迷宮走破
メレンの町に非常時を告げる鐘の音が響いている。少しばかり逃げ遅れた者も家財を持てるだけ持ち、ギルド職員や冒険者達の誘導に従って避難地域まで逃げていた。そんな中をアルク達は迷宮目指し、駆ける。
メレンの迷宮の入り口には多くの魔物が溢れ出していた。魔物達は既に周囲を徘徊し、散らばり始めている。
「大分溢れちまったか」
モルトが忌々し気に、そう吐き捨てる。普段人々が生活している領域を、魔物が我が物顔で闊歩するのを見ると、ぞっとする気分であった。それを本能が脅威と見なしているのか、アルクの心臓の鼓動が自然と早まる。
『全員を相手にする必要はない。我々の目標はパナシェの救出だ。入り口付近の奴だけ倒すぞ』
「ああ、それと出来たらダンジョンコアの破壊だな。そうすれば魔物も湧かなくなる。じゃあ、俺が先陣を切るから、お前らは後に続け」
そう言うと、モルトが魔物の正面へと大剣を振りかざしながら、駆けていく。
「オラァッ!」
襲撃者を察知し、身構える人程の大きさの百足のような魔物に対し、そんなことは関係がないとばかりにモルトが渾身の一撃を繰り出す。一撃で頭部から縦に大きく両断される魔物。斬り飛ばされた頭部は、遠くまで跳ね飛び、地面でうねるように蠢く。
「ルアッァ」
間髪入れず、周囲の魔物へ攻撃を繰り返し、いずれも一撃で屠る。それを見ていたセゾンが、「凄い」と掠れた声で呟いた。入り口付近の魔物を一人で掃討すると、モルトは振り返り、ついてこいとアルク達を手招きする。
『見惚れるのは後だっ。魔物の絡まれる前に迷宮に入るぞ』
ハルの叱咤にアルク達も慌てて、モルトの背を追い、迷宮の入口へと駆けこんだ。迷宮の中を見たペールが悲鳴をあげる。
「何っ、コレ?」
迷宮の中には、赤い霧のようなものが漂っていた。
『瘴気のようなものだな。毒ではないようだが。通常のスタンピードではこのようなものは発生しないのだが……』
「今はそんなことは考えなくていい。時間がない。手筈通りに行くぞ」
「うん、わかった」
モルトに促され、アルクが先頭に立つ。そのまま集中し、マップを展開させる。本来ならその階層のみを表示するマップが、全階層へと広がっており、パナシェのいる位置もマーキングされている。先ほどの声の持ち主の力なのだろう。ハルはその正体を知っているらしいが、今はそれを尋ねる余裕もない。
『成る程。確かに魔物の数は多いが、それでも何とかなりそうだ。それにどうやら増殖も打ち止めらしい。アルク、敵を極力避けつつ、最短距離で駆け抜けるぞ。私も全力でサポートする』
「ありがとう、ハル。よろしく頼むね」
『まかせておけ』
アルクは後方のモルト達を振り返る。
「じゃあ、行きます。一番魔物の少ない道を通ります。それでも何度か戦闘になっちゃうと思いますが、その時はお願いします」
「ああ、任せておいてくれ、アルク君」
「それにこの武器があれば、絶対大丈夫だって」
セゾンとヴァイツがグッと拳を握りしめ、掲げて見せることでアルクに答えてくれる。ペールもニコニコと微笑みながら頷く。モルトは少しばかり何かを懐かしむように、こちらを見ていた。
アルクは前を向くと早足で迷宮を進む。歩くスピードに関してはハルより指示が出ており、素早く、しかしクエストに必要な体力を温存できるような速度に調整してくれていた。
『アルク、皆ッ。前方に魔物が三体いる。避けては通れぬ敵だ。気をつけろ』
「うんっ。皆、僕が最初に行きます」
視界にうねうねと動く大の大人程の大きさの甲虫型魔物が三体現れると、アルクはハルを両手で握りしめ、駆け出す。
「やあっ」
