必殺
「どうした、どうした。もう終わりか? お前さん、それでも主人公のつもりかい?」
突如として掛けられた声に、アルクは驚き、跳ね起きる。
「あ、あれっ?」
「あれをやるには火力が少し足りねえなあ」
目の前には若い青年がいた。アルクの前にしゃがみ込み、覗き込むようにこちらを見ている。周囲には景色というものがなく、真っ暗な空間しかない。青年はアルクと目が合うとニカッと笑う。その人物に見覚えはなかったが、なぜか無性に懐かしい気がした。
「皆は? あれから」
「まだ、ほとんど経っちゃいねえよ。皆はまだあそこにいるぜ。あのデカブツもな。お前さん、意識を失っちまったんだよ」
「ッ! じゃあ、戻らないと」
「まあ、落ち着けよ。今戻ったとして打開策はあるのか」
「それは……」
そこでアルクは口ごもってしまう。オーバーブレイクの効果が失われ、怪我を負ってしまった自分には、もう成す術がない。絶望がアルクの心を蝕んでいく。
「おうおう、そんな顔しなさんなって。男の子は最後まで諦めたら駄目なんだぜ」
「でも、どうすれば」
「うーん、アイツはある程度瀕死になると能力が上がる権能持ちみたいだな。ボスモンスターにはよくある能力だ。あれがサイクロプス擬きなら本家と同じく自動回復もあるかもな。早く仕留めないと確かに詰みだなぁ」
顎に手を上げながら、のほほんとそう話す青年。その態度にアルクは苛立ち、詰問する。
「なら、どうすればいいってんだよ」
「おっと、怒ったか。いいぜ、お前さん、少しばかり大人し過ぎだからな。そういうところは俺じゃなくてマーサに似たな」
青年は犬歯を覗かせながら、またニィと笑い、アルクの頭をぽんぽんと撫でる。
「えっ、なんでお祖母ちゃんの?」
「まあ、今はそんなことはどうでもいいだろ。ともかく、お前もハルを持って冒険してんだから、こんな序盤のボスで終わったら駄目だぜ。お前も俺と一緒で主人公なんだからよ」
「……もしかして」
「まあ、そんなところだ。今からお前さんにとっておきを教えてやるよ。現役時代に俺が編み出した超カッコいい必殺技だ。ほれ見ろ」
青年が顎をしゃくり上げると、その方角にはおぞましい魔物がいた。八本の首を持つ異形の蛇。確か図鑑に載っているヒュドラという高位の魔物だ。
「今から実演して見せてやる。いいか、一回しか見せてやれないからよく見ておけよ」
青年は臆する様子もなく、どこからともなく剣を取り出す。その剣をみて、アルクは驚愕の声を上げると共に、目の前の人物が自分の思い至った人であったことを悟る。何故ならその剣はアルクが一番よく知っている剣であったからだ。
青年はヒュドラへと駆けていく。ヒュドラの繰り出す八本首の攻撃を紙一重でヒョイヒョイ躱すと、その首の内の一本へと飛び乗り、更に跳躍した。青年が剣を振りかぶると、虚空より雷が発生し、そして剣へと降り注ぐ。
「あっ」
「でりゃああああっ」
繰り出された斬撃はすさまじく、ヒュドラの巨体をなんなく両断する。倒されたヒュドラは光の粒子となり消えてしまう。青年はアルクへと振り返ると、親指を立てて見せる。
「どうよ」
「凄い……」
「魔法と剣、この二つの威力を合わせることで、何倍もの相乗効果を得ることが出来るって寸法よ」
「でも、僕に出来るかな」
「やらなきゃ皆、死ぬだけだぞ。泣き言を言ってる暇がお前にあるのか」
その言葉にハッとなり、アルクは青年の目を見据える。
「いい眼だ。覚悟が決まったか」
青年は済んだ瞳で、これまでにない優しい笑顔を見せた。
――ク、アルクッ!
