目覚めて
アルクは気が付くと、不思議な空間にいた。辺りは深い闇に閉ざされているのだが、見上げる天には無数の星が瞬いており、それがどこまでも続いている。あまりに綺麗なので、天に向かって手を伸ばそうとするが、そこでアルクは自分の身体というものが存在していないことに気付いた。
意識は確かにあるのだが、どこかしら体の部位を動かそうとするも全くと言っていい程、その部位の存在を感じられない。そのくせ、体を動かそうと意識すると、目の前の視点がまるで目がついているかのように移動している。確か、自分は先ほどまでパナシェを助けるために迷宮に潜り、巨人と闘っていた筈だ。何故、こんなところにいるのだろうか。星空を見ながら思案に耽っているその時――
「この駄剣ーーーーーーーーッ」
『アババババババババッ』
唐突に女性の怒りの声が聞こえ、それに伴いハルらしき叫び声が響く。その姿を確認しようと三百六十度見回すも人影らしきものは見えない。
『ぐぅ、突然酷いではないか』
「酷いのはあなたの方よ、ハル。危うくアルクが死んじゃうところだったじゃない」
『だが結果的には勝利したぞ。まあ、これも日頃の私の施した鍛錬の賜物だが』
「この馬鹿ぁ!」
『アババババババ』
再びハルの悲鳴が響く。一体何をされているのだろうか。そしてハルと話している女性は一体何者なのだろう。アルクは両者に話しかけようとするが、声が出ないため、二人はこちらに気付かない。
「あんなの、十回やったら九回は死んでたわよ。イヤボーン祭りでようやく勝ったんじゃない。ご都合主義もいいところよ。それに生きてたからって無理をさせ過ぎよ。あぁ、こんなに魂をすり減らして」
途端に、アルクは自身が暖かさに包まれるのを感じた。まるで誰かに抱きしめられているようだ。その温もりは何故か不思議と懐かしく、胸が締め付けられるぐらいに切なかった。
「それにアルルもアルルよ。あの娘、自分の信徒を救うためだからって、アルクに丸投げしちゃってさあ。とっちめてやろうと思ったら、もう逃げてんの。逃げ足だけは素早いんだから。今度捕まえたらお尻百叩きの刑ね」
『まあ、結果としてパナシェの加護も役に立ったからな。彼がいなければアルクの生存はなかった。まあ、最初のきっかけとしてパナシェの救出という困難な問題があったが、あそこで見捨ててしまったらアルクの大きなトラウマになっていただろうからな。そして結果的にアルクは死んではいない。運命に抗い、勝利を収めた。真の主人公となったのだ。私も戦闘中は泣き出したい気持ちだったが、いまはただ彼を褒めてやりたい』
ハルのその言葉に、女性は大きくため息を零す。
「まあ、全部結果オーライって奴ね。でもね、そうやってあんまり大きなものばかり背負わせてしまうと取り返しのつかないことになるわよ。私はこの子をラッドみたいにしたくはないわ」
『無論だ。アルクはこれから自分の幸福のために、楽しく冒険をしていく。私がそれを全力で支える。ラッドのように、アルクに世界を背負わせたりなんかはさせないさ』
「不安だけど、あなたのその言葉を信じるわ。ああ、そうだ。あなた達これからアデルハイドに行くんでしょ。あそこにはナギサがいるもんね。なら少しは安心できるわね」
『ああ、アデルハイドは彼の整えた制度によって、冒険者にとってメッカのような場所だからな。今は大賢者と呼ばれる彼もこの世界の冒険を愛しているのだろう』
「そうねえ、懐かしいなあ。あの頃は八人で、色々冒険したものね」
二人がしみじみと昔を思い出すかのように語り合う。どうやら互いによく知っている仲らしい。
「まあ、とにかく今後は無茶させないでよ。あなたもバトラーも変なところでポンコツなんだから。しっかりしてよね」
『……承った。今回はアルクの治療に協力して貰い、本当に感謝している』
「そうね、今回の魔力枯渇で、慢性的なマナ欠乏症を患うところだったからね。でも今回はアルルも干渉してるから、結構きわどいところなのよね。贔屓絶対許さないマンのあいつに目をつけられたら厄介だから、これ以上は出来ないわ」
