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第五十六話 恋と優しさと禁書の行方

 しばらくのあいだサリアをよしよし……てしてたら、

 やっぱりかわいくなってきちゃった。


 女の子かぁ……

 女の子だぁ……


 母さんも私の頭を撫でてるときはこんな気持ちだったかな?


 いや、それはないか。

 私はサリアみたいな自信のない、内向的な性格じゃなかった。


 攻撃的で支配的。

 臆病の裏返し。


 きっと母さんが私の頭を撫でたのは優しさを学んでほしかったからだ。


 ちゃんと学べてた?

 オトにもサリアにも伝えられてるかな、その優しさ。


「ごめんなさい、もう大丈夫です」


「あ、もういいんだ……」


 残念そうな声出ちゃった。

 オトがグズるともっと長いけど、サリアは大人でした。


 まだちょっと鼻をすすってるけど、声に張りが出た。


「あ、あの、クルスさんは、私に何か用があったのでは?」


「え? なんかあったっけ……別にないかな。

サリアが心配で顔見に来ただけだから」


「そそんな、立派なローブを着て、魔術師! って感じなのに?」


「これノエルから借りてるだけだよ。あの子も友達いないからねー、

私が構ってあげないと…………あ!」


「何か、思い出したんですね?」


「あ~~、うん、サリアに話を聞きにきたんだった。

サリアかわいいな~ってなったらどうでもよくなってたわ」


「か、かわいくないです。私なんてどうせ……」


「ほんとにぃ~~? サリア、なんだか急にかわいくなったなって

気がするんだよね。そう、とくに昨日の夜から」


「なな、なんですか? なんの権利があっての畳みこみですか?」


「畳みこんでねえわ、ほのめかしただけだわ。しかしその反応、

意外だねぇ~、ああいう細っこいのがいいの?」


「なんのことを言ってるのかさっぱり」


「ヒュッケのことだけど?」


「おおいいぃぃ、なんでヒュッケさんが出てくんの?」


「取り乱すと口調変わった。元気があってそっちのほうが良き。

なんでって、ハンカチ渡してたじゃん」


 見る見る顔が赤くなった。

 皮膚のガラス質になってるとこは綺麗なピンク色。


 カラフルだねぇ、アニメみたい。


「あああれはたまたま偶然そうなったというか……

意味はないです、そそんな、宮廷恋愛物語じゃあるまいし」


「どうやったら偶然でハンカチ渡すのよ。

ああ、そーですか。ヒュッケから伝言を預かってきたけど、ならいいか」


「あ! ああ、あ、あの人はなんて?」


「嘘」


「うあああぁぁぁぁ、クルスさんのアホ~~~」


 サリアがベッドの下に逃げ込んだ。

 台所とかにいる真っ黒なあいつ並みの速度。


「すっごい早く動けるじゃん。逃げなくてもいいし、隠れなくてもいい。

誰かを好きになることは普通のことだよ」


 ベッドに腰かけると大きく軋んだような音がしたけど、

 サリアのうめき声だった。


 ふ、太ったかと思っちゃったじゃないか……


「わ、わからないんです、なんであんなことしたのか。

目が回るくらい飛び回って、死にかけて、混乱して、

なんていうか、か、感じたんです。

それが私に許されてるかのように、決められてるかのように」


「人によってはそれを運命と呼ぶんだろうね」


「クルスさんは?」


「呼ばない。正常じゃない精神状態での極端な感情と行動には

だいぶ否定的なの。それで後悔したから」


「……ですよね。私、バカなことしました。きききっとあの人にも

嫌な思いをさせてしまった。死んでお詫びします」


「ちょちょちょいちょい、待ちなよ。おいシーツで輪っか作んな。

今のは私の話。サリアはどうなの? 運命とかじゃなくても、

また会いたいとか、話したいとか思う?」


「思います」


「即答、上等。なら死んでる場合じゃないでしょ。まずは……

そうだな、服と髪型を何とかしようか。姿勢もよくして、

これは気長に取り組めばいいけど、喋りも練習だね」


「え……なんで?」


「え……なんで? じゃないわ。自分を可愛く見せるためよ。

好きな人のために自分を磨くのって楽しいよ?」


「好き……とかではないです。それにそういうの、はしたない」


「かぁ~~~、腹立つなあ。恋の主役は女なの。主役は一番

目立つもんでしょうが。それがはしたないなんて言ってるやつには

一生わき役やらせとけ」


「いい一生わき役の方向で……」


 輪っかにしたシーツをほどいて被ってまたベッドの下へ。


 行かせるか。足掴んで引きずり出すよ。


「サーリーア。ちょっとだけ、ちょっとだけでいいから

がんばってみない? 私に付き合うと思ってさ」


「なな、なんで私にそんなに構うんですか?

