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第五十三話 嘘と沈黙

 オーロラも黙ったまま、数分経過。


 やたら長く感じる時間。


 でもこれは私の沈黙が語る事実を否定するためでなく、

 受け入れるための時間だろう。


 彼がいま考えているのは、私がシング・ブレードを

 使ったとするなら、その方法と理由だ。


 どうやって使ったのか? なぜ使えたのか?


「君がシング・ブレードを手に取ったとして、

おそらく手を離す間もなく灰になる。あれはそういうものだ」


「その通りね。そしてそれはあなたも例外ではない。

魔力を持たないあなたがあれに触れて無事なばかりか、

黒い刃まで発生させていた。それこそありえない」


「僕は継承者だ。扱えて当然だろう。

あんな小さな刃しか出せないのが不甲斐ないけどね」


「自分でもわかってないの? あなたが継承してるのはフィニクス。

シング・ブレード自体はたぶん誰でも扱える。

持てば死ぬってだけで」


「どうしてそんなことがわかるんだい?」


「持ったからよ。シング・ブレードは見境なく持ち手から魔力を

吸収する。あれじゃミトラの加護というより呪いね」


「シング・ブレードはアガートラムの始祖が銀の腕とともに

授かったとされている。ゆえにアガートラムの当主として

認められたものだけに振るうのを許される」


「そう聞いてきた?」


「子供のころからね。無邪気だった僕はシング・ブレードを持つ

英雄たちに憧れたものさ。君はその憧れを呪いだと言うのかい?」


「呪いじゃない?」


 顔に何かぶつかったみたいにハッとするオーロラ。

 価値の転換を拒絶したりしない。


 ためらわずに捨てていける人だ。


「そう……かもしれないね。アガートラムにかけられた呪いだ。

常に最強たれ、とね。始祖の伝説に偽りがあるなら、

僕が当主になることにあれだけ反発があったのも理解できる。

僕のようなできそこないにシング・ブレードが扱えては困る

というわけだ」


「できそこないって言葉の意味には議論が必要ね。

でももし、シング・ブレードが私の考えてるようなものなら、

あなたが当主になるのは許されないはず」


「だったんだけどね、ティタニア様が許した。実を言うとね、

当主だとか言ってるけれど、アガートラムに身分はないんだ」


「身分がない? そういえば、誰もあなたをアガートラム卿とは

呼んでなかったね」


「さらに言えばアガートラムは人ですらない。始祖のころより、

ティタニア様の所有物として自他ともに認識されてる。

ティタニア様の決定には絶対服従さ」


「ティタニア様は一度も代替わりしてない。つまり、シング・ブレードが

どういう経緯でアガートラムに渡ったかもご存じのはず。

それでもあなたを当主にしたなら、それで問題ないってこと?」


「少なくともティタニア様にとってはね。僕を当主にした決定で

公然とティタニア様を非難したアガートラムもいたが、

どうでもいいみたいだ」


「アガートラム……か。強くなりすぎたのかもね」


「アガートラムを弱体化させるため?

それなら僕は当主に最適だ。陰謀論が過ぎるとは思うけどね」


 本当に弱体化を狙ったのなら、

 周辺国にティタニアの力に翳りがあると取られかねない。


 ティタニアが揺らげばガンエデンが揺らぐ。

 ガンエデンが揺らげば世界が揺らぐ。


 冗談抜きでアガートラムに関わると命が危ういね。


「でも、ティタニア様に限ってそれはないか。所詮は憶測ね。

ピースの足りないパズルみたい」


「話を戻そうか。君がなぜシング・ブレードを使ってなお、

そうしてパズルで遊んでいられるのか」


「そこはやっぱり忘れてくれないか……」


「アガートラムについての考察は興味深かった。

君の誘導に合わせた価値はあったと思うよ」


「そんなつもりはありません。たんに話の流れよ。

さっき、あなたが継承したのはフィニクスだと言ったでしょ。

それが私が無事な理由に関係してる」


「それも憶測かい?」


「推測よ。私が見て、触れたことに基づいてる。

シング・ブレードの魔力の吸収は常軌を逸してる。黒い刃に

変換するのは副次効果で、目的は持ち手を消滅させることよ」


「ひどい言われようだ。ミトラに恨みでも?」


「ひどいのは消滅を回避する手段を考えたやつね。

体内の術式を全部見たわけじゃないから詳しくはわからないけど、

おそらく魔力の吸収と消滅をフィニクスに肩代わりさせてる」


 オーロラは壁に背中を預けて自分の手を見つめている。

 シング・ブレードを持った感触を思い出しているのだろう。


「……フィニクスは死に続けていたのか」


「まず外法と言っていい。これノエルは知ってるの?