『十分さ。彼の行為は行き過ぎだが、理解できるところもある。冒険者とは独立不羈の存在。後はアルク自身の力で切り開くまでだ』
「そうね、それじゃあ最後に可愛い私のアルクにお別れを言おうかしら。あら? この子、もしかして認識してる?」
女性の言葉に、アルクは自分が見られているように感じた。しかし、依然としてアクションを起こせないため、ただじっとしていること以外はできない。
『アルクは資質があるのかもしれないな。とはいっても、ここから出たら、きっとこのことは覚えてはいないだろうが』
「そうね、それは残念だけど仕方ないわね。ふふ、アルク。最後によく聞いてね。この世界には素晴らしい場所や出会いがたくさんあるわ。だからあなたは命を大事にしながら、冒険を目一杯楽しんでってね。だって、この世界はそのための世界なんだから。じゃあ、もう行きなさい。あなたの可愛いお友達が待ってるわよ」
アルクは優しく頭を撫でられた気がした。途端に周囲の光景が白く塗りつぶされていく。ふと目の前には黒髪を腰まで伸ばし、白いローブを着た女性が立っていた。アルクはその顔を見ようと目を凝らすも、光によってそれを見ることは叶わず、意識も光に塗りつぶされていった。
目を覚ますと、そこには見知らぬ天井があった。
「知らない天井だ」
『パーフェクトだ、アルク』
「うわっ、ハルか。びっくりした。何がパーフェクトなの」
『目覚めた後のその発言が、だ。凄い主人公っぽさが出てたぞ』
ハルの言葉に首を傾げながら、アルクは一体どうして今自分が見知らぬ部屋で、ベッドに横になっているのか考えた。確か、自分はあの迷宮で……。
「気を失っちゃってたのか……」
『ああ、君は力を使い果たし、そのまま倒れてしまったのだ。モルトが担いで、君を地上まで運んだ』
「あの、迷宮の中を? 帰りは魔物は大丈夫だったの?」
『あれは、あのミミとかいう子供が引き起こした術だったためだろう。あの巨人が倒れた後、他の魔物もほぼ同時に絶命していた。だから帰路は魔物に襲われることなく皆無事に帰ることが出来たのだ』
「そっか。よかった」
正直、あの巨人と闘っているときは、帰りのことまで考えている余裕はなかった。それだけあの巨人は強敵であり、死者なしで切り抜けたことは奇跡の所業といえた。皆が無事に帰還できていたことにアルクは安堵する。
『ちなみにアルクが気を失ってから今日でちょうど一週間だ』
「一週間ッ!」
それほど長い間、自分は寝ていたのかと、アルクは驚愕する。
『オーバーブレイクによる消耗、ということだろう。その権能が切れた後も、あれだけの大技を繰り出したのだから、摩耗して当然だ。しかし、驚いたぞ。あれはまさしくラッドの得意技だった。あれを一体どこで?』
「ああ、雷鳴剣かぁ。あれは、一度吹き飛ばされた後、夢の中でお祖父ちゃんが出てきたんだよ」
アルクはあの時の出来事を説明する。夢にしてはやけに鮮明であり、いまでもはっきりと思い出すことが出来た。その話を聞くと、ハルはううむと唸った。
『私にそんな権能はないぞ』
「お祖父ちゃんもそう言ってた」
『そうか……。それ以前の所有者で似たようなことを言った者もいたが、アルク程明確に見た者はいないなあ。私も長年生きているが、不思議なこともあったものだ』
「そうだね、でも実際助かったし、お祖父ちゃんに会えて嬉しかったよ。あっ、そういえば夢といえばもう一つ……」
そこまで言って、アルクは言葉に詰まった。自分は今確かに、夢の内容を語ろうとしたが、それを頭に浮かべようとした瞬間、霞がかかったかのようにぼやけてしまう。必死に思い浮かべようとすればするほど、それは遠ざかっていった。
『どうした?』
「ん、夢をみたんだけど、忘れちゃった。女の人とハルが話しているんだけど、何を話してたのか全然思い出せない」
『……そうか。まあ、夢とはそういうものだ。気にしない方がいいぞ』
