第六十話 私を口説いてどうすんの……?
ゼンドーラ、けっこうお腹大きくなったよね。
最近はお店に出て客と話す機会も少なくなった。
今、何週目だっけ? あんまり詳しく聞いてないな。
大変そうだなって思うの半分と、赤ちゃん見るのが
楽しみっていうのが半分。
なのであんまり手間をかけさせたくなかったんだけど、
ヒュッケのコーデを一人で考えるのはハードすぎた。
「よしっ、まあこんなもんだろ」
「ゴメンね、休んでたのに……」
「ごめんな、ヒュッケがダサくて……」
「ダサくねえよ、アバンギャルドすぎただけだよ」
「構わないよ、男なんざちょっとくらい手間のかかるほうが
かわいげがあるもんさ。子供と一緒だよ」
「そーなのか……それだとオトはかわいくないな」
「いや~~十分すぎるくらいかわいいよ?」
うん、やっぱりゼンドーラを頼って正解。
折り目のついたスラックスのようなズボン。
裾の長いスリムな上着はやや光沢のあるアラベスク模様。
角ばったイスラムワッチみたいな帽子も似合ってる。
「こういうひょろっこいのはね、隠さずにシャープな印象に
まとめてやるといいのさ」
「ほんとだね、ヒュッケがすっかり雰囲気イケメンだ」
「雰囲気だけかよ……」
「ヒュッケはカッコいいぞ、いつも」
オトってナチュラルに大人泣かせにいくよね。
オトがカッコいいって言うから私もカッコよく見えてきた。
よし! あとはサリアを待つだけだ。
向こうにはキャスとコリーンがついてるから安心。
どんな感じなのか、今から楽しみ。
────────────
ほどなくしてサリアも到着。
そもそもちゃんと来てくれるのかが第一関門だったから、
まずは無事に突破だ。
ユシフは日差しの強い日が多いから肌を出す服装はあまりない。
でもそこはガンエデンの美の鬼たち。
きっちりガンエデン流行りのスタイルを取り入れてきた。
実は今、ガンエデンではギリシャ風の古代文明ブーム。
布地はユシフの黒くて手触りのいい綿布。
これを二枚重ねて頭からスポッと被り、紐やブローチで留めて
めいっぱいドレープを作ってる。
腰ひもを肩までかけて胸の前でバッテンを作るんだけど、
胸の形が強調されて……まあそこそこエロい。
なので、若草色のショールで清楚感をアップ。
「うん、サリアによく似合ってる。サリアの魅力をわかってる人が
サリアを可愛くしようって選んでくれたんだね」
「お……はようございます。きょ、うはよろしく、お願いします」
焦らず、止まってもいいからゆっくり話すように指導した。
これもできてる。
残る問題は姿勢かな。
肩が丸まっちゃって、うつむいてる。
これは少しずつでも自信を付けさせるしかない。
オトを投入だ。
「サリアせんせー、すごい! かわいい、てんしみたい。
ヒュッケとちがってさいしょからほんものだ!」
不穏なワードはあったものの、サリア照れまくりで気づいてない。
周りをぐるぐるまわるオトとアレポに褒めちぎられては、
正常な判断などできまい。
「ほらヒュッケ、あんたも何か言いなよ」
「うぇっ⁉ 俺? 何かってなんだよ?」
「何でもいいから、生まれて初めて女見たわけでもないでしょ。
ちゃんとサリア見てる? 褒めるとこしかないでしょ」
口開けて目線が上にいってる。
まいったな、こっちにも指導が必要だった?