そんな話をしに来たんですか?」


「はあ? 他に何の話があるってのよ?」


「だって、そんな立派な魔術師! て感じの恰好ですよ?

こんな話をしてる場合じゃないのでは?」


「ああこれ? ノエルに借りてるだけだよ。そういやあの子も

本読んでばかりで外に出ないな、ついでに…………あ!」


「ほら、やっぱり何かあった」


「いや、えと、昨日の夜、サリアが狙われた理由なんだけど、

何か心当たりがあったりする?」


「いえ、まったく。最近の行方不明事件では外形呪詛の人が

姿を消すと聞きましたし、だ、だからでは?」


「それが本当だとしてもわざわざ防御の固い屋敷の中で、

議員の娘を直接狙ったりしないよ」


「う~~ん、一番、考えられるのはお父様の仕事でしょうか」


「議員の?」


「いえ、お父様はもともと染色業組合との付き合いが深いんです。

ガンエデンでは、織工でも、か、慣例的に行われていた染色を

完全に認可制にすることで織工から切り離したんです」


「明確な敵と味方がいるってことね」


「そうです。そしてその『改革』をこのユシフでもするつもり……

じゃないかなあって」


「確信はないんだ」


「……はい。でもユシフの織工組合はかなり警戒してるかと」


「警告ってことなら、襲撃の筋は通るけど……」


 他の行方不明事件と繋がらない。

 そもそもこんなことして誰が得する?


「狙うなら妹のキャスですよね。あの子のほうがか、かわいいし、

お父様から愛されてる。わ私じゃ警告にならないもの」


「そう見えてない人もいるのかもね。少なくともあなたのほうが賢い。

オルデン卿の仕事にも詳しいじゃない?」


「う、裏方の仕事はわりと手伝ってます」


「孝行娘だ。ならちょっと聞きたいんだけど、ラーコン……

織工組合の組合長さんね、彼と話してたターバン巻いた人、

あの人とラーコンさんはどういう関係?」


「単純に取引相手です。レインコットンを卸してる。

ただ、か、彼らはお父様とも取引がありますよ?

何でも調達してくれて、私も本をいっぱい注文して怒られた」


「本⁉」


「ひぇっ、はい、本です。歴史書とか……」


「ねえ、オルデン卿は最近、古い本を手に入れなかった?

ただの散文なんだけど、魔術書っぽい本」


「たた、タイトルは?」


 外が騒がしい。

 勝手にサリアに会ってるの、バレたな。


 ドアが勢いよく開いてオルデン卿が入ってくる。


「困りますな、許可なくその子に会われては」


「彼女は監禁でもされているのですか?

だとすればどういう罪で?」


 うわ、オルデン卿、怒ってるね。

 怒りが大きくなるほど無表情になるタイプだ。


 サリアもだいぶ怯えてる。


「クルスさん、どうやらあなたは多くの嘘をついて

この場にいるようだ。ご存知でしょうか、アガートラムに

魔術師はいないのですよ」


「それは聞いてなかったな」


「さらにあなたは階級も偽っている。協会に通報すれば、

資格の停止もありえますね」


「階級を偽ったつもりはありません。私は自分が何級だなんて

言ってませんから」


「まるで詐欺師の口調だ。魔術師ですらない。

失望しましたよ、あなたにもエウラリア様にも」


 オーロラ、ごめん。夜会にまで来た意味なくなりそう。


 こうなったら直接ぶつけるのみ。


「オルデン卿、『生き永らえしもの』という禁書を

所有していませんか? 所有しているなら今すぐ渡しなさい。

協会に通報されたくなければね」


 くっそ、顔見てもぜんぜんわかんない。


 本心を隠すってことに関しては、こいつらは魔術を超えてる。

 反応で探るなんてさせてくれない。


 でも、サリアを見たね?


 『生き永らえしもの』と聞いてサリアを見た。


 所有してるかどうかはともかく、無関係じゃない。

 なんなら魔法少女絶対悪センサーにもビビッときたよ。


 もし行方不明事件にも関わっているなら覚悟しなさい……


 必ず追い詰めてやる。

読んでいただき、ありがとうございます。

まだまだ手探りで執筆中です。

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