第59話 一年生 初冬
台座に横たわる舞を見て、彼女は愉悦の笑みを浮かべる。
「やっと……やっと、もうじきひとつになれるよ。舞ちゃん」
彼女は呟き、自身の横に浮かぶ光板を見る。
「リアクターの置換も制御コアの書き換えも順調。
――舞ちゃん、言ってたもんね。強くなりたいって。舞ちゃんの願いも叶うんだから、悪くないよね」
横たわる舞の胸の上には、複雑で直線的な幾何学模様が赤黒く輝いている。
と、靴音が響いて、彼女はそちらに視線を向けた。
「――アバターの乗り換え。それが貴女の目的でしたか」
暗闇の中、女の声が響く。
「ああ、アンタか。そうだよ。最初はさ、地味っ娘が美少女とくっつく百合モノも良いかなって思って、この身体にしたんだけどね。やっぱり自分が美少女で、女の子達からチヤホヤされたいじゃん?」
あはは、と悪びれること無く彼女は笑う。
「――帰宅部を襲ったのは?」
「穂月って言ったっけ? 本当はアイツを悪役令嬢に仕立てようと思ってたんだ。立場も行動もぴったりだったからね。でも、現代派が失敗して、うまく行かなかった」
「ああ、彼らの行動がこちらの想定より過激だったのは、貴女の介入があったからなのですね。納得しました」
「てことは、アイツら、元々はアンタの仕込みだったのか。利用しちゃって悪かったね」
言葉では謝罪を口にしながら、彼女は笑みを崩さない。
「結局、悪役令嬢にはできそうにないし、なにより舞ちゃんがアイツを慕ってたからね。舞ちゃんになってからも、その演技を続けるのは苦痛だから、消しちゃおうと思ったんだ」
そこまで言って、不意に彼女の顔が歪む。
「――ボク、ああいう『自分は正しいです』って顔してる奴、大っきらい! しかもみんなにチヤホヤされてるしさ。欠陥品のクセに!」
「なるほど。貴女という人がわかってきましたよ。
幼い――しかも男の子でしょうか?」
「……さー、どうだろうね。それを聞くのはご法度でしょ? アンタだって、探られたくないでしょ?」
対する女はわずかにため息を漏らし、首を横に振る。
「今日は警告に参りました。
貴女が殺しかけた穂月紗江は、こちらが必要としております。本当は衣笠舞も計画に組み込んでいたのですが……まさか横槍を入れられているとは……」
「アハハ。ごめんね。穂月紗江は見逃してもいいけど、舞ちゃんだけは譲れないよ。
――彼女はボクの物語の主人公になるんだから!」
彼女はまるで歌い上げるように、高らかに告げる。
「ならば忠告を。
――穂月紗江は旧き者の血脈です。彼女のそばには、彼の者がついています。
いずれ、この場所も彼女達に知れるでしょう。
……間に合うと、いいですね」
闇の中で、女が笑みを浮かべるのがわかった。
「こっちは乗り換えにお小遣い全部かけてるんだ! 邪魔なんかさせないよ!」
「……貴女がなにをしようと構いません。ですが、穂月紗江を殺す事だけは許しません。
――貴女も私と事は構えたくないでしょう?」
女が言うと、彼女は不承不承、うなずいた。
「なんで恋愛ゲーでアクション求められるんだよ。時々クソゲーだよね。ここ」
彼女のその呟きを無視して、女は踵を返す。
「あなたの思い通りになるといいですね……」
そう言い残して。
少し短いですが、ここで、「初冬」エピソードは終わりです。
今回は「初冬」のエピローグ的なお話でした。
次回から「冬」
いよいよ帰宅部の面々が動き始めます。
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