裂帛の声とともに剣を振うと、白銀の刀身は容易く甲皮を切り裂いた。だが、その巨躯故アルクの腕のリーチと膂力では半ばまでしか斬撃は到達しなかった。襲撃者に驚き、反撃を加えようと頭部をうならせ、アルクに叩きつけようとする。それをアルクはバックステップを踏み、回避すると頭部は空しく地面を激しく叩いた。
『まだだっ、アルク。油断するな』
「っ、速いっ」
間髪入れず、魔物のあごがアルクの胴体目掛けて襲い掛かる。避け切れぬと悟ったアルクは、噛みつかれることを覚悟して、左手を前方に出す。
「させないっ」
「どりゃあっ」
左右から虫を挟む形でセゾンとヴァイツが魔物の身体に獲物を深々と突き立てていた。魔物は仰け反り、断末魔を上げると倒れ伏す。
「大丈夫か、アルク君」
「すげえ、軽く振っただけでこれかよ」
「ありがとうございます。おかげで助かりました」
残りの二体はと目をやると、既にそこにはモルトがおり、二体の魔物は両断される形で絶命していた。
「ぱねえな」
「ああ、これがC級か」
『いや、彼個人の能力で言えばB級相当の実力がある』
セゾンとヴァイツの感嘆の声の後、ハルがモルトをそう評する。
『ランクは冒険者を図る物差しの一つだが、それだけで冒険者の実力を判断すると痛い目にあうこととなるだろう』
「うん、わかった。でもやっぱりモルトさんは凄かったんだね」
デーヴァ山でも何度か剣を振う姿は見ていたが、その時はここまで凄まじいものではなかった。その時は、モルトは全然本気などではなかったのだ。この緊急時に余すことなく己の力を出しているのだろう。実際にそれを目にすると、その凄さというものが改めて解る。
「何をしている。進むぞ」
モルトに促され、再び先を急ぐ。
その後、散発的に魔物と戦闘を繰り返したが、ほぼモルトが一蹴する形となっていた。しかし、二層へ続く部屋に近づくとアルクはうめき声を上げる。
「次は八体っ」
『うむ、小さな部屋に溜まってしまっているな。だが、こちらには今魔術師がいる。ペール、頼めるか』
「うんっ。ようやく、私の出番ね。私もこの杖試してみたかったのよね。撃ち漏らしたやつはお願いね」
ペールが部屋の入口付近に近付く。そこでは部屋の中の魔物がひしめき合っているのが見える。魔物の中にはこちらに気付いて、顎をカチカチと鳴らしながら、こちらにゆっくり歩き始めているものまでいる。ペールはそんな部屋の方へ杖を向け、魔法を放つ。
「ファイヤーブラスト」
杖より放射状に放たれた豪火が、部屋の魔物全てを包み込んだ。悲痛な悲鳴を上げて、のたうち回る魔物達。体を燃やす炎が消える頃にはもはや立ち上がれるものはいなかった。
「凄い!」
『これが魔術師の脅威だ。状況に合わせて魔法を行使すれば、絶大な効果を得ることが出来る。よほどしょぼい魔術師でなければ、パーティー結成に困ることはない理由がこれだ』
しかし、驚いているのはアルクだけではなかった。魔法を行使したペール自身も目を丸くし、信じられないというように手の中の杖を見つめている。
「この杖、魔力を増大させるとともに、マナの消費を抑える効果もあるみたい。とんでもない杖よ。これがあれば後十発は魔法が撃てると思うわ」
「それなら大分楽が出来そうだな」
モルトが生き残りが突然襲撃してこないか警戒しながら、足を踏み入れる。魔物の中にはまだ息のあるものもいたが、それも虫の息しかないため、起き上がる心配はなさそうであった。
『よし、行くぞ、アルク。第二層だ』
ハルの声に一同は頷き、先へと進んだ。途中、戦わざるを得ない敵以外は極力避けつつ、迷宮を駆け抜ける。こうしている間にマップ上のパナシェのマーカーが消えないか心配であったが、いまだにそれは消えることなく、その生存を教えてくれていた。