でも、言葉が出なければ身体が動くもので、
ヒュッケはガチガチに緊張しながらサリアに近づく。
護衛目線だと排除したくなるわ。
「ほ、本日はご機嫌麗しく……」
サリアの手を取って手の甲に唇を近づけた。
ハント・クス。
男から触れちゃダメなんだけど、サリア相手なら仕方ない。
しかも効果は抜群。
サリアの価値観では大抵の人が自分に触れるのを嫌がってると
思ってるし、ガンエデンには実際その手合いはいる。
でもヒュッケは自分からサリアの手を取り、皮膚のガラス質の
部分にためらいもなく唇を近づけている。
サリアの表情を見ればわかるよ。
今日までに少なくとも三百回は妄想してる。
ヒュッケ、グッジョブ。
「うんうん、挨拶も終わったところで本日の……
そういやカザフは? 護衛が遅刻ってシャレにならないよ?」
「カザフ? あいつは抗議集会のほうだ。声も身体もデカいのが
いないと、ああいう場所では抑えが効かない」
「え? じゃあもう一人は誰が……?」
「俺だ、すまない」
店の中にぬっと入って来た大きな人影。
オト、大喜びで登るのやめなさい。
この人は自律移動する遊具じゃないんだよ。
こう見えても妖精騎士団で兵長さんやってるんだよ。
「なんでフィニクス? いま忙しいでしょうに。
あ、こないだサリアが襲われたばかりだし、オルデン卿へのアピール?」
「ああ、そう、それだ……」
速攻で目を逸らしてる。
この人、また戦力外通知を受けたな。
「ま、いいけどね。戦力的には過剰だけど、正直、カザフとじゃ
なに話していいかわかんないし、フィニクスのほうが気が楽」
「俺もだ。クルスがいれば指示通りに動けばいいからな」
「あいかわらずのポンコツぶり……」
あれ? 今日ちょっと暑い?
なんだろ、血が巡ってくるっていうか、顔熱い?
んんん? 私、フィニクスが来て喜んでる?
いやいやいや、オトが楽しそうだから私も楽しいだけ。
「それじゃ、四人そろったし、出かけましょうか。
私とフィニクスは少し離れてついていくから、二人は気にせず
二人だけのつもりでね」
「離れ……ちゃうんですか?」
「そんな不安そうな顔しない。楽しめばいいのよ。
ヒュッケ、ちゃんとエスコートしてあげて」
「えっこーとだ、ヒュッケ、オトがついてるぞ」
「あんたは留守番。ゼンドーラの身の回りのお手伝いでしょ」
「そうだった、ふにくす、オト、おにいちゃんになるんだよ」
「すごいな、俺はたぶん永久になれない」
「いきなり暗い感じにすんのやめろ。さ、まずは軽く散歩だよ。
お昼までにお腹を空かせておいてね」
みんなに送り出されていざ出発。
ふふ、最初は緊張してても若い二人。
いったん話し始めれば、互いに夢中になる……はず。
最初のデートスポットは最近、若い人に人気のユシファカル。
ユシフの背骨、みたいな意味。
その名の通り、ユースフ・ユシフを南北に縦断する大通りで、
北側が新市街、南側が旧市街です。
まずは新市街方面から。
ガンエデンの文化が流入してきて、店舗型の小売業が増加中。
新しいお店はガラス窓使って陳列した商品を見えるようにしてる。
つまり、今ユシフの流行は、ウインドウショッピング。
さあ、思う存分、互いの趣味に興味を持つのよ!
「──ってはずなのになんで男同士で盛り上がってんのよ?
何しに来たかわかってんのか⁉」
「え? ヒュッケさん……とフィニクスさんは、夜警、の
お仕事でよくご一緒するとかで……仲いいですね」
「いや、そういう意味じゃなくてさ……何見てんのあいつら。
革細工? 男って好きよね~、ああいう玩具みたいなの」
「い……いもの、だと思います」
そう言いながらサリアは絵本のお店をチラチラ。
豪華な装丁のB4くらいのでっかい絵本。
ありえなくらい細かく、幻想的に描かれた絵はそれ自体に
絵画としての価値がありそう。
「え、なにこれ、かわいい~~」
「『穴ウサギの冒険』で、すね。昔のアンセル様が登場するので
ユシフでは……人気の童話なんです」
「はあぁぁ~~、ウサギの毛が細かい。撫でられそう。
このニンジン、煮たい。甘いよ、これ絶対おいしい」
「わかります。写実的ってだけじゃないん、ですよ。匂いや、
手触り、の記憶を喚起する、夢の中のリアリティ」
「まさにそれ! あ、ちょっと待って、あのちっさい本はアレポ?
うわ、あんなの絶対オトが喜ぶよ」
「買いま、しょうか? お金、キャスからもらったので」
「そんな、ダメだよ~~。え~、サリアったら私を口説いてどうすんの……
………………どうすんのさ⁉」
「ひぃっ、な、どうしたんですか、急に? わ、たしなにか
お気に障るようなことを……?」
大声にビックリしたサリアを置いて、ヒュッケに突撃。
なにやってんのよヒュッケ⁉
あと若干、私⁉
男女に分かれて過ごしてるとか、小学生か⁉
読んでいただき、ありがとうございます。
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