋を胸の前で組み、首を傾げながら問う。
「この依頼、私の王子様なら受けてくれると思うんだけど、どうかしら」
「いや、僕は王子様ではないですけど。別に構わないですよ」
魔物討伐はメレンの町ではあまり受けていなかったので、アルクとしても異存はなかった。たまには現実の世界で生殺与奪の戦いをしなければ、腕が鈍るかもと思っていたところだ。その点、このクエストはちょうどよかった。
「じゃあ、クエスト受注ってことでいいわね。あっ、そうだ。今の季節はキセクの花が綺麗に咲き誇ってるからとってもキレイな景色が楽しめるわよ。でも、危険な花だから摘んで帰ってきたりはしないでね」
『キセクの花、か。確かに可憐な花だな』
「危険って?」
「知識を知ることも時に危険に繋がるわ。もし、どうしても知りたかったら自分で調べることね。遠くから見ると綺麗だけど、いざ触れると危険な物ってこの世に結構あるのよ。例えばこの私、とかね」
ウインクするフランを無視すると、アルクはパナシェとライムを伴い、ギルドを出ることにした。背後からは「アルクちゃんのいけず―」と、野獣のような声が聞こえたが、アルクは気付かないことにした。
レーヌの街を出てすこしばかり歩いた場所にエリ湖はある。アルク達が到着すると、確かに湖の周りには巨大な蛙が、我が物顔に大量に跳ねていた。その光景は多少グロテスクだが、どこかほのぼのとしている。
「あれ、結構美味いのよね」
「へえ、そうなんだ」
両手を頭の後ろに当てながら、ジャイアントトードを眺めていたライムが呟く。それを聞いたパナシェが、目を輝かせてアルクを振り返る。
「そうなの」
『ああ、蛙は結構食用として活用されているからな。虫なんかよりはよっぽどメジャーだぞ』
「そうなんだ」
じゃあ、アレを討伐した後、少しばかり料理してみるか、とアルクは意気込んだ。
「じゃあ、目に見える奴はとにかく狩ってこうか」
『ああ、あれは討伐ランクはFだから、容易く狩れる。ただ攻撃力が弱い反面、柔らかい肌は切り裂きにくく、単体で飲み込まれたら打つ手がない。気をつけろよ』
「うん。行くよ、パナシェ、ライム」
ハルの言葉に頷くと、アルクは二人に合図をする。
アルクは駆け出すと、ジャイアントトードの群れにサンダーボルトを放つ。
「いけっ」
空中より轟音とともに降り注ぐ雷撃。それは水生生物の弱点でもあり、水分の多い体に容赦なく電流が流れ込む。断末魔を上げ、大地へ倒れ伏す蛙たち。生き残った蛙たちは、襲撃者の存在を認めると、こちらへと跳ねてくる。
「あんた、魔法が使えるんだ。やるじゃない」
ライムが目を見張り、アルクを褒める。負けてられないとばかりに腰のベルトに刺さっている、投擲用のナイフを両手に握ると、蛙目掛けてそれを放つ。
「グエエェ」
投げられた二つのナイフは、二体のジャイアントトードの目へと吸い込まれるようにして突き刺さる。痛みに蛙たちはのたうち回っている。あの石礫といい、ライムは投擲に才能があるらしい。
「二人共すごいや。オイラもぉ」
パナシェが身近なジャイアントトードにスコップの一撃を見舞う。だが、蛙の軟体はその剛力をいともたやすく受け流してしまった。驚くパナシェに向かって、ジャイアントトードは舌を射出し、その体を巻き上げてしまう。
「わああ、アルクぅ」
「パナシェッ」
「なにやってんのよ、まったく」
ライムがナイフを再度、投擲しジャイアントトードの目を撃つ。その痛みにジャイアントードはパナシェを開放する。宙より投げ出されたパナシェを、アルクはその両手で抱き留めた。舌で巻き上げられたパナシェの身体は唾液でべとべとであり、抱きかかえたアルクの衣服にもべったりとそれが付着する。
「ありがとう、アルク。なんかオイラこんなのばっかりだなあ」
『パナシェは奴らとは相性が悪いようだ。攻め方を考えるべきだな』
アルクは戦法を変え、ライムの投擲の後で、その個体へ止めさすことにした。視力を失った蛙の死角に回り込み、その腹をハルの刀身にて大きく切り裂く。その戦法でジャイアントトードを完封したアルク達は勝利を収めることに成功する。ある程度狩りつくすと、自分たちが叶わぬ被捕食者であることを認めたジャイアントトード達は一目散に退散していった。
「やったあ」
「ま、こんなもんかしらね」