モルトの個の武力は出てくる敵を有無を言わせず叩き斬り、装備によって戦力を強化したトリプルファングはパーティーとしての連携を余すことなく見せつけ、効率よく魔物を狩っていった。ハルの指示の下、奇襲を受けることなく常に万全の状態で交戦を続け、瞬く間に四層の半ばまで来ることが出来た。
『アルク、一度立ち止まるぞ。休憩にしよう。ここなら少しの間なら魔物と交戦しなくてもすむ』
「えっ」
まだ、体力に余力があると感じたアルクは、まだ大丈夫と答えようとする。しかし、振りむいたアルクの目に、杖で体を支えながら俯いているペールの姿が目に映った。
「あはは、ゴメンね。ちょっと限界みたい」
無理をしていたのだろうペールは、謝ると地面へ座り込んでしまう。ヴァイツがその肩を支え、座りやすい壁へとペールを誘導する。
「お前も一度、休め。呼吸が乱れている。顔色が悪いぞ」
モルトに指摘され、アルクは自分が肩で息をしてしまっていることに、今更ながらに気付いた。意識した途端に、全身にどっと疲労が押し寄せ、尻もちをつくように地面に腰を下ろす。どうやら想像以上に消耗してしまっていたようだ。
『我々の目的はパナシェを救出した後、速やかに迷宮を脱することだ。帰りも当然魔物との交戦になるだろう。余力を残しておかねばな』
ハルはそういうと、アルクの前に複数のポーションや魔法の水差し、それとチョコレートやクッキーのお菓子などをアイテムボックスから取り出し、置いた。
『皆これを飲むといい。それなりに高価なものだから、疲労も大分とれるだろう。かつてアルクの祖父が買いだめしていたものだ。もうストックはあまりないが』
「へえ、アイテム袋みたいなものですか。やっぱり、こういうのがあると大分違いますね」
「そうだな。便利なものだ。俺のパーティーも購入を考えたが、まず市場に出回ってないし、あったとしても高すぎて手がでなかったな」
セゾンとモルトが突如現れたアイテムを見て、羨まし気にそう話す。アルクはポーションを一本手に取り、口に含んだ。爽やかな清涼感と共に、冷たいポーションが喉を通り過ぎる。そこで喉が渇いていたことに気付き、アルクは一気にポーションを呷る。微発泡のベリー系の味がして大層美味かった。飲んで暫くすると、カッと体が熱くなる。それに伴い、先程まで鉛のように重く感じた手足が軽くなっていく。
「はあ、美味しい。ポーションって、素の薬草の味のしか飲んだことないから、なんか新鮮ね。それにこのお菓子もすごく美味しいわ」
『アデルハイドの人気店のものだからな』
「⁉ どおりで」
ペールがクッキーをポリポリと齧りながら、しみじみと呟く。他の面々もポーションや菓子を口にし、安堵のため息をついた。糖分が強張った頭に染み渡り、視野が広まったような気がした。魔物の巣窟にいるとは思えないような、ほのぼのとした空気が一行を包む。
『さて、本来ならもう少し休んでもらいたいが、そうは言っていられない事情がある。近くに魔物の群れが近づいてきてもいるし、早々に先に進もう』
「そうね。私も大分回復したわ。もう大丈夫。それにしても、このポーション凄い効き目ね」
ペールが杖を掲げて、元気な様子をアピールしながら言う。アルクも軽く屈伸してみるが、7,8分ほどの休憩にしては想像以上に体の疲労が取れていた。これならば最下層まで無事行けそうだ。
「そうだな。ただこの先の地形はでかい一本道だったと思うが、魔物の方はどうなってる?」
モルトの疑問に、アルクはハッと息を呑む。何故なら次こそが最大の難関だからだ。アルクはマップを確認し、眉をひそめる。最下層へと至るその道には何十体もの魔物がひしめき合っていたからだ。アルクが、その事実を伝えると、皆表情を真剣なものへと変える。
