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第六十七話 お見舞い

 市場っていいよね。

 市が立つ日はお金もないのにワクワクしちゃう。


 災害とかの後には大きな市が立つことが多いんだ。


 需要が増えるっていうのももちろんある。 

 みんな商売でやってるんだからそういうのには敏感。


 でも、それだけじゃないんだよね。


 失ったものを取り戻すかのように、生きていることを確かめるように……


 互いの顔を見て無事を喜び、いつもやってる値段交渉をことさら

 大声でやったりするんだよ。


 まだ顔を見せないあの人にも、声が届くように。


 暴動の後なんてすごいよ?

 略奪品なんかが堂々と売られたりしてて、ケンカにもなって。


 辛いことがあってもただの不幸にしない、

 生きることそのものが祈りになるような熱気と活気と渦巻く喧噪。


 好きにならずにいられる?


「ぼうや、これ持ってきな、母ちゃんと二人でがんばるんだよ」


「ありがとー」


 ぐっと拳を握るおばちゃんに私もぐっと拳を握る。


 うふふふふふふふ──


 そんな中をオトを連れて歩こうものなら値引きは簡単だし、

 目についたもの投げてよこすし……おっきな鞄持ってきてよかった。


 オトしか勝たん!


「それなに貰ったの? 馬糞みたい。ばっちぃのは捨ててね」


「ん~~、なんかあまいにおいがする」


「あ、ホントだ。これサツマイモ? 煮ても焼いてもおいしそう」


 オトも楽しそうだなあ。

 また手を繋いでくれるようになったし。


 妖精騎士団の屯所から帰ってからしばらくは大変だった。


 ……オトじゃなく私が。


 四六時中、手を握ってたし、抱っこして寝たし、ちょっと姿が

 見えなくなろうものなら半狂乱で喚くし。


 いやあ、お恥ずかしい。


 さすがにオトもブチ切れて接近禁止命令が出た。

 今日はそのご機嫌取りも兼ねてる。


「このおイモ、アレポはたべれる?」


「う~ん、アレポはあんまり好きじゃないかな。まだ足が痛くて

歩けないし、ストレスが溜まってるだろうから、何か硬くて

齧れるものがいいんじゃない? 骨とか角とか」


「さっき、あたまのほね、うってるひといた」


「あれ模型じゃないかな。お肉屋さんとかのほうがありそう」


「カザフは? なにがいいかな、ヘビ?」


「なんの嫌がらせだよ。あ、でもヘビって貧血とかにいいんだっけ?

意外とあり? でもなー、お腹を刺されてるから食べ物はなしか」


「じゃあほねだ」


「骨とヘビの二択しかないってひどくね?」


「あっちにデカいヘビうってた、こんなの! ビックリした。

けどオトならいけるとおもう」


「それ、オトが食べちゃってるよね。お見舞いだよ?

オトは、お熱とか出たときどうしてほしい? 食欲はないです」


 ヘビって即答しかけたから先手を打った。


 そしたら頭も身体も曲げて悩んでる。

 うん、まあそう簡単には思いつかないか。私も思いつかん。


 これはもうちょっとぶらぶらして……


「クルス!」


「はい! どうした、大声出して」


「クルスがいるといい。ねつがでるとさびしくなる。

ねてー、おきてー、クルスがいるとくるしくてもほっとする」


「なるほど、側にいるだけで安心できる人、か。買えないね。

でもナイスヒントだよ、オト。ほら、あれ」


 私が指さしたほうに売ってるものを見て、オトがぱっと笑顔になる。


 オトが自分で買うって言ったけど、ちょっと足りなかったから手伝った。

 よし、これで市場での目的は達成です。


 オトとハイタッチ、いぇい!


