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第48話 一年生 秋

 合戦場の中央に空いた空隙に飛び込みざまに、<疾風>が鳴刀をひるがえし、<剣姫>が大太刀を振るった。


 視界の隅で、判定員が白の旗を立てるのが見える。


 眼前を走る二騎に、紗江は思わず舌を巻く。


「……わたしは追いかけるだけで精一杯なのに……ふたりともすごいなぁ」


 二騎の強化を維持しながらとはいえ、性能は<舞姫>が一番上のはずなのに、紗江は二騎を追いかけるのに精一杯だ。


「ふたりとも、肩楯(けんだて)佩楯(はいだて)の使い方が上手いんだろうなぁ」


 二騎のそれは、細かく動いて時折、青白い火を噴き出している。


 甲冑は基本的には、短時間ではあるものの、肩楯と佩楯に刻まれた刻印で、風精と火精の混合を行い、飛ぶ事ができる。


 (らん)紅葉(もみじ)が、浮舟客船に乗り込む時に使ったアレだ。


 だが、それが刻印である為、二騎の強化に神経を使っている紗江には、そちらまで意識を回す余裕がなく、結果、二騎より遅れてしまっているのである。


『――穂笹(ほざさ)。私と穂月(ほづき)で赤と緑を引きつける。その間に二騎を抜けるか?』


 咲良が(たまき)に伝話で尋ねる。


 それは事前の取り決めにあった、ひとつのパターン。こちらの突入に対して、特騎が動かなかった場合の対処だ。


 白の甲冑の相手は、環がする事で決まっていた。


まだまだ甲冑に不慣れな紗江と咲良では、上男(かみだん)生徒会長が駆る特騎の相手は厳しいと思われた為だ。


『それしかないようですね。合わせます。どうぞ』


『わかった。穂月、いくぞ!』


 直進を続ける<剣姫>に対して、<疾風>が左にそれた進路を取る。紗江はそれに続いた。


 <剣姫>が歩速を緩め、<疾風>とわずかに遅れて<舞姫>が弧を描くようにして、赤い特騎に接敵。


 <疾風>は赤い特騎に鳴刀をひと当てして、さらに緑の特騎に斬りかかる。


 紗江は<舞姫>に鉄扇を構えさせ、<疾風>の攻撃で、わずかに体勢を崩した赤い特騎に打ち掛かる。


 ――だが。


『――お嬢様っ!』


 環の叫びに、紗江は咄嗟にバックステップ。


 反応できたのは、日頃の鍛錬の賜物だろう。


 赤の特騎を飛び越えて、白の特騎が斬りかかって来ていた。


『――待っていたよ、穂月の特騎!』


 白い特騎が両手それぞれに剣を構えたまま、

『君の相手はこの僕だ!』

 ゆらりと右手を正眼に、左手を掲げてそう告げる。


『――穂笹、作戦変更だ。私とお前で残りを対処。

 穂月、時間を稼げ!』


 咲良の素早い指示に、<剣姫>が赤の特騎に打ちかかり、

『わ、わかりました!』

 紗江はさらに後ろに下がる。


 白の特騎は余裕を持って、ゆっくりと近づいてきて、再度、双剣を構えた。


 近くで見るとよく分かるが、白い特騎は西洋式のようで、肩楯と佩楯は丸みを帯びた作りで、本来、面のあるはずの顔は、すべてが面頬に覆われて細いスリットが左右四つづつ入っていて、そこで青い光が不規則に蠢いている。


『――上男生徒会長、城崎(しろさき)拓哉(たくや)だ。

 穂月紗江くん。ぜひ君と手合わせ願いたくてね』


『――穂月さん、城崎くんはCCテクニカの御曹司で、重度の甲冑マニアなの……』


 加賀先輩が伝話を通して説明してくれる。


『それが行き過ぎて、御家の会社を継がずに防人を目指すほどでね。

 ごめんなさい。私のミスね。恐らく彼は最初から貴女との手合わせを狙っていたんだわ』


 紗江は息を呑む。なぜ自分との手合わせを狙ったのか、相手の意図がわからない。


 だが、それは城崎自身が説明を始めた。


『現代魔道科学の粋を極めて造られた僕の<白騎士>と、三洲山(みすやま)最古の君の<舞姫>。どちらが強いか興味はないか?』


(――別にないです、って言っちゃダメなんだろうなぁ)


