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第五十七話 秘密同盟

 オルデン卿の屋敷を追い出されました。


 ま、当然だよね。

 でも協会に即通報しなかったのは向こうにも都合が悪いから?


 あるいはオーロラに気をつかったか。


 なんにせよオルデン卿との繋がりは途絶えたと考えるべき。

 サリアと接触する方法を考えないと。


 恋も禁書の行方も諦めるもんですか。


「……とはいえ、まずは解決しなきゃならん問題があるなあ」


 とぼとぼ歩きながらひとり言。

 凹むとひとり言が出る癖、お母さん譲りだよね。


「いろいろ大変だったとはいえ、そんなの言い訳にならない。

オトの……オトのお土産確保を忘れるとは。

あ~~どうしよ、こないだの算数のこともあるし……

あ、いっそこの魔術師のローブとか……ないな」


 お金も持ってないから適当に買ってごまかすのもできない。


 おい私、なんで屋敷のほう見てるんだ?

 なんで侵入できそうなとこ探してるんだ?


 やましいこと考えてるときって大抵誰かに見られてる。

 鉄柵の向こうでメイドさんが盗み働きを企む私を目撃。


 そ、そんなに見ないでよ。まだ何もしてないでしょ。


 あれ? なんか手を動かしてる。

 ハンドサイン?


 にしてもよく見ると若いメイドさんだ。 昨日は見かけなかった。


 そばかすのある村娘って感じの子なんだけど、

 育ちの良さが滲み出てる。


 ニコっとチャーミングに笑って歩き出した。

 ハンドサイン、通じたと思ってる?


 まったくわかんなかったよ?

