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ゼノの追想譚 かつて不死蝶の魔導師は最強だった  作者: 遠野イナバ
外伝『第0章』

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01 うちの宝剣が魔改造されていた件

 一晩考え、思ったのだ。


『目撃されずに戻ってこい』


 それはつまり、皆殺しにして帰れば目撃者は誰もいないということだ。

 最初からそうすれば簡単だった。

 私は正面入口から研究所に乗りこみ、立ち向かう白の民たちを殺して回り、宝剣を探した。


「だから食べるなと忠告したのに」


 宝剣探しの任でともにこの地に赴いていた従兄は食あたりで倒れた。

 キノコの食中毒。

 湖の乙女がどうのと言っていたから、幻覚系の毒キノコにでも当たったのだろう。


 解毒薬は作ってやった。

 少し副作用はあるが効果は抜群。

 きっと今頃は、激しい腹痛に悶えながら退路の確保をしているはずだ。


 ふと、視線を感じた。

 顔を上げれば天井の端、四角い筒を見つけた。


「あれは……、なるほど。あの筒で監視しているのか」


 監視カメラ、というらしい。

 知識程度に頭には入れていたが、実物は初めてみる。

 興味はない。

 ただ、あれがあったら壊せと村長から指令を受けている。


 さらには監視室。

 カメラに映る情報を集めた場所がある、とも聞いていたので、探し出してそこも破壊。


 その過程で何人の白の民をほふっただろうか。

 血が滴る杖を振るい、赤いしずくを払い落す。


「またここか」


 道が入り組んでいて分からない。

 『眼』を使えばすぐに場所は分かるが、そう日に何度も使うものではないし、村長から使用は極力留めるよう命じられている。

 だから手当たり次第扉を開いたら、きのう訪れた室内庭園に辿り着いた。


「……まあ、いないか」


 さきほどから耳障りな騒音が鳴り響いているのだ。

 警報とかいうやつらしいが、これだけ騒がしければあの少女も自室かどこかにいるのだろう。

 さすがに同胞にまで手をかけるつもりはない。

 村長にも怒られる。

 邪魔さえしなければ、放っておいても構わない。そう思ったのだが──


「あ! きのうのドロボーさん!」


 赤い花を手にした少女がぴょこっと花壇から顔を出す。

 小柄な体躯のせいで、丈高い花の影に隠れて気づけなかった。


「今日も来たの? あ、だからケイホーが鳴ってるのかー。ダメだよ? ここは侵入者が来ると、光の糸みたいのがビーッと出て、触ると真っ黒焦げになっちゃう危ない魔法があるんだから」


「光の糸? ……ああ、あれか。あれは単なる星霊学せいれいがくとかいう魔法の猿真似だろう。大したものじゃないよ」


「うへぇ、あれを猿真似呼ばわり……。キミ、見かけに寄らず強いんだねぇ」


 少女は花壇から出てくると、私の前に立った。


「聞いたよ? キミ、北の地から来たセイレイ剣の守り人さんでしょ? ここの人たちが話してた。セイレイ剣ならこっちにあるから、ついてきて」


「……星霊剣?」


「うん。魔剣にセイレイジュ? をつけてパワーアップさせたーって言ってたかな。ちなみにセイレイジュってのは、わたしの心臓に埋め込まれてるやつと同じものだよ」


「星霊樹……いや、星霊珠か。そういえば、白の民が作った『星霊石』とかいうやつがあったな……。たしか半貴石いし光蝶スピルを閉じ込め、台座となる道具に強制行使の呪文を刻んだものを魔導品と呼んでいると聞いているが、それの類品か?」


