第八十二話 魔法少女の戦い方
すごいすごい!
変身するときの謎のポーズまでしっかり模倣してる。
客観的に自分のポーズが見られるなんて感動。
スゲーな私、身体やわらけー。
どんだけ美脚自慢してんだよ。
あ、今の手の動き、肘からふわっと持ち上げるやつ。
バレエ現役のころよりうまくない?
まあ……結局なんの動きなのかわかんないんだけどさ。
じゃ、メイクも終わったし、やっときますか。
「闇を彷徨うあなたの祈りを聞き遂げる。
星空の守護者、ドリームスターナイト!」
顔にそっと手を添える。今回はカメラ目線で。
「安らかに、お眠りなさい」
『安らかに、お眠りなさい』
エコーしてくるのすごい違和感。
私の声ってそんなかぁ? ちょっと艶っぽすぎない?
困るなぁ、魔法少女に年齢制限かかる要素は。
「あははは、ちゃんと服の形も変わってるね。私の変身を
認識できてるってことだ。えらいよ」
拍手したら轟音で空間全体がビリビリと震える。
鏡に写った部屋を模していた椅子や縛り付けられた人の形が
崩れて不格好な生垣みたいになった。
私を模した形だけがなんとか留まってる。
「透明で細かいとこはわかりにくいけど、こうやって見ると
ぜんぜん悪くないわね。手足長いし、綺麗だし……。
ね、ね、ちょっとそこで回ってみてくれない?」
私を模した形は言葉を模倣するのをやめ、細かく震えるだけ。
その代わり体内、そして床や壁の内側に張り巡らされた緑の管が
ショッキングピンクや赤紫に激しく発光していた。
「そりゃ消化も大変だよー。なんせこっちは魔力が無限だからね。
自分よりおっきい獲物を飲み込んだワニみたいなものよ。
童話みたいに破裂する前にさっさと吐き出したら?」
油断しまくり。
ドヤ顔で煽ってたらいきなり殴られた。
久しぶりだな~~、変身時の私と同等のスピードで動く相手。
鈍ってるなんてもんじゃない。
ぜんぜん反応できてなくて、避けるどころか受けるのもギリギリ。
バッドドリーム団の幹部相手にこんなぬるいことやってたら、
初撃で頭がなくなってるよ。
受け身を取る間もなく壁に叩きつけられてた。
壁って言っても、この濁った水のような異界の生物の身体なんだけど。
背中で生温かい、べちゃっとしたのが潰れる感触。
鳥肌立ったわ。こっちのがダメージ大きい。
「あっぶな、能力までコピーしてるんなら先に言ってよ!
私が開発した、マリにはまねできなかった、この! 圧縮バリアが
なかったら重傷不可避だったね。
……っと、そっちはそれどころじゃないみたい」
せっかく服の形まで模倣してたのに、今の一撃でかなり歪んだ。
壁も私から逃げるみたいに遠ざかってく。
壁の内側で激しく発光する緑の管が明滅を始めた。
まるで焼き切れる寸前。
「立場が逆転したね~。今や私の一挙手一投足、こうやって喋ってる
言葉さえ、あなたにとっては負担。余裕がないのはそっちだ。
だから私の能力を使って排除しようとしたんだね。うんうん、賢い」
喋りまくってるな、私。
興奮しちゃってるし、仕方ないか。
唇を舐める悪い癖が戻ってる。完全に魔法少女ハイだ。
コピーの動きも今度は見えてる。
横に大きく動いて視界から外れ、こっちが、どこ行った?