パナシェが歓声をあげ、ライムもそっけない仕草だが、嬉しそうに口角を吊り上げる。アルクもクエスト達成の満足感から、ジャイアントトードの体液を身に浴びたまま、小走りに二人のもとへ駆けていく。
『今の段階でこれなら大したものだ。パナシェやライムも優れた戦闘能力も持っているから、とても楽に倒せたな。後は素材の採取だけだ』
「そうだね。ジャイアントトードの解体をしよう」
「ちょっと数が多いけど、手分けすればなんとかなるね。今日は三人だし」
パナシェの言葉にライムがギョッとする。
「えっ、ちょっと待って。あたしもやるの? あたし冒険者じゃないし、解体なんてやったことないわよ」
「大丈夫、オイラが教えるよ。ライムは今オイラ達の仲間だしね」
「仲間、ねぇ。まあ、やってやってもいいけど、へたくそでも文句いわないでね」
パナシェに促され、二人して共に解体を始める。アルクはその姿を微笑ましく見守りつつ、単身ジャイアントトードを解体し始めたのだった。
全ての作業を終えると、アルクは魔石や肉、素材をアイテムボックスに回収する。カモフラージュのための袋に次々とそれらを入れていくのを、ライムが目を丸くして眺める。
「それって」
「うん、アイテム袋ってやつかな。お祖父ちゃんの形見なんだ」
「そう、凄いわね。それ結構値段の張るやつでしょ」
ライムが感心しながら、袋を眺める。アルクは、欺いている罪悪感から、まあね、と頷きつつ顔を背けた。そんなアルクをパナシェも複雑そうな表情で見つめている。パナシェも同様の欺かれ方をしたから、何か思うところがあるのだろう。
「じゃあ、ジャイアントトードで昼食にでもしようか」
「ねえ、アルク」
パナシェが、アルクに真剣な表情で話しかけてきた。それを見たアルクは作業を中断する。ライムはそんな二人の空気を察して、慌て始める。
「ちょっと、あんたたちどうしたの?」
「うん、ライムは少し待ってて。ねえ、アルク、今ライムはオイラ達のパーティーだよね。それで黙ってるっていうのはちょと心苦しくない? 勿論、極力そういうのは見せびらかさないってのは、オイラも師匠から聞いて解ってるよ。アルクもかつては一人で用心を重ねなくちゃならなかったっていうのも知ってる。でも、今はオイラもいるし、ライムはいい子だって、ここ数日でオイラたち知ることが出来たよね……」
「ちょっと、一体何を話してるの?」
空気の変化に狼狽えるライム。しかし、アルクも同じ気持ちであったため、ハルにその是非を問うことにした。
(ねえ、ハル?)
『……私も少しばかり考えていた。もし、メレンでモルトやセゾンたち以外の冒険者とも親交を深められていたら、あれ程の苦戦はなかったのではないかとな。私が未熟と侮っていたセゾンたちも、想像以上に善良で優れたる冒険者だった。どうやら私はラッドを失ったことで必要以上に猜疑的になってしまったらしい』
「じゃあ」
『ああ、ライムに私の存在を告げてもかまわない。そうしたらコテージで風呂にでも入ったらどうだ。飯も体を清めた後で食った方が遥かに美味いだろう。今の君たちの見てくれは、傍目から見てかなり汚いといえるからな』
ハルの承認を得たアルクは、パナシェとライムに向かって笑顔でそれを提言する。
「パナシェ、ライム。お昼ごはんにする前に、お風呂に入ろうよ。その方が美味しく食べれるってハルも言ってた」
「そうだね。それがいいね」
「ちょっと待ってよ、こんなところにお風呂なんてないわよ。それにハルって誰よ」
笑顔となるパナシェの隣で、ライムが訳が分からないとばかりに目を点にしていた。アルクはそんなライムに笑いかけると、コテージの扉を顕現させる。突如現れた扉にあんぐりと口を開けるライム。
「さあ、入ろう。ようこそ、ライム。僕たちの城へ」
「バトラーもお客さんが来て喜ぶよ」
二人が笑顔で扉を開けると、いつも通りにバトラーが恭しく迎えてくれていた。
「お帰りなさいませ、アルク様、パナシェ様。そしてようこそライム様。私はここの執事を務めさせて頂いておりますバトラーです。以後お見知りおきを」
「えっ、何、これっ」
突然のことに呆けたライム。パナシェに手を引かれ、中へと入っていく。ようやく現実に帰ったライムは、落ち着かない様子できょろきょろと周囲を見回す。
