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少年と剣  作者: 編理大河
義賊の街
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レーヌのギルドの受付嬢

 レーヌへと続く街道。それは整備された石畳で、馬車の車輪などですり減った跡が見える。時折、行商の馬車や徒歩の冒険者とすれ違い、アルク達は挨拶を交わした。今度行くレーヌの街は交通の要衝にあるらしく、迷宮こそないが、メレンよりもかなり大きな街らしい。


「お日様がぽかぽかだね。こういう日は歩くのが楽しいね」


 この旅の間でいつしか歩くリズムが一緒になったパナシェが、アルクの方を向いて微笑む。その出で立ちは冒険者らしく、耐久性に優れた厚手の革のドレスだ。しかし、それはバトラーが仕立てた際に、華美に過ぎない程度の装飾が施されていて、非常にお洒落なデザインとなっている。かつてパナシェが少年のようだったと話しても、誰も信じる者はいないだろう。


「そうだね。風も春の匂いがするしね」

「独特の匂いだよね。なんか胸が切なくなる感じ」


 自分が生まれた村を出たときの、冬の気配は既に遠いものとなっている。木々には鳥が多く留まり、綺麗な声でさえずっていた。だが、もう少ししたら夏の気配を漂わせてくるのだろう。アルクは季節の移り変わりに、時間の流れを感じ、少しばかりユーリカ村への郷愁を覚えた。


「ほら、アルク。街がみえてきたよ。ハルさん、あれがレーヌだよね」

『ああ、そうだ。レーヌの街か。懐かしいな。前回ラッドと共に来たときは、マーサが止せというのに賭場に突っ込んで……。そこで、いかさまを指摘し、大乱闘になっていたな』

「賭場って?」

『ああ、金を賭けて、遊戯を行う場所だ。ゲーム性が高く面白いものもあるが、依存性もあるし、身を持ち崩すリスクもある。あまりお勧めはしないな。といっても、流石にアルクの年齢では入ることも出来ないだろうが』

「そっか、すこし残念だな」

「アルク、賭け事はメッだよ。そういうの駄目って、オイラも師匠から何度も言われてるし。最後はお金を借りてまでやっちゃうんだって。借金で首がまわらなくなったらきちんと冒険だって続けられないよ」


 アルクは、そうなったら困ると、素直に頷く。

 そうこうしているうちに、レーヌの街の門が見えてくる。それはメレンの町で見たものより一層大きい。門に着くと、守衛に冒険者の身分を告げ、カードを提示する。そして通行料と引き換えに、手形を受け取ると中へと入った。メレンの町で散々に行ってきたため、もはや慣れた手続きである。


「わぁ、凄い人。なんかごちゃごちゃしてるね」


 レーヌの街は猥雑な活気にあふれていた。メレンよりも不規則に家が立ち並び、中にはボロボロの家も普通にある。通りを埋め尽くすぐらいの屋台や露店が立ち並び、昼間だというのに酔漢や胸を露にした衣装を着た娼婦の姿も見受けられた。うるさい程に絶えず、人の声が街に響き渡っている。


『アルク、パナシェ、ここは人も多いため結構治安がよろしくない。スリもでるから気をつけろ。裏通りとかの危ない場所は避けるんだぞ』

「うん、わかった」

「はーい。ねぇ、アルク。あそこに売ってるのなんだろ。いい匂いがするね」


 ハルの注意に頷きながら、パナシェが指さした屋台を見る。確かに、一際いい匂いを漂わせている。客も多いようだ。


「買ってみようか」

「うんっ」


 二人は屋台の列に並ぶ。前の客が料理を受け取りいなくなると、店主に声をかける。


「すいませーん、二つください」

「おお、ボウズたちちっこいけど、もしかして冒険者か。ここらで見ない顔だな」

「はい、今来たばっかりなんですけど」

「そうかい、それで一番先にうちの店にくるなんてなかなか見込みがあるじゃねえか。二つだな、待ってな」


 流石に冒険者といえ子供二人だけというのは珍しいのか、店主が気さくにそう話しかけてくる。アルクは頷くと、金を財布から取り出し、店主へと渡した。


「ほら、レーヌ名物お好み焼きだ」

「うわあ、いい匂い」


 パナシェが器を受け取り、歓声を上げる。具が練り込まれ焼かれた生地の上に、甘い匂いを放つ黒いソースとマヨネーズがかかっている。その上に青のりと鰹節が乗っており、鰹節は生地の熱さでうねる様に踊っていた。


「ボウズ、ついでに一つ忠告してやる。この町ではグレナディン一家とは揉めるなよ」

「グレナディン一家?」

「ああ、このレーヌを牛耳ってる一家だ。ここの賭場だってグレナディン一家のシマさ。たまにそれを知らずにここにきた跳ね返っりの若い冒険者が揉めて、酷い目にあわされてるからな。まあ、ボウズたちはまだそんな大それたことはできないか。まだ、薬草採取ぐらいだろ」

