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少年と剣  作者: 編理大河
冒険の始まり
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13/109

メレンの迷宮・上

 デーヴァ山での冒険から数日が過ぎた。アルクはバトラーの作ってくれた朝食のホットサンドを食べながら、今日は何をしようか考える。しかし、今メレンにあるのは単調なクエストばかりで、アルクの好奇心を満たしてくれるようなものはなかった。

 金銭面で言えば、ハルの権能をフルに活用しているおかげで、大量の採取物を得、また装備の維持費用もハルという剣があるため、それもあまりかからない。なので、ラッドが残してくれた軍資金に手をつける必要も殆どないほどだ。

以前は楽しかったクエストもその単調さにルーチンとなってしまい、少しばかり億劫となっていた。


「アルク様、どうなされましたか。浮かない顔をされてますよ」


 バトラーが、食後の紅茶をアルクの前に置きながら、その顔を覗き込む。


「うん、なんか最近冒険が少し退屈だなって、思えてきちゃって」

「成る程。まあ冒険者といえど、まずは食っていかねばなりませんから、大抵の冒険者はたとえ退屈だろうと、冒険者を続けていく限りは日銭を稼ぐために活動しなければなりません。まあ、これは他の労働にも言えることですが」

「そうだね。セゾンさんたちを見てると、こんなことは言っちゃ駄目だとは思うんだけど」


 最近、ようやく装備を再び整え終え、実戦に臨めると大喜びの三人とギルドで会った。それまでは下水の匂いを漂わせながら、うんざりした様子だったため、アルクもおめでとうの言葉を心から送ったものだ。


「ですが、確かにこの町は迷宮持ちとは言え、その規模は本当に最低限なレベルですからね。アルク様も次の町に旅立つときが来たのかもしれませんね」

「次の町……」

「ええ、冒険者とはそういうものです。ステップアップするにはより高難度のクエストのある場所へと赴く必要があります。ランクを上げねば受けられないクエストや、入れない迷宮などもあるのです。そして、ランクを上げるにも、この町で受けられるクエストではEランクに上がるのも一苦労でしょう。アルク様は冒険者としての基礎は、ハル様と共に一通り学ばれたと思われます。ここを出るのに早すぎるということはないでしょう」


 バトラーの言葉にハルも賛同する。


『バトラーの言うとおりだ。孟母三遷ではないが、才能を磨くには、然るべき場所というものがある。そして若ければ若い程、早めにその環境に身を置くのが望ましい。メレン、というよりもこのスーラ国には本当にそういった環境がないのだ。冒険者登録を済ませ、駆け出しとしてのクエストを一通り済ませた我々としては、一刻も早くアデルハイドへと行くべきだと思う』

「……アデルハイドかあ」


 パナシェやセゾン達も皆アデルハイドを目指したいと言っていた。かつてはモルトやラルフ達もいたらしい。そして、祖父のラッドもアデルハイドを拠点に冒険を行っていたとのことだ。

 アルクは一度目を閉じ、この町での想い出を振り返る。冒険者登録をしたことや、パナシェという年の近い友人が出来たこと。セゾン達をステップウルフから助けたこと。モルトやラルフ達とデーヴァ山に上り、モルトの冒険者仲間にしてアネットの姉のリーネの墓参りのためにムーンセレッソを採取したことなどを。

 あれから一度、ギルドでアネットとモルトが会話している姿を目にした。仲良しという雰囲気では無かったが、それでも以前見たギスギスした感じはなく、普通に会話しているようだった。

 その中でも一番心に残るのが、パナシェと共に見たデーヴァ山での光景だ。あの遠い地平線の向こうに、自分の知らない世界がある。そう思うだけで今でも胸が高まる。アルクは自分の胸に手を当て、瞳を開く。自ずと答えは出ていたようだった。


「うん、目指そうアデルハイドを。あの地平線の先を」

「素晴らしい決断です、アルク様。きっと、次の町でも新しい冒険や素敵な出会いがきっとあります。でも、ここを去る前に出会った方々には挨拶をされた方が良いでしょう」

『うむ、そうだな。だがな、アルク。この町を出る前に一度迷宮に潜ってみよう。まあ、日帰りで行ける大したことのない迷宮だが、バーチャルと違ったリアルでも一度入っておいた方がいいだろう。そういった意味ではうってつけだな』