そのとき、どこからかパナシェの声が響く。
「パナシェ!」
「どうやら仲間が呼んでるみたいだな。行ってやりな」
青年がそういうと共に、周囲の空間に白いひびが入り始める。それと同時に青年の姿もだんだんとぼやけていく。
「あっ、ありがとう、お祖父ちゃん」
「ん、いいってことよ。俺もまさか孫に会えるとは思わなかった。息子の顔さえ見れずに死んじまったからなあ。でも俺のときはこんなことは一度もなかったけど、まあいいか。ハルのやつもなんだか訳のわからない剣だからな、アイツ」
青年は髪をかき上げながら、そうぼやく。そして、突如打たれたようにハッとしながら、アルクに叫ぶ。
「そうだっ。アルク、忘れてた。最後に一つ伝えとくぞっ。今の技な、一子相伝って設定で、技の名前は」
アルクがそれを聞くと同時に、世界が白く塗りつぶされ、何も見えなくなった。
アルクが突如、咆哮の呪縛を解き、モルトと共に巨人へと挑むのをパナシェはハラハラとした気持ちで眺めていた。トリプルファングの皆も必死に声を上げ、絶えず二人に声援を送っている。アルクが単眼の巨人の目に剣を突き立て、魔法を放つと巨人が倒れ伏し、パナシェも喝采をあげた。だが、その直後アルクが単眼の巨人に弾き飛ばされ、パナシェの横を凄い勢いで転がりながら、岩へと激突したとき、全身の血がサッと引くのを感じた。
動かぬ体で、必死にアルクの方を見る。アルクは体を起こそうと何度かもがいていたが、ガクッと脱力し、動かなくなってしまう。
「アルクッ」
パナシェはアルクに必死に呼びかけた。だが、アルクは動かない。
「くそっ、せめて体が動けば」
「畜生、モルトさん一人じゃ」
「私たち、もう……」
皆が絶望に打ちひしがれる中、パナシェは必死にアルクの下へいこうとするが、足がピクリとも動かない。このままではアルクが死んでしまう。自分を助けに来たために死んでしまう。凄まじい焦燥感がパナシェを襲った。血が出るほど、唇を噛みしめ、力を入れるが体が動くことはなかった。最早自分では何もできないのか。無力感に打ちひしがれ、パナシェは思わず神に祈った。祈るべき神を定めていないため、全ての神に祈りを捧げる。それはただひたすらに無垢なる祈りであった。
(どの神様でも構いません。創世の神ナユタ様、闘神アバイ様、知神トト様、誰でもいいから構いません。アルクを助けてください。もし願いを叶えてくれるのなら、命だってなんだって差し出します)
――クスッ。
祈りを捧げたとき、パナシェの耳に小さく笑う女性の声が聞こえた。
(ぇ……)
――フフッ、何故か忘れてるみたいだけど、加護ならとっくに与えられてるよ。祈ってくれたからようやく接触できたけど、君には既に僕が与えてるんだよねえ。
突如響いたその声を、パナシェは以前に聞いたことがあるような気がした。
(すいません、オイラ記憶喪失で)
――そうなんだ。僕も君みたいなかわいい子に加護を与えたなら、どこの誰だか覚えている筈なんだけど、思い出せないなあ。まあ、いいや。とにかく、君には僕が与えた加護があるから使えるはずだよ。体は覚えていなくとも、魂では覚えてるからね。やってみるといいよ。これ以上干渉すると、僕が制裁されちゃうから、行くね。じゃあね!
