第11癒 トラウマにぶつける最大火力
なにか、柔らかいものが頭の下にある。
首を動かし、寝返りを打とうとしてもなにかに阻まれて動かせない。
仕方なくそのまま二度寝する。
見ていた夢の内容が思い出せない。なぜだか忘れたらだめなような気がする。
突然、体が揺らされていやでも目が覚める。
目の前には知らない天井。
「おい、大丈夫かアサ?」
目と鼻の先に来るヒーロ。私はびっくりして、思わずガントレットで殴る。
思いっきり殴ったせいか、ヒーロは吹っ飛んで壁にぶつかる。
首を振って、チラッチラッっとこちらを見てくる。まるでお父さんにも殴られたこと無いのに!と言っているような表情だ。
「あの、なんかごめん。今はもう大丈夫。なんかあんまり記憶がないけど」
「そうか、ならよかった。ところで顔赤いけどどうかした?」
「ううん。なんもないよ」
顔が赤いなんて、一生の不覚。そういえば家は一体どうなったんだろう。
私はヒーロに投げかける。
「家って結局どうなったの?」
「ああ、たしかにそれを言ってなかったか。結構色々あったんだよ。アサが3日は寝てたから」
そう言ってヒーロは話し始めた。
「おい!おい!大丈夫か!アサ!」
いくら揺すっても起きない。これはだいぶヤバいな。
ガントレットも反応がない。
マジックヒールでどうにかなるか。
「ヒーロ君、"あれ"は使わない方がいい。これはトラウマ起因のショックだと思います。仮に使えば、二度ショック受けることになります。それはこの子の心を殺すかもしれない」
確かに、その可能性がある。とりあえず休ませるべきだ
「要陀!こいつを今すぐ横にさせたい!なんか無いか!」
俺はそう叫び、運ぶ準備をする。
「わかりました。では癒院へ運びましょう。私は先に行って話を通しておきます」
先程まで無表情だった顔が少し歪み、走っていった。
俺どうにかアサを背負うと、癒院へ向かって歩き出す。
クソ、アサが重い。思わず口に出る。
重いなんて聞かれたらぶっ飛ばされてもおかしくない。
そんなこんな思いを巡らせながらも、この街で一番デカい癒院に着く。入口から入ると、中には要陀と看護師の方がいた。
「さあこちらへ乗せてください。あとは我々が運びます」
そう言ってアサを引き渡す。
「とりあえずは安心ですね。わたしたちは先に癒療室まで行きましょう」
俺は要陀に流されるままついていく。癒療室の中に入ると、すでにアサが寝かされていた。
白髪の初老の癒師が喋りだす。
「要陀様からショックを受けたときの容態を聞きましたが、やはりトラウマ起因のもので間違いないと思います。先程から、アサさんが兄上と言っておりますし、そのときに何かあったのでは?と考えております。何か知っていることはございませんか?」
兄上か。なにか言っていたような気がするが、なんだったか思い出せない。
「兄上、兄上。なんだったか」
口に出していると、ある記憶が蘇ってくる。
アサがウィザードをやっている理由。
兄を探すためだと言っていた。つまり、兄が消えたのがトラウマなのかもしれない。
「消えたことが、トラウマ?」
「兄が消えたことですか。今はそれしか分からないので、対策のしようがないですがとりあえずその兄の話題を出すことは避けましょう。多分ですが、アサさんはその兄の記憶が一時的に閉じ込められていたんだと思います」
記憶が閉じ込められる?そんな事があるのか?
「精神医学的にはトラウマは脳によって改変、または消すことがあります。この場合は消すと言っても棚に鍵をかけて開かないようにするといったほうが正しいですね。その閉じ込められていた記憶が、何かの拍子に空いてしまい、こんな事になったのでしょう」
意外と勉強になる。俺にはトラウマなんて無いと思うが、もしかしたらあったりして。
「まあこのまま安静にしていれば直に良くなります。それまではここで入院していただきます」
それから3日たち、今に至る。俺はアサに話せることは話したが、トラウマのことは話していない。そして話すときもこないだろう。
アサが退院して家の前にいる。
「家、直ってなくない?」
「そういえばそうですね。あなたの看病でほとんどつきっきりでしたので」
「ごめんなさい」
なんか会話をしているが今はそんな場合じゃない。今日の寝床がない。
「要陀。どうにかなんないか?」
「無理、と言いたいところですがわたしの家でもありますもんね。良いでしょう、以前とは規模も違う家にしましょう」
そう言って要陀は腰から剣を抜き、地面に突き刺す。
「この魔法は難しいんですよ。ちょっとでも気を緩めるととんでもないものができるので話しかけないでください」
『大地、ここに現れり。天に向かいて断絶の壁を作り出せ。國土嶺莊』
要陀が詠唱を終えた途端、土が盛り上がり壁を成していく。ゴゴゴと力強い音を立てながら建てられていくのは隣のギルドと同じくらいの大きさの家。
完成した家を見た要陀は自慢げにこちらを見てくる。
「この家は部屋が六個、キッチン、リビング、バスルームが2個づつ。かなりの自信作です。自分の部屋は早いもの勝ちです」
そう言って走って家の中へ入っていった。
アサがそれを見て走り出す。
俺はとりあえず家に入り、中を物色していく。
キッチンには冷蔵庫とコンロがあり、エアコンもついている。そこから色々巡っていくが、思ったよりも豪華だ。全室エアコンがついていて、俺達の部屋にはベッドとミニ冷蔵庫までついていた。
アサと要陀は二階。俺は一階に自室を構えた。
俺の荷物は特に何もないので、とりあえずベッドにダイブする。看病の疲れもあってかいつの間にか寝てしまっていた。
道端に佇む老婆が何かを視ている。穏やかに視ているかと思えば、急に目を見開きブツブツ唱えだした。
「イビル……動…マジック……ヒーラー」
ここから二十日後、この街は過去最大に危機にさらされることになる。