 ハルの提案に、アルクは頷く。そして、そこで友人の顔が脳裏に思い浮かぶ。


「パナシェも誘っていいかな」

『ああ、構わない。これがここでの、彼との最後の冒険になるだろう。よい想い出が作れるといいな』

「そうだね」


 パーティーの誘いを断られたのは、今でも残念だが、それはパナシェ自身の信念故であるため、もうアルクには心残りはなかった。しかし、友との最後の冒険ということを考えると少しばかり悲しい気持ちになる。だが、同時にユーリカ村では孤独だった自分が、こうして行動を共に出来る仲間を得られたという事実はとても嬉しいことであった。


「では、アルク様とご友人のために、腕を振るってお食事を用意しておきますね」

「うん。よろしくね、バトラー」


 一度、冒険を開始すると決めたら、不思議と先程までの億劫さは吹き飛んでいた。アルクの心は、まだ見ぬメレンの迷宮に馳せられ始めていた。




 その日はパナシェと迷宮探索をする約束を取り付け、翌日にギルドで落ち合うこととなった。次の日の早朝、ギルドに入ると目の前にはモルトがいた。


「あっ」

「ああ、お前か。今日もクエストか?」


 相変わらずの口調ではあるが、特に用があるわけでもないのに、モルトから話しかけてくることに少しばかりアルクは驚く。アルクという存在を認めてもらえているようで、それが嬉しく感じられた。


「うん、今日はパナシェと迷宮に行く約束をしてて」

「迷宮……。そうか、お前はもうすぐ別の町を目指すんだったか。気をつけろよ、得てしてそういうときに想定外のトラブルってやつは起きやすいんだ。それに迷宮では、注意を払うべきは魔物だけじゃない。心して行けよ。……じゃあな」


 ギルドの外へとモルトは去っていった。ふと、アルクはモルトが何故、アルクがもうすぐ別の町を目指すということを知っているのか疑問に思った。それを話したのはパナシェとアネットのみの筈だ。


(アネットさんが話したのかな?)


 そうだとするなら、思っていたよりも関係は修復してるのだろう。ギルドの受付へと向かうと、パナシェがアネットと話し込んでいた。アルクの姿に気付くと、パナシェが手を振ってくる。アルクも軽く手を上げ、それに答える。


「ごめん、待った?」

「いや、オイラも今来たところだから。あ、そういえば、ちょうどモルトさんとすれ違ったよ」

「うん、僕も会った」

「そう、二人ともモルトに会ったんだ。それなら待っててあげればいいのに。アルク君もパナシェ君と一緒に迷宮に行くんでしょ」


 アネットがそれを聞いて、少し眉をひそめる。


「ええ、そうですけど」

「モルトも今日、迷宮に行くことになってるの。最近ケイネスの一派が迷宮の最奥に陣取って、他の冒険者たちを排斥していてね。流石にやりすぎって声が、冒険者たちからも上がって、ギルドに陳情に来てるけど、上が動こうとしないのよ。ケイネス達は高利貸しのフロッグと組んで、ギルドを通さずアイテムの売買をして、その一部をギルドの幹部に握らせてるって噂まであるわ。まあ証拠はないし、こんな小さなギルドじゃ、そこまで動けないからね。だからモルトが一言言ってくれるっていうからお願いしたの。ケイネスも昔はモルトに憧れてたし、チンピラたちもC級冒険者をどうこうしようとは思わないでしょうし。はあ、こんな小さな町の迷宮でそんなことして何になるのかしら」


 アネットが大きくため息をつく。


『どうやら色々と大変らしいな。まあ、この町のことはこの町で解決してもらうほかないからな。先ほどのモルトの助言も、今のアネットの話あってのことだろう。まあ、それを除いても迷宮では魔物より冒険者が一番の危険と言われているが……。まあ、せっかく潜ると決めたのだから、さっさと潜って帰ってこようじゃないか。奴らは最奥に陣取っているというから、そこに行かなければ問題ないだろう。ダンジョンボスとは戦えないが、まあ、ここのは大したことないから別に問題ないだろう』


 せっかく潜るのに、最後まで行けないのは少し残念だが、人と争うかもしれないリスクを考えると、確かにハルの言うとおりにした方が良いのだろう。


『ああ、潜る前に最新の地図を購入しよう。私のマップがあれば必要ないが、地図は新しくなれば成る程、新規の情報が書き込まれているからな。基本的な読図はバーチャルでしたことはなかったな。今回はそれもレクチャーしよう。まあ、私のマップがあれば必要ないが』


