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第六十六話 長い付き合い

 ノエルが来てくれたおかげでそこそこ空気が改善。


 オーロラは彼女には弱みを見せたくないようで、

 普段の表情と緊張感を引っ張り出してきた。


 逆に言えば私の前では緊張感がなかったっていうことで、

 それはそれで複雑な気分。


 フィニクスがオーロラの力になってと頼んできたのは、

 こういうのが理由なんだろうか。


「おかえり、仮面はどこが接収することになりそうだい?」


「九神庁守護が強硬に単独での解析を主張してます。

協会は協会でブラックハンズとの関係が明らかになるまで、

私に触らせる気はないですね」


「その関係を明らかにするのに調べなきゃいけないのにね?」


「言わないでくださいよ。腹がたって仕方ないんですから。

あ、クルスの言ってたカザフさん、無事でしたよ。頑丈ですね」


「ありがと。あとで迎えに行くって約束してたんだ。

……他に捕まった誘拐犯も仮面を使ってた?」


「いえ、発見されたのはクルスが見つけた一枚だけです。

見つけられなかっただけで、他にもいたのかもしれませんが」


「仮面のないやつは囮だろうね。尋問したが何も知らない。

クルスの言ってたリスト? のことさえ誰からも聞き出せてないよ」


「ってことは、オトの他にもさらわれた人がいる?」


「おそらく。ですが、この暴動で被害の実態を把握するのは

時間がかかるでしょう」


「そのころには逃げられてる……か」


「だから言ったんです、ハチの巣をつつくような真似はするなと。

いたずらに被害を大きくしてしまうかもしれないと」


「それは違うよ、ノエル。あんな仮面を持ってるやつらが、もっと

慎重に行動してたらオトを助けられなかった。

オーロラの作戦で焦ったからこそ雑な計画になったんだ。

意味はあったよ。ありがとう、オーロラ」


 ノエルはまだ何か言いたそうだったが、とりあえずは飲み込んだ。

 今、オーロラを責めても何も解決しない。


「妙なのはこの暴動ですね。聞いた話では、抗議集会の代表者と

議会の代表者の面会が決まっていたそうです。

そんなタイミングでどうして暴動に発展したんですか?」


「それなら逃げてる人に聞いたよ。抗議で集まった人の中に武器を

持ってたのがいたって。警備の傭兵が切り付けられたとか」


「作為的なものを感じますね」


「疑い始めたらきりがないさ。その面会だけど、議会側の代表者って

誰なんだい?」


「聞いてないですか?」


「まったく」


「オルデン卿です」


 今度はさすがのオーロラもため息ついたね。

 私もだけど。


 ノエルはオルデン卿との面識はないからキョトンとしてる。


「いやな場所にいやなタイミングで現れる名前だね」


「問題は暴動を起こしたのか、起こされたのか……」


「どちらにせよ暴動が起こること自体、オルデン卿には不利益では?

こんな状態では下院の設置もままなりませんし、議会の統治能力を

疑われれば議席自体を失いかねない。アロウザと内通でもしてるなら──」


 ノエルが唐突に息を呑んだ。

 頭の回転が速くて、自分で自分の思考に追いつけない。


 結果、自分で言及した可能性に自分で驚く。

 ノエルはこういうとこがかわいいなあ。


「まさか、その可能性を疑ってるんですか?」


「僕はありうる、とは考えてるよ。アロウザがユシフを諦める理由はない。

ティタニア様が怖いから手を出さないだけで」


「染色権の独占を阻止したい織工組合と反ガンエデン派が結託して、

議会の統治を揺さぶりにかかった……ってのはどう?」


「クルスらしいね、現実的だ。そのぶん表層しか考慮してないとも言える」


「アロウザの介入を心配するには早すぎるってだけ」


「そして手遅れになる」


「遠くのアロウザに気を取られて、足元の暴動に対処が遅れてる」


「君に優先順位を指図されたくはないね」


 ノエルが手を叩いて私たちを黙らせる。

 一回じゃ足りなくて何回も叩いてる。


 拍手になってますが?