(えっ、ちょっと待って。助けてくださいっ)
しかし、語りかけられた声の気配は既に感じられることができない。しかし、加護が与えられたと先ほどの神らしき存在は言った。神の加護を得た者は、特殊な能力を得るという。自分の記憶にはないが、記憶を失う前に何らかの力が与えられていたのだろうか。パナシェはそれを信じて、目を閉じ、恐る恐る自身の内の何かを模索する。
(魂では覚えている……あっ)
パナシェはふと己のうちに、光輝くものを見つけた。そっとそれに触れるイメージを浮かべ、手を伸ばす。すると、パナシェの全身を光が走り抜ける。
「思い……出した……」
記憶をではない。自身の内に眠る加護の力をだ。その能力の意味を思い出し、パナシェは加護の力を自身へと振う。呪縛の力が解除され、四肢が自由に動き出す。
「アルクーーー」
パナシェは、アルクの下へ弾丸の様に駆けていく。たどり着くと、アルクの身体にそっと触れてみる。アルクの身体がピクリと動き、その眼が見開かれた。大事な少年の生存を確認し、パナシェは心の底から安堵のため息を零したのであった。
目の前でホッとため息をつくパナシェを見て、アルクは自分の意識が戻ったことを知る。体を必死で起こそうとすると激痛が全身を貫く。崩れ落ちそうな身体をパナシェが、横から支えてくれる。
「ありがとう、パナシェ。ハルっ、どのくらい落ちてた」
『ほんの十秒程度といったところだな。君が死んでいなくてよかった。とはいえ、アルクの怪我は笑えないレベルだぞ。奴のマナ干渉のせいでアイテムボックスからポーションも出せない。打つ手はなしだ。やはりこのまま』
「それはなしだ。僕は主人公だから。あいつをぶっ倒して皆で帰るよ。たった今あいつを倒せる超必殺技を覚えてきたから」
『おいっ、大丈夫かアルク。たった今って、頭でも打ったか』
「かもね。クソッ、右腕がやっぱ折れてるな。でも、まだ左腕は動く。あいつに絶対ぶっ放してやるんだ。パナシェ、お願いがあるんだ。僕をモルトさんのところへ」
アルクの言葉に、パナシェは少し不安そうな顔をするが、アルクの目を真っ直ぐ見て、そして頷く。
「うん、わかったよ。でもちょっと待って。その怪我じゃまともに戦えないでしょ」
パナシェがアルクの傷ついた体にそっと手を振れる。すると、眩い光がそこから発せられ、見る見る内に傷口が塞がっていく。折れていた右腕も自然と繋がったようで、アルクの意思に従って、再び自由に動かせるようになっていた。
『パナシェ、君は加護持ちだったのか。それにその癒しの力……。成る程、この場所を教えたのは彼女かっ』
ハルがパナシェの加護を見て、納得したかのように小さく叫ぶ。
「うん。記憶をなくす以前に、加護を貰ってたんだって。といっても記憶は戻ってないし、神様もオイラが誰かは覚えてなかったけど。もっと早くこの力を思い出せてればよかったんだけど。ごめんね」
「そんなことないよ。でもありがとう。おかげで体も動くようになった。モルトさんのもとへ急ごう」
アルクは駆け出すと、モルトの隣へと移動する。モルトもまたその怪我は酷く、剣を支えになんとか立っている様子であった。巨人は動きを再度停止しているが、よく見ると、体に受けている傷が徐々に塞がっている。
「おぉ。お前、無事だったか」
アルクの姿をみると、モルトは驚きに目を見開く。そして隣に立つパナシェに訝し気な表情を浮かべた。
「うん、何とか。モルトさん。あいつに後一撃加えたいんだけど、今の僕じゃアイツの攻撃を捌けない。隙を作って欲しいんだ。早くしないと、回復されて詰みだよ」
「まあ、それはわかっているが、随分と酷なことを言うな。もう俺も立っているのが限界なんだぞ」
「それならオイラが」
パナシェが前へ進み出て、アルクと同様にモルトの傷を治す。モルトもその加護の力を目にして目を丸くする。
「加護持ちだったのか」
「さっき、思い出したらしいですよ」
「そうなのか。まあ、今はそんなことより、アイツを倒すのが先か。とはいえ、もう隙を作るのは相当難儀しそうだが」
『あのレベルではトリプルファングの面々では戦力にはなれないだろう。近づけば瞬殺もありえる。頼れるのは君だけだ』
「とはいってもなあ、本当にやれんのか」
