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第49話 一年生 秋

 紫電を散らして、両者の事象干渉領域(ステージ)が割れ砕けた。


 それを合図に、<舞姫>と<白騎士>は肉迫し、<白騎士>が右の一閃を放つ。


 <舞姫>はそれを左の鉄扇で受け流し、その勢いを利用してくるりと身を回し、右の鉄扇で頭部狙いの一撃を振るう。だが、<白騎士>はそれを左の剣で受け止め、両者、鍔迫り合いの格好となった。


 一瞬の攻防に、観客達が息を呑む。


『さすがは穂月! さすが魔王騎! 一年生でこれほどの武とは、末恐ろしい!』


『それはどーもっ! 先輩もさすが十人抜きの猛者ですね!』


 短いやり取りを経て、<舞姫>が<白騎士>を押しやって、両者の距離が空く。


 <舞姫>の周囲に再び事象干渉領域(ステージ)が拡がり、<白騎士>が対応するより早く、その白い身を包み込む。


『ア――ッ!』


 <舞姫>から、単音からなる原初の唄が奏でられ、<白騎士>が横殴りにされたように仰け反った。


 その隙を逃さず、<舞姫>が鉄扇を開いて構え、身を回して<白騎士>に迫る。


 突風が砂埃を巻きたて、それを打ち払うように<舞姫>の一撃が<白騎士>を襲う。けれど、<白騎士>は右肩甲の刻印を喚起して炎風を噴射。体勢をズラしてそれを避けた。


 再び<白騎士>が事象干渉領域(ステージ)を開く。


 魔道士の、そして防人同士の戦いは、いかに相手の事象干渉領域(ステージ)を崩し、自身の事象干渉領域(ステージ)を相手に届かせるかにある。あるいは、いかに事象干渉領域(ステージ)を無効化し、自身の武を届かせるか、だ。


 両者、互いの事象干渉領域(ステージ)が同強度と見て、武による制圧を選択した。


 再びぶつかり合う事象干渉領域(ステージ)が紫電を放ち、割れ砕ける。


 再度肉迫した両騎は、互いの攻撃を、受け、流し、ぶつけ合って相殺し、互いの隙を狙う。


 <舞姫>が身を回して頭部を狙えば、<白騎士>は身を屈めてそれを避け、そのまま<舞姫>の脚を狙う。<舞姫>がそれを跳んで避け、身を捻って一撃を繰り出せば、<白騎士>はそれを受けて、さらなる一撃を繰り出す。


 まるで二騎の甲冑によって繰り広げられる演舞のような光景に、観客はおろか合戦参加者でさえもが手を留めて、二騎の攻防に見入った。


 跳躍からの攻撃を弾かれ、身を捻って後方に着地する<舞姫>。


 <白騎士>が双剣を構え直して、それを見据え、


『――楽しいなあっ! 穂月くん! ここまで僕と<白騎士>に付き合えたのは、君が初めてだ!』


 <白騎士>の中で、拓哉が心底嬉しそうに告げる。


『わたしなんてまだまだですっ! 咲良様やタマ姉ならもっとできたはずですよ!