知らないなら言わないほうがいいわ。あの子の性格だと、

フィニクスとシング・ブレードの存在を許さない」


「誰も知らないさ。あれを持った人間なんていないんだからね。

君だけだよ。ここ数百年、アガートラムの当主以外で手にしたのは。

さあ、本題だ。君はフィニクスに肩代わりはしてもらえない。

なぜ生きてる?」


「注視すべきは魔力の吸収を、持った人間以外に負担させる仕組みよ。

背中を展開した状態のフィニクスが変換器としての

役割を果たすのだとしたら、説明がつく」


「君の代わりとなって魔力を供給したものがいたとでも?」


「いいえ。でも魔力はあの場に充分にあった。ノエルのおかげで」


「言ったはずだ、彼女でもシング・ブレードをフィニクスの

身体に戻すので精いっぱいだとね」


「そうじゃない。彼女があのとき使った魔術『七界の廻光』は

別の世界から膨大なエネルギーを引き出す。その量は実体化した

アビスと同等なの」


「それがフィニクスを通して黒い刃に変換された?」


「それ以外には考えられない。少なくとも私にはね」


 オーロラはしばらく腕組みして室内を歩き回ってた。

 動くとドレスがダメージ加工の範囲に収まらなくなりますわよ?


 ただ、私への疑念や警戒はだいぶ薄れた気がする。

 私から目を離して考えに集中してるし。


 まあ我ながら事実よりもよっぽど筋の通った話だったからね。


 なんて油断してたらいきなり目の前に座られて焦った。

 刺し貫く視線がまばたきさえ許さない。


「僕の目を見て言うんだ。君がアビスを消滅させた、と。

シング・ブレードを使って」


 それは紛れもない事実だ。


 アビスを滅ぼした魔力が七界の廻光から来ているのか、

 魔法少女から来ているのか、どちらでも結果は同じ。


 なのにどうして、オーロラの言葉をなぞる唇が震えるの?


 覗き込んだ瞳の奥が冷たいのは、私の罪悪感を映してるから?


「アビスは私がシング・ブレードで消滅させた」


 オーロラがうなずいて受け入れてくれたとき、私は一瞬、

 全部話してしまおうかと思った。


 彼の安堵の微笑みは全てを話した私に向けられるのが相応しいから。


「……ずっと気になっていたんだ」


 オーロラはベッドに寝転んで眠るように目を閉じた。

 それで私も口を閉じてしまった。


「可能性はそれしかないと思っていたよ。

君かノエルがシング・ブレードを使う以外にアビスは滅ぼせない」


「けど認めたくなかった?」


「君、僕の心を覗く魔術を使ってるね?」


「そんなことしなくても顔見ればわかるよ」


「それは困るな、見ないでくれ」


 私も寝転がって目を閉じると、修学旅行で眠れなくて

 ずっと話してるみたいな気分になった。


 好きな人のことを話しちゃうやつ。


「シング・ブレードが僕以外にも扱えるなら、僕の存在意義はない」


「私の話、聞いてた? フィニクスを継承しないと扱えないの。

そしてフィニクスを継承してるのは世界であなただけなの」


「僕の力じゃない。魔力のない僕がシング・ブレードを扱えることが、

変革の象徴だと思っていた。だから僕は、自分のやることを正しいと

自信を持って言えたんだ」


「正しいよ。アガートラムによる力の独占を終わらせる。

そのためにティタニア様に選ばれたんだよ、オーロラは」


「そうかな?」


「そうだよ」


「たぶん?」


「きっと」


 オーロラは鼻で笑って、でも聞き取れないくらいの声で

 ありがとう、と呟いた。


 ためらわずに捨てていける人でも、苦しくないわけじゃない。


 ベッドから手を出して、彼の手を探して握る。

 寂しい夜に温もりを求めるみたいに。


 ほんの少し迷ってから彼が握り返してくれて、

 私の胸が、キュッと締め付けられるように痛んだ。

読んでいただき、ありがとうございます。

まだまだ手探りで執筆中です。

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