 紗江は空気を読んで、内心だけで呟く。


「よ、要するに先輩は、その甲冑の性能試験をしたいって事ですか?」

 視界の隅で、咲良と環が赤と緑の特騎と打ち合いしているのを確認し、紗江は尋ねる。


 会話で時間稼ぎだ。


 紗江は自分の力を過信しない。


 城崎会長が甲冑組手十人抜きの猛者だというのは、噂話に疎い紗江でさえ聞いている。


 そんな人物相手に、免許取り立ての自分が勝てるとは、紗江は思えなかった。


 咲良と環、どちらかが来てくれれば、形勢はこちらに傾く。


『性能試験ではないよ。純粋な興味だ。実家のCCテクニカの技術が、どこまで伝来甲冑に迫れているのかという、ね』


「着用者の腕の差って、結構、重要だと思いません?」


『穂月の跡取りがそれを言うのかい?』


 穂月の名を出されれば、紗江は黙るしかない。下手な謙遜は御家の名を汚す事になるからだ。


『あまり乗り気じゃないようだね。

 そうだ。こうしよう。もし君が僕に勝てたら、<白騎士>の技術を穂月に提供しよう。逆に僕が君に勝てたら<舞姫>を調べさせてもらう。どうだろうか?』


「ど、どうだろうかって、それはわたしの一存じゃ――」


 言葉に詰まる紗江。


「――紗江ちゃん!」


 その時、喧騒に湧く会場にあってさえ、凛と響く静江の声。


 彼女は親指を立てて、こちらを見ていて。


「やれるものなら、やってもらおうじゃないか」


 静江は<舞姫>を舐められて、明らかに怒っていた。視線を<白騎士>に向け、上を向かせた親指をゆっくりと下に向ける。


(ちくしょう、なんでおばあちゃんがやる気満々なんだよぅ)


 味方がいない。紗江は泣きそうな気持ちになった。


 けれど、すぐに気を取り直し、

「……咲良様、タマ姉、強化解くよ。いいよね?」

 ふたりに向けて、そう伝話する。


 このままでは城崎会長の相手はできない。了解の声はすぐにあった。


 紗江は深呼吸をひとつ。拡げていた事象干渉領域(ステージ)を収束させて、<舞姫>の周りだけに集める。


『やる気になってくれたようだね。それでこそだ!』


 <白騎士>の周囲にも事象干渉領域(ステージ)が開き、その背後に山岳城塞を象った家紋が結ばれる。


 不規則に動いていた<白騎士>の八つの眼が、<舞姫>を見つめる。


 <舞姫>が両手の鉄扇を打ち開き、右を頭上に、左を前に構える。背後に月下穂群(げっかほむら)が結ばれた。


 まるで鎬を削るように、二騎の事象干渉領域(ステージ)がぶつかり合い、互いを呑み込もうと紫電を散らす。


『――改めて、上洲(かみす)益荒男(ますらお)高校、三年、生徒会長、城崎拓哉だ』


「上洲撫子(なでしこ)女学校、一年、帰宅部、穂月紗江!」


 それは古式に則った、一騎打ちの作法。


 名乗りを終えて、互いに力を溜め込むように、半身に構えたその身を沈み込ませる。


『いざ、尋常に――』


「――勝負!」

 次回、いよいよ特騎同士のぶつかり合い!

 今後、本編に出てくるかわからないので裏設定として補足して起きますが、甲冑は古ければ強いってわけじゃありません。近代改修を繰り返している為、量産型より強いのは確かですが。


 <舞姫>の場合、その素体となった鬼道傀儡<宇受売>が、一部の甲冑マニアの間で三洲山三大魔王騎として有名になっている為、甲冑オタクの城崎会長、テンション爆上げになっているのです。


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