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第七十四話 善意100%の嫌がらせ

 待って待って、いったん落ち着こ?


 セシリアさんだって手を焼いたのかもしれないじゃん。

 なだめて、いっぱい撫でて、仲良くなって腕の中におさまった。


 うん、きっとそうだ。


 ふふん、セシリアさんもまあまあ苦労したみたいね。

 でも私には、一緒にオトを守った絆がある。アレポは私に懐いてる。


 なので~~ちょっと撫でればすぐに私の腕に……


 な、なんだよ、なんで警戒するみたいに私を見るの?


「ね、ねえセシリアさん、アレポって抱っこされるの嫌いだから、

けっこう大変だったんじゃない?」


「え? そんなことないわよぅ。人懐っこくてあまえんぼさん」


「アレポはかしこくてやさしい。かむのはわるいやつだけ」


「私は?」


 私の手を見て、朝、噛まれてたの思い出したね。

 オトが斜め下を見てる。


「僕が代わりに言ってあげよう、クルスは悪いやつだ」


「あんたが言うな。噛まれろ」


 オーロラはいつもの余裕のある雰囲気に戻ってる。

 これが普段通りだよねえ……。


 ということは、彼も私相手に感情的になってたってこと。


 感情を安易に行動に直結させない冷静さを持っているし、

 そもそも彼自身、自分の感情を自分から切り離してしまっている。


 そんな彼が私相手にはイラついたり、険しい表情を見せる。


 なんで?


 と、マリならストレートに聞けたんだろうけど、私には無理。


 マリはストレートに本音を引き出せたけど、私はストレートに相手を怒らせる。

 きっとナイフみたいに尖ってるんだろうね。


 心からの優しさでさえ。


 ……あ、だからアレポに噛まれるのか。


「なるほどねえ、ほんとに賢いんだねえ、あんた。

お⁉ 褒めたら撫でさせてくれるんだ。えへ、いいでしょ?」


「どうしてそんな目で僕を見る? 別に羨ましくない」


「そう言わず、撫でてみたら? 噛まれなかったらいいこと教えてあげる」


「興味ない。犬も嫌いだ。君から得られる情報はもう充分だよ。

あとはゆっくりしていくといい」


 出て行こうとするオーロラの前に、服の裾をきゅっと握ったオトが

 立ちふさがる。


 なにやらショックを受けたような顔してる。


「オーロラ、アレポがきらいなの?」


「え? あ、いや、アレポは好きだ。うん、特別だとも。

だからそんな顔をしないでおくれ」


「すきなのに……なでないな?」


 オトがぐいぐい行く。


 オーロラが怯んで後ずさりしてる。

 いやこれ、オーロラは本当に犬が苦手っぽい。


 もう、かわいいとこあるんだから。


「オト、無理言わないの。オーロラはこう見えて忙しいんだから、

遊ぶのはまた今度ね」


「こう見えては余計だ」


「オーロラ、またこんどな。ぜったいな」


 でた! 約束するまで目を見続ける、オトの残虐必殺技。

 さすがのオーロラもうなずくしかなったね。


 それ以上、オトに絡まれる前に外に出たオーロラを追って、

 少しだけ一緒に歩いた。


「で、どうするの?」


「別に、撫でてやるさ、犬なんてどうってことない」


「アレポのこと? ちがうちがう、オルデン卿のことだよ。

あ、ちょっと赤くなってる」


「そうなのかい? ならこれが本気の殺意というものなのかな?」


「その冗談は怖すぎ。ねえ、どこ行くの?

まさか一人で乗り込んだりしないよね?」


「そうだと言ったら付いてきてくれるのか? 心配するな、

ノエルのところだ。オルデン卿が申告した取引の内容を確認する。

織工組合に名義貸しした錬金工房だっけ? それに『仮面』らしき

ものがあったら、組合のほうを締め上げるよ」


「狙うなら弱いほうから? 大した騎士道ね」


「僕らは騎士である前に妖精さ。いたずらで人を殺す類いのね」


 歩いて行っちゃった……。


 オーロラってあんまり馬とか馬車とか使わないよね。

 自分の足で走ったほうが速いとか?