『ここは私の権能で作られた空間だ。色々あるから存分にくつろぐといい』
「えっ、誰っ?」
『私の名はハル。アルクが持つ剣だ』
「ああ、そうか。魔剣ってやつね。お婆から聞いたことがあるわ」
アルクの剣に目をやったライムは、ようやく納得した様子であった。ニコニコと笑うアルクやパナシェ、バトラーを見て、仕方ないばかりに同じように笑う。
「私の名前はライムよ。といっても、自己紹介はあんまし必要なさそうね」
『まあな』
「申し訳ありません。これも自衛の一環でして。信頼のない相手にはあまり明かしたくないのです」
「そういうことなら、あたしは信頼されたって訳ね。まあ、そういうことなら別にいいわ」
バトラーの言葉に、ライムは肩をすくめる。そうして再びバトラーをまじまじと眺めた後、首をかしげる。
「それはそうと、一つ聞いていい? バトラーってどっちなの?」
「それは禁則事項なんだよ」
「性別不詳って設定なんだ」
アルクとパナシェが、ライムに笑顔でそう告げる。「何よ、それ」と、狐につままれたような顔になるライム。バトラーは何も言わずに唯微笑んでいた。
「じゃあ、お風呂にいこうよ。まずは女の子からでいいよね、アルク」
「うん、別にいいよ」
「ねえ、お風呂って」
「ここには立派なお風呂もあるんだよ。案内してあげるよ」
パナシェがライムの手を引き、奥へと連れていく。途中一度立ち止まり、こちらへと振り返った。
「あ、アルクは絶対入ってきちゃだめだからね」
「うん。絶ッ対ッに入らないから安心していいよ」
自分だって命は惜しいとの言葉を喉元で押しとどめ、笑顔で手を振りながら、アルクは二人を見送った。エントランスに残ったアルクは近くのソファーへと座る。バトラーがどうぞと差し出してくれたリンゴジュースを一息に飲み干すと、ソファーへ深々と体を静める。
『これでよかったのだろう、アルク』
「うん、ライムは信頼できると思う。あの時だって、必死に真実を確かめようとしていたし」
「ライムさんですか。これまた可憐なお嬢様ですね。あの方を見てるとミオ様を思い出しますねえ」
バトラーが過去を慈しむ様にしみじみと言う。アルクはその聞き覚えのない人名に首を傾げる。
「ミオ?」
「はい、ラッド様がマーサ様とユーリカ村を離れ、初めて仲間に受け入れた女性です。あの方と出会ったのもこのレーヌでした。小柄ながら、とても活発で愛らしいお嬢さんでしたよ」
『そうだな。この前話した彼女だ。それと同時にとても腕白な子でもあった。私のことを絶えずポンコツソードと呼んでいたからな』
「その出会いも、ラッド様の財布をミオ様が盗んだのが原因でしたね。ラッド様が必死に追いかけ、取り押さえて金的を受け悶絶しているところを、マーサ様が取り押さえたんでしたねえ」
「……なかなかエキサイティングな出会いだったんだねえ」
ハルやバトラーが話す祖父の印象は、間抜けじみた印象をアルクに与えてくる。その度にアルクはリアクションに困ってしまうのだ。あの夢の中で出会った祖父は大層頼もしかったはずだが。
アルクが、ハルやバトラーと祖父の思い出話などで盛り上がっていると、パナシェとライムが風呂から出てきた。しっとりと濡れた髪の二人は、いつもとは印象が少し変わっていた。その後、アルクも風呂へと入る。アルクが入浴を終えると、その後はジャイアントトードの肉を使った昼食となったのである。
アルク達は魔道具を使い、外でジャイアントトードをから揚げとグリルの二種類の調理方法で料理することにした。結果として、ライムの言う通り、醤油で下味をつけたジャイアントトードのから揚げも、黒胡椒と塩でグリルしたものも大層美味かったのである。味は鶏肉に似ているというが、まさしくそうであった。こちらの方が少しばかり淡白ではあったが。湖の側でピクニックシートを広げ、昼食会をした三人は、自らの狩った肉を大いに楽しんだ。
「ふう、もうお腹いっぱいだわ」
バトラーが持たせてくれた魔法瓶から食後の紅茶をカップに注いだライムが、それを飲みながら人心地つく。
「しかし、あんたの剣の能力は反則ね。とんでもないわ。あたしもこんなところで入浴ができるとは思わなかったわ。しかもすごくいいお湯だったし」
「チートだからね」
