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少年と剣  作者: 編理大河
冒険の始まり
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19/109

ボスバトル


 オーバーブレイク。

 自身の限界を強引に突破し、向上させる克己の権能。全ての能力を劇的に向上させることが出来る半面、引き上げた能力により自分の身体すら傷つけてしまう諸刃の剣である。

 アルクの心臓の鼓動が急激に加速する。引き上げられた集中力によって時間の流れが非常にゆっくりと感じられる。前回バーチャル内でこれを使用した際は、気持ち悪さに耐えられず、強制的にシャットダウンしてしまった。


(来た)


 全身が燃えるように熱くなると同時に、頭は氷のように冷え冴えわたってくる。自身の脳内にHP、MP、STR、INTなどといった多くの数値が浮かび上がり、それらが全て急上昇していくのが解った。その数字がどのような意味をもつのかも、言語で理解することが出来なくとも、大体の意味を今は把握することが何故か出来た。

急速に上昇する能力に、体が軋み激しい頭痛が襲い始める。アルクはバラバラになりそうな五感を、胸を押さえて歯を食いしばり耐え抜く。やがて数値の上昇が止まり、再び時間の流れが元に戻ったとき、アルクは得た力に信じられない程の全能感を覚えた。指先にいたるまで力が満ち溢れ、目の前の視界が驚くほど鮮明に映っている。


「あ、アルク。大丈夫」


 突如呻き始めたアルクを、パナシェが心配そうに見つめる。


「うん、大丈夫だよ、パナシェ。ちょっとモルトさんと一緒にあいつを倒しに行ってくるね。皆はここで待ってて」


 アルクは立ち上がると、足を一歩前へと踏み出す。先ほどの呪縛は既になく、力強い足取りであった。驚きと共に、皆がアルクを見た。


「いくよ、ハル」

『ああ、いっちょボス狩りと行こうか、アルク』


 巨人はまさに今、再びモルトへと襲い掛かろうとしているところであった。モルトはまだダメージが抜けきっていないのか、完全には立て直せてはいない様子だ。


「サンダーボルトッ!」


剣を突き出し、唯一使える魔法を放つ。轟音とともにまばゆい光が飛び出し、巨人の胸部へと直撃すると、その巨体が仰け反り、大きくたたらを踏んだ。その威力に、放ったアルクが目を丸くする。威力もけた違いだが、強制的に引き上げられた魔力のおかげで、後何発かは行使することが出来そうだった。


「モルトさんッ、大丈夫ですか!」

「ああ、何とかな。それより、今のは……」

『私のとっておきだ。今のアルクなら君の足手まといとはならないだろう。と、いっても長時間の行使は無理だが』

「そうか、それならさっさとあのデカブツを倒さねえとな。いけるか?」


 モルトの問いに力強くアルクは頷く。それを見たモルトはこちらに頷き返すと、一歩前に出る。巨人もまた体勢を立て直し、あらたに増えた獲物であるアルクを捕捉すると、咆哮を放ち、こちらへと襲い掛かってくる。

 アルクは咆哮に屈することなく、同じように巨人に向かって駆け出した。巨人はアルクに向かってその巨大な剣を振り下ろす。しかし、今の強化されたアルクの目には、その攻撃の軌道がゆっくりと感じられ、剣の文様までもがハッキリと視認できた。自身の身体に触れるかどうかの刹那に、軽くステップを踏み攻撃を回避する。激しく大地を叩いた一撃は地面を大きく抉り、岩を飛び散らさせた。しかし、既にアルクの姿はそこにはない。


「やあああっ」


 巨人の足元へと移動したアルクは全力の力を込めて、その太い足を薙いだ。強化された腕力で、かつハルの刀身の切れ味をもってしても、その皮膚はおそろしく固く、押し返されるように僅かにしか切り裂くことは叶わなかった。


『アルク、来るぞっ!』


 巨人が片足を振り上げ、アルクを踏みつぶそうとしている。巨人の足裏が眼前に迫る中、アルクは転がるようにしてその攻撃を回避した。


『まだ来るぞっ』


 敵を逃した巨人はもう片方の足で、アルクを蹴り上げようとしてくる。立ち上がったアルクは再度地面に転がり、なんとか避けることに成功する。一撃一撃が致命傷である。フィジカルに劣るアルクでは掠っただけで致命傷となってしまうだろうその攻撃に、たまらず肝を冷やす。アルク一人では攻めることすら、難儀するだろう。そう、一人だけなら。


