第六十三話 暴動
不本意ながら私もだいぶ鍛えられた。
こんな至近距離でも有効なパンチが打てるとは、
そろそろ異世界サバイバルガイドの執筆でも始める?
フィニクスが怯んだ隙に転がって脱出。
距離を置いて向き合ってみると、フィニクスのほうが
私よりショックを受けた顔してるじゃない。
そんな顔されたら途端に私が悪者に……
ええ~~? これ私が間違ってる?
間違ってるか。殴っちゃダメだろ。
「……な、なぜだ?」
「それはこっちのセリフだよ。いきなり何のつもり?
周りのバカップルのマネでもした?」
「ノエルがこうして頼めば、クルスはだいたいの要望を
受け入れてくれると……」
「あの色ボケ魔術師、あとでぶっ飛ばす! あのねフィニクス、
あなたにはオトがお世話になってるし、私も何度も助けてもらってる。
だから普通に頼めば、私は断ったりしないよ」
「妖精騎士団に入ってくれ」
「断る」
雷に打たれたみたいな顔してるじゃない。
フィニクスなら本当に雷に打たれても死なないけど……
いろいろとエラー起こしちゃってるね。
前後の発言で整合性が取れてない?
そう、大人はズルいのです。
ってこれ、前にオトにも同じことをやった気が……。
「それは前にも断ったでしょ? 私じゃ妖精騎士団の役に立たない」
「妖精騎士団ではなく、オーロラの力になってほしい」
「あの人が本気で私を必要として、オーロラ自身が頼むならね。
そうでないなら力になれません」
「オーロラは誰も必要としていない。俺や、ノエルでさえも。
だからクルスが必要なんだ」
「こないだ出会ったばっかりでなんでそうなる?」
「お前がグラヴィス邸で俺たちを救ったこと。あれがオーロラを変えた。
自分一人の限界を知り、
同時にオーロラだけが持っていた特権も失われた」
「ねえ、ちょっと待って……あなた、あのとき意識があったの?
何があったか覚えてるの?」
「あの状態になった俺に意識はないが、お前に触れればわかる。
お前が俺のアレを握ったことくらいはな」
「ちょっと、ヘンな言い方しないでよ!」
「何がだ? こんな人目のあるところでアレの名を口にはできない。
あ、おい待て、なぜ逃げる? 話は終わってないぞ」
「アホ! ついてくんな! あ~~もう、恥ずかし」
どっちかって言うと自分から逃げてます。
中学生じゃあるまいし、すぐに性的なことを想像する。
そんで勝手に赤面してるの、フィニクスに見られたくない。
恋愛から目を背け続けてるといろいろとこじらせる。
私もノエルのこと言えないなぁ。
「クルス、止まれ!」
いきなり名前で呼ばれて硬直。
後ろからフィニクスが私を守るように抱きしめる。
こ、こいつは距離感ってのを少しは学んで……
あれ? 向こうから大勢、走ってきてる?
必死に逃げてる感じで、私たちのことなんか見えてない。
フィニクスが守ってくれなかったら危なかった。
「ねえ、何があったの? これなんの騒ぎ?」
フィニクスにぶつかって倒れた男を助け起こして聞いてみる。
初対面で無言のフィニクスと目が合ったら、誰でも冷静になる、
というか恐怖で固まった。
「暴動だよ。向こうで議会に抗議してた連中が、議事堂の警備と
衝突した。抗議してるやつらの中に武器を持ってるのがいたんだ。
警備のほうも見境がなくなってる、絶対に近づくな」
逃げ去る男に背を向け、私たちは群衆が走って来たほうを見る。
「抗議集会に武器? ちょっとヘンじゃない?」
「違和感はあるが、議事堂の警備は議会と契約した雇われだ。
街の評判など気にしない。徹底的にやるぞ」
「危険ね」
「騎士団が必要になるかもしれない。市民を不当な暴力から
守るのであれば、俺も役に立つ」
「そうね。でもこれ、何かおかしい。気を付けてね」
「こういうときは街全体の治安が悪化する。そっちも気を付けてくれ」
「了解。オーロラに会ったら言っといて、あなたが誰も必要としなくても、
あなたを必要としてる人たちがいるのを忘れないでって」
「……できれば直接言ってもらいたい」
フィニクスの背中をぽんぽんと叩いて私も家路を急ぐ。
みんなワイルズから動かないだろうけど、オトはこういう
大勢の人間の激しい感情に慣れてない。
側にいてあげないと……。
くうっ、私の知らないとこでオトが泣いてるのを想像すると、
胸が締め付けられて涙が出てくる。
急げ私! マッハ出せ!
