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第五十九話 デートプラン

 ノエルって朝から元気だよね。


 こっちは昨夜、久しぶりの給仕の仕事で腰が痛いってのに。

 容赦なく早朝から訪問してきやがった。


 図々しく朝食まで食べてる。金払えよ。


「眠そうですね、ちゃんと眠れてますか?」


「誰かさんが来なければあと二時間は寝られたよね」


「ヘンですね、食堂の仕事は朝が早いと聞いていたのですが」


「仕込みとかする料理人はね。私はただの給仕。準備できて、

お客さんが入るくらいの時間からが仕事」


「給仕としてのあなたに用はありません」


「じゃなんで食堂の話をしたんだよ⁉」


「あら、おはよう、オト」


「お、はよ~~」


 オトが目をこすりながら降りてきて、欠伸して、

 そのまま私の膝に乗っかって、寝た。


 アレポも降りてきて、足元で丸まって、寝た。


「早起き、さいこーじゃん☆」


「今のおはようは私に言ったんですよ?」


「私に決まってるでしょ、オトは私以外に挨拶しない!」


「しますよ、礼儀正しい子ですよ、なんで親のあなたが

そんなにバカなんですか」


「ワイルズ~~、こいつ出禁にして」


「うるせえ、たまに早起きしたんならこっち手伝え」


「今日は別件で外せないの。あ、この卵のやつ私とオトにもちょうだい。

支払いはノエルで」


「構いませんが、本当に付き添いなんか必要ですか?