アルクはハルの言葉に納得し、それ以上思い出そうとすることをやめた。夢とはいえ、必要なことであれば、そのうち自然に思い出すだろう。そう思い目を閉じると、アルクの耳に誰かの寝息が聞こえてくる。それは自分の足元からであった。確認するため、上体を起こす。一週間臥していた体は、まるで自分の身体でないように重い。
「あっ」
寝息の正体はパナシェであった。ベッド横の椅子に座り、アルクの足元に突っ伏して、顔をこちらに向けて寝ていた。その姿を見て、アルクの胸に今更ながら達成感がこみ上げてくる。自分は友達を救うことが出来たのだ。
『パナシェには礼を言うといい。アルクが倒れた後、ずっとつきっきりで寝ずに看病してくれていたんだ』
「うん、わかった」
「う、うーん」
アルクが起きたためか、パナシェもうめき声をあげ、眠りから覚めた。体を起こし、ぼやけた目を擦りながら、こちらを見つめる。そして、アルクが覚醒しているのを見て、目を丸くした。
「あ、あ、アルク、目が覚めて」
「うん、たった今起きた。ずっと看病してくれてたってハルから聞いた。ありがとう」
「そんな、お礼を言わなきゃいけないのはオイラの方だよ。あんな無茶までさせて、命を助けてもらって……オイラ、もしアルクがこのままアルクが目覚めなかったらどうしようって」
そこまで言って、パナシェはアルクに抱きつくと、オイオイと泣き声を上げる。アルクは初め、穏やかに笑いながらパナシェの頭をそっと撫でたが、しばらくすると感極まったパナシェの腕の力が強くなっていくことに気付く。
「ぱ、パナシェ。ちょっと力が強」
「もう本当に駄目かと思った。無事でよかったよお、アルクぅー」
今度は喜びの声とともに、力がさらに強まった。アルクの身体の骨が軋み始める。アルクはさすがに苦しく思い、制止しようとして、声が出せないことに気付き愕然とした。振りほどこうともがくが、まるで固い巌のようにパナシェの腕は動かない。そうしているうちに気が遠くなってきた。
『ハッハッハッ、麗しい友情ではないか、アルク。とはいえ、いつまでもこうしているのも何だから、そろそろ会話へと移ろうじゃないか。なあ、アルク、どうして返事をしないんだ』
ハルがその友情を微笑ましく見守っていたが、いつまでも返事をしないアルクを怪訝に思い、そして異変へと気付いた。
『ひぃ、アルクッ! いかん、顔が紫色に、チアノーゼか。おいっ、パナシェ、君の怪力でアルクがヤバいこととなっている。拘束を解きたまえ、って喜びのあまり聞こえていないっ! アルク、しっかりしろっ。おーい、誰かーーー』
一向に振りほどかれないパナシェの抱擁に、ハルがたまらず声を上げ、助けを呼ぶ。そのおかげか、救世主が部屋へと入ってきた。
「なんだか、騒がしいわね。パナシェ君、アルク君が起きたのかしら。って、アルクくーん」
部屋へと入ってきたアネットが、顔を紫色にして泡を吹くアルクを見つけ悲鳴を上げる。
アネットが咄嗟にパナシェを羽交い絞めにして離し、アルクはなんとか一命を取り留めたのであった。
「うぅ、ごめんよぉ」
「もういいって」
リビングへと移ったアルクの目の前では、パナシェがしょげていた。あの後、アルクはパナシェの加護の力により、何とか回復することが出来た。しかし、パナシェは喜びのあまりにしたこととはいえ、アルクを窮地に追い込んだことに落ち込んでいた。
「そうよ、やられた張本人のアルク君がいいと言っているのだから、気に病むのはかえって良くないわ。それに知ってる? ドラゴンの子供は幼い頃、喧嘩とじゃれ合いで社会性を学ぶんですって。次から気をつければいいのよ」
アネットが、そう蘊蓄を披露しながら朝食をテーブルの上に置いてくれる。
アルクは倒れた後、アネットの家で厄介となっていたらしい。アルクが寝ていたあの部屋は以前はリーネが使っていたものだと、今しがたアルクはアネットから聞いていた。この広い家はアネット一人が住み、両親は既に他界しているとのことだった。
「すいません。一週間も泊めてもらって、その上、看病まで」