……なんて思ってると勢い余って変身しちゃうからね、
落ち着いて、冷静に。
はい、ワイルズが見えてきましたよ。
このへんは静かなものですよ。
略奪を警戒して閉まってる店も多いけど、ワイルズは堂々と営業中。
閉めろよ、オトがいるんだから安全第一でしょうが。
「ワイルズ~~、こんなときに営業しても客なんて……
うわぁ、結構来てるし。守るべきものがないのか、あなたたちは」
「帰って来て早々、やかましい。こいつらは夜警の有志だよ。
なんかあったらすぐに出られるように、ここは待機所代わりだ。
飯も食えて便利だろ?」
ボランティアみたいに言ってるけどどっかからお金出てる。
じゃなきゃ、あんなにやる気になるわけない。
「お仕事ならお酒は飲まないほうがいいんじゃない?
まあいいや、オトは? こういう雰囲気ダメなのよ、あの子。
怖がってない?」
ワイルズが不思議そうに首をかしげたとき、首筋がぞわっとした。
悪い予感。
それも最上位クラス。
「さっきお前が連れてったじゃないか。オトが不安になってるから、
静かで落ち着いた場所に行くって」
外に飛び出し、苦手な『遠見』を使って周囲を見渡す。
『拡声』でオトの名前を叫び、『限定聴覚』でオトの声に近い音を
拾い集めても私を呼ぶ声は聞こえない。
私の弱い魔力では『感知』の範囲もたかが知れてる。
「おいどうした? こんな往来で魔術を使うな。よく知らんが、
そういうのは協会が厳しく制限してるんだろ?」
心配して出てきたワイルズの肩を掴む。
力の加減ができない。
「私じゃない! 私は今、帰ってきたの。オトを連れてったのは
私じゃないよ!」
「おい、お前ら、仕事だ! オトがさらわれた。クルスに見える
何かに、だ。使えるつては何でも使え。どんな些細な情報でもいい、
ここに持ち帰れ。暴動の混乱が広がる前に見つけるんだ!」
ワイルズの迅速な対応。
鷹のような目をして街に散っていく夜警のみんな。
ゴメン、守るものがないなんて言って、冗談でもゴメン。
泣いてる場合じゃない。パニックになってる場合じゃない。
私が落ち着かなくちゃ。
「オトが連れていかれたのはいつ? どっちへ向かった?
オトは私の偽物に気づかなかった?」
「まだ三十分も経ってない。お前が予定を早めに切り上げなかったら
気づくのはもっと遅かったな。大丈夫、この街は俺たちの庭だ。
どこにも逃がさねえよ」
「オトは素直について行ったんだよね?」
「そうだな。俺にも不審な点は何もなかったように見えた」
「『擬態』じゃなく『参照』かもね。相手の記憶にある姿に似せる。
よく知ってる相手ほど騙されやすいの」
「どう違う?」
「『参照』だと私を知らない人には私に見えない。情報が混乱する
可能性があるから気を付けて。その場合、相手は記憶に干渉する
魔術を使ってる」
「ヤバいのか?」
「協会の定めたルールを無視する連中よ。
見つけても手を出さないで私に知らせて」
「そんなの、あんたにだってどうにかできる相手じゃないだろう。
ノエルに協力してもらったほうがいい」
「いいえ……私がやる」
たとえ変身してでも。
白装束が来たとしても構わない。
オトを守れなければ、彼らを避ける意味もないのだから。
その結果、ユースフ・ユシフが焦土になっても?
私を受け入れてくれた人たちが死んでも?
これから生まれるゼンドーラの子の未来を奪っても?
オトが……泣いても?
たぶん私は今、オトをさらった誰かと同じような目をしてるだろう。
だって心の底から思えるから。
それでも構わないって。
読んでいただき、ありがとうございます。
まだまだ手探りで執筆中です。
あなたの一押しが支えです。評価・ブックマーク、よろしくお願いします。