ってなったときには頭を吹っ飛ばしに来てる。
動きが直線の組み合わせ。シンプル。鼻で笑うわ。
コピーの拳がまつ毛に触れるくらい引き付けてから最小の動きで回避。
カウンター決めてもいいけど、一旦距離を置いた。
せっかくだし、もうちょっと楽しみたい。
何を隠そう、わたくし音速戦闘が大好きなのです。
まばたきも許されない、ワンミスが致命傷の緊張感。
コピーの拳と私の足。
打ち込みながら同時にかわそうとして身体がねじれ、もつれ合う。
互いの発生させた衝撃波がぶつかって突風が髪を舞い上げ、
その突風を巻き取るように交差する拳と蹴り。
ものすごくゆっくり感じるのに、気づくと全部終わってる。
これよこれ! 無駄な思考が全部頭から抜けてく快感。
脳内麻薬出まくり、頭の中は大音量サイケロック、音速の壁を
引きちぎる心地よい感触。
十年前にはとてもじゃないけど言えなかったんだ……
ぶっちゃけ濡れてる。
思考の抜け落ちた私は虚無に身を任せ、ただ光り輝く瞬間を
追い求める、人の形を失った何かになる。
中段を狙った蹴りが跳ね上がってコピーの頭を捉える。
コピーの頭が破裂して水が蒸発する。
コピーが身体を翻して放った回し蹴りをくぐり、その蹴り足を
私の足が蛇みたいに追いかける。
膝裏で挟んでコピーの足を絡めとり、引きずり込み、逆足の膝で
コピーの背骨を蹴り上げる。
私の意識が追いつくのはそのときだ。
ちぎれかかったコピーの背中に手を突っ込み、無造作に
上半身と下半身を分断して投げ捨ててる。
寂しさがとんっと私の胸に飛び込んできた。
「あ~~あ、終わっちゃってる……。やったの私だけど。
能力は模倣できても、使い方が雑だったね。あなたが完全に模倣
できたとしても、私は常にその先にいる。
マネするだけじゃ、私には千年かかったって追いつけない」
せっかくのキメ台詞なんだけど、
コピーはすでに原型を失って床の染み。虚しい。
このまま鏡から出てもいいけど、こいつをこのままってのもね。
「……でもどうしたもんか。全体の大きさも生態もわかんないし、
それになんか、これだけじゃない気もするんだよね」
こういうとき、非常識無差別範囲殲滅魔法少女サンライトがいると
話は簡単なんだけど。
いないものは仕方ない。
それに、今の私にはこれがあるからね。
「久しぶりに、アレをやるかぁ~~。
……力を貸して、ドリームジュエル シトリン!」
ウインクしてポーズ決めないとポーチから取り出せないの、なんで?
誰もいない場所でよかった。
ひらひらの服着て宝石掲げて叫んでるクルスリナ……24歳。
……忘れて。
気を取り直してシトリンを胸のリボン飾りに装着します。
パリパリっと全身に電気が走る。
わりと痛いです。
ドリームジュエルにはそれぞれ対応する自然界の力があって、
シトリンが司るのは雷。
電気パワーが全身に満ちています。
適当に近くの壁に目標を定めてダッシュ。
勢いに乗ったまま突き破るつもりでキック。
インパクトの瞬間、全身を巡るシトリンパワーを
蹴り足の一点に集中。
叩きこまれた高エネルギーがエネルギー準位の高い電子励起を
引き起こし、波長の短い光を放つ。
放電と共に紫の光が、壁の内側の緑の血管を駆け巡る。
これが……
「スターナイト エレメンタル蹴法……『紫電』」
落ち着いたトーンで言うのがコツ。
そういう技なの。
緑の血管が焼き尽くされ、壁がしおれた花みたいにめくれてく。
「な……んだ、これぇ?」
光源もないのに薄明りに包まれたどこまでも広がる空間。
空間と言っていいのかもわからない。
私の吐息が混じるとすみれ色に色づく空気も、
空気と言っていいのかわからない。
無数に浮かんでいる奇妙な多面体の数々。
光を放つ泡の集合体。
絡まった線が伸び縮みしながら薄い膜を作り出す。
多面体の石や金属のような無機的な表面が微かに膨らみ、縮みを
繰り返すのはまるで呼吸。
視線を感じる。無数の多面体から。
目もなく、光も知らない奇妙な多面体が私を認識してる。
私が今いる鏡が写した部屋から緑の血管が繋がった多面体は、
紫電がどこまでも伝わって焼き尽くしてる。
けどそれは全体のほんの一部だ。
多面体は私を認識しても興味を持たない。
一番近くの多面体がスキーのジャンプ台みたいな形を
表面に形成したくらいだ。
「これは……見ちゃいけないものだったね」
紫電に焼き尽くされた多面体の放つ激しい光を背に受けながら、
私はそっと鏡を通り抜けた。
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