第14癒 握る理由を植える
「まあ脳といっても安心してください。別に殺すわけじゃありませんよ。あなたの知識をいただくだけです」
声は笑っているが、顔は決して笑っていない。
私を見る目はまさしくゴミを見る目だ。
「汚らわしい異世界人にも有用性があります。知識ですよ。この世界の最先端の技術のほとんどは、あなたたちから仕入れた技術なんです。嘆かわしい事に私たち研究者を差し置いて技術の発展に協力している。なんてことなんでしょう!」
そう叫んで近くにあった棚を蹴飛ばす。
あまりにも激しく飛ぶので少し驚いてしまった。見た目に反して力があるのか。
少なくともこいつは短気だ。
ちらりと拷問官の方を見る。
拷問官の目が血走っていて正気ではないことを表している。
拷問官がブツブツつぶやき、歩き回っている。
今ならこちらは見ていない。
まずはできる限りの力で拘束を解こうとする。だが、びくともしない。けど、ほころびが少しあることを私の目は逃がしはしなかった。
私が持っていた銃の感触がポケットからはしない。
やはり没収されている。あれさえあればここから抜け出せるのだが、そう簡単には行かない。
拷問官が倒れた棚から何か筒のようなものを取り出す。
私が元いた世界でよく見た、針がついていて、液体筒の中に入っている。
注射器だ。
緑のメロンソーダのような色をしている液体。
それを見てデゥフフフと笑ってブツブツつぶやいている。
「ねぇ、知っていますか?知らないですよねぇ?この液体はなんだと思います?
これは体を蝕むんですよ!それも普通じゃない。足の裏の血管から入れ、まずは足を固めます。そこから腕、肩、首といき、最後は脳です」
ドォオオオオン
上からなにか大きな音が聞こえた。
「騒がしいですね。まあいいでしょう」
そう言って拷問官は右ポケットから藍色の液体を取り出す。
「これは唯一つの解毒剤です。これを脳に届くまでに打ち込めばあなたは助かるでしょうね。いやいや、最近のゴミ共はなぜだか喋らない。お前ら塵芥が私の時間を取っていいはずがないでしょう?だからこうしてるんですよ。脳が蝕めば実験材料にもなりますし」
嗚呼、こいつはだいぶイカれている。殺しても良心は痛まない。
まあ殺せればの話だが。
銃もない今、勝てると思うほど私は楽観的じゃない。
だが、行くなら今しかない。私はそう確信してある行動に出た。
「あのさぁ、なにそのキッショい液体?レアなのかなんなのか知らないけど、やめときな?そんなんだから私たちに奪われるんだよ」
ギロリと目がこちらへ向く。
ドタドタ近づいてくる。
息も荒く、今にでも破裂しそうなほど顔が赤い。
「お前にいいい!何がわかるんんだあああああ!」
そう言って私を寝かしていたベッドの足を蹴る。そこからさらに私の顔や腕、足を狙って殴る蹴る。
ちょっと威力が強いが大まか予想通り。
こいつはキレやすい。だから緑の液体を打つことを忘れて、私を殴る。
だけどちょっと想定外。
このままだと意識が飛ぶ。威力が徐々に上がっていくのを感じる。
こいつ、なにかやってる。
口を開けて意識を逸らそうにも殴る速度が早くて言葉を発せない。わずかな隙ではほとんど喋ることは出来ない。
「… …」
もう限界だ。目も殆ど見えない。
最後の景色は、眩しい光だった。
初めて銃を持った時、私は十歳だった。
外国にいた頃、母親と大きいショッピングモールに訪れていた。
電気がたくさんついていて、眩しい。
普段はあまりこない場所。そんなところに心が踊らぬわけもなく、年相応にはしゃいでいた。
あの時までは。
昼になり、母とともにファストフード店で食事を取っていた。私はフィッシュバーガーを頼み、コーラで流し込んでいた。
最初に聞こえた音は、お皿を落とした音。
少なくともそのときはそう思った。
そこから2、3、4、5回と音が続くと、全ての客は異変に気づいた。
あるものが外を見にいった。
6回目の音が聞こえた。
次の瞬間、顔に何かがかかる。生ぬるい液体。視界は赤い。
倒れていく人。
十歳の心を壊すには十分だった。
気がついたときは、目の前で人が倒れてい瞬間。黒くて、硬い。そんな服を着ている人が倒れていく様は、ひどく儚く、美しかった。
周りを見渡すと、黒い人は倒れ、警察が怪我人を救助していた。
私の右手には拳銃が握られていた。
胸に穴の空いた遺体が多いのはそういうことだ。
記憶はないがこれで何人も倒したらしい。
最後に倒れたのもその一人だと聞いた。
私は残った人たちに胴上げをされて、祝われ、感謝された。
その時から、その時から
私は人を殺した殺人者ではなく、人を救った英雄だった。
母を亡くし、人を大勢殺した。
それでも人々は崇めた。
齢十歳にすることではない。その事に気がついたときにはもう、絶望していた。
ショッピングモールの事件は誰もが知ることとなった。
日本の警察ですら知っていて、特例が許された。
そこから数年も経たずにSATの隊長となった。
今となっては利用されていたんだとわかった。
何人かはいい人に出会った。
けれども、銃を捨てる理由にはならなかった。
私は人を救った銃は今でも使っている。
人を殺した銃は使われている。
それを使っている奴でも英雄に、ヒーローになれる。
その事に気がついたときには、もう手遅れだった。
最後に思い出すことは、母でもなく、大切な人でもなく、銃を握る理由。
私らしいといえば私らしい。
目は見えなくても耳は聞こえる。だがそれも長くは続かない。
キーンという音が遠くから近づいてくる。
私が最後に聞いた音は、バン!という音だった。
英雄=ヒーロー?