 ……動物が苦手なのかな。


「で、あんたらは何してんの? 人の部屋を勝手に……」


 戻ったらセシリアさんが勝手に部屋の掃除してた。

 オトも手伝ってる……というか服を丸めて遊んでる。


「だって~~、オーロラは言っても掃除しないから、してあげてるの。

向こうが勝手するんなら、こっちもよ~」


「怒らない?」


「怒る怒る~~。だから今日、私よそに泊まるわ~」


「逃げんのかよ。けどまあ、面白そうだから私もやろう」


 綺麗にベッドメイクして、服を畳んで角を揃えて並べる。


 絶対よく使うから出しっぱなしなんだろうなーっていうものも

 整理して片づけてあげた。


「クルスちゃん、やっぱりセンスあるわ~」


「ええ、こういう俺様ちゃんに善意100%で嫌がらせするの、

ライフワークにしたい」


「結婚すればできるんじゃない?」


 後ろから刺された気分。


 黙殺して床に落ちてるもの拾い集めてたら、見つけちゃった。

 仰々しい家紋入りの封筒。


「あら~珍しいわね~、『銀の腕』。それアガートラムの家紋よ~。

厳密にはアガートラムに家紋なんてないんだけどね~。

家そのものが存在しないんだから。まあ慣例よぉ」


「人権って知ってる? 封筒の中身はなし、と。珍しいの?」


「そりゃそうよ~。アガートラムはティタニア様の手足。手足が勝手に

私信なんて出しちゃダメでしょ~? 一族の間の重要なお知らせくらいにしか

その家紋は使われないの」


「人権って知ってる? 想像以上に自由がないんだね」


「考え方によるわね~。ティタニア様の命令は絶対。それ以外は好きに

してていいのよ~。ほんとみんな好き勝手してる。オーロラの

お兄さんなんて……とと、さすがにこれはダメか」


「え⁉ 兄弟いるの? どんな人? 教えて」


「ダ~メ。どうしても知りたかったら本人に聞いてね。

ただ、言っておくわよ? アガートラムの家の事情に無暗に

首を突っ込むと──」


「死ぬ。それならノエルにもう言われた」


「ノエルにも言われちゃったの? クルスちゃん、相当なのね。

オーロラと寝たって聞いたけど、それもホント?」


「クルス、オーロラといっしょにすんでたよ、オトも」


「え? この子ってまさか……」


「その悪意さえ感じる勘違い、やめてくれる?

私とオーロラなんてありえるわけないでしょ」


「う~ん、そうでもないかな~。だってクルスちゃん、オーロラの

お母さんによく似てるから」


「アガートラムの家の事情に首を突っ込むなとか言いながら、

引きずり込まれてる気がするのは気のせい?」


「あはは、ごめんなさい。クルスちゃんにはつい話しすぎちゃう。

でも本当に気を付けてね、オーロラはアガートラムの当主だけれど、

決して強い立場ではないの」


「ほら、また……」


 セシリアさんはペロッと舌を出す。


 私と同い年か、ちょっと上くらいだよね?

 どうしてそんな高校生みたいな仕草がしっくりくるの?


 私と何が違うんだ……。


 セシリアさんは保育園の先生みたいにオトに挨拶して、

 アレポの頭を撫でて出て行った。


 ついでに私も頭を撫でられた。


 い、いやではないなぁ。


 封筒は……ハッタリに使えそうだしもらっておこうかな。

 あれ? オトとアレポがじっと私を見つめてる。


「どろぼう……」


「ち、ちがうよ? 大事なものだから直接オーロラに返すの。

さ、私たちも帰ろっか。あれ、アレポってもう歩けるの?」


「あるくのはいい。はしっちゃダメ」


「そっか、じゃあオトは走らないようにね。アレポも一緒になって

走っちゃうから。アレポはオトが守ってあげてね」


「まかせろ!」


 元気いっぱいに走り出しそうになったから襟首掴んどいた。


 おうおう、暴れよる。

 まだまだ私のほうが力が強いもんね。


 いつまで、こうしていられるかな。


 いつまで、この街で暮らしていけるのかな。


 ユースフ・ユシフはオトにいい影響を与えてくれてる。

 同時に見たこともないような危険もはらむ。


 なんとか安全な生活圏を得ようとがんばってはいるけど、

 あんまりうまくやれてない気がする。


 この街で子育てしていけるか不安。


 ブラックハンズなんていう危険が、隣り合わせのままではね。

読んでいただき、ありがとうございます。

まだまだ手探りで執筆中です。

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