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第五十四話 過去の亡霊

 ひさびさにふかふかのベッドで寝たもんだから、

 完全に日が昇るまで目が覚めなかった。


 なんだか私だけ悪いなあ。


 もちろん夢の中ではオトを抱っこしてたよ。


 オト、大丈夫かな。最近は一人で寝られるようになったけど、

 ときどきぐずったりするからな。


 ゼンドーラに迷惑かけてなきゃいいけど。


「んで、なんであんたがここにいるわけ?

しかもそんな、知らない間に入ってきた野良猫見るような目で

私を見てるの?」


 ノエルが腕を組んで私を見下ろしてる。

 それいつからやってた? 顔キープして起きるの待ってた?


 仕立てのいいローブ着ちゃって、しかも炎を囲う蛇の紋章。


 やっぱりメティス神知団だ。

 好きだよね~、そういうヒエラルキーを明確にするアイテム。


「まあ、こんな状況ですからね。

……でもあなたもよくやりますね。オーロラの子を宿したら、

生きてはいられないと忠告したのに」


「はあ? なに言って…………

おいぃぃ、なんでこっちで寝てんだこいつ⁉」


「いいんですよ、私は誰にも言いませんから。オーロラの服、

クルスが破いちゃったんですか?」


「これは昨日、夜鬼相手に激しく動き回ったからだよ」


「……は、激しく?」


「意図的に勘違うのやめなさい。

だいたい私のほうは服着たまんまでしょうが」


「そういうのが興奮する人もいるとか……」


「照れてそっぽ向くのはかわいいけどさ、知識の偏りが

乙女の表情にそぐわない」


「ムーサ技芸員は性に奔放だと聞きましたが、事実なんですね」


「違うっつってんだろ。もういいから、何しに来たの?」


「手洗い用の水と手ぬぐいです」


「ありがとう」


 私が顔を洗ってる間、ノエルはベッドをじっと見てる。

 指先をいじいじしてる。


 絶対なんかいかがわしいこと考えてるな。

 ノエルはむっつり。オトに教えてやろう。


「これを着て、私の替えのローブです」


「ヤダよ、こんな気取ったダサいの」


「これを着ろ。そして一緒に来い」


「軽くキレてるの新鮮。形を大事にするのもいいけど、崩すことも

覚えないとね。術式も単調になるよ?」


「美しさが失われます」


「なるほど、その先にあるものをまだ知らない……と」


「あなたは私をイラつかせる天才ですね。あ、オーロラはほっといて。

睡眠と食事を邪魔されるとひどく機嫌が悪くなるので」


「猛獣だ」


「その猛獣を乗りこなしてるのは誰ですか。

あっ、ちがっ……そういう意味ではありませんよ?」


「いいよ、あんたのそういうとこ、なんか安心する」


「なんかバカにされてる気がします」


「あんたをバカにできるほど私は立派じゃない。

それで、魔術師のかっこさせて私をどこに連れてくの?」


「見てほしいものがあるんです。

無駄に知識だけはありますからね、クルスは」


 屋敷では協会から派遣された魔術師たちを見かけた。


 んん? 一部封鎖してる?

 貴族のお屋敷でそこまでできるのって九神庁くらいだよね。


「確かに昨日のは不自然な部分の多い事件だったけど、

それにしても大げさじゃない?」


「オルデン卿からの要請がありましたからね。協会も九神庁も

そこまで乗り気じゃありません。頭の固い長老どもにはことの

重大さが理解できないのでしょう」


「封鎖は誰の指示?」


「私です。わざわざ一級魔術師が乗り込んできて事態を

ややこしくしてるって疎まれてますよ」


「それで私か……。ノエルも実力主義はいいけどさ、協会内政治に

もうちょっと配慮しなよ」


「グラヴィス邸の報告書を鼻で笑う連中に愛想よくしろと?

寝起きのあなたに頼るほうがずっとマシです」


「んじゃせめて私には愛想よくしてよ」


「してるじゃないですか」


「ああ、そうなんだ……あんたに政治は無理ね」


「それは褒めてるんですよね?」


 ノエルは鎖で封鎖した客室の前でため息をつく。

 見張りを命令したのに誰もいなかったみたい。


 命令無視されるとは、本気で疎まれてますなあ。


「この部屋がどうかしたの? 何もないけど」


 一人用の小さな客室。

 内装は私が泊まった部屋と一緒で、ベッドは一つだけ。


 使用の形跡はなし。


「ベッドの向こう側、床に落ちてるものを見てください」


「あ~~ヤな予感する。口頭で説明してくれない?」


「見てください」


 有無を言わさぬ圧力。反応まで含めて私の『意見』ってこと?