「ええ、まあ。忠告ありがとうございます」

「おう、またこいよ」


 気さくな店主からお好み焼きを受け取り、店を後にする。座る場所がなかったため、立ちながら食べることにした。添えられた木のスプーンで、柔らかい生地を切り取り、口に運ぶ。甘辛い香ばしいソースとマヨネーズの味がマッチしており、絶妙ともいえる味だ。


「ん~、美味しい」


 パナシェが目を細めながら、お好み焼きを頬張っている。

 アルクはふと先ほどの店主の言葉が気になり、ハルに尋ねてみることにした。


「ねえ、ハル。さっきのグレナディン一家って」

『おおかた裏社会の連中だろ。とはいえ、前回来た時には聞かなかったから、その後で出来たんだろうな。ああいった手合いは疑似家族を形成して、強い絆を作ろうとするんだ。人が集まれば、どうしても落ちぶれる者が出てきてしまう。そう言った者が生きるために、身を寄せるんだ。まあ必要悪というやつなのか。でも、大抵クズのような人間が多いので、アルクはあまり関わらないほうがいいぞ。面倒くさいからな』

「ん、そうだよ。たとえ、どん底でもまっとうに生きてる人たちだっているんだよ」

「パナシェが言うと、説得力があるなあ」


 アルクは笑いながら、最後の一切れを口に放り込むと、パナシェの分とまとめて、ごみを先ほどの屋台までいき捨てる。パナシェの下へ戻り、この後どうするか話し合う。


「じゃあ、そろそろギルドへ行く?」

「そうだね、とりあえず顔見世しておこうか。あ、でもアルク。宿はどうするの」

「ずっと、コテージでいいんじゃない?」

『まあ。スーラではそれでも問題はない』

「他だとあるの?」


 ハルの言葉を疑問に思い、アルクはそう尋ねる。


『ああ、アデルハイドだと冒険者ギルドに宿泊地の届け出を行わなければ、冒険者業の活動が出来ないことが冒険者法で定められているのだ』

「へぇ、そうなんだぁ。ハルさん、どうしてスーラだと必要ないの?」

『スーラではそれほど冒険者の流動性があるわけでないから必要ないのだろう。アデルハイドは何といっても世界中から海すら超えて冒険者が集まってくる。中には犯罪紛いのことをする質の悪い奴らもいるから、そういった輩の管理や排除がしやすいようにそう定められたのだろう』

「勉強になるなあ」


 アルクはその制度に感心する。国の事情によって、冒険者の在り方もまた違うのだろう。


「それじゃあ、ここでもコテージでいいね。場所はどこがいいかな。人気の少ない場所が

いいもんね」

『うーん、レーヌは空き地が少ないからなあ。ここの近辺に人気の少ない墓地がある。前回はそこでコテージを使用していたな』

「えぇ、墓地……。オイラ、幽霊とか苦手なんだよなぁ」


 パナシェがうんざりした顔で項垂れる。魔物の臓物を体に塗りたくれるパナシェが、幽霊が怖いと言い出すのは意外であった。


「虫とか食べれるのに、幽霊は怖いの?」

「むぅ、それとこれとは全然話が別だよっ」

「そっか、まあ僕も一緒だし大丈夫だよ。コテージには二人一緒に入るし」

「そうだけど……もしそういうのが出たら、アルクお願いね」

『アルルの加護にはアンデッドなどを浄化させる加護もある。そういった役目はパナシェの担当になると思うぞ』


 それを聞いて項垂れるパナシェ。アルクは笑いながら、パナシェの肩をたたく。軽食もとり、今後の方針も決まったため、二人はレーヌのギルドへと行くことにした。




 レーヌのギルトはメレンのものよりも大きく、その存在が遠目から一目でわかる程の規模であった。冒険者のパーティーが絶えず、出入りしている。魔物の獣臭や、汗や血のすえた匂いの混じり、アルクの鼻をついた。それはメレンで嗅いだものと同じものだと感じる。


「規模は大きいけど、雰囲気は一緒だね」

『まあ、どこだろうと冒険者がやることは変わらないからな。では入ろうではないか』


 アルク達が扉を開けて中へと入ると、ギルドの中の幾人かが、こちらを見たのに気付く。中にはパナシェを見て、わざとらしく口笛を吹くものまでいた。どうやら見定められているらしい。


『まあ、流れの冒険者というのは大抵そこの古株たちに注視されるものだ。だが、よっぽどまずく諍いでも起こさない限り、そうトラブルも無い筈だ。ここも一つの社会であるわけだからな。トラブルメーカーは自然と排除される』