「いいのよ、そんなの気にしないで。あなた達はメレンを救った英雄なのよ。さあ、英雄さんにふさわしいかものはわからないけど朝食にしましょう。アルク君もたくさん眠ってお腹が空いているでしょうね。急に食べると体に毒だから、消化に優しい小麦のミルク粥よ」
アルクの言葉に、アネットは笑ってそう答える。アルクは礼を述べると、粥を啜った
。口に含むと、一週間何も食べていなかったためか、優しい甘さが全身にくまなく染み渡る。
『アルク、病み上がりの身体だ。ゆっくりとよく噛んで、体を労わる様に食べるんだ』
アルクは頷くと、口の中でよく咀嚼し、全身にくまなく栄養を行き渡らせるように、ゆっくりと食べ始めた。パナシェも目を細めながら、粥を口いっぱいに頬張っている。
食事の間、アネットから、スタンピード後のメレンについて詳しく情報を聞くことが出来た。通常のスタンピードとは違い、意図的な召喚によるものであったため、アルク達がその根源を打倒したことによって、被害は驚くほど少なく済んだとのことだった。とはいえ、犠牲となった少数のものたちもいた。あの迷宮で魔物の群れに飲まれ、亡くなった冒険者もいれば、迷宮からあふれた魔物に襲われ死亡した町民もいるとのことだった。町の施設なども魔物に破壊され、復旧には暫く時間がかかる見込みらしい。
「それと、あなたたちのことなんだけど」
アネットはすまなそうな表情を浮かべる。何か言いにくいことがあるらしい。パナシェはそのことについて知っているのか、気まずそうに俯いている。
「今回の件なんだけど、解決したのはモルトとそれに付き従ったトリプルファングってことにして欲しいの。といっても、事後承認になっちゃうんだけどね。今回のあなたたちの功績は素晴らしいわ。正当に評価すれば冒険者ランクも飛び級で上がるでしょう。でも、今回アルク君とパナシェ君は関わっていないということにして、王都のギルドには報告しているわ」
『それについては私もモルトと相談し、それが望ましいということを伝えた。確かに冒険者ランクの飛び級は魅力的ではあるが、もし今回の件で名前が売れれば、王都の冒険者ギルドに目をつけられてしまうだろう。いくらこの国が冒険者に対し、興味をあまり持たないとはいっても、才能に対しては別だ。それにスーラのギルドも国の冷遇故に人材の収集にはより熱心だ。今、篭絡しやすい程の年齢の君たちの名が売れた場合、貴族やギルドに強引にスカウトされる恐れもある。下手したら裏世界の者たちが洗脳などの外法を用いてくる可能性だってゼロではない』
「かなしいけど、否定はできないわね」
アネットが苦笑いをしながら、頷く。
『これは実体験から来ているんだ。君の祖父ラッドは君と同じように名を上げ、それ故にこの国の貴族や、裏のギルドと揉めてしまってね。実際、苦労した』
「それに、今回の件はメレンのギルド幹部と、ケイネスが結託した結果起きたことだからね。そいつらはあの時、あっという間に隣町まで逃走してたのよ。その件も含めてきっちり王都のギルドへ連絡したけど、今必死に弁明しているみたい。アイツら上に取り入るのだけは上手いから、もしかしたら言い逃れして、結局この町に戻ってこれちゃうかもしれない。だから、メレンのギルド出身のモルトを英雄に仕立てて、膿を出し切っちゃおうってことになった訳なの。もし、よそ者がぽっと解決しましたって話が出ると、それが出来なくなっちゃうから」
アルクは別段異論はなかった。実際、今回のクエストはモルトの力によるものが大半だ。もし彼がいなければ、最後の戦いはまともに太刀打ちすることすら出来なかっただろう。だから、アルクは微笑みながら、静かに頷いた。
「ありがとう、アルク君。あなたたちの功績は公式には認められないけど、でも私たちは決して忘れないわ。私からも感謝の言葉を言わせてちょうだい。私の町を守ってくれて、本当にありがとう」
アネットはアルクの手を取ると、優しく瞳を覗き込み、頭を下げた。
朝食後、アネットの勧めでアルクはパナシェとリハビリがてらの散歩へと出かけた。アネットは今日は久方ぶりの休日らしく、ずっと寝て過ごすらしい。