 ――でも、楽しいっていうのは同意します!』


 荒い息で紗江が応え、<舞姫>も双鉄扇を構え直した。


『でもっ! そろそろ決着です!』


 紗江が吠えれば、

『そうしよう。次が勝負だ!』

 拓哉もそれに応じて高らかに吠える。


 砕かれる事を見越して、互いにその身を覆う程度の事象干渉領域(ステージ)を開き、身体と甲冑の強化に専念する。


 <舞姫>の胸の家紋からは白の、<白騎士>の胸の家紋からは青の精霊光(オーディエンス)が溢れ出し、両騎を鼓舞するように、舞い飛び跳ねた。


『ハアァ――』


『オオォ――』


 二人の気合の声が重なり、両騎共に身を沈めて一撃必殺を狙い、力を溜め込む。


 今まさに放たれる弓のように緊迫した空気が漂い、観客達が固唾を呑んで、その時を待って見守っていたその時――





 観客席の後方で、不意に悲鳴が上がった。


 直後、コンテナを積んだトレーラーが猛スピードで合戦場に乱入し、荷台の大型コンテナを滑り落として、そのまま逃げるように走り去った。


「――なに!? なんなのあれ?」


 気勢を削がれて、紗江が思わず呟く。


 瞬間、コンテナの扉が内側から弾けて、象のように巨大な熊が姿を現した。


 眼が血走っていて、涎を垂らし、辺りを警戒するようにしきりに唸っている。その周囲の空間が陽炎のように揺らいでいて、事象干渉領域(ステージ)を形成しているのが見て取れた。


 会場に悲鳴が上がる。


 観客の一部がパニックを起こして逃げ出そうと、出口に殺到した。


「――魔獣!? 加賀先輩っ!」


 咄嗟に紗江は<舞姫>で駆け出す。


『みんな、お客様の護衛と誘導を! 城崎くん、協力して!』


 加賀先輩の声が辺りに響き、指示を受けた合戦参加者達が観客席に向かって走り出した。


『みなさん、大丈夫です! 魔獣はこちらで対処します。みなさんは落ち着いて避難を――』


『――避難は子供とお年寄りからでお願いします! 走らないように! 前の人を押さないで!』


 城崎先輩もまた、<白騎士>を観客席に寄せて声をあげた。


 観客席から観客達が、出口に向けて動き出す。


 まるでその動きを邪魔するように、魔熊もまた、出口に向かって駆け出した。そこに割り込むように、<舞姫>が立ちはだかる。


「どっから来た子か知らいないけど、させないよっ!」


 気合一拍、<舞姫>の右の鉄扇が突っ込んでくる魔熊の鼻先を跳ね上げた。


「――ギャンっ!?」


 宙を舞った魔熊が背中から落ちる。


「グウゥゥゥゥ――」


 すぐに身を起こした魔熊は、危害を加えてきた<舞姫>を標的に定め、身体を沈めて低く唸った。


「どうしよう、コレ。殺しちゃったらマズいんだよね?」


 紗江の脳裏に狩猟法がどうとか駆け巡って、思わず呟いた。


 視線を反らすと襲いかかってくる恐れがある為、紗江は<舞姫>に鉄扇を構えさせたまま、魔熊と睨み合う。


『――穂月さん、校長が猟友会に連絡したわ。すぐ来てくれると思う。

 可能なら、押さえ込んで無力化させて頂戴。最悪、倒してしまっても良いけど……できる?』


 加賀先輩の言葉に、紗江は汗を浮かべて首を振る。


「……む、無力化の方向で」


 いかに害獣指定されている魔熊といえど、生き物を殺すというのは精神的にハードルが高い。


『わかったわ。甲冑着用者は魔熊の包囲を! お客様には絶対に被害を出させないわよ!』


 その指示に従って、両校の甲冑が魔熊の周囲を取り囲む。それを警戒したのか、魔熊は唸りながらぐるぐると回り始め、周囲を威嚇して吠えた。


 その瞬間を、紗江は見逃さなかった。<舞姫>を跳び上がらせて、魔熊の背中に飛び乗り、畳んだ鉄扇を魔熊の後頭部へと振り降ろす。


「――ギャウッ!?」


 悲鳴をあげた魔熊は、突如襲われた衝撃に、その身を崩して倒れ込んだ。


「――みんな、いまっ!」


 紗江に応じて、周囲を囲んだ甲冑が殺到し、魔熊を押さえ込んだ。


「……いったい、なんなの? ひょっとしてテロ?」


 魔熊と一緒にもみくちゃにされながら、紗江は<舞姫>の関節をロックして、ぼんやりと呟いた。


 結局、今年の両校の合戦は、魔熊の乱入によって、引き分けという形で幕を閉じる事になってしまったのだが、絹は討伐数最多で、ちゃっかり表彰される事になったのだった。


 魔熊を運んできたトレーラーの捜索は、その後やってきた警察に任される事になり、合同文化祭は、警戒を強めて三日目を迎える事になる。

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