二人きりのほうが……その……盛り上がるんじゃ?」


「ロマンチストだねえ、ノエルは。でも身分の違いもあるし、

サリアの性格の問題もある。場合によっては一番平穏で確実な

プランになる可能性もあるんだから慎重にいかないと」


「どうでしょう、うまく家族になれたとして、それだけで

オルデン卿が議席を譲りますか?」


「そこはオーロラにも協力してもらって、本国とのコネクションを

演出してみたり?」


「ふふ、議席を放り出して本国に帰りたくなる理由を作ると。

なかなか悪辣ですね、クルスは」


「オトが寝てる間はね」


 寝てるオトの髪を優しく撫でる私を、ノエルが羨ましそうに見てる。


 羨ましいだろー。


「ですが、問題はそう単純ではないかも」


「というと?」


 ノエルは周囲にちらっと視線を走らせ、身を前に乗り出す。

 その角度だとオトに話しかけてるみたいだけどね。


「下院の設置です」


「かいん? って、あの議会の?」


「ええ、そうです。街の有力者に議席を与え、法整備や予算の分配に

平民の意見をより取り入れていく制度ですね」


「いい話じゃない」


「発案がオルデン卿。卿はアロウザに留学経験がありますから、

そこで学んできたのでしょう」


「なるほど、実績作りってわけね。しかし、アロウザか……

聞きたくない名前が出てきたなあ」


「アロウザの学術機関はどれも世界最高峰ですよ?」


「それは知ってるけどさあ……」


 私とオトを殺そうとしたあのウイッチ・ハントを擁する

 一大差別国家だ。


「議会と教主の力関係もバランスが取れていますし、国民から

元首まで、一つの思想で統一された強固な国家です。

ガンエデンのほうがよほど独裁的ですよ」


 忌々しそうに横を向く。


 ノエルはときどきそんな顔をするよね。

 ガンエデンの、特にティタニアに関わることで。


「それは聞かなかったことにしとくよ。

でも早まったかなあ……下院ができるならガンエデンと

ユシフの軋轢も弱まるだろうし、ヒュッケを議員にするにしても、

下院のほうがやりやすかったね」


 ノエルが首をかしげてる。

 どうやらここからが、そう単純でない部分ってことかな。


「オルデン卿はガンエデンから支援者の染色業組合の人間を

呼び寄せて下院議員に据える気です」


「おっと! 染色の権利を争ってる織工さんたちには到底

受け入れられない話だ。やっぱり『生き永らえしもの』の線は

ハズレかな。シンプルに権力闘争かしらね」


「下院の設置自体には、織工組合も賛成してるんですが、

当然、彼らに議席があることが前提です」


「このタイミングで下院の設置、掌握、積極的に夜会も開いてる。

……オルデン卿は総督の地位でも狙ってる?」


「総督府ができたら、魔術協会の予算配分の権限も持つんですよね。

はあ……ため息しか出ません」


「それは予算を使い込んでる人のため息だね」


「使い込んでなんかいませんよ、人聞きの悪い。

長老たちの機嫌が悪くなるのが面倒だ、のため息です」


「そういや叩きつけてやったの? 呪いの手首」


「魔術師が幼稚な言い方しないで。まあ、動かぬ証拠ですからね。

重い腰を上げて、本国にブラックハンズ絡みの事件の

資料を請求してくれましたよ」


「それだけ? 調査班は?」


「私と若干名。階級はあなたより上ですが、

あなたより使えないのばかり」


「はぁ~~~、それで朝から私に会いに来た、と。

しょうがないなあ、ノエルちゃんは。

私がいなくちゃ、事件についての考えもまとめられない?」


「あなたに会ってもまとまりませんでした」


「かわいくない。この人かわいくないね~~、オト?」


「あ、うぁ? あ、ノエル、おはよう。なんでいるの?」


「おはよう、オト。クルスに相談があって来たんだけど、

さほど役には立たなかったわ」


「ほう、クルスは──」


 ふいに黙って私を見上げてる。

 目がまんまる。寝ぼけてるのかな?


「なんでクルス、ここでねてる?」


「寝てたのはあんたね。自分で降りてきたの覚えてない?」


「そうだった! クルスはあさダメなひとだった。

てーけとーでのうみそのさんそがゼロだ」


「死ぬわ」


「ノエル、オトにまかせろ! オトはあさからげんきだ。

なにしてほしい? なんでもするよ?」


「そうねぇ、じゃあ私の代わりに手と顔を洗ってきてくれる?

それから一緒に朝ごはんを食べてほしいな」


「らじゃ! ゆくぞ、アレポ!」


 風のように飛び出していった。

 まさか井戸まで走っていったの?


 さっきまで涎垂らしてたとは思えない。


「……オトの扱い、うまいじゃん」


「一週間ほど一緒に生活してましたからね。

私から言わせれば、あなたはオトを構いすぎです」


「それについちゃ、俺も同意だな。朝メシ、できてるぜ」


「うっせぇわ、育児方針の意見などいつ求めた?」


「オトはそんな乱暴な言葉、使いませんよー」


「うぐっ……」


 ぐうの音も出ない。オトを盾に取るなんて卑怯な。

 ……私もたまにやるけど。


 オトが戻ってきてから一緒に朝食。

 今日のデートコース、及び警備上の注意ポイントの確認。


 会議に参加したオトが自分でも行く気になっちゃってるから、

 今度、別の日に連れてってあげないと。


 並行してオトとのデートプランも練ってると、オトが急に

 私にしがみついてきた。


 なになに? なんのご褒美?


「ク、クルス……なんかきた」


 オトの指した方向には、外からの光をバックに立つ、

 誇張されたマンガみたいなシルエット。


「ヒュッケ? あなたなの?」


 タイツみたいなやたらほっそいパンツ、靴下一体型。

 肩と胸が風船みたいに膨らんだ上着、縦ストライプ。


 撫でつけた髪、頭にちょこんと乗った帽子。


 情報が制限された社会で、貴族趣味を曲解した男が

 悲しきモンスターを爆誕させてしまった。


 珍しくワイルズが皿を割ってる。

 オトは私にしがみついてる。どうぞそのまま。

 アレポはかなりガチに吠えてる。


 ノエルは……普通に卵を食べてる。


「おいおい、完璧すぎて言葉を失くしたか? 瀟洒を

理解すんのはアレポだけか……ってあぶねーな、噛むなよ」


「着替えろ」


「はあ⁉ なんでだよ、それなりに金もかかってんだぞ⁉」


「ない」

「ない」

「ない」

「見苦しい、焼きますよ?」


 ノエルがガチのガチだったので、ヒュッケも従わざるをえない。

 考え直してくれてよかった……。


 でも、その意気込みは買うよ。


 サリアとの初デート、

 何を着ていくか真剣に考えて、悩んでくれたんだってわかります。


 ヒュッケは外形呪詛に差別はないし、気遣いもできる。

 周囲の人の話をきちんと聞くから親しまれ、頼られる。


 結婚の話はどうなるかわからない。


 けど、サリアが外に出て他人、とくに異性と会話するのに

 慣れていくのに、ヒュッケはちょうどいい相手かもしれない。


 だんだんそう思えるようになってきた。


 まあ、センスはないけど……。

読んでいただき、ありがとうございます。

まだまだ手探りで執筆中です。

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