アルクはライムの揶揄に、ただそう答える。実際、メレンで冒険者として活動してから、他の冒険者の冒険を知るにつれ、その能力の破格さには舌を巻く思いだ。
『そうだ、アルク。この近くにフランも言ってたキセクの花の群生地があるぞ。見てくれだけは大層綺麗だから見に行ってみてもいいんじゃないか』
「ああ、あの…」
フランがやけに意味深に言っていた謎の花。まるで毒があるかのように話されるその花に、アルクは少しばかり気後れしてしまう。
「キセクの花ねぇ。いいんじゃないかしら。鑑賞する分には悪くない花よ」
ライムはその花の正体を知っているかの如く、アルクにそう伝える。パナシェはアルクと同様知らないのか曖昧な笑みを浮かべている。そこまで言われると、見てみたいという思いが強くなり、アルクは群生地へと向かうことにした。そこには、青い花が咲き乱れていた。
「うわあ、綺麗だね」
パナシェがうっとりと見惚れる。色鮮やかな青の花が可憐に咲き誇り、風にそよいでいる姿はとても和やかで牧歌的である。アルクは何故この花が危険なのか、首を傾げる。毒でも含まれているのかもしれない。
「これ、毒とかあるから危険なの?」
『ああ、概ね正解だな。キセクの花を抽出したものを摂取すると、異常なまでの高揚感と多幸感を得ることができるのだ。依存性も強く、一度でも摂取するとそれ以外何も考えられなくなってしまう』
「麻薬ってやつね」
ライムが、ハルの言葉を端的に伝える。
「麻薬?」
「ええ、昔はこれをレーヌ一帯で栽培してたのよ。その頃は今より一層治安が悪くてね。そのときの領主もそれが金になるからって黙認してたの。麻薬と人身売買が二大産業だったってわけね」
「酷いなあ」
パナシェがその話に憤る。パナシェ自身、師匠の境遇や売られないための教えがあったため、そういった話には何か思うところがあるのだろう。フンス、と鼻息を荒くする。
「まあ、お婆が冒険者やめてこの街に戻ってきて、お祖父ちゃんと一緒に叩き潰したんだけどね。その過程でグレナディン一家は大きくなったのよ」
「凄いねえ、ライムのお祖母ちゃん」
「うん、尊敬してる」
心の底からそう思っていることを示すように、ライムはニカッと笑った。その表情は今までよりも素のライムであり、アルク達には初めて見せる屈託のない笑顔であった。
「じゃあ、もう戻りましょうか」
「そうだね」
アルク達はエリ湖を離れ、レーヌの街へと戻ることにする。そして、離れてすぐの場所から、マップにて人の反応が数名、こちらへと向かっていることに気付く。アルクは二人にそのことを告げ、一応の警戒態勢は取っておくことにした。そうして、出会った人物は意外な人物だった。。
「あれ、ラチャオ⁉」
「……これは、ライムお嬢様。奇遇ですね。こんなところでお嬢様に会わせて頂けるなんて、愛の女神アルル様の思し召しに違いありません」
キザっぽく、髪をかき上げながらそう言うと、ラチャオはおもむろにライムの前に跪き、その手を取って、口づけをする。
「わあっ、ラチャオ⁉ 人前でそうい事はやめてって言ったでしょ」
「すいません。美しいお嬢様を目の前にして、つい」
照れまくるライムを見つめながら、甘ったるい声でそう告げるラチャオ。パナシェが「うげえ」と声をあげる。整った顔立ちの男だが、どうやらパナシェの好みからは外れるらしい。
「でも、ラチャオ。どうしてこんなところに」
「え、ええ。たまには若い衆を鍛えようと思いまして。エリ湖には、ジャイアントトードが大量発生しているらしく、行ってみようかと」
そう言って、後ろの男達を顎で示す。
「そう、感心ね。でも、ついさっきあたし達があらかたやっつけちゃったわよ」
「そうですか。流石はライムお嬢様。まあ、でも残党がいるかもしれませんし、とりあえずは行ってみようかと」
「そう、怪我しないでね」
「はい、ありがとうございます。アルクさんたちも、ライムお嬢様のことを頼みますよ。おい、行くぞ」
ラチャオは、男達を引き連れアルク達の横を通る。その時、見上げたアルクとラチャオの視線が交錯する。アルクは、その視線に侮蔑が含まれているのを見て取った。マップの反応も一瞬黄色へと変化する。
『食えない男だな。気をつけろ』
「うん」
ただ警戒されているだけなのだろうか。それ以上の何かがあるのではないかと、アルクの勘らしきものが告げていた。




