表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
唄う神器とわたしの魔法  作者: 前森コウセイ
一年生だけの帰宅部
59/67

第58話 一年生 初冬

※鬱回まではいきませんが、反省回――いわゆるシリアス回です。

苦手な方は、「冬」エピソードまで待って、一気に読みをおススメします。

 目覚めると、紗江は病院のベッドの上にいた。


 寝返り防止の為に、身体はベルトで固定され、胸部にはコルセットが巻かれている。


「……起きたかい」


 その声に顔を右に向けると、そこには疲れた表情の祖母の姿。


「おばあちゃん……わたし……」


「――物部さんに録画を見せてもらったよ。なにがあったかは把握してる」


「……みんなは?」


「あれから四日経ってるからね。緋野さんも露木さんも退院してるよ」


「――舞ちゃん、は?」


 紗江のその問いに、静江は目を伏せて首を振った。


「防人が神隠し事件として、異界内を捜索してるが見つかってない」


 紗江は息を呑んだ。


「なぜ衣笠(きぬがさ)さんが連れ去られたのか、なぜ異界内で突発(インスタント)異界災害(ダンジョン)が発生したのか、わからない事だらけだ。

 ――紗江ちゃん、あんたは今は怪我を治す事だけ考えな」


 紗江の怪我は、癒術を用いてもすぐに完治できるものではなかった。表面上の傷は癒せたものの、砕けた肋骨がいまだ完全に繋がっていないのだという。


「……おばあちゃん。わたし、あの時、みんなを置いて逃げようとした……」


 吐き出すように、紗江は告げる。


「みんながっ! 舞ちゃんが捕まってたのに、逃げようとしたんだっ!」


 叫ぶと背中と胸がひどく痛んだけれど、それ以上に心が痛くて。


 紗江は溢れる涙を拭おうともせずに、静江に叫ぶ。


「鬼女を見た時、頭が真っ白になって。でも、今なら勝てないまでも、みんなを逃せると思った。でも……わたしの舞いも魔法も――神器さえもなにも通じなくて……」


 ――殺される。


 そう思った時、逃げる事しか考えられなかった。


 無様に地面を這ってでも、逃げようとしてしまった。


 感情の赴くままに、紗江はあの時の気持ちを静江に吐き出す。


 最後にはもはや言葉にならず、ただ嗚咽し続ける紗江の手を取って、静江は優しく告げた。


「それでもあんたは、最後の最後に、衣笠さんに手を伸ばしたじゃないか……」


「それは……防人が来てくれて、助かったと思ったからだよ……」


 もはや力なく呟く紗江に、静江は首を振ってため息を吐く。


「やれやれ重症だ。とにかく、あんたはしばらくゆっくり休みな。あんたが思っている以上に、傷ついてるみたいだよ。

 ――身体よりも心がね……」


 そう言って静江は立ち上がると、病室を出ていった。


 ひとり取り残された紗江は、右腕で目元を隠して涙を流し続け。


「……わたしは弱い……」


 その呟きは自身の心に、ひどく重くのしかかった。





「――紗江が目覚めたそうじゃ……」


 茉莉がスマホを切って、プレハブ内のテーブルに座った(らん)紅葉(もみじ)に告げる。


 その言葉に、ふたりは心から安堵したように吐息し、それから表情を引き締める。


「……無様ですわ」


「なんにもできなかったね……」


 大ムカデが現れた時、紗江にすべてを背負わせてしまったという思いが、ふたりの心を占めていた。そして、その直後に現れた鬼女には手も足も出せずに、昏倒させられている。


 二人とも、情けなさと悔しさから、自然、拳を強く握りしめてしまう。


「そもそもなんで、異界(ラビリンス)内に突発(インスタント)異界災害(ダンジョン)が発生しましたの?」


「――それなんじゃがな。封鎖区画の村瀬様に聞いたんじゃが、どうも最近、突発(インスタント)異界災害(ダンジョン)の発生率が上がってきとるらしくての。本州でさえも、週に二、三件のペースで確認されとるらしい。

 異界(ラビリンス)内での発生を確認できたのは、今回が初めてだそうじゃが、気づかれてなかっただけで、これまでも発生していた可能性もあると、村瀬様はゆーとった」


 茉莉の説明に、蘭と紅葉は息を呑む。


 今回の事件を受けて、上洲異界は学生や一般人の入場を規制している。


 あの大ムカデのような強力な魔物が徘徊していないか、防人が確認するためだ。


「歯がゆいですわね。強くなりたくても鍛錬もできやしない」


「あたし達、ちょーしに乗ってたんだと思う」


 夏休みの鍛錬を経て、天恵を助ける為、大人相手に大立ち回りを演じて勝利できた事もあって、自分たちは強くなれたのだと、そう思っていた。


 だが、大ムカデを鬼女を前にした時、二人はただ逃げるしかできなかった。


「あたし、紗江ちゃんに謝りたいよ……」


 蘭は思う。あの時、もう少し上手く立ち回れていたなら。紗江に負担をかける事はなかったはずだ。悔しさに涙が零れそうになる。


「わたくしもですわ……もう少し癒術の腕を磨いていたら舞さんだって……」


 紅葉が後悔から、吐き出すように告げる。


 あの時、紅葉にできたのは、舞の浅い傷を治す事だけ。きっと絹なら、意識を取り戻させる事だってできたはずだ。


「ワシだってそうじゃ。もっと上手く指揮できたはずなのに、結局、紗江に判断を委ねてしまった」


 三人の気持ちは、どんどん沈んでいく。


「舞様もいまだに見つかっとらんしのう……」


「――それなのですが。なぜ、あの鬼女はあそこまで執拗に、舞さんを狙ったのでしょうう?」


「録画見る限り、舞ちゃんになにかしようとしてたよね?」


 蘭の言葉に紅葉がうなずき、ふたりで茉莉を見る。


「なにやら文様が浮かんどったが……少なくともワシの知る刻印ではない。シロカダ様に映像を送って調べてもらっとるトコじゃ」


 なにもかもが後手に回っている感覚に、三人はひどい焦燥感に苛まれる。


 そんな時だった。


「うわ~。話には聞いてたけど、ホント、沈んでるね~」


 場違いとも思える、明るいほんわかとした声音。


「反省は良いが――これでは落ちるだけだろう……」


 と、苦笑交じりの声が続き、三人は入り口を振り返った。


 そこには土産袋を下げた、咲良と絹が立っていて。


「――先輩!」


 三人は思わず、救いを求めるように、二人に駆け寄っていた。

落ちに落ちた、紗江のテンション。

次回の特殊視点をもって、「初冬」が終わり、「冬」が始まります。

「冬」のテーマは絆(書いててちょっと恥ずかしい)

どうやって紗江が立ち直るのか、消えた舞ちゃんはどうなるのか。

どうぞお付き合い頂ければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