 石に囚われた光蝶スピルは消滅するまで力を吸いつくされる。

 私に魔法を師事してくれた先生が、あれは在ってはならない禁忌の道具だと話していた。


「んー……、なんかね。ジンコーてきにセイレイを作って宿した宝珠だって言ってたかな? セイレイセキよりも丸くてキラキラしてて、すごい力を秘めてるんだってさ」


「人工的……なるほどね」


 方法は分からないが、人工的に精なる存在を作り出し、それを宝珠に閉じ込めた、といったところか。


 星霊石(せいれいせき)が単純に光蝶スピルを閉じ込めたものなら、星霊珠せいれいじゅは新たに作り出した神秘の存在を宝珠に宿したもの。


 その違いは調べてみないと分からないが、まあいまはそんなことはどうでもいい。

 私は少女の説明を流し、その星霊剣とやらの在処を聞き出すことにした。


「それで、それはどこにある」


「ふっふっふっ、どこにあるでしょーか!」


「……」


 聞くだけ無駄なようだ。

 腰に両手を当ててすまし顔。得意げな顔をする少女に私が無言で立ち去ろうとすると、今度は慌てた様子で服の端を掴んできた。


「待ってってば! 冗談だよー、そんなに怒らないでよー」


「怒っていない。ただ見ての通り忙しい。お前も私の邪魔をするというなら殺す。教えるなら早くしろ」


「ええー……、それが人に物を頼む態度なの……」



 ◇ ◇ ◇



 けっきょく、ついて来られても邪魔だからひとりで行くと言ったが、案内すると言って聞かないので私は渋々少女のあとをついていくことにした。


 ちなみに途中で、なぜそこまで案内したいのか、お前にはなんの得もないだろう。まさか私を差し出し、奴らから褒美をもらう魂胆かと訊ねたら、「違うよ」と苦笑された。


「キミのことが心配だから助けるの。このままここの人たちに捕まったらキミまでセイレイジッケン行きでしょ。わたしはキミが死ぬところなんて見たくないもん」


「意味がわからない」


 心配だから助けるとか、私が死ぬところを見たくないとか。

 そんな変なことを言うのは私の魔法の師匠──ユノヴィア先生くらいだ。

 ましてや出会ったばかりの奴がどうなろうと彼女には関係ないだろうに。


「あ、あそこの扉だよ」


 揺れる赤毛の髪を追いながら、変わった奴だなと思っていると、『第二研究室』と書かれた部屋に着いた。

 少女が壁に手を伸ばすと、触れる前にシャッと音を立てて壁が動いた。

 入室すると勝手に閉まる。


『カメラ』といい、『センサー』といい、本当にこの建物には珍妙な仕掛けが多い。

 少女は小走りで部屋の中央まで行くと、ぴしりと人差し指を台座に向けた。


「ほら! これがキミの探している剣じゃないかな!」


 四方を乳白色の壁に囲まれた、

 そこそこ広い部屋だった。


「う………」


 やたらと眩しい光源だ。

 白色の光に思わず目がくらむ。

 薄くまぶたを開けて指の隙間から明るい室内を覗けば、無駄なものが一切なく、殺風景とはまた違う、不思議な造りをしていた。


 天井から伸びた無色透明なガラスの筒。

 その中に、探している剣はあった。


 部屋の灯りに負けないくらいのまぶしい光を放つ黄金色の刀身。

 柄は赤く、筒の隣に置かれた深紅の鞘には見慣れた竜の紋章が刻まれている。

 しかし──


「これは……、なんだ?」


 抜き身の刀身の、柄に近い部分。

 星の形を模したつばの手前にはめ込まれた虹色の宝珠。

 私の記憶の中にある竜神殺しの剣にこんなものはついていなかった。

 一瞬だけ眉をひそめて、すぐに理解する。


「そうか、これが星霊珠……」


「そうだよ。きらきらしてて綺麗でしょ? 大きな真珠みたいだよね」


 少女も一緒になって筒の中をのぞきこむ。その隣で私は筒の側面に拳を叩きつけた。


「うひゃあっ!」


 ガシャンと耳を突く音。

 ガラス片が床へと飛び散る。

 その際少し欠片が頬をかすめたが、気にせず中のものを掴んで引きずり出す。


 回収完了。

 早々に退散することにしよう。


 私がきびすを返すと、抗議めいた顔をして少女は私の行く手を遮った。


「ちょっとキミ! 危ないでしょ⁉ いきなりこんなことして怪我したらどうするの──って、頬から血が出てるしぃ!」


 蒼白顔。

 裏返る声。

 少女は服のポケットから小さなタオルを取り出すと、私の頬に優しく押し当てた。

 痛そう、とかなんとか言っている。


「ここから一番近い出口は?」


「……キミってほんと一切の無駄がないよね」


 誉め言葉として受け取っておこう。


「うーん、とね。そこの正面の扉を出てまっすぐ進むと、キカイ? とかいうのを運ぶための大きな玄関があるって聞いたけど、でも多分さっきのケイホーで強制的に閉まっちゃってると思うよ」


「問題ない。魔法でこじあける」


「無理だよ。ここの施設の出入り口は魔法を無効化する扉でできてるんだから、魔法じゃ開けられないの。だからみんな逃げられなかったんだよ」


「なるほど、そういうことなら別の道をさが──」


 言いかけて、正面のドアが開いた。

 入ってきたのは白衣を着た若い男だった。明るい茶髪。

 柔和な面差し。

 白の民が開発した視力を矯正する道具──眼鏡をかけた青年は、私の手に握られた宝剣を見て表情を強張らせた。


「そうか、君が剣の守り人の」


「……」


「悪いけど、それは返してもらうよ」


 鈍色の筒、銃口を向けて青年は私の隣に視線を移した。


「シェリーちゃん。その子供に手を貸したことは見なかったにしてあげるから、こっちにおいで」


「マーナ博士! だめ、撃たないで! この子は悪い子じゃないよ!」


「わかっている。盗まれたものを取り返しに来たんだろう。だけど、それを見逃すことはできない。その剣は、僕たちに必要なものなんだ!」


 パンッと乾いた音が鼓膜を震わせる。

 水晶(クリスタル)の弾が床を穿ち、放射状にヒビが入るのをちらりと一瞥して青年は告げた。


「次は当てる。それを置いて直ちに立ち去ってくれ」


「ど、どうしよう⁉ あれすごく危ないんだよ! 多分、それ置いたほうがいいよ。はやく、はやく」


 少女が慌てた様子で私の手から剣を取り上げようとする。

 それをひらりとかわし、私は軽く杖を振るった。


「『風よ、切り裂け(アウラ・ザーシュ)』」


 杖から風の刃が舞い飛ぶ。

 青年の胴体を切断するつもりで放ったのだが、わずかに軌道がそれて青年の隣の壁を壊した。


「なにをする」


「なにっていま博士のこと殺すつもりで放ったでしょ! そんなことしたらダメだよ!」


「……ちっ、うるさい女だな」


「ひどい! 聞こえてるよ⁉」


 胸中で文句を吐いたつもりだったが声に出ていたようだ。

 青年は、そんな私たちのやり取りを見ると、なぜか哀しそうな顔をして銃口を降ろした。


「その剣を置いていくなら出口まで案内する。君の命は保証しよう。さあ、早く。あまり時間がないから急いで」


「──それはまた、関心しないなぁ、マーナ博士」

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