 とりあえず並行して歩いていこう。


 鉄柵の向こうは庭園。

 ユシフの地にわざわざガンエデン風の庭園を再現してる。


 維持が大変そうだ。


 で、その庭を維持する庭師が土や道具を運び込む通用口を

 メイドさんが開けてくれた。


「え? 入っていいの?」


「そう伝えましたけど?」


 キョトンとしちゃったし、されちゃった。


 メイドさんは私の手を引いて中に入れると、横にいた

 庭師のおじさんに頭を下げた。


 おじさん、いい笑顔。

 家族って雰囲気がしてホッとする。


 少なくともオルデン卿の指示ではない。

 いきなり槍持った衛兵に囲まれたらどうしようかと……


「こちらでお待ちです」


 誰が? とは聞かないでおこう。

 たぶんハンドサインで伝わってるから。


 ガンエデン風の庭園って木立や生け垣を複雑に配置するから、

 木漏れ日の調節が庭師の腕の見せ所。


 うん、綺麗。


 ガゼボ──休憩所のこと──も突然目の前に現れたりする。


「キャス⁉ あなただったの?」


「来てくださったんですね、お姉さま」


「おね……?」


 メイドさんが椅子を引いて私を待ってる。


 おとなしく座っておこう。

 お茶とレモンケーキがおいしそうだし。


「ありがとうコリーン。お姉さま、コリーンは私の乳母の娘で

一緒に育ったのよ。姉妹同然なの」


「無茶なお願いばかりするのは姉妹でも不当です」


「ほら、ね?」


 なにが、ね? なのかわかんないけど、キャスは嬉しそう。

 二人の関係性については関与しないが吉。


「なんで私を招いてくれたの?」


「だって昨日はあんな騒ぎがあって、ぜんぜん話せなかったから。

私はお姉さまとお友達になりたいの」


「えと……もう知ってると思うけど、私はアガートラムじゃないし、

一級魔術師でもない。そのへんにいる四級魔術師だよ?」


「お姉さまったら、そんなのどうでもいいわ。昨日のお父様とのダンス。

あんなに美しく、激しく踊れる女性はそのへんにはいないの。

憧れたわ。だから決めたの、この人はお姉さまだって」


 ちらっとコリーンを見てみる。


 小さく首を振るコリーン。


 夢見る乙女に道理を説くのは風を追うように虚しいものだ。


「なんでもいいけど、オルデン卿には私と会ったことは

話さないほうがいい。あなたも閉じ込められちゃうかも」


「お父様は私が誰と会ってても気にしません。男でなければ。

それより食べて食べて。これ、コリーンが焼いてくれたのよ。

レシピは簡単なのに、コリーンじゃないとこんなにおいしくならない。

きっとコツがあるのね」


「へえ……」


 とはいえ私の舌は二十一世紀のスイーツに鍛えられてます。

 さすがにね~、文明レベルで限界ってのが……


「うっまあ!」


「恐れ入ります」


 適度な甘さに包まれた爽やかレモンが口の中で弾けて踊る。

 私の身体もつられて踊る。


「あはは、お姉さま嬉しそう。そうだコリーン、

あれもお渡しして」


 テーブルにドンと置かれるルビーのブローチ。


 むせたわ。

 マフィア映画でしか見たことないわ、こんなシチュ。


「な、なあに、これ?」


「お礼です。サリア姉さんの命を救っていただいたのに、

お父様ったら何もしないどころか追い出すなんてオルデンの恥。

遠慮なさらないで、それは当然の──」


「受け取れない」


「な、なぜ? それは私の私物。お父様は関係ないのよ?」


「サリアを救ったのは私だけじゃない。オーロラ、フィニクス、

ヒュッケ、みんなが恐れず動いたから救い出せた」


「それはもちろん知っています。でも、現場にいた方々はみな

口をそろえてあなたがいなければ救出はなかったと。

あなたの作った時間がサリア姉さんを救ったと仰いました」


「それだけじゃないの。これが一番大きな理由なんだけど、

私はね、友達を助けることをお金にしたりしない」


 プライドを傷つけちゃったかな。


 うつむいて震えだしたと思ったらカップからお茶をがぶ飲み。


 プライドどころか体裁だいじょぶ?

 ジョッキ空けたおじさんみたいな息を吐いてるよ?


「なんていう高潔!

言葉、精神、立ち居振る舞い、全てがエレガンッ!

家畜を値踏みするように私を見る男どもに見習わせたい!」


「キャス様、お口が苦くなっておられます」


「あらごめんなさい。でもさすがはお姉さま。そんなお姉さま

だから私も手伝おうって思ったの」


「手伝うって何を?」


「もちろん、サリア姉さんのことよ。恋……してるのよね?」


「ど、どこでそんなこと聞いたのかな? あ、サリア本人か」


「まっさかぁ~~。貴族社会は目と耳だらけ。しかもみんな

話したがってるんだから、ちょっと興味があるって顔すれば

なんでも話してくれるわ」


「話してくれました」


「なんにもぜんぜん興味ないって顔してるけどね、コリーン」


「でもよかった、私ね、サリア姉さんは早く結婚して家を出るべきだって

ずっと思ってたの。そうしないとお父様はずっと閉じ込めるわ。

もちろん結婚させる気なんてさらさらない」


「ガンエデン貴族の間では外形呪詛は恥。ティタニア様が

外形呪詛は魔女ではないと定義したのにね……」


「誤解のないように言っておきますが、キャスお嬢様はもちろん、

多くの方々がティタニア様の御心にかなうよう努めておられます」


「有力者たちほどそういった新しい価値観には馴染めない。

古い価値観と制度の中で力を蓄えてきた人たちには」


「クルス様は悲観的であられますね」


「別に……。

良心や良識ってのが人を殺すのを何度も見てきただけ」


「さすがお姉さま、言うことが深いですわ。私、感銘を受けました」


「それが嫌味に聞こえないのがキャスのすごいとこよね」


「人徳です」


「それで、サリアの結婚を手伝うって具体的にどうするの?」


「まずはお父様の説得。お母様にも手紙を書きますわ。お母様は継母で

サリア姉さんを追い出したがっているから、乗ってきます。

それとサリア姉さまを焚きつけるのもお任せくださいまし。

エンドレス恋バナで思考力を奪ってやりますわ」


「それ逃げ出さないか?」


「お相手のヒュッケさまはどうなのです? サリア様の外見に

逃げ出したりは?」


「それはない。ヒュッケはユース地方で生まれ育ったからね。

ただ、突然のことで戸惑ってはいるかな。身分も違うし。

ただ説得はできると思う。できれば私は二人の気持ちも大事に

してあげたいけど」


「当然ですわ。結果的にサリア姉さまが不幸になるのでは

意味がありませんもの」


「そうね、キャスがそう思ってくれるなら心強いわ」


「ではでは、この秘密同盟、締結でよろしくて?」


「もちろん。サリアのために」


 私がお茶のカップを掲げると、キャスも嬉しそうに掲げる。


 まるでごっこ遊びに夢中な子供のようね。


 自由が制限され、刺激に飢えているのだろう。

 この同盟そのものを楽しんでいるのだとしても無理はない。


 私にとっても有益な話だし、断る理由もなかった。


 ただ、キャスの後ろに控えるコリーンが、光と影ってレベルで

 暗い顔をしてるのは、どうして?

読んでいただき、ありがとうございます。

まだまだ手探りで執筆中です。

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