 確かに揶揄するような視線を向けてくるものは多いが、それ以上ちょっかいを掛けてくるものはいないようだ。アルクはギルドの手続きを済ませるため、受付の方へ視界を向ける。すると、そこには冒険者が行列のように並んでいた。


「うわっ、すっごい並んでる」


 その数は並ぶのが億劫になってしまう程だ。レーヌは人口もメレンより多いため、おのずと冒険者の数も多いのだ、とハルがそう説明する。


「いやあ、アンジーさんに褒められちゃったなあ」

「ああ。でもあの二つのメロン、やっぱぱねぇな」


 うんざりしたような気分の中、アルクの隣を通り過ぎていくにやけ顔の冒険者たちのそんな会話が聞こえてきた。


『ふむ、どうやら美人の受付嬢でもいるのかもしれないな』

「それにしても、こんな並ぶ? アネットさんも美人だったけど」

『彼女はそういった手合いには厳しかったからな』

「アハハ、よく怒鳴り散らしてたよねえ」


 中々進まない列を眺めていると、パナシェがとあることに気付いた。


「ねえ、あそこの人も受付じゃない? 全然人がいないから気付かったけど」

「本当だ? なんでだろう」

『むう、あの受付嬢もやたらデカいな。……ガタイがだが』


 確かに遠目から見ても、その受付嬢の体格の良さは際立っていた。髪は豪勢に頭の上で巻かれているが、あきらかに他で受付をしている女性の二、三二回りほどでかいのである。その受付嬢には誰も近寄ろうとしない。


「まあ、いいや。どうせ数日したら発つんだし、あそこにいっちゃおう」

『……まあ、確かにそうだな』


 アルクはその受付嬢に近付き、そしてその顎の周囲に髭のそり残しらしい青さを発見し、立ち止まる。改めて見ると、体格がいいだけでなく、その肢体は鍛え抜かれており、バルクアップされた筋肉が、ギルドの女性用職員の服を内側からパンパンに突き上げている。


(ねえ、ハル。もしかしてこの人って、男?)

『……おそらく十中八九はそうだろうな。オカマって奴だな。引き返すか』


 ハルがそう呟くが、その受付嬢(?)はアルクの姿を認めると、ランランと瞳を輝かせて、話しかけてくる。


「あら、かわいいショ、げふん、坊やね。その姿は依頼じゃなくて、冒険者かしらん」


 そこから発せられる声も外観にふさわしいバリトンボイスだ。体をくねらせ、こちらを手招きする怪しい動きに、思わずアルクは逃げようとパナシェを振り返るが、「呼んでるよ、行こう」とただ無垢な笑顔で促されるだけであった。少しばかり考え、多少の違和感を感じつつも、すぐ受付に並べるという魅力に抗えずにパナシェを伴い受付嬢(?)の前へと行く。


「僕たち、今日レーヌに着いたんです。ここにも暫くは滞在するつもりですが、長居はしないと思ってます」

「そう、せっかく出会えたのに寂しいわね。あたしの名前はフラン。この街の看板受付嬢よ」

「オイラはパナシェです。こちらはアルク。よろしくお願いします」


 キャピ、と声で発しながら、その巨体をくねらせるフラン。その度に鍛え抜かれた筋肉が隆起し、着ている服がミチミチと悲鳴を上げている。アルクが絶句する横で、にこやかにパナシェが自己紹介をすませていた。


「さっそく依頼とか受けちゃう? 今ならサービスしちゃうけど」

「今しがたついたばかりなので、今日は顔見せ程度のつもりできたんですけど」

「そう、じゃあ登録するから、冒険者カードを見せて頂戴ね。ふむふむ、メレンの町からねえ。あの……」


 フランは一瞬、眼光を鋭くして、こちらを凝視した。その野獣のようなプレッシャーに、アルクの背筋に汗が伝う。だが、マップの表示は緑のままだった。フランはすぐ道化じみた態度へと戻ると、アルク達に微笑みかける。


「大変だったでしょ。あの迷宮でスタンピードなんて。でもモルトちゃんってアデルハイドでもいい線いってた優秀な冒険者が解決してくれたのよね。噂によるといい男らしいわね」


 キャー、と両手を頬にあて、フランは黄色い歓声を上げる。フランのテンションに、アルクは押されてしまい、何も話すことが出来なかった。


「それじゃあ、アルクちゃんたちにふさわしい依頼を次の機会にまで用意しておくから、次も絶対あたしのところまで来てね。うふ、ここにいる間、アルクちゃんは私の王子様ね」

「えっ、とりあえず今日はもう……」


 身の危険を感じ、アルクは駆け足でギルドの出口へと駆け足で急ぐ。その背後からは「また来てねーー」と、野太い声が常に響いていた。



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