 ────────────


 暴動でけが人が多くて入院できる施療院はどこもいっぱい。

 カザフの自宅は狭くて不衛生。


 というわけでヒュッケが密輸用に確保していた倉庫を一時的な

 入院施設として開放した。


 対立してる夜警のみなさんが一緒くたに放り込まれたんだけど、

 意外とおとなしい。まあケガしてるしね。


 倉庫はちょっとしたお店ができそうな広さ。

 ああ、二階を居住スペースにして、オトと二人、小さなお店を営むの。


 ……夢だわ。


「姐さん! それに坊ちゃんも。おう、お前ら挨拶ぅ」


「姐さん、いつもありがとうございます」

「寝たままで失礼します、姐さん」

「坊ちゃん、今日も元気そうですねえ」


 カザフが仕切り役になってるせいで、どの勢力からも

 姐さん、坊ちゃんが飛んでくるように……


 涙目。

 こんなむさ苦しいの、私の望んでたシティライフじゃない。


「ああ、そんなのいいから安静にして。ここにポーション置いとくね。

元気がないって人は飲んで」


 怒号のような、あざァすが響き渡る。

 こんなむさ苦しいの、私の望んでた…………


 マネしてるオトがかわいいからいいよ。


「カザフ、調子はどう? お粥以外も食べられるようになった?」


「姐さんのおかげでこの通り。あの薬を飲むと痛みが消えて、頭が

ぼやっとなって、妙に幸せになれるっていうか──」


「そんな成分入ってねーから。せいぜいタウリン的な何かだから。

あんたは風評被害発生装置か。私を売人にでもしたいのか?」


「姐さんの作ったもんなら何でも売れますよ!」


「無駄に善人で腹立つ。初対面のときの威力業務妨害が

もはや懐かしい。あのときは蹴っ飛ばしてゴメンね」


「カザフ~~、これこれ」


「ん? 坊ちゃん、なんですかい、これは?」


 オトが差し出したのは木彫りの人形。

 二人の赤ちゃんを抱いた女性だ。


「これはね、ジェナン! カザフをまもってくれるよ」


「子供を悪い霊から守る精霊の化身。ユシフじゃ子供の枕元に

置いたりするんでしょ?」


「俺は子供ですか……」


「男なんてみんな子供よ。ね、オト?」


「カザフ、まもってくれてありがとー。カザフがわるいひとを

みつけくれたよ。アレポもクルスもきてくれたよ。

だから、カザフがひーろーなんだって」


「そ、そんな……俺なんて、ただ不甲斐ねえばかりで……」


「ど、どうしたカザフ、いたいのか? クルス、たすけてあげて」


「あーあー、いいのいいの。痛くて泣いてるんじゃないから。

オト、二階にもポーション届けてくれる? はい、走らない。

階段はゆっくり上がる。転ぶなよー」


「らじゃ」


 オトに注意して振り返ると、カザフが大事そうにジェナンの

 人形を枕元に置いてる。


 こ、こんな大男が人形を枕元に置いてるって……

 笑っちゃいけないけど、笑える。


「街の様子はどうですか、姐さん」


 で、そのまま夜警モードでキメ顔。

 ヤバい。カザフの天然が過ぎる。


「落ち着きはしたけど、議会への反発は消えたわけでないし、

むしろ増してる。今は妖精騎士団の巡回で抑え込まれてる感じかな」


「妖精騎士団が出てくるのは避けたかったんですが……」


「そうね、恐怖で蓋をすればいずれ暴発する。

事態は悪化してると見るべきでしょうね」


「俺たちがいながら、あんなことになっちまうなんて、情けない」


「それなんだけど、抗議に集まった人の中に武器を持っていた人が

いたっていうのは本当?」


「俺は見てないんですが、ここにいる中で何人か、衛兵が刺されるのを

見たってやつがいます。ぜんぜん、そんな空気じゃなかったんですが」


「刺した人が誰かわかる?」


「それが、あの日は妙に知らねえ顔が多くて……

姐さん、ちょっといいですか?」


 カザフが声を潜める。それでもデカい声だけど。


「あの日、動員がかけられてたって話があります。動員がかかれば

知らない顔が増える」


「実行犯の特定が難しくなる。計画的だね」


「誰が動員をかけたか、仲間に探らせてます。もし、反ガンエデンの連中が

関わってたら、かなりマズいことになるかと」


「わかった。ワイルズにも聞いてみる。結論を急がないで」


「よお、何をそんなに難しい顔してんだ? 傷が腐っちまうぞ」


 気の抜けた声をかけて入って来たのはヒュッケで、

 彼のほうを見た私とカザフは自然とにやけてしまう。


「な、なんだよ、今度は二人して気持ち悪い顔しやがって」


「だって、ねえ~~?」


「ねえってなんですか、姐さん。俺はそんなつもりは……」


 ついついほおが緩んでしまいますよ。


 だってヒュッケの隣にはフードもなしで寄り添うサリアがいるんだから。

 しかもさ、なんかさ……


 綺麗になってない?

読んでいただき、ありがとうございます。

まだまだ手探りで執筆中です。

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