「でかしたっ」


 蹴り上げるという大きなモーションに、姿勢を大きく崩した巨人に、モルトが詰め寄っていた。そして先ほどアルクが攻撃を加えた個所にその大剣を叩きつける。その一撃は寸分違わず傷口を抉り、その巨大な刀身がくっきりとめり込む。


「ガアアアッ」


 苦痛の声を上げ、身を悶えさえた巨人は、再び距離をとったモルトに剣を叩きつける。しかし、モルトはその攻撃を自身の大剣をもって受け流す。その威力にモルト自身の身体も大きく崩される。止めを刺さんと、モルトに攻撃を加えようとする巨人。アルクはその背後から、傷ついた足に突きを繰り出し、深々と柄まで刀身を突き刺した。


『突きは確かに有効だが、獲物を奪われないよう気をつけろ』


 ハルの助言に従い、素早く刀身を引き抜いたアルク。度々与えられる苦痛に激怒した巨人は、その怒りに任せ地団駄を踏むように、何度も足を振り下ろした。冷静にその攻撃を回避したアルクは、再度距離を取る。


「よしっ、この調子でいくぞ」


 敵を挟む形で正対するモルトが、遠くからそう叫ぶ。


『この調子でヒットアンドアウェイを繰り返せば、なんとかなりそうだな』

「うんっ!」


 しかし、次に取った巨人の攻撃はアルクの予想を上回るものだった。その巨剣を下から振り上げる形で地面へと剣を潜りこませ、アルクに向かって勢いよく振りぬいたのだ。


「ッ!」


 無数の石のつぶてが、勢いよくアルクに飛来する。その範囲は大きく、躱すことは難しいと感じたアルクは咄嗟に当たったら致命傷となりかねない大きな石を確認し、剣と腕で目と心臓を庇う。


「ぐうっ」


小さな礫がアルクの身体を打ち、切り裂いていく。苦痛に耐え、目から腕を放すと、巨人はモルトと対峙しているところであった。しかし、その攻撃はアルクに加えたのと同様、下から振り上げるあの攻撃であり、モルトも近づくことに難儀しているようだった。


『驚いたな。狂化している筈なのに、学習しているのか』

「でも、どうすれば。ああっ、また」


 巨人はモルトを退けると、再度アルクに向かって礫を飛ばす。再び飛来する礫に耐える。どうやら巨人はこの攻撃を繰り返し、持久戦へと持ち込みたいようだ。制限時間があるアルクにとって限りなく有効に近い戦法と言えた。


『この攻撃の前に分散するのはまずいな。アルク、モルトと合流しろ。魔法で隙を作るんだ』

「わかった」


 モルトに攻撃を加える巨人にアルクはサンダーボルトを放つ。しかし、魔法の攻撃を察知した巨人は、大剣の一撃をもって雷を振り払ってしまう。その隙にモルトの側へと迂回し、駆け付けることが出来たアルクだったが、自慢の魔法が防がれたことに戦慄を覚えた。


「大分、やばいことになってるな」

『ああ、このままでは我々の方がやられてしまうだろう。アルクの時間ももうあまり残されていない。次で決めたいな』

「でも、どうやって」

「俺が盾となる。奴の足もかなりのダメージだ。あと少しってとこだろう。近づいて、攻撃できるようになったら抜け出して、何とかしろ」

「でもそれって、モルトさんが」

「他に方法はない。来るぞ」


 見ると巨人があの忌々しいモーションを取っている。モルトが大剣の刀身を盾にするように前に掲げ、アルクの眼前に立ち塞がる。轟音と共に、礫が襲い掛かるが、それは全てモルトだけを直撃する。