 ハルは何故か同じ内容を二回話す。アルクはそれに頷くと、アネットからメレンの迷宮の最新版の地図を購入する。


「それじゃあ、行ってきます」

「ええ、二人とも気を付けていってらっしゃい。あ、君たちは最奥はやめておいてね。ケイネスが不穏な行動をしているらしいから危険よ。そこ以外は問題ないわね」


 アルクはパナシェと顔を見合わせ頷くと、アネットの笑顔に見送られながら、ギルドを出た。




 メレンの迷宮は町の外れにあった。町の外れといっても、神殿のような建物が建てられ、その周囲にも多くの露店が立ち並んでいる。そこではポーションなどの必需品や様々な武具やアクセサリー、それに軽食などが売られていた。


『迷宮があるということは、そこから生成される魔獣の魔石や素材、すなわち資源があるということだ。故に大抵迷宮の周囲には、それを求める冒険者や、それを対象とした商いを行うものが集まる。こうして生まれるのが迷宮都市だ。まあ、このメレンは都市という規模ではないが』

(うん、座学の時間に習ったもんね)

『ああ。そして迷宮には二つの種類がある。覚えているか』

(自然型と人工型だっけ?)


 迷宮は基本自然において、魔素の高まりなどで発生し、生き物のように成長していくものだ。そして、それを自然型という。もう一つの人工型はそれを模し、かつ魔術の実験などを行うために、人の手で作られたダンジョンのことをいう。現在でも建設されてはいるが、本格的なものは先史文明時代の遥かに魔導が進んだ時代に作られたものがほとんどだという。規模の大きなものになると、一日では踏破出来ず、何日も、場合によっては一月以上かかるものもあるらしい。


『そてし迷宮の管理は、輸送などの支障が出ない範囲で大抵町の外れに作られる。それにも当然理由がある』

(ある程度、魔物なんかを狩って剪定しないと、迷宮が暴走して、魔物があふれ出てきちゃうんだよね。なんていったっけ、えっと、ス、ス……)

『スタンピード。迷宮や魔物の暴走。これに巻き込まれてしまった場合、大抵の冒険者に待つのは死だ。だからそれを避けるために、迷宮においてはいつもより魔物が多く湧き出し続けたり、魔物の強さが上がったり、種類が増えたりなどのスタンピードの前兆を見逃さないことが大事だな』


 アルクは自身が魔物の大群に飲まれる光景を想像し、青ざめる。今から潜る迷宮でそれが起こったらどうしようかとの悩みが自然と生まれてしまう。 


『まあスタンピードは大体自然型の迷宮で起こる。メレンは人工型だ。この規模の人工型迷宮でスタンピードが起こることはまずない。座学ではそこまで教えたはずだが、随分ドキドキしているな。教えたはずだぞ』


 習った記憶がまったくないアルクに、ハルがしょうがないなというように笑いかける。この迷宮ではスタンピードがまずないと知り、ほっと胸を撫でおろす。


「アルク、あそこが迷宮のある建物だよ」


 パナシェが神殿のような建物を指さす。


「パナシェは迷宮に潜ったことがあるの」

「うん、ポーターとして何回も潜ってるよ。結構実入りがいいし、オイラの評判も悪くないから、しっかりしたパーティーに誘われたら、受けるって感じかな。変わった魔物が多いけど、強さ自体は大したことないよ。アルクならきっと大丈夫」


 ポーターとは、冒険の際に採取した素材や魔石を荷運びする職業だ。確かにパナシェの怪力ならポーターとしての評判が悪くなることはないだろう。しかし、アルクにはアイテムボックスという権能があるため、ポーターは必要ない。


「じゃあ、行こうか。準備は大丈夫だよね。ここに売ってるアイテムは基本町で買うより、割増価格だからおススメは出来ないよ」

「うん、大丈夫。全部コイツに入ってる」


 祖父から譲り受けた空間収納の魔道具という設定でカモフラージュしている袋をポンと叩いて見せる。そういった魔道具は、本来冒険者でも持てるのは一握りなため、パナシェは袋をみて、苦笑いする。

 周囲には冒険者らしき人の姿がちらほら見えた。彼らもこれから潜るのだろう、地図を眺めたり、露店でアイテムを買い求めたり、仲間内で話し合ったりしている。それを横目に神殿に入る。中は何もない広々とした空間で、中央に地下へ通ずる階段がぽつんと存在していた。


