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第五十二話 あの日の真実

 中庭に出てきたオルデン卿はまるで騒ぎの原因がサリアに

 あったかのように叱責した。


 さらわれそうになった娘に対する言葉としては最低……

 もはや正気を疑う。


 さすがに一言いってやろうとしたら、オーロラが静かに首を振る。


 ……そっか、私は今アガートラムだ。

 公の場でオルデン卿を非難すれば、政治的な一撃になりかねない。


 こんなドレス着て夜会に来た意味がなくなる。


 オルデン卿が乱暴にサリアの腕を掴んで連れて行くのを、

 ただ黙って見送るより他にないなんて、情けなくなる。


「あんた、それ何もらったの?」


 ヒュッケが握りしめた布切れを不思議そうに見つめてる。


「いや知らん、あのお嬢様が別れ際に握らせてきた。

賄賂……じゃねえよなあ」


「何がどうなったらあの状況で賄賂渡すのよ?

世の中には密輸業者と役人以外の人間もいるって知らない?」


「バカにすんな。じゃあお前これが何かわかんのかよ」


 オーロラにパス。


「貴族が身に着けているものを渡すのは親愛の証だよ。

若い男女間なら多分に恋愛の意味合いを含む。まあ、いまどき

そんなことをしても宮廷恋愛物語の読みすぎと笑われるがね」


「笑えばいいのか?」


「サリアが冗談でそんなことするわけないでしょ。

すっごくいい子なんだから、気持ちを笑いものになんかしたら、

あんたの武勇伝が偽物だって言いふらす」


「お前、あの女の親戚かなんかか?

どうしろってんだよ? こんな布切れ貰って」


「サリアはオルデン卿の長子だ。彼女と結婚し、オルデン卿の

議席を受け継ぐというプランも検討しよう」


「人の結婚を勝手に検討すんな」


「そうだよ。サリアの相手がヒュッケって、なんかヤダ」


「君は彼女の親戚か何かかい?」


「私は乙女の味方なの」


 示し合わせたみたいに薄笑いを浮かべないでよ。

 恋を忘れた憐れな男どもめ……。


「あ、フィニクス戻ってきた。ねーねー、フィニクスは……

やっぱりいいや。フィニクスに聞くのは違う気がする」


「よくわからんが、クルスが言うならそうなんだろう。

オーロラ、今日はどうする? 帰るなら護衛するが」


「泊まるよ。また何かあると困るからね」


「じゃあ、私は送ってもらおうかな。

オトにお土産に持っていけるものってないかな?」


「何を言ってるんだい? 君は僕との約束があるだろう。

賭けは僕が勝った。まさか逃げるつもりではあるまいね?」


「ちょ……そんな怖い顔しないでよ。美人が台無しだぞ♡

いやほら、こんなことあったし、日を改めたほうがいいかなって」


「魔術師なんて僕から言わせれば詐欺師みたいなものだ。

都合が悪くなれば言葉の意味さえ変えて約束を反故にする。

君もそういう類い?」


 明らかに殺気だ。コロスキ。


 前々から感じてたんだけど、オーロラって魔術師に対して

 やや偏見があるというか……


 嫌いなの?


「おいおい、穏やかじゃないな。なんだか知らんが、これ以上の

事件は勘弁してくれよ。俺たちは警備に戻るよ。

フィニクスの旦那、手が空いたなら魔術防御の点検にまわってくれ」


「腹が減った」


「少し動くとすぐこれだ。まったく、旦那はでっかい子供だなあ」


 仲いいな、この二人。

 ヒュッケって基本、面倒見がいいから子供っぽいのと相性抜群。


「じゃ、僕たちも行こうか。部屋は用意してある」


「腕つかまないでよ、逃げたりしないってば」


「気づいているかもしれないが、僕が信用する魔術師は僅かだ。

君もその一人になってくれることを願ってる」


 腕を離してはくれたけど、距離は開けないな。

 信用はともかく、絶対逃がさないっていう強い意志を感じる。


 ……そんなにか⁉


 そのせいでいろいろ苦労はしてるけど、家柄にも容姿にも恵まれてる。

 それこそ偏見かもしれないけど、女に苦労なんかしないでしょ。


 危険日だって言ったら諦めるかな?


「さ、ここだよ、先に入って」


「あのさ、オーロラ、服を着替えたほうがいいよ?