「モルトさんっ」

『アルクっ、耐えるんだ。ここで負ければ皆死ぬ。今は奴を倒すための力を溜めておけ』


 アルクはハルの言葉に頷き、歯を食いしばって耐える。モルトが盾になり距離を詰めるが、それは遅い行進であり、同様の攻撃を巨人は何度も繰り返すことが出来た。その度に、モルトは苦痛を押し殺し、呻きながらも前へと進む。そうして、四度礫を凌いだところで、巨人との距離はあと少しとなった。モルトの身体は既にボロボロであり、破けた肩や足から血が流れ出ている。


「ガアアァ」


 距離が縮まったことで、巨人は再び攻撃手段を切り替え、その刀身をモルトに向かって振り下ろす。


「次だぞっ!」


 モルトはアルクにそう伝えると、その一撃を残った体力を振り絞り、受け止める。


「アアアアアアアアッ」


 耳をつんざくばかりに気合の声を上げるモルト。全身の筋肉が目に見える形で隆起し、傷口からは血が勢いよく噴き出した。モルトが大剣を振り上げ、巨人の剣を振り払う。


『アルクッ』

「ここで決めるッ!」


 アルクはモルトの背後から飛び出すと同時にサンダーボルトを放つ。仰け反った巨人の単眼へと降り注いだ雷。巨人は顔を両手で覆い、悶える。


「たああああっ」


 アルクは巨人の足元へと距離を詰めると、その勢いと共に、巨人の足を薙ぐ。


「まだだぁ!」


 一撃では膂力が足りないアルクは、踏みとどまり、振りむくと再び巨人の足をもがんと、ハルを全身全霊で振るう。それでも巨人は倒れない。アルクは呼吸すら忘れ、三度目の攻撃を繰り出した。


「もういっちょぉ」


 その斬撃で、巨人の足は半ばまで切断される。堪らず巨人の身体が大きくぐらつき、痛みに叫び声を上げながら、膝をついた。


「っ、最後だっ」


 アルクは今にも倒れてしまいそうな自身の身体を、気合でもって立て直すと、巨人の膝へと飛び乗る。そこから更に体を屈め、もう一度跳躍する。身を屈めた巨人の頭部より高く跳ぶと、アルクの身長程はある単眼と目が合う。


「終わりだっ」


 アルクは剣を下に向けると、落下の勢いを持って、その刀身を深々と単眼へと突き刺した。


「~~~~~~~」


 声にならぬほどの絶叫を放ち体を仰け反らせる巨人。アルクはハルを引き抜き、宙へと身体を投げると同時に、サンダーボルトをその傷口に向け放つ。雷に打たれた巨人は声もなく脱力し、ピクリとも動かなくなった。アルクは地面へと着地すると、疲労から思わず膝をついてしまう。まだ、油断は出来ないと慌てて体を起こす。後方のパナシェ達が歓声を上げる。


「やった?」

『ッ! いやっ、まだだ。マップでの反応が消えていない』


 その途端、巨人の巨体から赤い瘴気が零れ出した。折れかけの足で跳ね起きるように立ち上がった巨人は、その単眼から血を流しながら、アルクをギョロリと見据える。


「おいっ、逃げろッ」


 モルトの叫ぶ声が聞こえたが、その時には巨人は手にした剣を横なぎに払っていた。先ほどまでとは段違いの剣速で振るわれたその一撃をアルクは咄嗟に剣で受け止めると共に、その勢いを流すべく、後方へと無意識のうちに飛んでいた。メキリと自分の腕から鈍い音がした。その瞬間に、アルクの世界が暗転する。何度も体に衝撃を受け、最後に背中に強い衝撃を覚え、その勢いは停止した。


「ぅう」

『アルクッ、大丈夫か。アルクッ』


 ハルの声が遠くに聞こえた。目を開けると、霞がかかったかのように視界がぼやけている。その視界の中で、巨人が全身に赤い霧を纏い、天を仰いで咆哮しているのが見えた。


(あと少し、ほんの少しなのに……)


 体に力をいれようとしても、力が出ない。酷い脱力感がアルクを襲う。オーバーブレイクの権能が切れてしまっていた。利き腕の右手も、どうやら折れてしまっているようだ。ここから起死回生の一撃をいれなければならない。そう考えながら必死に起き上がろうとするも、体はピクリとも動かず、アルクの意識は闇へと落ちていった。


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