『アルク、マップを使用しようか。それと地図を出すのも忘れないでおくんだぞ』


 ハルに言われた通り、マップを使用しながら、地図をアイテムボックスより取り出して広げる。アルクはパナシェと共にそれを眺めた。メレンの迷宮は5層からなる迷宮で、直下型と呼ばれる下へと続く形の迷宮だ。標準的なコースタイムは片道二時間、往復四時間と書かれている。他にも出現するモンスターや、ダンジョンボスの情報などが地図には書き込まれていた。


『ふむ、私がラッドと共にこの迷宮を踏破した時と全く変わってないな。魔物もパナシェがいった通り、大したものはないだろう。これらはバーチャル内で全て経験済みだからな』


 確かに地図には飛空型のジャイアントバットやいくつかのワーム系の魔物、スライムといった単調な魔物しか表示されておらず、それらはバーチャル内で全て単身でなんなく倒していた魔物だ。


「じゃあ、行こうか。いつもみたいに先行はアルクでいい?」

「うん、パナシェは後ろをお願いしていいかな」

「わかった。荷物を背負わなくていいから、今日は気が楽だよ」


 軽く打ち合わせすると、アルクたちは迷宮へと続く階段を下る。階段を下りてすぐ、ひんやりとした埃臭い匂いが鼻をつく。迷宮内は天井や壁、地面が石にて舗装されており、壁には発光している石が埋め込まれているため、ランタンが必要ないぐらい明るい。


『この迷宮はその規模や設備から、先史文明時代に見習いの魔術師の訓練場だったのではないかと考えられている。特に難所もないから気にせず進むといい』


 マップの一階層には通路やいくつかの部屋が表示される。一番奥に階段の表示もあり、それが二階層の入り口だろう。行こうと、パナシェに合図し、先へと進む。カツン、カツンと地面を歩く音が反響している。通路を真っ直ぐ進むと、すぐ先にある広間の前にたどり着く。


「アルク、この先からは魔物が出るよ。気を付けて」

「うん、わかってる」


 広間には三体の魔物の反応が赤で示されている。アルクたちが踏み込むと、そこにはジャイアントバットが三体、既に宙を飛び回りながら甲高い叫びを上げていた。アルクたちの姿を見かけると、三体は輪のようになってグルグルと回り始める。

 アルクはあらかじめアイテムボックスから取り寄せた、投石用の石を握りなおすと、手首のスナップを利かせてジャイアントバットへと投げつける。その軌道や速度を考えて投げられた石は見事ジャイアントバッドに当たり、悲鳴を上げながら地面へとポトリと落ちた。すぐさま身を捩らせ、ふたたび飛ぼうとするジャイアントバッドに素早くアルクは駆け寄り、勢いよくハルの刀身を突き刺す。ビクンと一つ震えると、ジャイアントバッドはパタリと地面に体を投げ打ち、絶命する。

 そんなアルクの背後から、もう一体のジャイアントバッドが後頭部目掛けて飛来する。しかし、待ち構えていたパナシェがスコップの一撃にて迎え撃ち、その黒い体は衝撃とともに弾け飛ぶ。

 残った一体は仲間の死に混乱したのか、パタパタと宙に舞い上がり、アルクとパナシェを交互に見やっていた。


「逃げ回られると、面倒くさいから挟み撃ちにしよう」

「うん、わかった」


 二人は散会すると、ジャイアントバッドを挟み撃ちにすることにした。退路を塞がれたジャイアントバッドは少し狼狽えた様子を見せた後、アルクの頭上を越え、退避を図ろうとする。しかし、ここの天井はそれほど高くなく、それほど急激に高度を上げることは出来ない。


「やあっ」


 アルクは大地を蹴ると、ジャイアントバッドに飛び掛かり、剣を振り下ろす。勢いをもって、繰り出されて一撃はその胴体を容易く両断する。悲鳴すら上げることなく二つに分かれた胴はボトッと地へと落ちた。


「やったね、アルク」

「うん、今のは悪くなかったな」

『ああ、いい連携だった。百点満点だ』


 実際、バーチャルでの自然型の迷宮において、飛行型の魔物に宙に逃げられ、倒すのに時間がかかったり、放置した結果、背後から襲われたりと面倒くさい結果になることが多かったため、対策とて磨いた投石技術が役に立った。パナシェとの息もピッタリ合ったため、瞬殺といっていい結果だ。


