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ゼノの追想譚 かつて不死蝶の魔導師は最強だった  作者: 遠野イナバ
外伝『第0章』

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03 始まりと終わりの約束(◇)

※最後に挿絵がついています。イメージが崩れる等々、苦手な方はあとがき手前でスクロールをお止めするなどして十分にご注意ください。

 男のあとをついていくと、例の室内庭園に出た。


「この像をずらすと地下につながる階段がある」


 そう言って、庭園の一角で足を止めると男はなにかの女神を模した像を強く押した。


「わ! ほんとに階段がある」


「見ての通り緊急時の脱出口だ。ここの管理者であるレイ所長と僕しか知らない通路みちだから追手の心配はない。彼女を連れてここから逃げてくれ」


「どこに繋がっている?」


「この先の丘だ。──シェリーちゃん、君も元気でね。もう捕まったらだめだよ」


「ありがとう、マーナ博士。でも……いいの? その、教えちゃって」


 地下へと続く階段を見て心配そうに少女が訊ねると、青年はふっと寂しげに笑って返した。


「いいんだよ。君のような子供を兵器なんかにしたくはないからね。……と、君も。悪かったね。大事な剣をそんな風にしてしまって」


「べつに。それよりも、このまま我らを地下まで誘導し、殺すという算段ではないだろうな?」


「な! 博士はそんなことしないよう!」


 なぜか少女が怒り出す。

 青年が苦笑する。


「ははは、疑り深い子だね。……大丈夫だよ。これでも僕は病気の子供たちを助けるために研究者になったんだ。戦争なんてまっぴらごめんさ」


「博士……」


「そうか。では、その言葉を違えるなよ」


 ぽいっと魔動銃を投げ渡す。


「我らにそれは必要ない。血を流すための道具などな」


「君がそれを言うのかい? まあでも、確かに耳が痛いね」


 自虐的な笑みを浮かべる青年に私は名前を訊ねた。


「おまえ、真名まなは?」


「真名? 名前のことかな? フラゴル・マーナ。星霊を研究する学者さ」


「そう。では、『フラゴル・マーナ。私の姿と交わした言葉を忘れろ』」


「──え?」


 その瞬間、青年は地面に倒れた。

 少女が「きゃあっ」と悲鳴をあげる。


「な、なにをしたの?」


「村長から白の民に姿を目撃されるなと言われている。だから記憶を消した。行くぞ」


 杖の先に炎を宿して、それを光源代わりに暗い階段を降りていく。

 少女は息を呑みこむと、「暗くて怖いよぅ」とかなんとか呟きながら私のあとに続いた。


「いまの、もしかして名縛りの呪詞のろい?」


「ああ」


「ほへー、すごいね。キミ、そんなこともできるんだ」


「まあ、条件つきだけどね。──そらもう着いたぞ」


 二十分程度歩いただろうか。

 梯子を上がり、石のふたを押しのけ外に出る。

 春花が咲き乱れる花畑。

 どうやらどこかの丘の上のようだった。


「わー、きれいな花畑! 見て見て! リーゼの花がいっぱいだよ」


「ベルルークとは……この先の町で合流すればいいか」


 なにかあればそこで落ち合うことになっている。

 棒立ちする私に向かって少女は「剣忘れてるよ」と言って、地面に置かれた宝剣に手を伸ばす。すると、


「わわ! なんか光ったよ⁉」


 まぶしいばかりの金光だった。

 網膜を焼くような光といえばいいだろうか。

 金色に輝く刀身は、太陽を跳ね返すほどの光を放ち、光蝶スピルたちを呼んだ。


 ひらりとひらりと丘の上に集まる光蝶スピルたち。

 ざあっと風を巻き上げ少女のまわりに集まると、より一層光を強め、少女を包み込んだ。


「竜神殺しの剣……別名、光蝶の剣(クラウスピル)……」


 私がつぶやくと、光蝶スピルたちは散開して、宝剣の光もやんだ。

 少女が私に剣を差し出す。それを受け取らず、私は彼女を見つめた。


「びっくりしたー。なんか光蝶スピルたち集まってきたね──って、どうしたの? そんなにわたしを見つめて……はっ! も、もももしかして結婚の申し入れ⁉ だめだよ! 嬉しいけど、わたしたちまだ出会ったばかりだし、こういうのはもっとお互いのことを知ってからにしよう! ね! ね⁉」


 なんか言っている。


「私はベルルークと合流し、里へ帰る。お前はどうする?」


「え? ベル? お友達、かな? わたしも帰るよ。だからいったんここでお別れだね」


「帰る? 村はもう無いだろ? ほかに行くあてでもあるのか?」


「無いけど、でも村に戻るよ。誰もいないけどね」


 少女の村があった方角だろう。

 そちらに顔を向けると彼女は笑って言った。


 意味がわからない。

 里が無いのに帰る? 

 わざわざ廃村と化した里に行くだけ時間と疲労がかさむだけだ。


 どう考えても少女がしようとしている無意味な行動に、私が眉間にしわを刻むと、少女は近くの花をそっと撫でて寂しげに笑った。


「ねえ、わたしはこれからどうなるのかな」


「どう、とは?」


「やっぱり、さっきのみんなのようになっちゃうのかな。それとも、もっと恐ろしい化物になっちゃうのかな」


「……さあね」


「ねえ、キミ、強いよね」


 ローブの端をちょこんとつかみ、少女は懇願するように私の目を見上げて言った。



「もしもいつか、わたしが化物になったとき、あなたがわたしを殺してね」



 にへら、と力なく笑って緋色の少女は願った。

 だから、私はこたえた。


「──それで? 行くところがないなら共に来るか? 同胞なら村の者たちも歓迎する」


「え⁉ プ、プロポーズ⁉ だからそういうのは早いってばー!」


「わかった。お前のことはここに置いていく。じゃあな」


「──あっ! 待ってよ冗談だよ、一緒に行くよー」


「なら、その剣を持ってきりきり歩け。落としたら飯は抜きだからな」


「ええ⁉ わたし荷物持ちなの⁉」


 あーだこーだ文句を垂れながら少女がぱたぱたとついてくる。


「ところで、キミの名前はなんていうの? そろそろ教えてくれてもいいと思うんですけど」


「オーゼン」


「そっか。それじゃあオーゼン、一緒に花畑ここを出ておいしいごはんを食べよう!」


 赤い花が咲き乱れる美しい花園。

 その中で、緋色の少女は私に手を差し出した。


 そうして、私たちは互いに手を取り合い、今後ユーハルドという国を作ることになる。


 これが、のちのリーゼ王──シェリアリーゼとの出会いだった。

挿絵(By みてみん)

──

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