現在メレンの町は既に復興が進められており、人の声が絶えず行き交っている。そんな街中をアルクはゆっくりと歩いていく。しかし、体に痛みはないが、やはり重さを感じ、バランスもどこかチグハグである。ハルが言うにはオーバーブレイクで能力を無理やり上げると、五感がくるってしまうことはよくあるらしい。これも矯正するまで暫く時間がかかるということであった。
『それを治すまでは本格的な冒険は控えたほうがいいだろう。暫くはここに滞在することとしよう』
「うん、そうだね。それはわるくない」
ここには死線を潜り抜けた友たちがいる。今回のスタンピードを経て、アルクはこの町に愛着を覚えていた。
「その間は、パナシェとも遊んだりできるね」
アルクがパナシェにそう笑いかけると、パナシェはその足を止めてしまう。
「パナシェ?」
「アルク、話したいことがあるんだけどいいかな?」
パナシェは少し思い悩んだ素振りを見せるも、すぐ覚悟を決めた表情でアルクを見つめる。アルクはそんなパナシェの言葉に、静かに頷いた。しかし、周囲の喧騒が少し気になったアルクはパナシェを別の場所へ誘うことにした。この近くにはアルクがコテージを使用するために行っていた小高い丘があったため、そこで話を聞くこととした。
「うん、ここじゃなんだから落ち着いて話せる場所に行こう」
アルクの提案に、パナシェは賛同し、二人は町はずれの丘へと移動する。小高い丘の上で、パナシェはその景色に歓声を上げる。
「うわあ、メレンの町が一望できるね」
「うん、結構いい場所でしょ」
「何年も住んでいたけど、あんまりそういうのは気にも留めなかったなあ」
晴天の青空と相まって、町は陽気にアルク達に微笑んでくれているようだ。
「それで話って」
「あ、うん。さっきの話と内容は被っちゃっうんだけど、あの巨人を倒した後、他の魔物が一斉に死んじゃったって言ったでしょ」
「うん」
「そのお金の何割かは倒した冒険者に分配されることになるんだって。それにね、あの巨人の落とした剣も希少金属で、魔石もかなり高純度のものだったらしくて、皆で分け合っても、相当な額になったんだ。でね、モルトさんがオイラにも受け取る資格があるって言って、最初は拒否したんだ。オイラは命を助けてもらっただけだからね」
本当に申し訳なさそうにパナシェはその時のことを語る。
「でも、モルトさんに言われたんだ。オイラの事情もあるけど、本当にそれだけでいいのかって。助けに来てくれた人たちの善意や、アルクの友情に報いなくてもいいのか、後悔するぞって。オイラ、それで悩んだけど結局受け取ることにしたんだ。ペールさんたちもそうした方がいいって、言ってくれて。でね」
パナシェはそこで一旦、言葉を止める。言おうかどうか悩んでいるようだったが、アルクの顔を見ると、一度ギュッと目を閉じ、そして再びアルクを見た。
「その金額で借金全部返済できたんだ。ちょうどほぼぴったりで、ほぼ一文無しになっちゃったけど、もうオイラ自由になれたんだ。体の刻印も消えて、どこにだって行けるって、モルトさんも言ってくれて。だからね、アルク、お願いがあるんだ。オイラも一緒にアルクと行ってもいいかな。あの戦いのとき、思ったんだ。ああ、アルクと一緒にこの先に行けたらって。あっ、まだあの誘いが有効ならだけど」
パナシェは顔を紅潮させながら、アルクにその想いを告げてくれた。勿論、アルクに異存はなかった。アルクもまたあの戦いの中で、同じような思いを抱いたからだ。
「勿論有効だよ、パナシェ。ずっと待ってるって言っただろ。僕からもお願いするよ。僕と一緒に冒険の旅に出かけよう」
「う、うん。よろしくっ、アルクッ!」
『よかったな、アルク』
アルクが差し出した方手を、パナシェは力強く両手で握りしめる。指の骨がゴキュリと音を立て激痛が走ったが、アルクは何とか我慢を貫き、それをパナシェに悟らせぬことになんとか成功したのであった。




