第8癒 楽園からの使者には要注意
俺の目が黒い岩の巨人に着弾を確認したのと同時に、周りの速度は戻った。
「いまのってなに?ヒーロ!めっちゃ変な感じだったんだけど!」
アサが走ってきながら叫んでくる。めっちゃ声デカく聞こえるな。
「その説明は後でな。先にあのモンスターの破片を回収しよう」
そう言いながら高温になった爆心地へと歩いていこうとする。
「うーん。及第点ってところですね」
なにもなかったはずの、俺達がすべて燃やし尽くしたはずの爆心地から声が聞こえた。
その後、岩がぶつかり合うような、ガチャガチャとした音が聞こえる。
謎の声はその音を聞いてげんなりしたような覇気のない声で喋る。
「まだ倒しきれてない。やっぱり及第点には届いていませんね。今回は手助けしてあげましょう」
『刃爆風閻』
俺と同じ…詠唱破棄を使っている!?
俺等がバフやら新技やらをすべて出し切った爆発を軽々と超える威力。明らかに人間の出せる範疇を超えている。
「あつっ!誰の声?ヒーロ!」
俺は答えることができない。
燃え盛る炎の中から出てきたのは、あまりにも俺等の住んでいる国とは違う服装をしていた。
長く腰まで届くような漆黒の色をした髪。
幾重にも布を重ねて、服の中心部に帯がついている。可憐の一言が似合う人だ。そして、攻撃魔法を使っているはずなのに、杖やそれらしきものは見当たらず、代わりに帯と服の間に見慣れない鞘が刺さっていて、左手には見たこともないくらい湾曲した剣が握られている。
こんな格好は、おとぎ話に出てくる伝説の国でしか見たことは無い。
彼女はゴホンと咳払いをし、こちらに喋りかけてくる。
「最近耳障りの良くない噂が聞こえましてね、それの調査で派遣されました」
「極東の楽園、鬼ヶ島ギルドマスター。要陀京です。お見知りおきを」
今は構えてすらいないはずなのに、とてつもない実力差を感じる。俺等なぞ赤子をひねるように制圧されると思う。
「とりあえず、仲間でいいのか?」
俺は彼女に聞く。
「仲間…ですか。いい響きです。けどどちらかといえば上司ですね」
そう言いながら彼女はフフフ上品に笑う。
「わたしについて来てください。案内します」
俺等は特に逆らう理由も見当たらず、素直についていく。というか逆らったら即、死が目の前にやってくる凄みがある。
「ねえヒーロ、この人ヤバいよ」
アサが小声で話しかけてくる。
「ああ、詠唱破棄してたもんな」
「いやそれもそうなんだけど、彼女はオリエント級の魔法を使ってたんだよ!」
白熱しているのか声が少し大きくなる。
「オリエント級ってなに?なんか強かったりするのか?」
「はあ?そんな事も知らずにヒーラーやってるの?」
「そもそも攻撃魔法は杖、正確にはマジカルブラッドがいるの。これは常識ね。まあヒーロは知らないか。そして魔法は国によって強さが違うんだよ。西が一番弱く、東が一番強い。ここはど〜こだ?」
アサが呆れたような声で俺に尋ねる。
「一番…西の国だ」
「そういうこと。で、一番弱い国の使う魔法をヘスペリア級、一番強い国の魔法を、オリエント級って呼ぶの」
俺はアサの話を聞いて手を叩く。
「そんな区別があったのか。知らなかった」
アサは俺の言葉を聞くと自慢げな顔になり笑う。
不意に前から声が聞こえた。
「講義は終わりました?そろそろ着きますよ」
アサがめっちゃびっくりした顔でこちらを見てくる。
「そういえば、アンタはなんの調査に来たんだ?」
俺はまだ前回のダンジョンでのことを伝えていない。それを知られていないと考えると、偽造した俺の魔法のことかもしれない。
ギルドの書類を書くときに、俺は時を戻す魔法とは書かずに、ただのヒール魔法として書いていた。
「聞きたいですか。いいですよ。教えてあげましょう」
そう言って彼女は足を止める。そしてそこら辺にあった手頃な岩に腰を掛けると、話し始めた。
「まず、極東の楽園にはマジカルブラッドとは別に受け継がれる血があります。その血は一族に伝わる特別な魔法が使えるのです。わたしの一族は真理を知ることができる魔法が使えます。ところでヒーロ君。君はギルドに隠していることがありますよね?前回のダンジョンで何かに出会ったはずです。それも世界を滅ぼすような力を持った者に」
伝えていないことがバレている。極東の一族に伝わる魔法は本物なのか。信じていなかったんだけどな。
「世界の均衡を崩す可能性がある。それだけで調査の理由は十分ですよ」
そう言ってまたフフッと笑う。
その可憐な姿に見とれてしまっていると、アサが隣からめっちゃ小突いてくる。
「おい、なんだよ!ちょっと痛いんだけど」
「今あの人に見とれてたでしょ!許さないから!」
最初はポコポコなっているだけだったが今は、ちょっと、マジで痛い。
「はいはい。喧嘩はそこまでですよ。まだ話は続きがあるんですから。」
そう言って俺等を引き離し座らせる。アサは抗おうとしているが力で叶わなかったらしく、大人しく引き下がっている。
「それで、あなた達はそんな強い人に目をつけられたとギルドは考えています。」
彼女は俺とアサに手を差し出し立たせ俺達の間に入り耳元でささやく。
「わたしも君たちのパーティーに入ります。よろしくお願いしますね」
え?俺達のパーティーに?
俺が喋るよりも早くアサが聞く。
「なんでですか?要陀さん」
「さっき言った通りですよ。強い人には強い人をぶつけるのがいいのです。君たちは重要参考人なので死なれたら困りますからね。」
「さてと、行きましょう。とりあえず最初はギルドマスターの部屋ですね」
そう言うとササッと彼女は歩いていこうとする。その時、左手がクイックイッとこちらへ来いと示していた。
俺は少し早く歩き彼女の隣へ行く。
「なんですか?」
そう聞くと彼女はささやきながら答える。
「あなたの魔法のことは黙っておいたほうがいいですか?」
驚愕が顔に出てしまう。その顔を見て彼女は笑っていた。