「めんどくさいですね……。織工組合の会長さん……名前……

なんだっけ、タヌキみたいな……」


「ラーコンさんね」


「それ! それとオルデン卿を捕まえて拷問しちゃいましょうよ」


「君は僕を更迭したいのかい?」


「そのくらい何とも思ってないくせに。

いま言えるのは、今回の暴動が誰かの意図したものなら、

ラーコンかオルデン卿、どちらかがブラックハンズもどきと繋がりが

ありそうってこと。そうでなきゃあのタイミングで動けない」


「もどき? 呪いは本物だっただろう?」


「あれは何層にも重ねられた術式、魔術よ。連結子っていうわりと

最近になって開発された技術も取り入れられてる。

呪いなんて古めかしいものじゃないわ」


「対して仮面のほうは遺物クラスでしたね。機構を解明するには

高位の錬金術師による解析が必要でしょう」


「あれが解析できる錬金術師なんてユシフにいるの?」


「私ができます」


「……あんた、何でもできるのね」


「治癒はできません。恥ずかしながら……」


「煽ってんの?」


 とか言いつつ、実は私は錬金術も治癒もできる。

 じゃないとポーション作ったり、治癒符を作ったりできない。


 どれも四級以下だけど。まさに器用貧乏。

 三つ全部扱えること自体は稀有な才能……らしい。


 私とノエルがそれとなくマウント取り合ってる間に、

 考えをまとめたオーロラが完全に隊長の顔になってる。


 調子が戻ってきたみたいでよかった。


「ラーコンを使ってオルデン卿を追い落とすか、サリアを使って

オルデン卿に議席を譲らせるか。当初の目的を達成する手段はこの二つに

絞られたと言っていいだろう」


「ラーコンはともかく、サリアを使うって言うのやめて。

ヒュッケを議員にすることより事態の鎮静化が先じゃない?」


「いや、より重要になった。混沌とした時世で人々が求めるのは?」


 あ、これヤな方向だ。

 私もさんざん利用されたから雰囲気でわかる。


 私とマリ、二人の魔法少女がいれば全て解決! ってね。


「英雄ですね」


 答えちゃったかー。

 ノエル、頭いいからって何でも答えなくていいんだよ?


「ヒュッケにはブラックハンズの摘発を担ってもらおう。

ユシフに平穏を取り戻した英雄が、初のユシフ派の議員となる。

一議員以上の発言力を持つだろうね」


「私は正直、ヒュッケにそこまで背負わせたくはない。彼は善人よ。

英雄になんか祭り上げられたら、間違いなく苦しむことになる」


「人の結婚まで利用しておいてよく言う」


「それは! ……そうなんだけど」


「心配しなくとも、彼が手に入れるのは名誉だけだ。

僕たちと足並みを揃えている間はね」


「その名誉が、どれだけ人を追い詰めると──」


「待ってください。話を急ぎすぎですよ。

私たちはまだ、ブラックハンズの末端を捉えたにすぎません。

今の段階では摘発なんて不可能です」


 正論だ。

 私たちは戦ってもいないうちから勝った後のことを考えてる。


 その正論がハエの羽音にでも聞こえたような顔するオーロラ。

 嫌いなんだね。


 そりゃそうか。彼自身、アガートラムの正しい在り方ではないのだから。


「僕を短絡的だと揶揄するものたちが、先を見据えた行動を否定する。

実に懐かしい気分だよ。いいだろう、まずはブラックハンズだ。

僕は仮面の男の顔をできる限り再生させて、身元を突き止める。

ノエルは協会に戻ってさっさと年寄りどもを説得しろ」


 立ち上がったオーロラが私を見下ろす。少し戸惑ったように

 見えたのは、たぶん私に言うべきことが見つからなかったから。


「君は……君はオトを連れて帰れ」


 それだけ言って出て行くオーロラを私たちは黙って見送った。

 ノエルがため息をついて曖昧な微笑みを向けてくる。


「なに? オーロラにも困ったもんだって?」


「いえ、あなたの前だと感情豊かだなと思って」


「疲れてるだけ……ていうかイラついてる? 焦ってる?」


「本国から何か言われたのかもしれません」


「それフィニクスも言ってた。なに、アガートラム絡み?」


「だとしたら聞いても無駄でしょう。絶対に話しませんよ。ただもし、

彼から助けを求められたら──」


「力になれって? それも言われた。勘弁してよ、あんたたちのほうが

付き合いが長いんだから、事情はわかってるはずよね」


「だからですよ。事情がわかっているから頼れない。特に私には」


「どういうこと? ノエルだって妖精騎士団の仲間でしょ?」


「さあ、どうなんでしょう……」


 また曖昧な微笑み。

 それ嫌いだからやめて。


 付き合いが長いからこそ……か。


 私もマリには言えないこと、言ってないことがいっぱいあったな。

 おかげでケンカもいっぱいした。


 でも、最後までちゃんと友達だったよ。

 あの日々に、隣にいたのがマリでよかったって心から言えるよ。


 マリがいてくれたからこそ、今の私がいるんだ。


 あなたたちも、いつかはそうなれるよう、祈ってる。

読んでいただき、ありがとうございます。

まだまだ手探りで執筆中です。

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