第54話 一年生 初冬
翌日、咲良達、上女二年生は帝都近衛隊の庁舎を見学していた。
近衛隊の量産特騎甲冑<六波羅・丙>十騎による、勇壮な儀仗行進の出迎えに、上女生徒達は歓声をあげた。
帝と九条結界を守る近衛隊と、異界から人々を守る防人。
守る対象こそ違えど、その背に多くの人々を担っているのは変わりはない。
庁舎内に案内された上女生徒達は、真剣な面持ちで案内役の説明を聞いていた。
――そんな折。
「咲良ちゃん? 咲良ちゃんじゃないか……」
横手から声をかけられ、咲良はそちらに視線を向けると、そこにはスーツを着た三十代の男性の姿。
「――片岡さん!? お久しぶりです。ちょっと待ってください」
咲良は教師に断りを入れ、生徒達の列から離れて、片岡の下に戻る。
――片岡努。
神社庁陰陽寮職員で、三年前のあの事件の関係者だ。神器を喚び出すきっかけとなった、卜占を司る部署に所属している。
「片岡さん、本当にご無沙汰してます」
「ああ。咲良ちゃんは修学旅行かい? 上洲撫子に行ったんだっけ?」
「はい。九条結界の外で鍛錬を詰みたいと考えまして……」
咲良のその言葉に、片岡は困ったように眉を下げる。
「……やはり、あの事件で?」
「……はい。あの時、私にもっと力があれば、慈雨様は自決なさる必要はなかったのではないか、と……」
「咲良ちゃん……」
「ですが、心配しないでください。今の私には守るべき後輩と、背を預けられる仲間がいます。
――私ひとりでなにかを成せるなどと、驕った気持ちはもうありません」
咲良は片岡をまっすぐ見つめて微笑み、その様子に片岡は安堵する。
「それで片岡さんは、なぜ近衛隊に?」
「ああ、ちょっと連絡事項があってね」
そう言って、片岡は咲良に顔を寄せる。
「君はあの事件の関係者だし、伝えておこう。口外無用だが、君なら大丈夫だろう。
――新たな卜占で、あの侵災はあと二年以内に起こると出た」
その言葉に、咲良は身を固くする。
片岡が言う『あの侵災』とは、国が新たな神器を求める原因となった、十年前の占いで示されたものだと、咲良にはすぐにわかった。
「その前兆なのか、各地で突発異界災害の発生率が増加している。中には本州で確認された例もある」
「――被害は?」
咲良もまた、声を押さえて尋ねる。
「幸い、まだ人が呑み込まれた事例はない。だが、時間の問題だろう。
――いずれ、御笠女史や例の子の力を借りる事もあるかもしれない」
「片岡さん、それはっ――」
咲良は弾かれたように片岡を見て、制止するように手を伸ばした。だが、その手は途中で止まってしまう。
――それが誰かを助ける事に繋がるのなら……
「……あの子はきっと、受けるのでしょうね」
それがわかってしまうから。咲良は伸ばした手を降ろして、強く握りしめた。
「穂月女伯もそう仰っていたよ。だが、安心してくれ。すぐにどうこうと言う話じゃない。
それに――御笠女史のレポートには目を通している。アレはあの子しか扱えない状態にある以上、待遇は考慮されるはずだ」
「それだけは、ぜひお願いします。あの子は……美咲様と慈雨様に託された、私の大切な存在なんです」
咲良が頭を下げると、片岡はその上に手を乗せて撫でた。
「……良い、成長をしているようだね。安心したよ。
あの晩の君は、張り詰めすぎた弓のようで……いまにも折れてしまいそうに見えたから。
――守る者ができると、人は成長するものだね」
咲良は、昔を知っている人物というのは、これだからやりにくいと思った。
撫でられた頭を恥ずかしそうに整える。
「――それじゃあ、そろそろ行くよ。急に呼び止めて悪かったね。修学旅行、楽しんで」
「はい。ありがとうございます。いずれまた」
再び頭を下げて片岡を見送り、咲良は拳を握りしめる。
「――二年以内……」
その時、自分はどこに居て、なにをしているだろうか。
願わくば、大切な仲間達を守れる場に居られれば、と願わずにはいられない。
その日の事を思って表情を硬くしたまま、咲良は移動を始めようとしている上女生徒達の中へ戻って行った。
ちょっと短いですが、ここで区切ります。
次回は三洲山の紗江達に戻ります。