「じゃあ、素材だけ取っちゃおうか」

「うん」


 手分けして、ジャイアントバットの遺体から素材を回収しようとする。


「うっ」

 

 パナシェが叩き落したジャイアントバッドは、肉塊という表現すら温いほどバラバラとなっていた。その残骸からぬらりと光る魔石を見つけ、アルクはつまみ上げた。


『ふむ、これでは素材の回収は無理だな。どうしても欲しい素材があったら、アルクが倒すのがいいだろう』

「そうだね」


 ジャイアントバッドの回収し終えた二人は、再び先へと進んだ。




 その後、迷宮探索も何事もないように進んだ。魔物は相手にならないようなレベルのものが多く、トラップなども既に解除されてしまっており存在しないため、障害といえるほどのものはなかった。アルクは地図の読図などを、ハルからレクチャーしてもらいながら、各フロアを巡った。代わり映えしない単調な光景は探索していて、あまり面白くないと思った。ハル曰く、迷宮探索とは本当に金目当ての冒険者などがルーチンとして行うことが多くとのことだ。インフラも整っていないフィールドに遠征に行くよりも、効率が遥かにいいらしい。


「迷宮って、ちょっと退屈かもね。閉塞感もあるし。僕はフィールド派だなあ」

「ああ、わかるわかる。オイラもフィールドでの冒険の方が楽しいし」


 そんな他愛ない会話を交わしていると、四階層の最奥に来る。他の階の最奥より広々とした空間があり、何故だかテーブルや椅子が設置されていた。アルクたちがそこに腰を落とすと、そこにはこれを設置したのだろう冒険者らしき者達の名前が書かれている。

 そこに座って、休憩の時間を取ることにした。この先にはケイネスの一派がいて、他の冒険者を通さないとのことだが、さてどうしようかとアルクは悩む。


『まあ、少し潜ってみて奴らがいたら、避けて帰ってくればいいのではないか。五階層は少しばかり特色が強いから、覗いてみて損はないぞ』

「五階層はちょっと他とは違うから、少しは見ておいた方がいいかも」


 ハルとパナシェが同時に言う。


「そうなんだ。じゃあ、そうしようかな。でも、その前にお昼ごはんにしようか。僕お腹空いちゃって。パナシェの分もあるよ」

「いつもありがとう。はあ、アルクのご飯が食べられるのもこれで最後なのかあ」


 パナシェが心底残念そうに言う。そんなパナシェを横目にアイテムボックス内から、様々な料理を取り出す。今回バトラーが作ってくれたのは、魚介類の豊富なシーフードパエリア、クルトンや削ったチーズが多く乗っけられたサラダ、コンソメのスープ、デザートにフルーツの盛り合わせだった。


「お魚や貝ともあるけど、これって海のものだよね」

「うん、アイテムボックス内のものは腐敗しないから」

「うわぁ、海のないこの国でこんなもの食べれるのって、お金持ちの商人や貴族ぐらいだよ」

「お祖父ちゃんが昔、取った奴じゃないかな」

「アルクのお祖父ちゃんって凄かったんだねえ」


冷たい水を常に供給する製水器からコップに水を注ぎ、涎をたらさんばかりに料理を凝視しているパナシェに渡す。


「じゃあ、食べようか」

「うんっ、頂きます」


 パナシェが皿に盛られたパエリアを、猛烈な勢いで掻き込む。それを見たアルクも食事を口にすることにした。サフランで炊きあげられた黄色の米を白身魚と共に口に運ぶ。絶妙な加減な硬さの米と、新鮮な魚に、舌が喜ぶのが感じられる。素材の味を生かし切ったその素朴な味わいは、バトラーの料理の腕によって、絶妙に調整されていた。止まることなく、二人はスプーンを運び、すべてのメニューを平らげる。食後の紅茶を飲みながら、二人はしばし食休みをする。


「ふうっ、相変わらずヤバいなあ、アルクの料理は。料理もお祖父さんに習ったの?」

「う、うん、まあね」

「料理が出来るって凄いねえ。生活に余裕が出来たらオイラも挑戦してみようかな」


 ハルの権能は秘密なため、その権能で作られたコテージという空間に住む、執事妖精のバトラーの存在も言うことはできない。故に、パナシェから向けられる尊敬の眼差しに少しばかりばつの悪い思いをするアルクであった。


 


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