 さてはノエルも相当ビビったな。


 臭いは……とくにないか。

 部屋でなんらかの魔術が使われた痕跡も見られない。


 それでノエルの深刻そうな表情。


 むしろ好奇心が勝る。


 ……で、好奇心は猫を殺す。


 床に落ちてる手のひらサイズの黒い塊。

 パッと見て木炭かなって思いました。


 まんま手のひらでした。


 切り落とされた人の手。手のひらが黒く塗られてる。


 それで思わず天井を仰ぎ見ちゃって、

 悔しいけれどノエルの期待通りの反応だったってわけ。


 嬉しそうに寄ってくるな! 不謹慎だよ。


「ね? ね? あなたでも封鎖しますよね?

私、間違っていませんよね?」


「さあ? これがあなたの考えたようなものかは、

これだけだとわからない。むしろその可能性を真っ先に考える

っていうのは、不勉強と思われてもしかたないかも」


「じゃあ拾ってくださいよ」


「ヤダよ! あいつらがどんな呪いを使ったか、知ってるでしょ」


「『黒死の呪い』です。ほら、クルスも同じこと考えてる。

さあ、あなたの意見を聞かせてもらいましょうか」


 私は一旦、落ちてる手から離れて深呼吸した。


 呼吸が浅い。

 肌がべたついて気持ち悪い。


 魔法少女やってたときの感覚に照らし合わせれば、

 こいつは特大の『わるいもの』だ。


「『ブラックハンズ』。口の中が苦い。

口にするのもけがらわしいってこういうことね」


 ノエルは採点する教授みたいにうなずいてベッドに腰かけ、

 横に座るように促した。


「食べます? 朝食、まだでしょう?」


「それどこから出した? あんたもこんなのの目の前で

よく食べる気になるね。サイコパスの称号をあげちゃう」


「さっき厨房からくすねてきました。ちょっと塩っけのある

ドライイチジクが入っててすごくおいしいパンです」


「いただきます」


 ホントにおいしくて二人でキャッキャってなった。

 ちょっと待っててね、ブラックハンズ……。


 ふう、一息ついた。やっぱりお腹減ってた。


「それにしても、ブラックハンズとはねえ。

過去の亡霊もいいとこじゃない。

あんたもしかして、いきなりその存在を主張したの?」


「言いたいことはわかりますよ。ガンエデンでは禁忌です。

もう何十年も前になりますが、ティタニア様自身の主導で徹底的に

摘発、処刑されましたからね。

当時を知る長老たちにとっては、存在してはならないんです」


「歴史書から名前まで抹消されたんだって?

もちろん、アレの名前もね」


「むしろそっちを消したかったんでしょうね。

それにしても本当によく知ってますね。この手を見ただけで

ブラックハンズとわかる魔術師はそういませんよ」


「それはガンエデンでの話。世界は広いのよ?

そう考えると、ブラックハンズがガンエデンを逃れてこの

ユースフ・ユシフに潜伏していた可能性もある」


「私もそう考えています。彼らが噂通りなら、夜鬼を使役することも

充分にあり得るでしょう」


「昨日の事件と関係あるってこと?」


「魔術防御に問題はありませんでした。であれば、内部からの

文字通り手引きがあったとしか」


 あ、なんだそのドヤ顔。

 黒い手で手引きって?


 笑えないってば。


「なるほど、状況からブラックハンズの存在が浮き彫りになるのはわかった。

ただそれでも焦りすぎよ。封鎖までしてブラックハンズを既成事実化

するなんて乱暴すぎる。この手を回収してすぐに撤収すべきね」


「焦りすぎ? 焦って当然でしょう。もしかしたら私たちは

すでに二手も三手も遅れているんですよ」


「待って待って、わかんない。あなたの頭の中で何が起こってるの?」


「本気で言ってますか? グラヴィス邸で失われた『生き永らえしもの』

はまだ発見されていません。それがもし、ブラックハンズに渡ったら?」


 やっぱり私、臆病なんだなぁ。


 その可能性から目を逸らしたくて、それぞれの事件をバラバラに

 考えるようになってた。


 ノエルが嫌う長老たちと変わらない。


 でもノエルは最短で、最悪に挑む。


 ならせめて、その勇気に敬意を。

 あなたの考えてる最悪を私の口から言わせてもらうよ。


 ……ブラックハンズの悲願はかの者の復活。


 ティタニアにより名前を消された狂王。


 『ネフレン=カ』

読んでいただき、ありがとうございます。

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