今にもバラバラにほどけちゃいそうだよ、そのドレス」


「終わってからでいい」


「さらっと言うね~、そういうものなの?」


「君次第だ」


 意味深……


 おっと、思ったのとは違う部屋。

 天蓋付きのベッドとかの貴族趣味かと思ってたけど。


 モノトーンのシックな内装。

 ビジネス利用も視野に入れたミドルクラスのツインルームみたい。


 ツインなの? ダブルでなく?


「あのさ、今さらなんだけど、やっぱり別のことにしない?

こういうのはよくないっていうか、今後のことも考えると

一線を引いておくべきっていうか……」


 うわ、黙ってカギ閉めた。交渉の余地なし。

 ある意味、人生で一番追い込まれてる気がする。


「音が外に漏れないようにする術式、使わなくていいのかい?」


「そ、そんな声出さないよ! …………たぶん」


「ならいい、座って」


 どっちに? こういうのって順序ある? マナーとかは?

 自分から脱ぐの? 脱がせてもらうの?


 みんなこういうのはどうやって履修する? スマホ?


 あ、ヤバい、なんだかオーロラが怖い。

 逃げ出したい。でも逃げられない。


 やめとけばよかった、あんな賭け。バカだ、私バカだ。


 今になって急に後悔と恐怖が押し寄せてきて、

 覚悟なんかどこにもなくて、これ泣くだろうなって思った。


 前か後か知らないけど、私はきっと泣く。


 自分がバカだったせいで。


「アビスと融合したジョンソン・グラヴィスをどうやって退けた?」


「はぇ?」


「なんだい、その間抜け面は? グラヴィス邸でのことだよ。

状況から考えて、あれはノエルでも対処不可能だった。

もちろん自壊だなんて都合のいい結末などありえな……

どうしたんだい? なぜ顔を隠す?」


「ちょっと待って、いま世界から自分を消しさりたい欲求を

やっつけてるから、ちょっとだけ待って」


 恥ずかしいぃぃぃぃ~~~~~~!


 勝手に勘違いしてその気になって泣きそうになって、わたし死ね。

 オーロラが私なんかのために必死になるわけないでしょうが。


 改めて言う。私、死ね。


 でもオトがいるから死んじゃダメ。

 オトに命救われた。よかった。


「うああぁぁぁぁぁ! 生きろー、わたしー!」


「あ、ああ、ぜひ生きていてくれ」


「ありがとう。オーロラは優しいね。でも覚えておいてね、

水をやりすぎると枯れる花もあるのよ……」


「なんの話だい? それよりグラヴィス邸のことだよ」


「あー、はいはい、そっちね。安心して涙出てきた」


「あのとき、僕が目覚めるとシング・ブレードはフィニクスの中に戻り、

アビスは消滅していた。そして大規模な地形の変化。

ノエルはアビス消滅に伴う被害だと言っていたが……」


「ノエルの報告を信じないのは、オーロラに考えがあるからでしょ。

あなた自身は何があったと思ってるの?」


「その手には乗らないよ。僕に仮説をたてさせ、それを君が補強する。

そうすれば納得させやすい。魔術師というのは術式を用いずとも、

人心を操るに長けるね」


「いやいやいや、それほどでも……」


「褒めてない、軽蔑してる。さあ、君の口から聞かせてくれ、

あのとき何があったかを」


 手ごわいなあ。

 こっちの手口を知ってるうえに警戒心が強い。


 半端なウソは逆効果。術式を使えば気取られる。


 魔術に頼る魔術師は何よりも弱い……か。

 先生の箴言は実体験とともに必ず顔を出す。


 わかってますよ。だから私は魔法使いなんでしょ。


「シング・ブレードがフィニクスの中に戻っていたということは、

誰かが戻した。その誰かがシング・ブレードを使ってアビスを退けた、

と考えるのが自然よね?」


「ありえない。ノエルなら戻すくらいはできたかもしれない。

だが、アビスを消滅させるほどの出力は不可能。

そんなのは歴代のアガートラム当主にしかできないんだ」


「でも誰かがやった。あの場にいた誰かがね。

それ以外に説明はつかない」


「その誰かが、君だとでも?」


 雄弁な沈黙。


 可能性が絞られたなら、あとは黙っているほうがいい。

 とくに、事実が受け入れがたいものならなおさら。


 魔力が無限の魔法少女に変身して使ったよ☆


 ……ってこの雰囲気で言ってみ?


 殺されるわ。


 聡明なオーロラが自分でたどり着いた答えのほうが、

 よほど真実として機能する。


 真実が事実である必要なんかない。


 魔法少女?

 いい加減、子供みたいなことを言うのはやめなさい。

読んでいただき、ありがとうございます。

まだまだ手探りで執筆中です。

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