そうぼやきながらも、モルトはアルクにそう問いかける。
「うん、あのデクにとっておきを食らわしてやる」
不敵に笑い、頷くアルク。その表情に何かを感じたのか、モルトは苦笑いしながらも、頷いて見せた。
「わかった。やってやる。成功は期待するなよ。次で正真正銘最後だからな。体の傷は治ったが、体力はもうからっきしなんだ」
「うん、それは僕も同じだ。でも、とどめはまかせて欲しい」
モルトは何の根拠もないだろうアルクの言葉に再度苦笑し、その頭に手をやると、ガシガシと撫でる。そして、大剣を地面から引き抜き、その面を額へと当てた。剣に向かって、祈る様に小さく何かを呟くと、悠然とした態度で巨人の前へと進み出ていく。敵の気配を察知したのか巨人は閉じた単眼を見開き、ギョロリとモルトを見据えた。その眼からは依然として、涙の様に血が流れ出ていた。
「行くぞ、皆」
今はいなくなってしまったかつての仲間に向かって、昔の様にそう語り掛けると、モルトは打ち倒すべき敵へと向かって歩きだした。次失敗したら待つのは確実に死だ。
なのに不思議と気分は冴えわたっていた。こんな気分になったのはいつ以降だろう。仲間が皆健在で、共に高みを目指していたあの頃は、いつもこんな気持ちでクエストに臨んでいた気がする。
モルトは単眼の巨人という強敵の前へと歩み出ながら、何故だかそんなことを考えていた。このような感慨を抱くのは、アルク達を見ていたからだろう。自分が失ってしまったものを、彼らは皆持っているのだ。失ってから、なんとか取り戻せないか、縋るような気持ちで毎日を過ごし、当然のことながら取り戻せないと納得せざるを得なかった。その後に来る失意の日々を、ただ無為に過ごしていた。まさか、再びこの高揚をあの仲間以外と覚えようなどとは想像もしていなかった。
(生きている限り、冒険は続く、か……)
まだ自分も旅の途上なのかも知れない、とモルトは師の言葉を思い出す。終わらないのか、終わらせられないのかは分らないが、それでも今自分は冒険へと身を置いているという強い実感が、鍛え上げてきた肉体に力を与えてくれている。
巨人の攻撃範囲へと足を踏み出すと、巨人は単眼を開き、こちらを睨みつけてくる。
「来いよ、木偶の坊」
その挑発に乗ったかは分からぬが、巨人は悠然と立ち上がり、その巨剣を凄まじい速さで振り下ろす。その速さは先ほどの比ではなかったが、モルトはその一撃を奥歯が砕けるのではないかというほど噛みしめて、受け止めた。衝撃に全身の骨が軋む。脳髄にすらそれは届いたようで、強い眩暈が襲ってくる。筋肉の引き攣る音が耳に聞こえるほどに力を込め、その一撃をなんとか跳ね返したモルトは、眦が裂けん程に相手を睨み付ける。
間発入れずに、二の撃がモルトに向かって繰り出された。先ほどの攻撃の衝撃で、体中の五感が麻痺するほどにダメージが残っていたが、腹の底から雄叫びをあげると共に、敢然とそれを迎え撃つ。
一撃受け損なえば即死という状況で、モルトは二合、三合と巨人と切り結んでいく。噛みしめた奥歯が砕け、糸の切れるような音が四肢から聞こえても、一切省みずその場に踏みとどまり続けた。
火事場の馬鹿力とばかりに、素晴らしく冴え、鋭ささえ増していく剣戟に反し、その意識は朦朧とし始めていた。いつしか、心にはかつての冒険が鮮やかに去来する。頼もしい仲間達、そして幼馴染にしていつしか最愛の女性となっていたリーネ。彼らがいつも送ってくれた声援がいつしかモルトに聞こえ始めていた。後一歩、もう少し、頑張って。痛覚すら感じなくなったモルトを、ただその声援だけが突き動かした。
自身の攻撃を何度も跳ね除けられた焦りからか、巨人はどう攻めればよいのか考えあぐね、少しばかり間を置くと、巨剣を大きく上段に振りかぶる。その剛力による一撃は確かに脅威であったが、その単純さ故、見切るのは容易かった。モルトの長年の経験が、勝負を賭けるならここだと告げる。鈍く動く思考を、意思の力で総動員したとき、その耳に自分の名を呼ぶ彼女の声が響いた。
「―――――」
言葉にならない叫びと共に、全ての力を振り絞り、振り下ろされた巨剣の背に向けて、横殴りの一撃を叩きつける。敵の姿勢を崩さんと放った一撃だが、迷いなく振り払われた斬撃は、その巨剣を巨人の手から弾き飛ばすことに成功した。それと、同時にモルトの大剣もビキリと音を立て、そして粉々に砕け散る。その欠片が放つ粒子の中に、それを贈ってくれた仲間達の照れた笑顔をモルトは確かに見た気がした。