「行こう、皆。せっかくここまで来たのに引き返せるわけがない」
「そうだな、最後の難関ってやつだなー。もうひと頑張りだ」
「そうね、私も後3、4発は魔法が行使できるわ。出し惜しみせずいくわね」
しかし、トリプルファングの面々は臆することなく、アルクを励ますようにそう告げる。モルトも腕を組み、アルクに頷いて見せた。その頼もしさに、アルクは自然と胸と目頭が熱くなる。そんなアルクに、ハルが小さな念話で自分にだけ語り掛けてくる。
『アルク、気持ちはわかるが、涙はまだこらえるんだ。彼らのこの好意はアルクがここでの冒険で勝ち取ったものだ。パナシェを救出して、皆で生きて帰らねばならない』
(うん、絶対に誰も死なせない)
袖で目を擦ると、アルクは顔を上げる。
「行こう、皆。パナシェを絶対助けるんだ」
「これは……」
最奥へとの道を目にしたアルクは、思わず息を呑む。そこには、文字通り大量の魔物がひしめき合っていた。互いに触れ合うほどに近く、ぶつかってしまったのか魔物同士で諍いを起こしている者までいる。あまりの多さに奥がどうなっているのかすらわからない。その光景にアルクの膝が自然と震える。隣に立ったトリプルファングの三人も青い顔をして、前方の魔物の群れを眺めていた。
「さて、どうする?」
一人モルトだけがいつもと変わらぬ様子で、飄々とそう尋ねてきた。
「やります。打ち合わせ通りに。ペールさん、お願いしていいですか」
「うん、わかってる」
『彼女がいてくれたのは僥倖だった。おかげで、ここの攻略がぐっと楽になる』
ペールは、杖をギュッと握りしめると、前方へと立つ。その両側にセゾンとヴァイツが武器を携えながら並んだ。
「存分にやるといいよ、ペール」
「ああ、何かあっても俺たちが守ってやるよ。いつもみたいにな」
二人の励ましに、ペールは小さく笑うと、足を一歩前に出し、杖を掲げる。
「いくわよっ、ファイアーボール」
ペールの前方に大きな火球が形成され、それが前方の魔物の群れへと放たれる。轟音と共に、数体の魔物が炎の中崩れ落ちる。生き残った数体も体を火に包まれ、その熱さに暴れ回っている。
「やった」
アルクはその成果に声を上げるが、すぐさま魔物達の変化に気付き、背筋を凍らせる。存在するすべての魔物が、アルク達を敵と認識し、ぞろぞろと行進しながら、こちらへと向かってきていた。その迫力は凄まじく、巻き込まれたら一瞬で肉塊に変えられてしまうであろうことは想像に難くない。濃厚な死のイメージがアルクの中に浮かんでくる。
「ひっ」
「まだだっ、もっと引き付けてから撃て」
恐怖の声をあげ、思わず再度魔法を放とうとしたペールをモルトが制止する。魔物は威嚇を繰り返しながら、ゆっくりと進む。その中の数体が距離が縮まったのをいいことに、こちらへと駆け出してきた。
『アルクッ、モルトッ』
ハルの声に、アルクとモルトが前方に飛び出す。宙に飛来する甲虫をアルクが宙へ飛びながら両断する。地を這うワーム二体をモルトが大剣を振い、瞬時に切り伏せた。
『よしっ、敵がいい感じに密集してきた。ペール』
「うん、わかったよハルさん。ファイアーボールッ」
巻き込まれないようにアルクとモルトが再度戻ると、ペールのファイアーボールが魔物を焼いた。先ほどより距離が近かったためか、威力の軽減も少なく、一度に十体近い魔物が炎に焦がされていた。だが、それでもまだ魔物は半分近く残っており、死骸を乗り越えてこちらに向かってくる。
「もう一度いけるかっ!」
「はいっ、頑張ります」
モルトの要請に、ペールはよろめきながらも頷き、もう一歩前へ出る。
「ファイアーブラストッ!」