次の瞬間、矢のように放たれた影がモルトの横を駆け抜けていく。今、モルトと共に死線を潜り抜けようとする戦友は、まさに起死回生の必殺技を繰り出そうとしていた。その背中に向かって、モルトはありったけの想いを叫ぶ。
「いけっ、アルクッ」
「凄い……」
モルトの奮戦に、隣のパナシェが呆然と呟くのが聞こえた。その背中を見ながら、アルクもその戦いのレベルに愕然とした。自分はまだあの領域には、たどり着くことは出来ないだろう。膂力も、身長も、技術も、経験も、何もかもが足りていなかった。
そんな死闘を目に焼き付けながら、アルクはひたすら呼吸を整える。オーバーブレイクの効果がない今、アルクの残存魔力はほぼないといってよかった。今はチャンスを窺いながら、全身を巡るマナを一心にかき集めること以外に、アルクの出来ることはなかった。
目の前には濃厚に死の気配を放つ、凶悪な魔物がいる。逆転できるチャンスは後一回。それなのにアルクはこの状況に高揚感を覚えていた。目の前の視野も以前とは違う。ただ見るだけでなく、まるで世界を俯瞰しているかのように捉えていた。目の前の敵は障害、だがあれを打倒した先に、自分の冒険は続いているのだと感じている。
相手を打倒し、未来を拓く。その覚悟だけで、全能感にも似た何かがアルクを包み込む。こんな感覚は小さい頃、無邪気に原っぱを駆け、どこまでも行けるのではないかと夢想した時以来ではないか。アルクはその時が来るのをひたすら待った。
モルトが攻撃をことごとく防ぎ、それに焦れた巨人が大雑把な一撃を繰り出そうとした時、アルクは雷に打たれたかの如く、無意識に飛び出していた。
果たして、モルトは巨人の剣を弾き飛ばし、巨人はその体を大きくぐらつかせる。アルクはモルトの横を駆け抜け、巨人に肉薄し、いまだ地面近くに置かれた腕へと飛び乗った。そして腕伝いに走ると、巨人の頭部へと駆けのぼる。
「いけっ、アルクッ」
「アルクーーーーー」
「「「いっけーーーーー」」」
モルトやパナシェ、トリプルファングの三人の声がアルクの耳にはっきりと届く。巨人の頭部に肉薄しながら、アルクは自身に向けてサンダーボルトを放つ。
「来いッ」
雷撃がアルクに向かって放たれる。それをアルクはハルの刀身にて受け止めた。
「ぐうぅ」
予想以上の衝撃に、剣が手からはじき出されそうになるが、気合と根性を総動員し、柄をしっかりと握りしめる。刀身より零れ落ちそうな魔力を必死の想いで繋ぎとめると、アルクは自分をねめつけてくる赤くなった単眼に向かい、振りかぶる。放つは一子相伝の超必殺技、その名は――。
「雷鳴剣ッ」
アルクが剣を振りぬくとともに、閃光が走る。そして間を置かずに巨人の頭部がけたたましい爆音とともに爆ぜた。頭部を失い、仰向けに倒れ伏す巨人から振り落とされるように、アルクは腰から地面へと落ちる。しかし、先程の例もあるので、ハルを杖替わりに必死に体勢を立て直し、ハルへと叫んだ。
「ハルッ」
『敵は……マップより、反応が消失している。やったな、アルク。君の勝利だ』
ハルの言葉に、アルクはまだ実感がわかぬまま、マップでの反応を自身で確認し、そして巨人の遺骸を見る。今にも飛び起きて来そうな気がしたが、それはもうピクリとも動かぬようだった。
「やった、やったよ、ハル」
『ああ、こんな激戦の経験は私自身もそうそうない。正直君を失うかもしれないと終始恐怖に慄いていたよ』
「でも勝った。これで、これからも冒険できるね」
アルクは笑顔でハルに答えると、仲間たちの方へと振り向く。パナシェがこちらへと駆けてくるのが見えた。遅れてトリプルファングの三人も駆けてくる。モルトも体を引きずるようにしながらも、ゆっくりと向かってきていた。
喜びを分かち合おうと、アルクも一歩を踏み出したが、そこで唐突に耳鳴りがし、周囲の景色がぼやけて見えた。視界が反転し、なぜか天井が見える。遠くで誰かの声がしたが、判別することすら出来ない。自身に起きたことを確認しようとするが、そこでアルクの意識は途切れた。