放射状に放たれた灼熱の熱波が、周囲の大気を燃やしながら、魔物達の身体を巻き込んでいく。炎の前では固い外皮も意味を持たず、灰と化していく。魔物は大きく数を減らしたが、それでもまだ十を超える数が生き残り、こちらへと向かってくる。
「後は俺たちで迎え撃つぞ」
「はいっ。ヴァイツ、ペールを頼む」
「おうっ、まかせろ」
魔法の連続行使で疲弊し、地面へ倒れそうになるペールをヴァイツが支え、後方へと下がっていく。アルク、モルト、セゾンが前方へ飛び出し、残りの魔物を迎撃した。一際巨大な甲虫の魔物にモルトが単身で駆けていく。アルクはセゾンと並び、後ろのペールたちに魔物が行かないようにしつつ、魔物を迎え撃つ。
「いくぞっ、アルク君」
「はい、お願いします」
セゾンが、自身の幅広の剣で人型の毛むくじゃらな魔物の、棍棒での攻撃を受け止める。その隙にアルクが駆け出し、横からその胴を薙いだ。苦痛に仰け反った隙に、セゾンが上段から魔物の肩から胴にかけて切り裂く。
「よしっ、いい感じだ。次にいくぞ、アルク君」
即席の連携だが、体躯もあり、膂力に優れたセゾンが前へ出て、積極的にリスクを冒してくれたため、アルクは存分に遊撃として敵に一撃を加えることが出来た。怯んだところをセゾンが止めをさし、数体の魔物をなんなく屠っていく。複数の敵に囲まれることもあったが、セゾンは決して同時に攻撃されないように、アルクを誘導しながら立ち回っていることに、アルクは戦いの中で気付いた。こと他者との連携においては、セゾンはアルクよりも巧みであった。
『どうやら乗り切ったみたいだな』
夢中になって相手を切り伏せ、次の相手を探したとき、もはや周囲に魔物の姿はなかった。セゾンの方をみると、彼はこちらに向かって笑って剣を掲げる。すこし離れた場所では流石というべきか、モルトの周囲にアルク達の倍近い魔物が切り倒されているのが見えた。
『やったな、アルク。正直ここが一番の正念場だった。パナシェの救出まであと少しだな』
五層にも魔物はいるが、地形的にここまでの数を相手にしなければならない場所はなく、マップを見る限り、今までのように極力交戦を避けることが出来そうであった。
「やったね、アルク君」
「ペールさん、大丈夫ですか」
ヴァイツに肩を支えられ、ペールがこちらに歩いてくる。その顔はすこしばかりやつれている。魔法の連続行使がかなり堪えたのだろう。
「おかげさまで、少し休めたから大丈夫よ。と、いっても魔法はあと一回が限界だと思うけどね。先を急ぎましょう」
「しかし、惜しいなぁ。こんだけの魔物、魔石だけでも回収できたら一財産だぜ」
ヴァイツが大量の死骸を見て、おどけたように言う。
「確かにな。だが、そんなことをしている暇はない。仕方ないさ」
セゾンが肩をすくめると、激戦を終えた余裕からか揃って笑いあう。つられてアルクも笑い声をあげる。あともう少しというところで自身も余裕が生まれてきたようだ。ふと、気を抜くなとモルトに咎められるような気がして、アルクは目を向そちらに目を向ける。そこには優しい目で微笑を浮かべているモルトがいた。モルトはアルクと視線が合うと、途端に気まずそうに目をそらしてしまう。なにか声を掛けた方がいいのか迷っていると、ハルが皆に異変が起きたと緊張をはらんだ声で告げる。
『最下層の魔物の動きがすこしおかしいな。魔物のマーカーが触れ合い、消滅している。これは……共食いか? いずれにせよ急いだほうがいいだろう』
皆が目を合わせると、無言で頷き合う。数多くの戦闘を潜り抜け、信頼関係というものが自然と互いに築かれており、言葉を交わさずとも相手の意図を汲むことが出来るようになっていたのだった。
アルク達は魔物の遺骸の山を越え、最下層への階段へと向かった。




